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第109話 すべてはあなたの手の中に
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「そろったか。」
ドゥルノ・アゴンの言葉に、頷いたのは、三名。四烈将はその数をひとり減らしている。
変身術と幻惑魔術を得意とする亜人ブランカが、まだ帰らない。
「生存は確認しております。」
ラナ公爵ロゼリッタが、優美に腰をかがめた。
「上古の魔女を自称するマーベルなる女にしかけるとの報告が、最後となりました。」
かかげる容器のなかには、鼓動を続ける心臓がひとつ。
「ここに、心の臓を保管している以上、生半可なダメージでは滅することは不可能。また、それでもなお、それ相応のダメージを受けて死亡すれば、この心臓もまた鼓動を止めるはず。」
「つまりは捕虜となったわけだ。」
ドゥルノ・アゴンは、皮肉たっぷりに言った。
「このドロシーに化けて潜り込み、情報を送るはずが、たいした内容も送れぬまま、あっさりと捕らえられてしまうとは、四烈将の名を汚したな。」
続いて、ザクレイ・トッドの方を向き直る。
「カザリーム上空に巣食った蜘蛛のバ化け物を打ち砕いたと報告にあったが」
「そりゃあね。」
酔っ払い魔導師は、酒瓶を片手に陽気に言った。
「嵐竜のブレス、七連撃ですぜ。どんな構造物でも吹き飛びますわ!」
「・・・カザリームの行政府からの報告文書を、入手している。」
ドゥルノ・アゴンは、苦い顔で言った。
「おまえは、ブレスを六回しか使っていない。」
気まずい沈黙が、流れた。
「・・・そうですかい。しかし、やつの蜘蛛の巣は、大ダメージを受けたはずです。それは間違えありませんぜ。」
「そうか。しかし、巣の主、デイクックと名乗る亜人は本当に倒せたのか?」
「ドゥルノ・アゴン。」
庇うように、ロゼリッタが口をはさんだ。
「カザリームいっぱいに広がった『巣』が分散しきれなくて、建物が一部倒壊を始めるほどの攻撃よ。巣の中に居たものが無事ですむわけがないわ。」
「そのあと、倒壊しかかった建物を、糸で縛って倒壊を防いだものがいるそうだ。」
「でも、あのあと、デイクックは全く姿を現してはいない。」
ロゼリッタはなおも言った。
「どの程度か分からなくてもダメージを与えたことは間違いない。」
「そこまでは疑っていない。」
ドゥルノ・アゴンは、ため息をついた。
「おまえたちもわたしも、『世界の声』に導かれた最強の能力者だ。たかだか、亜人はもちろん、上古の魔女といえどもそうそうに遅れをとるとは思わん。」
ドゥルノ・アゴンの傍らに立ったドロシーは、叫びをあげるところだった。
“世界の声!? 世界の声、それがリウに敵対し、あらたな魔王を自称するこいつらを差し向けた黒幕なの?”
幸いなことに。
表情もあえぎも、もれなかった。
ドロシーの顔は、左目だけを露出した漆黒の革の仮面で覆われていたのだ。
鼻の部分は、布地になっていて、辛うじて息はできる。また右目、口の部分はジッパーになっており、必要に応じて開け閉めはできる。
ただし、ドロシーの両手は、指先が鍵爪になったグローブで覆われていて、その指ではチャックの開け閉めは、著しく困難であった。
着させられている服もまた、黒い伸縮のきく素材でできていた。
彼女が纏わされた服は、実際には服ではなく、素肌に粘着するテープのようなもので大半が作られており、囚われてから短い間に一段と女らしさを増した体のラインを隠すどころか、かえって強調しているかのようだった。
胸と下半身をかろうじて覆った、仮面と同質の素材でできた鎧は、これも部分部分にジッパーがつけられていた。
腰から下のスカートは丈は、一応くるぶしまではあったものの、布ではなく、リボン状の繊維で構成されていて、黙ってたっている以外の動作をすれば、ドロシーの足をさらけ出すしかない。
淑女なら、それだけで赤面して舌でも噛みたくなるような格好だった。
もちろん、着ていて快適でもなく、よれたり、むれたり、臭ったりする。
これをドロシーは、ほぼ一日中着させられていた。
逃げ出そうとして捕まった、これがドゥルノ・アゴンの罰ならばかなり、凝った性癖をもっているのだろう。
夜の営みのときも、この服は脱がさない。口なり、胸なり、下半身なり、必要な所のチャックを開けるだけである。
ドゥルノ・アゴンの手が動いて、ドロシーは口のジッパーが開けられるのを感じた。新鮮な空気を求めて肺が喘ぐ。
「ここまでのところで、おまえの意見を聞こう。」
「そ、そろそろ、この格好は勘弁してくださいませ。」
ドロシーは、跪いてドゥルノ・アゴンのつま先に口付けした。
女の唇が最初にすることは、キスだと、ドゥルノ・アゴンから教えられたことのこれが、ひとつである。
「そうかな? おぬしもそれが随分と気に入っているのではないか?」
からかうように、ドゥルノ・アゴンが言った。
「そ、それは」
「部下どもの前で、素肌を晒して交わるのは嫌だというおまえのためにわざわざ用意した服だ。この服をきて、抱かれるほどにおまえは、モノに、なっていく。この魔王のモノに、な。」
「こ、」声が震えた。「光栄でございます。」
本当にそんな特殊な効果があるのだろうか?
たしかに特殊な効果はあるのだろう。この服を身につけての交わりは、言う通り特別な快楽をドロシーにもたらした。
しかし、そんな身も心もこの男に捧げたくなるような従属感は、ない。
「特別に許す。おまえの粗末な頭脳でいまの局面を解析してみるがいい。」
まったくわかりません。
とか。
お答えするのも恐れ多いことです。
とか。
すべては、陛下の思し召し通りです。
とか。
答えようはあったはずだが、ドロシーはまた、間違えた。
「いまのところは、リウくんの思い通りに、すすんでいます。」
ドゥルノ・アゴンの言葉に、頷いたのは、三名。四烈将はその数をひとり減らしている。
変身術と幻惑魔術を得意とする亜人ブランカが、まだ帰らない。
「生存は確認しております。」
ラナ公爵ロゼリッタが、優美に腰をかがめた。
「上古の魔女を自称するマーベルなる女にしかけるとの報告が、最後となりました。」
かかげる容器のなかには、鼓動を続ける心臓がひとつ。
「ここに、心の臓を保管している以上、生半可なダメージでは滅することは不可能。また、それでもなお、それ相応のダメージを受けて死亡すれば、この心臓もまた鼓動を止めるはず。」
「つまりは捕虜となったわけだ。」
ドゥルノ・アゴンは、皮肉たっぷりに言った。
「このドロシーに化けて潜り込み、情報を送るはずが、たいした内容も送れぬまま、あっさりと捕らえられてしまうとは、四烈将の名を汚したな。」
続いて、ザクレイ・トッドの方を向き直る。
「カザリーム上空に巣食った蜘蛛のバ化け物を打ち砕いたと報告にあったが」
「そりゃあね。」
酔っ払い魔導師は、酒瓶を片手に陽気に言った。
「嵐竜のブレス、七連撃ですぜ。どんな構造物でも吹き飛びますわ!」
「・・・カザリームの行政府からの報告文書を、入手している。」
ドゥルノ・アゴンは、苦い顔で言った。
「おまえは、ブレスを六回しか使っていない。」
気まずい沈黙が、流れた。
「・・・そうですかい。しかし、やつの蜘蛛の巣は、大ダメージを受けたはずです。それは間違えありませんぜ。」
「そうか。しかし、巣の主、デイクックと名乗る亜人は本当に倒せたのか?」
「ドゥルノ・アゴン。」
庇うように、ロゼリッタが口をはさんだ。
「カザリームいっぱいに広がった『巣』が分散しきれなくて、建物が一部倒壊を始めるほどの攻撃よ。巣の中に居たものが無事ですむわけがないわ。」
「そのあと、倒壊しかかった建物を、糸で縛って倒壊を防いだものがいるそうだ。」
「でも、あのあと、デイクックは全く姿を現してはいない。」
ロゼリッタはなおも言った。
「どの程度か分からなくてもダメージを与えたことは間違いない。」
「そこまでは疑っていない。」
ドゥルノ・アゴンは、ため息をついた。
「おまえたちもわたしも、『世界の声』に導かれた最強の能力者だ。たかだか、亜人はもちろん、上古の魔女といえどもそうそうに遅れをとるとは思わん。」
ドゥルノ・アゴンの傍らに立ったドロシーは、叫びをあげるところだった。
“世界の声!? 世界の声、それがリウに敵対し、あらたな魔王を自称するこいつらを差し向けた黒幕なの?”
幸いなことに。
表情もあえぎも、もれなかった。
ドロシーの顔は、左目だけを露出した漆黒の革の仮面で覆われていたのだ。
鼻の部分は、布地になっていて、辛うじて息はできる。また右目、口の部分はジッパーになっており、必要に応じて開け閉めはできる。
ただし、ドロシーの両手は、指先が鍵爪になったグローブで覆われていて、その指ではチャックの開け閉めは、著しく困難であった。
着させられている服もまた、黒い伸縮のきく素材でできていた。
彼女が纏わされた服は、実際には服ではなく、素肌に粘着するテープのようなもので大半が作られており、囚われてから短い間に一段と女らしさを増した体のラインを隠すどころか、かえって強調しているかのようだった。
胸と下半身をかろうじて覆った、仮面と同質の素材でできた鎧は、これも部分部分にジッパーがつけられていた。
腰から下のスカートは丈は、一応くるぶしまではあったものの、布ではなく、リボン状の繊維で構成されていて、黙ってたっている以外の動作をすれば、ドロシーの足をさらけ出すしかない。
淑女なら、それだけで赤面して舌でも噛みたくなるような格好だった。
もちろん、着ていて快適でもなく、よれたり、むれたり、臭ったりする。
これをドロシーは、ほぼ一日中着させられていた。
逃げ出そうとして捕まった、これがドゥルノ・アゴンの罰ならばかなり、凝った性癖をもっているのだろう。
夜の営みのときも、この服は脱がさない。口なり、胸なり、下半身なり、必要な所のチャックを開けるだけである。
ドゥルノ・アゴンの手が動いて、ドロシーは口のジッパーが開けられるのを感じた。新鮮な空気を求めて肺が喘ぐ。
「ここまでのところで、おまえの意見を聞こう。」
「そ、そろそろ、この格好は勘弁してくださいませ。」
ドロシーは、跪いてドゥルノ・アゴンのつま先に口付けした。
女の唇が最初にすることは、キスだと、ドゥルノ・アゴンから教えられたことのこれが、ひとつである。
「そうかな? おぬしもそれが随分と気に入っているのではないか?」
からかうように、ドゥルノ・アゴンが言った。
「そ、それは」
「部下どもの前で、素肌を晒して交わるのは嫌だというおまえのためにわざわざ用意した服だ。この服をきて、抱かれるほどにおまえは、モノに、なっていく。この魔王のモノに、な。」
「こ、」声が震えた。「光栄でございます。」
本当にそんな特殊な効果があるのだろうか?
たしかに特殊な効果はあるのだろう。この服を身につけての交わりは、言う通り特別な快楽をドロシーにもたらした。
しかし、そんな身も心もこの男に捧げたくなるような従属感は、ない。
「特別に許す。おまえの粗末な頭脳でいまの局面を解析してみるがいい。」
まったくわかりません。
とか。
お答えするのも恐れ多いことです。
とか。
すべては、陛下の思し召し通りです。
とか。
答えようはあったはずだが、ドロシーはまた、間違えた。
「いまのところは、リウくんの思い通りに、すすんでいます。」
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