上 下
130 / 164

第130話 攻略開始3

しおりを挟む
「かかりました。」
ラナ公爵ロゼリッタ。吸血鬼のランクを封建貴族の称号であらわす妙な習慣は、この時代、西域に広く根付いていた。
どのくらい根付いていたといえば、当の吸血鬼たちまでが、己の名乗りに爵位をつけていたことである。
その中でも、「公爵」を名乗るのは、当時西域中を探しても五指にとどまる。そのひとりが、このロゼリッタであった。
彼女は、外出時に買い求めた、お気に入りの日傘を、この迷宮内でもさしていた。

謀の首尾を『血の聖者』サノスに、報告する口調、態度も含めて、ドゥノル・アゴンに対するよりもはるかに、うやうやしい。
ドロシーは、興味深くそれを見守った。
もちろん、じろじろと見たりはしない。

とにかく、ドゥノル・アゴン一派は、女性に口数が少なく、従順であることをもとめるのだ。
ドロシーは、というかドロシーの家は、代々、ランゴバルドのわりとしょうもない部類に属する貴族に、長年使えてきたから、まあ、そういう主人も存在はしていて、仕えるものはそれに従うしかない、ということも身に染み付いていた。苦痛は苦痛だが、耐えられる苦痛だ。そういうことは人生には、数多く存在する。
まだ、やっと成人したばかりの女性にしては、達観しすぎているのは、冒険者学校に入学してからの生活が、あまりにも常人ばなれしていたせいかもしれない。

実際に、いま「魔王」を名乗るドゥルノ・アゴンに対して、たしかに人間をこえた力は有しているようだけど、創造できる「迷宮」の規模からしてもリウやルトに比べれば「大したことはないな」と、密かに思ったりしている。

「そうだろうな。我々がここにこもってしまえば、やつらはここに突入するしかなくなる。ランダム転移で常に、一対一の戦いを強制されるこの迷宮では、やつらの数の優位はやくに立たない。」

「さすがは老師!」
“古竜”バインハットがそう言ったのも、世辞ではないようだった。
「神でさえ、サノス師の智謀には、膝を屈するだろう。」

古竜が人間を尊敬するというのも、珍しい。珍しいんだろうな、きっと。
ラウレスなどは、単純にルトを尊敬して、使えているようだけど。
ここいらへんは、常識がわからなくなるドロシーであった。

「それほど、対してものではない。」
ぶっきらぼうに、サノスは答えた。
「実際のところ、わしのこの案にも適切に対処されたら、はなはだまずかった。」

「対処の使用がありますか?」
ドゥルノ・アゴンが尋ねた。
「わたしがここにいる以上、わたしを討つにはここに入るしかないではありませんか。」

「それでは、落第だな。」
デイノスが冷たく淀んだ目が、ドロシーを見据えた。
「約束通り、その女をもらおうか。」

冗談ではない!
ドロシーは、その、あまり年上の男性が好みではなかった。いや。ないわけではないが、あんまりにもデイノスはじじい過ぎた。
じゃあ、ジウル・ボルテックはどうなのだという話になるが、ドロシーの言っているのは「見た目」の話である。

「はいはいはい。」
ドロシーは、手をあげた。

なんだこいつ、と一同の冷たい視線が集まる。

「正解の対処方法はなんにもしないこと、です。」

「なにを馬鹿な!」
ドゥルノ・アゴンが、小馬鹿にしたように笑った。
「ならば、我々を放っておくことになる。」

「カザリームの治安当局はいったんおきましょう。」
ドロシーは、できるだけ生意気にみえないように、ややうつむき加減で自信なさげに答えた。
「別段、リウにとっては、ドゥルノ・アゴンさまなどどうでもいいのです。こちらから仕掛けてこなくなれば、それで問題ないのです。」

「し、しかし・・・っ! やつの配下のうちふたりはすでに、ロゼリッタの従属化におかれて・・・」
「それは、残念ながら、解除されました。」
ロゼリッタが、言った。
どうやって!と、ドゥルノ・アゴンが聞く前に、ロゼリッタはつづけた。
「『踊る道化師』に真祖がいます。ロウ=リンド。」
「そう、名乗っているものがいることは知ってる。だが、本物なのか!?」

「『双主変』は、血統も含めてすべてが、上回っていなければ使えません。残念ながら、ロウ=リンドは本物の真祖です。魔王宮の階層主をしていたと言われる『あの』リンド伯爵です。」

「しかし、我々を倒さねば、カザリームの脅威は晴れない。」
「迷宮に閉じこもったまま、どうやって?」

しおらしくドロシーは尋ねたが、核心をついた言葉に、ドゥルノ・アゴンが黙り込む。

「・・・ドロシーをこちらに抱き込んでおいてよかったのお、ドゥルノ!」
サノスが、笑った。口元から乱杭歯がのぞく。
「では、これよりドロシーを残し、各自を転移させる。それぞれが最も勝ちを得やすいもののところへ、だ。
ドゥルノは、予定通り、最初の相手との決着を長引かせろ。ルウは消耗しきった状態でおぬしの前に現れる。」

「しかし・・・それでは、ひとり数があまりますなあ。」
嵐竜を使う酔っ払いが陽気に尋ねた。
「老師はどちらへ?」

「わしは、お前たちが危うくなったときに助太刀として介入できるよう、狭間の空間に待機する。」
サノスは言った。
「まあ、万が一にもそんなことは起こるまいが。」


完全にランダムに転移が行われ、転移した先で用意された敵と、一対一で戦う。
この迷宮のもつ特異な法則は、しかし、迷宮主、すなわちコアを掌握したものが、制御することが可能だった。ランダムな転移ではなく、もっとも確実に相手を葬りされるよう、調整してメンバーを送り出すことが。

この法則を曲げることは、神にもできない。





まあ、踊る道化師には、ギムリウスがいるのだったが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...