上 下
86 / 164

第86話 銀雷の魔女を探して~マシューとクロウドの場合

しおりを挟む
マシューとクロウドは、この半年ばかり「つるむ」ことが多い。
もともと、クロウドの親は、マシューの生家出会った子爵家の家人。マシューとは、幼馴染でもっぱらその側近として、幼少のみぎりは遊び仲間として、マシューが成長し悪い遊びに手を染めるようになってからは、用心冒兼任の腰巾着として、彼にへばりついていた。
おかげで、マシューが勘当同然で、冒険者学校に叩き込まれたときも、ついていかされた。
ただし、上級魔法学校に通っていたドロシーと違って、彼は、街のゴロツキになりかかっていて、冒険者学校にでも入るしかないか、と思っていた矢先だったから、別段ショックは受けなかった。

「ドロシーのやつ、どこに行ったんだと思う?」
クラスメイトに聞き込みをしたところ、ドロシーは通学用のコートを買いたがっていた、という。
学校から彼らの隠れ家パントラパレス11―1101までだと、買い物に便利で衣類に強いのは、まあこの通りだろう。
完全に脳筋だと思われているクロウドも、時々存在すら忘れられるマシューも、何もかなしにカザリームの街中を走り回るほど、愚かではなかった。
道をいく人々は、そこそこ裕福そうだ。他の高校に通っていると思われる同世代の若者も多い。

「通学用のコートってのはどんなんだ。」
と、聞いたのはマシューの方である。ランゴバルドでは、本格的な寒さが到来するまでは、コートではなく、マントを羽織る習慣があったので、ドロシーがどんなコートをどこで買おうとしていたのか、想像がつかなかった。

「なんとも言えんなあ。」
以前は、坊ちゃん坊ちゃんとマシューを立てていたクロウドだが、すっかり口調はタメである。
「もともと、こういうコートじゃなきゃならん、というのであれば、学校の方でコートを用意するだろう。特に聞いてもいないし、おっと、スマンな。」

クロウドが、頭を下げたのは、彼に肩をぶつけてきた同世代の若者に対して、である。

「このクソがっ!」
たちまち、周りから似たような制服の若者が5、6人集まってきた。
「てめえら、クラードだな。」

背は低いがイカつい。体格差、格闘術の腕前などは、勢いと慣れ、でどうにもなるのが、街頭でのケンカだ。
「クラードがここらをうろついてんのか?」
「肩をぶつけてきやがったんだ。チクショウ、折れたかも知れねえ。」
「まあまあ。いきなり、熱くなっちゃいけねえよ。」

ずいっと、後ろから歩み出たのは、筋肉に覆われた大男だった。クロウドよりもさらに頭一つ高い。
「このあたりを仕切ってるランレイ高のグリシャードってもんだ。」

「いや、ここは“俺ら”で。グクシャードさんが出張っていただかなくても」
そんなことを言いかけた取り巻きの一人の、頭に手を乗せると。

ぐしゃり。

そのまま地面に押しつぶした。
足がありえないような角度に曲がり、取り巻きは悲鳴を上げた、

「肩の脱臼一名に足の骨折一名か。なあ。」
グリシャードは、ニキビだらけの顔を、クロウドに、ずいと近づけた。
「おりゃあ、熱くなるはでえっきれえなんだ。どういうもんか、おれが熱くなった後には、必ず死骸が転がっててよお。片付けんのが面倒なんだわ。
・・・金で解決してやるよ。おい、まずは財布と学生証を渡せ。」

「学生証・・・は持ってないな。」
マシューは、頭を下げた。
「持ち合わせも・・・あまり、ない。今、人を探していて少し急いでいる。そんなに相手をしてやれないのだが。」
「それじゃあ、なんでもいい。お前らの身分証を渡せ。後で金は請求する。」


「身分証・・・」
マシューは考え込んで、懐からそれを取り出した。
「これなら身分証になるだろう。西域共通だしな。」

「素直でいいぜ・・・・は・・・ぎん、銀級冒険者? 『踊る道化師』・・・・・」
マシューの冒険者カードを受け取ろうと、伸ばした手が硬直した。マシューの手がそこに重なり、パキっという軽い音がした。
ぐえええっ
と、唸りを上げてグリシャードが、手を抑えて後退した。指が折れている。

「やっチマ・・・」
殺しは、しなかった。
そうそう、簡単に頭に血が上るタイプの脳筋ではないのだ、クロウドは。

ランレイ高の不良どもは、全員が右足を抑えて、地面に転げていた。
悲鳴と苦痛のうめき、と。

鮮やかな動きであったが、それでもまだ陽の高い繁華街の雑踏では、派手すぎたのかも知れない。
縫い付けられた唇を刺繍した腕章を身につけた男だちが、走り寄ってきた。

「お、おれたちはランレイ高校の自警団だ!」
まだ口がきけたグリシャードが叫んだ。
「グリード校の奴らがいきなり、襲いかかってきたんだ。全員、重傷だ。こいつらを捕まえて・・・おれたちを病院へ・・・・。」

「ご苦労さん。」
マシューが、駆け寄ってきた男に、頭を下げた。
「わたしは、ラザリム・ケルト冒険者事務所所属の冒険者パーティ『踊る道化師』のマシューだ。こっちはクロウド。」

男たちは、マシューの提示した登録カードを確認し、明らかに態度を変えた。
一番、年上と思われる人物が、二人に敬礼した。

「『沈黙』のマクロメンです。リット通りを担当しております。何かトラブルでしょうか。」
「怪我人の救助、ということになるのだろうな、マクメロン隊長どの。」
クロウドがスラスラと言った。
「どうも彼らは、急に足が痛み出したようなのだ・・・そっちのでかいやつは指らしい。伝染する病かも知れないから、急ぎで隔離した方が良いかも知れない。」
「てめえ・・・・ふざける、な・・・」

マシューは、グリシャードに近づいた。単に近づいただけのようだったが、足の踵で見事に、グリシャードの足の小指を踏みにじっている。
「いや、喋らない方がいいよ、君。」
しゃがみ込んだグリシャードに、マシューは気の毒そうに言った。
「この病気は興奮すればするほど、痛む場所が増えるんだ。二、三日は安静にすることをお勧めするよ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

処理中です...