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第111話 真祖の儀式
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部屋はむせ返るような、獣臭が漂っていた。ファイユとマシュー、二人が強い光を怖がるため、部屋は薄暗い。
いや、真祖吸血鬼であるロウ=リンドでなければ、真っ暗に感じられただろう。
トイレもあったし、洗面台も備え付けられていたから、身の回りを清潔にすることは出来ただろうが、そんなことはまったく、頭が回っていないようであった。
ふたりは、ひとつのベットに重なり合うようにして、倒れ込んでいた。布団はかけていない。
ふたりとも、全裸だった。
なにが行われていたかは、想像するまでもない。
ロウが、顔を顰めて近づくと、彼らは飛び上がった。指先の爪は尖り、犬歯の発達した歯をむき出し、カチカチとならしながら、ロウに襲いかかろうとして。
その動作がぴたりと止まる。
ロウの、匂いを嗅ぎ。後退りをする。
怯えている。
擬似吸血鬼となったその、本能がロウの正体を知って怯えているのだ。
そのまま、部屋の隅にうずくまり、許しを乞うように鼻を鳴らす二人を、ロウは深刻そうな面持ちで眺めた。
「どうした? 戻せないのか?」
リウが心配そうに言った。
ロウは、頭を振った。
「これを噛まないといけないのだろうか、我らが迷宮主さま。」
「なぜ嫌がる? 好みのタイプではないとか、ふざけたことを言い出さないだろうな。」
「きちゃない。くさいし。」
考えていたより、さらにくだらない理由を言いだしたロウを、リウは怖い顔で睨んだ。
「他に、方法があるのか?」
「向こうの吸血鬼を倒してしまえいい。」
「ほう、そうか。」
リウは顔色も変えずに言った。
「で、倒せそうか?」
「わたしは『真祖』だぞ。格が違う。」
だめだな。
と、リウは冷たく言った。
「いまのおまえは、完全な状態ではない。ファイユたちの傷口と術のかかり方から見ればわかる。あいてはかなりの術者だ。遅れをとることもありうる。」
でも勝てるもん、とかくだらない愚痴をこぼしながら、ロウは、ファイユの喉に、続いてマシューののどに牙をたてた。
すとん。
と、糸が切れたようにふたりの体が崩れ落ちるのを、この面倒見のいい真祖は、うけとめてやって、そのままぽいと寝台に放り込んだ。
ここいらは、例えばルトやドロシーに対するよりも扱いは雑、である。
「これでいい。目覚めたときには、ただの人間に、戻っている。まともに立てないくらいに衰弱はしているだろうけど、それは吸血鬼化というより、ろくに食べるもを食べていなかったせいだ。
食べ物は、柔らかい滋養のあるものを、少しづつ。」
「さすがは真祖サマ。」
フィオリナ(もちろんベータのほう)が、つぶやいた。
「リウから聞いた通り、見事な、お手並みね。もうひとりの亜人のほうはどこへ消えたの?」
ロウは、この存在に戸惑ったが、すぐに慣れた。ようはフィオリナだと思わなければいいのだ。
実際に、このフィオリナにはあっちにはない点が多々あった。いや、胸の話ではなくて、ああ、そうか、それも関係するかもしれない。要するに女性として愛された経験の差、が性格と体型に現れている。
「ギムリウスか?」
「そう。かの神獣サマの末裔のこと。」
ギムリウスはギムリウスの末裔でも何でもなくて、ただの本人だったが、いちいち訂正する手間を、ロウは省いた。
「ドロシーのところに、スーツを届けに行っている。」
「彼女は、ドゥルノ・アゴンの手に落ちたわ。居場所はいまアシックたちが懸命に探してるけど、なにぶん、場所を転々と移動しすぎていて。」
「こいつらを長く眷属にし過ぎた。」
ロウは、眠るファイユとマシューをちらりと見た。
「リウが、閉鎖空間で2回目以降の折衝を絶ったので、あちらさんも居場所をつかもうと必死だ。そういう動きは、察知しやすい。
わたしでも・・・ギムリウスでも。
あとは、転移してしまえば、どんな場所に閉じ込められていようが、どんなに厳重に警護されていようが関係ない。」
「神話級の魔術をぽんぽんだすのね。」
ベータは、まだ話を疑っている。大体、転移魔術を使えるものは、一国に数人もいればいいほうだ。
「転移」は「転移」するだけで、大偉業なのである。なにかを追いかけて転移したり、誰かを連れて転移したりするのは、神話の中にしかない魔物(あるいは神)の技だった。
「で、ドロシーを救出するわけね?」
「いいや。」
「なんで、いいやっ!なの?」
ロウ=リンドは、ちょっとだけ目を伏せた。瞳が吸血鬼特有の赤口を帯びるのを、見られたくなったのだ。
「ドロシーが、それを望んでいないからだ・・・・」
驚いたように、不快そうに。
ベータは、顔を歪めた。
「ドロシーはあれで、新しい男が欲しかった。」
「・・・裏切ったということか。」
「なぜ、そうなる?」
呵呵と、ロウは、笑った。
「仮にも魔王を名乗るものと、自分たちは戦うには、あまりにも足りない。命懸けになってもリウの足を引っ張るだけだ。
だから、早々にリタイヤを決め込んだ。
同時にドゥルノ・アゴン立ちを、内側からコントロールして、クロウドたちもリタイヤに追い込んだ。
ファイユとマシューについては、いま見た通りだ。」
「そんな馬鹿なことが。」
いや、真祖吸血鬼であるロウ=リンドでなければ、真っ暗に感じられただろう。
トイレもあったし、洗面台も備え付けられていたから、身の回りを清潔にすることは出来ただろうが、そんなことはまったく、頭が回っていないようであった。
ふたりは、ひとつのベットに重なり合うようにして、倒れ込んでいた。布団はかけていない。
ふたりとも、全裸だった。
なにが行われていたかは、想像するまでもない。
ロウが、顔を顰めて近づくと、彼らは飛び上がった。指先の爪は尖り、犬歯の発達した歯をむき出し、カチカチとならしながら、ロウに襲いかかろうとして。
その動作がぴたりと止まる。
ロウの、匂いを嗅ぎ。後退りをする。
怯えている。
擬似吸血鬼となったその、本能がロウの正体を知って怯えているのだ。
そのまま、部屋の隅にうずくまり、許しを乞うように鼻を鳴らす二人を、ロウは深刻そうな面持ちで眺めた。
「どうした? 戻せないのか?」
リウが心配そうに言った。
ロウは、頭を振った。
「これを噛まないといけないのだろうか、我らが迷宮主さま。」
「なぜ嫌がる? 好みのタイプではないとか、ふざけたことを言い出さないだろうな。」
「きちゃない。くさいし。」
考えていたより、さらにくだらない理由を言いだしたロウを、リウは怖い顔で睨んだ。
「他に、方法があるのか?」
「向こうの吸血鬼を倒してしまえいい。」
「ほう、そうか。」
リウは顔色も変えずに言った。
「で、倒せそうか?」
「わたしは『真祖』だぞ。格が違う。」
だめだな。
と、リウは冷たく言った。
「いまのおまえは、完全な状態ではない。ファイユたちの傷口と術のかかり方から見ればわかる。あいてはかなりの術者だ。遅れをとることもありうる。」
でも勝てるもん、とかくだらない愚痴をこぼしながら、ロウは、ファイユの喉に、続いてマシューののどに牙をたてた。
すとん。
と、糸が切れたようにふたりの体が崩れ落ちるのを、この面倒見のいい真祖は、うけとめてやって、そのままぽいと寝台に放り込んだ。
ここいらは、例えばルトやドロシーに対するよりも扱いは雑、である。
「これでいい。目覚めたときには、ただの人間に、戻っている。まともに立てないくらいに衰弱はしているだろうけど、それは吸血鬼化というより、ろくに食べるもを食べていなかったせいだ。
食べ物は、柔らかい滋養のあるものを、少しづつ。」
「さすがは真祖サマ。」
フィオリナ(もちろんベータのほう)が、つぶやいた。
「リウから聞いた通り、見事な、お手並みね。もうひとりの亜人のほうはどこへ消えたの?」
ロウは、この存在に戸惑ったが、すぐに慣れた。ようはフィオリナだと思わなければいいのだ。
実際に、このフィオリナにはあっちにはない点が多々あった。いや、胸の話ではなくて、ああ、そうか、それも関係するかもしれない。要するに女性として愛された経験の差、が性格と体型に現れている。
「ギムリウスか?」
「そう。かの神獣サマの末裔のこと。」
ギムリウスはギムリウスの末裔でも何でもなくて、ただの本人だったが、いちいち訂正する手間を、ロウは省いた。
「ドロシーのところに、スーツを届けに行っている。」
「彼女は、ドゥルノ・アゴンの手に落ちたわ。居場所はいまアシックたちが懸命に探してるけど、なにぶん、場所を転々と移動しすぎていて。」
「こいつらを長く眷属にし過ぎた。」
ロウは、眠るファイユとマシューをちらりと見た。
「リウが、閉鎖空間で2回目以降の折衝を絶ったので、あちらさんも居場所をつかもうと必死だ。そういう動きは、察知しやすい。
わたしでも・・・ギムリウスでも。
あとは、転移してしまえば、どんな場所に閉じ込められていようが、どんなに厳重に警護されていようが関係ない。」
「神話級の魔術をぽんぽんだすのね。」
ベータは、まだ話を疑っている。大体、転移魔術を使えるものは、一国に数人もいればいいほうだ。
「転移」は「転移」するだけで、大偉業なのである。なにかを追いかけて転移したり、誰かを連れて転移したりするのは、神話の中にしかない魔物(あるいは神)の技だった。
「で、ドロシーを救出するわけね?」
「いいや。」
「なんで、いいやっ!なの?」
ロウ=リンドは、ちょっとだけ目を伏せた。瞳が吸血鬼特有の赤口を帯びるのを、見られたくなったのだ。
「ドロシーが、それを望んでいないからだ・・・・」
驚いたように、不快そうに。
ベータは、顔を歪めた。
「ドロシーはあれで、新しい男が欲しかった。」
「・・・裏切ったということか。」
「なぜ、そうなる?」
呵呵と、ロウは、笑った。
「仮にも魔王を名乗るものと、自分たちは戦うには、あまりにも足りない。命懸けになってもリウの足を引っ張るだけだ。
だから、早々にリタイヤを決め込んだ。
同時にドゥルノ・アゴン立ちを、内側からコントロールして、クロウドたちもリタイヤに追い込んだ。
ファイユとマシューについては、いま見た通りだ。」
「そんな馬鹿なことが。」
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