上 下
109 / 164

第109話 すべてはあなたの手の中に

しおりを挟む
「そろったか。」
ドゥルノ・アゴンの言葉に、頷いたのは、三名。四烈将はその数をひとり減らしている。
変身術と幻惑魔術を得意とする亜人ブランカが、まだ帰らない。

「生存は確認しております。」
ラナ公爵ロゼリッタが、優美に腰をかがめた。
「上古の魔女を自称するマーベルなる女にしかけるとの報告が、最後となりました。」
かかげる容器のなかには、鼓動を続ける心臓がひとつ。
「ここに、心の臓を保管している以上、生半可なダメージでは滅することは不可能。また、それでもなお、それ相応のダメージを受けて死亡すれば、この心臓もまた鼓動を止めるはず。」

「つまりは捕虜となったわけだ。」
ドゥルノ・アゴンは、皮肉たっぷりに言った。
「このドロシーに化けて潜り込み、情報を送るはずが、たいした内容も送れぬまま、あっさりと捕らえられてしまうとは、四烈将の名を汚したな。」

続いて、ザクレイ・トッドの方を向き直る。
「カザリーム上空に巣食った蜘蛛のバ化け物を打ち砕いたと報告にあったが」
「そりゃあね。」
酔っ払い魔導師は、酒瓶を片手に陽気に言った。
「嵐竜のブレス、七連撃ですぜ。どんな構造物でも吹き飛びますわ!」
「・・・カザリームの行政府からの報告文書を、入手している。」
ドゥルノ・アゴンは、苦い顔で言った。
「おまえは、ブレスを六回しか使っていない。」

気まずい沈黙が、流れた。
「・・・そうですかい。しかし、やつの蜘蛛の巣は、大ダメージを受けたはずです。それは間違えありませんぜ。」
「そうか。しかし、巣の主、デイクックと名乗る亜人は本当に倒せたのか?」

「ドゥルノ・アゴン。」
庇うように、ロゼリッタが口をはさんだ。
「カザリームいっぱいに広がった『巣』が分散しきれなくて、建物が一部倒壊を始めるほどの攻撃よ。巣の中に居たものが無事ですむわけがないわ。」

「そのあと、倒壊しかかった建物を、糸で縛って倒壊を防いだものがいるそうだ。」
「でも、あのあと、デイクックは全く姿を現してはいない。」
ロゼリッタはなおも言った。
「どの程度か分からなくてもダメージを与えたことは間違いない。」

「そこまでは疑っていない。」
ドゥルノ・アゴンは、ため息をついた。
「おまえたちもわたしも、『世界の声』に導かれた最強の能力者だ。たかだか、亜人はもちろん、上古の魔女といえどもそうそうに遅れをとるとは思わん。」

ドゥルノ・アゴンの傍らに立ったドロシーは、叫びをあげるところだった。
“世界の声!? 世界の声、それがリウに敵対し、あらたな魔王を自称するこいつらを差し向けた黒幕なの?”

幸いなことに。
表情もあえぎも、もれなかった。
ドロシーの顔は、左目だけを露出した漆黒の革の仮面で覆われていたのだ。
鼻の部分は、布地になっていて、辛うじて息はできる。また右目、口の部分はジッパーになっており、必要に応じて開け閉めはできる。
ただし、ドロシーの両手は、指先が鍵爪になったグローブで覆われていて、その指ではチャックの開け閉めは、著しく困難であった。

着させられている服もまた、黒い伸縮のきく素材でできていた。
彼女が纏わされた服は、実際には服ではなく、素肌に粘着するテープのようなもので大半が作られており、囚われてから短い間に一段と女らしさを増した体のラインを隠すどころか、かえって強調しているかのようだった。

胸と下半身をかろうじて覆った、仮面と同質の素材でできた鎧は、これも部分部分にジッパーがつけられていた。

腰から下のスカートは丈は、一応くるぶしまではあったものの、布ではなく、リボン状の繊維で構成されていて、黙ってたっている以外の動作をすれば、ドロシーの足をさらけ出すしかない。

淑女なら、それだけで赤面して舌でも噛みたくなるような格好だった。
もちろん、着ていて快適でもなく、よれたり、むれたり、臭ったりする。
これをドロシーは、ほぼ一日中着させられていた。
逃げ出そうとして捕まった、これがドゥルノ・アゴンの罰ならばかなり、凝った性癖をもっているのだろう。

夜の営みのときも、この服は脱がさない。口なり、胸なり、下半身なり、必要な所のチャックを開けるだけである。

ドゥルノ・アゴンの手が動いて、ドロシーは口のジッパーが開けられるのを感じた。新鮮な空気を求めて肺が喘ぐ。

「ここまでのところで、おまえの意見を聞こう。」
「そ、そろそろ、この格好は勘弁してくださいませ。」
ドロシーは、跪いてドゥルノ・アゴンのつま先に口付けした。

女の唇が最初にすることは、キスだと、ドゥルノ・アゴンから教えられたことのこれが、ひとつである。
「そうかな? おぬしもそれが随分と気に入っているのではないか?」
からかうように、ドゥルノ・アゴンが言った。
「そ、それは」 
「部下どもの前で、素肌を晒して交わるのは嫌だというおまえのためにわざわざ用意した服だ。この服をきて、抱かれるほどにおまえは、モノに、なっていく。この魔王のモノに、な。」

「こ、」声が震えた。「光栄でございます。」

本当にそんな特殊な効果があるのだろうか?
たしかに特殊な効果はあるのだろう。この服を身につけての交わりは、言う通り特別な快楽をドロシーにもたらした。
しかし、そんな身も心もこの男に捧げたくなるような従属感は、ない。

「特別に許す。おまえの粗末な頭脳でいまの局面を解析してみるがいい。」


まったくわかりません。
とか。
お答えするのも恐れ多いことです。
とか。
すべては、陛下の思し召し通りです。
とか。

答えようはあったはずだが、ドロシーはまた、間違えた。
「いまのところは、リウくんの思い通りに、すすんでいます。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

処理中です...