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第128話 攻略開始
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余裕に満ちたマーベルの笑みは、音もなく出現した人物をみて、硬直した。
「勝手なことをしないで下さい、マーベル。」
とっさにマーベルは、逃走を考えた。
だが、離脱のために展開したどの位相空間にも、目の前の来訪者はいた。
そう、その、すべてに。
それが、高速転移を繰り返すことで、いわば分身を生じさせる「修羅遍在」という魔術なのに、気がついたマーベルは、逃走する気力もなくして、ガックリとうなだれた。
「陛下から、お話はきいております。」
相手の小柄な、愛くるしいその容貌の前に跪きながら、声は震えた。
「神獣ギムリウスさま。」
ーーーーーーー
「なにをやっている。」
うちの魔王さまは、必ずしも怒っているわけではなかった。むしろ、呆れている。
呆れている対象も、マーベルの勝手な行動に対してでは無い。
マーベルを捕獲して、ここに連れてきたギムリウスに、ついてだ。
「へ、陛下っ!」
銀の糸が、マーベルの体を簀巻きにしている。
指1本動かせないのは、言い過ぎでは無い。現実に、ギムリウスの糸が彼女の体内にまで入り込み、体を絡めとっている。魔術すら使えない。使おうとするその起こりを感知して、ギムリウスの糸は、耐え難い苦痛をもたらした。
「しかし、ドゥルノ・アゴンが、独自の空間を作って潜んでいることが、分かっただけでも、よし、としよう。
マーベル。」
「はい」
「よくやった。」
その瞬間、糸の拘束はとかれ、マーベルは、床に投げ出された。
糸は、彼女を締め付けることは、やめたが、そのまま、触手のように体を這い回る。
「ち、ちょっと、な、なにこれ!」
「マッサージですよ。」
ギムリウスは、義理堅く答えた。
「しばらく、動けなくしてしまったので、凝りを解して、体を楽にします。」
さばらく、嬌声をあげていたマーベルが、ぐったりと、床に寝そべってしまうと、その体を冷たい手が抱き上げた。
どこか、中性的ではあるが、おそろしいほどの美貌だった。
ロウ=リンドである。
マーベルをベッドに、寝かせて、ロウは一同を振り返った。
彼らのアパートのリビングに集まったのはこのとき。
魔王バズス=リウ。
その傍らには、「少しホンモノより、丸い」(ロウ談)フィオリナこと、ベータ・グランデ。
ギムリウスと、その眷属ディクック。
それと、物珍しそうに、きょろきょろきながらも。酒瓶を手から、離さないザック。
「マーベルが見つけた『穴』からはわたしが侵入してみようか?」
ロウは、そう言いながら、テーブルの上から、飲み物を手にとった。
「果肉たっぷりのミックスジュース」
である。
真祖の吸血鬼であるロウにとって、生気を得るには必ずしも吸血を、意味しない。
「素直に、奴らの手にのってやるつもりなんだ。あまりいろいろと小細工はしないほうがいいと思う。」
リウが言った。
「小細工は、むこうだろう。」
唇をとがらせてロウが言った。
「たぶん、アシットはむこうに寝返っている。ということは、ロウランも怪しい。」
「寝返ってるわけじゃないの。」
ベータは、細い体のどこにはいるのか、という量の骨付きチキンを次々に平らげながら講義した。
「どっちが勝ってもいいように、準備をしてるだけ。彼は、わたしたちとは違って、カザリームの存続と発展にも責任があるのよ!」
とんとん。
と、リウの指がテーブルを叩く。
舌戦になりそうな雰囲気だったのを止めたのだ。ここにきて、感情的なしこりは残したくない。魔道人形であるベータを、正式に「フィオリナ」として、リウが扱っているだけで、ロウとギムリウスの感情を刺激するものはあるだろう。
「わが友、冒険者ルトなら、どうするだろう?
もし、仮にここに彼がいたとしたらどうすると思う?
おそらく、それが一番、人的な被害をださない方法だ。」
「ああ・・・・・」
ロウは腕組みをした考えた。
はいはいはい!
ベータが元気よく、手をあげた。
「おまえは、ルトを知らないだろう。」
ロウがぶっきらぼうに言ったが、ベータは笑顔で返した。
「知ってるわよ。グランダの王子ハルトでしょう? わたし、彼の幼馴染で婚約者候補だったの。もし、アシットが、わたしをつれて逃げなければ、実際に婚約してたと思う。
相性だってよかったし、ほんとにわたしたち、好きあってた。
確かに魔力過剰で、成長に阻害されるのには、悩んでたんだけど・・・」
「それを、留学生だったアシットが、カザリームに連れ去ったんだよな。当時、おまえはいくつだった?」
「まだ・・・十歳だったかな。」
「とんだロリコンだな! アシットは。」
「それだけ、わたしが魅力的だったってことでしょう。」
にやにやとベータは笑った。
「それに、みなが言う通り、むこうのフィオリナが本物で、わたしが魔道人形だとするのなら、人形偏愛症もこじらせてるわね。」
「アシットの性癖のことはひとまず置いておけ。」
話しが脱線しそうになるので、リウは口をはさんだ。
「もし、ルトならここでどう動くと思う?」
「なにもしないでしょう。」
あっさりとベータは言った。
リウもロウも無言だったのは、彼らもまた、ルトならそうする、と思っていたからだった。
「勝手なことをしないで下さい、マーベル。」
とっさにマーベルは、逃走を考えた。
だが、離脱のために展開したどの位相空間にも、目の前の来訪者はいた。
そう、その、すべてに。
それが、高速転移を繰り返すことで、いわば分身を生じさせる「修羅遍在」という魔術なのに、気がついたマーベルは、逃走する気力もなくして、ガックリとうなだれた。
「陛下から、お話はきいております。」
相手の小柄な、愛くるしいその容貌の前に跪きながら、声は震えた。
「神獣ギムリウスさま。」
ーーーーーーー
「なにをやっている。」
うちの魔王さまは、必ずしも怒っているわけではなかった。むしろ、呆れている。
呆れている対象も、マーベルの勝手な行動に対してでは無い。
マーベルを捕獲して、ここに連れてきたギムリウスに、ついてだ。
「へ、陛下っ!」
銀の糸が、マーベルの体を簀巻きにしている。
指1本動かせないのは、言い過ぎでは無い。現実に、ギムリウスの糸が彼女の体内にまで入り込み、体を絡めとっている。魔術すら使えない。使おうとするその起こりを感知して、ギムリウスの糸は、耐え難い苦痛をもたらした。
「しかし、ドゥルノ・アゴンが、独自の空間を作って潜んでいることが、分かっただけでも、よし、としよう。
マーベル。」
「はい」
「よくやった。」
その瞬間、糸の拘束はとかれ、マーベルは、床に投げ出された。
糸は、彼女を締め付けることは、やめたが、そのまま、触手のように体を這い回る。
「ち、ちょっと、な、なにこれ!」
「マッサージですよ。」
ギムリウスは、義理堅く答えた。
「しばらく、動けなくしてしまったので、凝りを解して、体を楽にします。」
さばらく、嬌声をあげていたマーベルが、ぐったりと、床に寝そべってしまうと、その体を冷たい手が抱き上げた。
どこか、中性的ではあるが、おそろしいほどの美貌だった。
ロウ=リンドである。
マーベルをベッドに、寝かせて、ロウは一同を振り返った。
彼らのアパートのリビングに集まったのはこのとき。
魔王バズス=リウ。
その傍らには、「少しホンモノより、丸い」(ロウ談)フィオリナこと、ベータ・グランデ。
ギムリウスと、その眷属ディクック。
それと、物珍しそうに、きょろきょろきながらも。酒瓶を手から、離さないザック。
「マーベルが見つけた『穴』からはわたしが侵入してみようか?」
ロウは、そう言いながら、テーブルの上から、飲み物を手にとった。
「果肉たっぷりのミックスジュース」
である。
真祖の吸血鬼であるロウにとって、生気を得るには必ずしも吸血を、意味しない。
「素直に、奴らの手にのってやるつもりなんだ。あまりいろいろと小細工はしないほうがいいと思う。」
リウが言った。
「小細工は、むこうだろう。」
唇をとがらせてロウが言った。
「たぶん、アシットはむこうに寝返っている。ということは、ロウランも怪しい。」
「寝返ってるわけじゃないの。」
ベータは、細い体のどこにはいるのか、という量の骨付きチキンを次々に平らげながら講義した。
「どっちが勝ってもいいように、準備をしてるだけ。彼は、わたしたちとは違って、カザリームの存続と発展にも責任があるのよ!」
とんとん。
と、リウの指がテーブルを叩く。
舌戦になりそうな雰囲気だったのを止めたのだ。ここにきて、感情的なしこりは残したくない。魔道人形であるベータを、正式に「フィオリナ」として、リウが扱っているだけで、ロウとギムリウスの感情を刺激するものはあるだろう。
「わが友、冒険者ルトなら、どうするだろう?
もし、仮にここに彼がいたとしたらどうすると思う?
おそらく、それが一番、人的な被害をださない方法だ。」
「ああ・・・・・」
ロウは腕組みをした考えた。
はいはいはい!
ベータが元気よく、手をあげた。
「おまえは、ルトを知らないだろう。」
ロウがぶっきらぼうに言ったが、ベータは笑顔で返した。
「知ってるわよ。グランダの王子ハルトでしょう? わたし、彼の幼馴染で婚約者候補だったの。もし、アシットが、わたしをつれて逃げなければ、実際に婚約してたと思う。
相性だってよかったし、ほんとにわたしたち、好きあってた。
確かに魔力過剰で、成長に阻害されるのには、悩んでたんだけど・・・」
「それを、留学生だったアシットが、カザリームに連れ去ったんだよな。当時、おまえはいくつだった?」
「まだ・・・十歳だったかな。」
「とんだロリコンだな! アシットは。」
「それだけ、わたしが魅力的だったってことでしょう。」
にやにやとベータは笑った。
「それに、みなが言う通り、むこうのフィオリナが本物で、わたしが魔道人形だとするのなら、人形偏愛症もこじらせてるわね。」
「アシットの性癖のことはひとまず置いておけ。」
話しが脱線しそうになるので、リウは口をはさんだ。
「もし、ルトならここでどう動くと思う?」
「なにもしないでしょう。」
あっさりとベータは言った。
リウもロウも無言だったのは、彼らもまた、ルトならそうする、と思っていたからだった。
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