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第118話 混迷の戦場
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「やれやれ。」
ザクレイ・トッドは大仰に肩をすくめた。
「おまえさんたちにも、言いたいことはあるんだろうが、バインハットの旦那の尊顔を拝見できた敵は、もうかれこれ千年はいないはずだ。
それは、もう」
げふっと、そのまま引火しそうなアルコール臭い息をはいて、ザクレイ・トッドは続けた。
「誇りに思ってくれたっていいくらいだ。残念なのは飯の邪魔をされた、このぼくの怒りの発散されるところのないまま、おまえさんたちが打倒されてしまうことなんだが、まあ、そりゃあ、贅沢ってもんなんだろう。」
「別に無理に傍観せんでもいいぞ。」
バインハットは、とてお外から操られているとは思えぬ、自然な笑みをうかべた。
「いやだよ、だんな。さっき自分でも言ったじゃないか。始まる前から勝敗のわかっちまう勝負など面白くもないと。
ぼくが本気でやったら、この一区画が消滅して、終わり。
勝負どころか、ただの土木作業だよ、そりゃあ。」
そのザクレイ・トッドの脇を風が駆け抜けた。
ザクレイ・トッドの頭がぐらりと揺れ、うけとめようとした手を離れて、どうと地面に落ちて転がった。
両手で受け止めたならば、まだ受けきれたのだろうが、片手は酒瓶を握ったままだ。
「カザリーム八極連。三席! オルミ冒険者事務所筆頭冒険者! 『黒き颶風』メルウ・ル」
少女のようにも少年のようにも聞こえる声だった。
全身を体の線を隠す、黒い道着に、目元以外を覆面ですっぽり覆っている。
小柄な体。ザクレイ・トッドの首を一撃でハネたのは、左手に握った刃まで黒い短刀だった。
地面に転がったザクレイ・トッドの生首が笑った。
「カザリームの・・・れんちゅう・・・は、ひっく、あらっぽいやつがおおいな。」
瓦礫の山と化した街区に、次々と異形の集団が入っている。
多数の冒険者がせめぎ合うカザリームでは、実力はもちろん、奇矯な行動や外観を飾ることで「目立とう」とするものは、少なくなかった。
そうでなければ、噂にきいた「踊る道化師」の名をかたってやろうなどと、思うものがアレほどでることなど、ありえない。
そして、それは実力をすでに認められた「八極連」の事務所に所属する冒険者たちも例外ではなかったのである。
バインハットが剣を振った。
衝撃波は、凍りついた石畳を巻き上げ、カザリームの冒険者たちを襲った。
あるものは、巨大な盾をあげ、あるものは空をかけ、これにダメージを受けた冒険者たちいなかった。
代わりに、次々と氷の矢や弓が飛んだ。
それを振り払い、バインハットは進んだ。
心から戦いを楽しむ顔だ。バインハットが単なる操り人形なのならば、楽しんでいるのは、彼を狭間よりあやつる古竜アドフットなのだろう。
先程とは、違うのは、魔法による攻撃をほとん無力化していることだった。
スズミが、うめいた。
竜鱗特有の魔力が標的を失い、つるつると表面を滑っていくような効果とはまた違う。
だが、彼ら銀級以上の冒険者が、なんのサポートも、なしに戦闘中につかう程度の魔法を相手には、それは無敵の障壁にみえた。
第八席ゴル・デドル事務所が送り込んできたのは、荒事を得意とするパーティ『海鵬』の剣士ヘイルだった。
バスターソードは、身長以上ある。
それを片手で軽々と振り回して、バインハットに、正面から叩きつけた。
バインハットの長剣がそれを受け止める。
両雄の肩の筋肉が盛り上がる。
魔力によって強化されたヘイルの膂力は、火炎魔人となったルーシェを圧倒したバインハットと、互角にせめぎ合った。
「やるな、人間。」
バインハットが褒めた。
顔を真っ赤にして力むヘイルにくらべ、こちらは、まだ余裕がありそうだった。
「この素体の最初の犠牲者になる資格は十分にありそうだ。」
さして、力を込めたとも見えぬが、ぬんと、バインハットが息を吐くと、ヘイルは耐えきれず、膝をついた。
「まだまだ!」
ヘイルは、バスターソードの束を両手で握った。力を込めて押し返す。
一陣の風が、その足元を駆け抜けた。
オルミ冒険者事務所の冒険者メルウ・ルと名乗った、少年だった。
駆け抜けざまに、バインハットの両脛を切り裂いたのだ。
ちっ!
とメルウ・ルは舌打ちした。彼は両足を切断するつもりだったのだ。
バインハットの骨はおそろしくかたく、彼の魔剣による切断を阻んだのだ。
しかし、バインハットの両膝からおびただしい出血があり、彼もまた地面に膝を着いた。
未だっ!
少年がそう叫ばずとも、周りの冒険者たちは、よく分かっていた。
ヘイルが後退すると同時に、それぞれが練り上げた攻撃魔法が、バインハットにむけて殺到する。
雄叫びを、あげてバインハットは剣を、支えに立ち上がった。
その雄叫び自体がなにかの、魔法の短縮詠唱だったのだろうか。
熟練冒険者たちの魔法は、ことごとく彼の周りに生じた障壁に砕け散った。
ザクレイ・トッドは大仰に肩をすくめた。
「おまえさんたちにも、言いたいことはあるんだろうが、バインハットの旦那の尊顔を拝見できた敵は、もうかれこれ千年はいないはずだ。
それは、もう」
げふっと、そのまま引火しそうなアルコール臭い息をはいて、ザクレイ・トッドは続けた。
「誇りに思ってくれたっていいくらいだ。残念なのは飯の邪魔をされた、このぼくの怒りの発散されるところのないまま、おまえさんたちが打倒されてしまうことなんだが、まあ、そりゃあ、贅沢ってもんなんだろう。」
「別に無理に傍観せんでもいいぞ。」
バインハットは、とてお外から操られているとは思えぬ、自然な笑みをうかべた。
「いやだよ、だんな。さっき自分でも言ったじゃないか。始まる前から勝敗のわかっちまう勝負など面白くもないと。
ぼくが本気でやったら、この一区画が消滅して、終わり。
勝負どころか、ただの土木作業だよ、そりゃあ。」
そのザクレイ・トッドの脇を風が駆け抜けた。
ザクレイ・トッドの頭がぐらりと揺れ、うけとめようとした手を離れて、どうと地面に落ちて転がった。
両手で受け止めたならば、まだ受けきれたのだろうが、片手は酒瓶を握ったままだ。
「カザリーム八極連。三席! オルミ冒険者事務所筆頭冒険者! 『黒き颶風』メルウ・ル」
少女のようにも少年のようにも聞こえる声だった。
全身を体の線を隠す、黒い道着に、目元以外を覆面ですっぽり覆っている。
小柄な体。ザクレイ・トッドの首を一撃でハネたのは、左手に握った刃まで黒い短刀だった。
地面に転がったザクレイ・トッドの生首が笑った。
「カザリームの・・・れんちゅう・・・は、ひっく、あらっぽいやつがおおいな。」
瓦礫の山と化した街区に、次々と異形の集団が入っている。
多数の冒険者がせめぎ合うカザリームでは、実力はもちろん、奇矯な行動や外観を飾ることで「目立とう」とするものは、少なくなかった。
そうでなければ、噂にきいた「踊る道化師」の名をかたってやろうなどと、思うものがアレほどでることなど、ありえない。
そして、それは実力をすでに認められた「八極連」の事務所に所属する冒険者たちも例外ではなかったのである。
バインハットが剣を振った。
衝撃波は、凍りついた石畳を巻き上げ、カザリームの冒険者たちを襲った。
あるものは、巨大な盾をあげ、あるものは空をかけ、これにダメージを受けた冒険者たちいなかった。
代わりに、次々と氷の矢や弓が飛んだ。
それを振り払い、バインハットは進んだ。
心から戦いを楽しむ顔だ。バインハットが単なる操り人形なのならば、楽しんでいるのは、彼を狭間よりあやつる古竜アドフットなのだろう。
先程とは、違うのは、魔法による攻撃をほとん無力化していることだった。
スズミが、うめいた。
竜鱗特有の魔力が標的を失い、つるつると表面を滑っていくような効果とはまた違う。
だが、彼ら銀級以上の冒険者が、なんのサポートも、なしに戦闘中につかう程度の魔法を相手には、それは無敵の障壁にみえた。
第八席ゴル・デドル事務所が送り込んできたのは、荒事を得意とするパーティ『海鵬』の剣士ヘイルだった。
バスターソードは、身長以上ある。
それを片手で軽々と振り回して、バインハットに、正面から叩きつけた。
バインハットの長剣がそれを受け止める。
両雄の肩の筋肉が盛り上がる。
魔力によって強化されたヘイルの膂力は、火炎魔人となったルーシェを圧倒したバインハットと、互角にせめぎ合った。
「やるな、人間。」
バインハットが褒めた。
顔を真っ赤にして力むヘイルにくらべ、こちらは、まだ余裕がありそうだった。
「この素体の最初の犠牲者になる資格は十分にありそうだ。」
さして、力を込めたとも見えぬが、ぬんと、バインハットが息を吐くと、ヘイルは耐えきれず、膝をついた。
「まだまだ!」
ヘイルは、バスターソードの束を両手で握った。力を込めて押し返す。
一陣の風が、その足元を駆け抜けた。
オルミ冒険者事務所の冒険者メルウ・ルと名乗った、少年だった。
駆け抜けざまに、バインハットの両脛を切り裂いたのだ。
ちっ!
とメルウ・ルは舌打ちした。彼は両足を切断するつもりだったのだ。
バインハットの骨はおそろしくかたく、彼の魔剣による切断を阻んだのだ。
しかし、バインハットの両膝からおびただしい出血があり、彼もまた地面に膝を着いた。
未だっ!
少年がそう叫ばずとも、周りの冒険者たちは、よく分かっていた。
ヘイルが後退すると同時に、それぞれが練り上げた攻撃魔法が、バインハットにむけて殺到する。
雄叫びを、あげてバインハットは剣を、支えに立ち上がった。
その雄叫び自体がなにかの、魔法の短縮詠唱だったのだろうか。
熟練冒険者たちの魔法は、ことごとく彼の周りに生じた障壁に砕け散った。
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