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第86話 銀雷の魔女を探して~マシューとクロウドの場合
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マシューとクロウドは、この半年ばかり「つるむ」ことが多い。
もともと、クロウドの親は、マシューの生家出会った子爵家の家人。マシューとは、幼馴染でもっぱらその側近として、幼少のみぎりは遊び仲間として、マシューが成長し悪い遊びに手を染めるようになってからは、用心冒兼任の腰巾着として、彼にへばりついていた。
おかげで、マシューが勘当同然で、冒険者学校に叩き込まれたときも、ついていかされた。
ただし、上級魔法学校に通っていたドロシーと違って、彼は、街のゴロツキになりかかっていて、冒険者学校にでも入るしかないか、と思っていた矢先だったから、別段ショックは受けなかった。
「ドロシーのやつ、どこに行ったんだと思う?」
クラスメイトに聞き込みをしたところ、ドロシーは通学用のコートを買いたがっていた、という。
学校から彼らの隠れ家パントラパレス11―1101までだと、買い物に便利で衣類に強いのは、まあこの通りだろう。
完全に脳筋だと思われているクロウドも、時々存在すら忘れられるマシューも、何もかなしにカザリームの街中を走り回るほど、愚かではなかった。
道をいく人々は、そこそこ裕福そうだ。他の高校に通っていると思われる同世代の若者も多い。
「通学用のコートってのはどんなんだ。」
と、聞いたのはマシューの方である。ランゴバルドでは、本格的な寒さが到来するまでは、コートではなく、マントを羽織る習慣があったので、ドロシーがどんなコートをどこで買おうとしていたのか、想像がつかなかった。
「なんとも言えんなあ。」
以前は、坊ちゃん坊ちゃんとマシューを立てていたクロウドだが、すっかり口調はタメである。
「もともと、こういうコートじゃなきゃならん、というのであれば、学校の方でコートを用意するだろう。特に聞いてもいないし、おっと、スマンな。」
クロウドが、頭を下げたのは、彼に肩をぶつけてきた同世代の若者に対して、である。
「このクソがっ!」
たちまち、周りから似たような制服の若者が5、6人集まってきた。
「てめえら、クラードだな。」
背は低いがイカつい。体格差、格闘術の腕前などは、勢いと慣れ、でどうにもなるのが、街頭でのケンカだ。
「クラードがここらをうろついてんのか?」
「肩をぶつけてきやがったんだ。チクショウ、折れたかも知れねえ。」
「まあまあ。いきなり、熱くなっちゃいけねえよ。」
ずいっと、後ろから歩み出たのは、筋肉に覆われた大男だった。クロウドよりもさらに頭一つ高い。
「このあたりを仕切ってるランレイ高のグリシャードってもんだ。」
「いや、ここは“俺ら”で。グクシャードさんが出張っていただかなくても」
そんなことを言いかけた取り巻きの一人の、頭に手を乗せると。
ぐしゃり。
そのまま地面に押しつぶした。
足がありえないような角度に曲がり、取り巻きは悲鳴を上げた、
「肩の脱臼一名に足の骨折一名か。なあ。」
グリシャードは、ニキビだらけの顔を、クロウドに、ずいと近づけた。
「おりゃあ、熱くなるはでえっきれえなんだ。どういうもんか、おれが熱くなった後には、必ず死骸が転がっててよお。片付けんのが面倒なんだわ。
・・・金で解決してやるよ。おい、まずは財布と学生証を渡せ。」
「学生証・・・は持ってないな。」
マシューは、頭を下げた。
「持ち合わせも・・・あまり、ない。今、人を探していて少し急いでいる。そんなに相手をしてやれないのだが。」
「それじゃあ、なんでもいい。お前らの身分証を渡せ。後で金は請求する。」
「身分証・・・」
マシューは考え込んで、懐からそれを取り出した。
「これなら身分証になるだろう。西域共通だしな。」
「素直でいいぜ・・・・は・・・ぎん、銀級冒険者? 『踊る道化師』・・・・・」
マシューの冒険者カードを受け取ろうと、伸ばした手が硬直した。マシューの手がそこに重なり、パキっという軽い音がした。
ぐえええっ
と、唸りを上げてグリシャードが、手を抑えて後退した。指が折れている。
「やっチマ・・・」
殺しは、しなかった。
そうそう、簡単に頭に血が上るタイプの脳筋ではないのだ、クロウドは。
ランレイ高の不良どもは、全員が右足を抑えて、地面に転げていた。
悲鳴と苦痛のうめき、と。
鮮やかな動きであったが、それでもまだ陽の高い繁華街の雑踏では、派手すぎたのかも知れない。
縫い付けられた唇を刺繍した腕章を身につけた男だちが、走り寄ってきた。
「お、おれたちはランレイ高校の自警団だ!」
まだ口がきけたグリシャードが叫んだ。
「グリード校の奴らがいきなり、襲いかかってきたんだ。全員、重傷だ。こいつらを捕まえて・・・おれたちを病院へ・・・・。」
「ご苦労さん。」
マシューが、駆け寄ってきた男に、頭を下げた。
「わたしは、ラザリム・ケルト冒険者事務所所属の冒険者パーティ『踊る道化師』のマシューだ。こっちはクロウド。」
男たちは、マシューの提示した登録カードを確認し、明らかに態度を変えた。
一番、年上と思われる人物が、二人に敬礼した。
「『沈黙』のマクロメンです。リット通りを担当しております。何かトラブルでしょうか。」
「怪我人の救助、ということになるのだろうな、マクメロン隊長どの。」
クロウドがスラスラと言った。
「どうも彼らは、急に足が痛み出したようなのだ・・・そっちのでかいやつは指らしい。伝染する病かも知れないから、急ぎで隔離した方が良いかも知れない。」
「てめえ・・・・ふざける、な・・・」
マシューは、グリシャードに近づいた。単に近づいただけのようだったが、足の踵で見事に、グリシャードの足の小指を踏みにじっている。
「いや、喋らない方がいいよ、君。」
しゃがみ込んだグリシャードに、マシューは気の毒そうに言った。
「この病気は興奮すればするほど、痛む場所が増えるんだ。二、三日は安静にすることをお勧めするよ。」
もともと、クロウドの親は、マシューの生家出会った子爵家の家人。マシューとは、幼馴染でもっぱらその側近として、幼少のみぎりは遊び仲間として、マシューが成長し悪い遊びに手を染めるようになってからは、用心冒兼任の腰巾着として、彼にへばりついていた。
おかげで、マシューが勘当同然で、冒険者学校に叩き込まれたときも、ついていかされた。
ただし、上級魔法学校に通っていたドロシーと違って、彼は、街のゴロツキになりかかっていて、冒険者学校にでも入るしかないか、と思っていた矢先だったから、別段ショックは受けなかった。
「ドロシーのやつ、どこに行ったんだと思う?」
クラスメイトに聞き込みをしたところ、ドロシーは通学用のコートを買いたがっていた、という。
学校から彼らの隠れ家パントラパレス11―1101までだと、買い物に便利で衣類に強いのは、まあこの通りだろう。
完全に脳筋だと思われているクロウドも、時々存在すら忘れられるマシューも、何もかなしにカザリームの街中を走り回るほど、愚かではなかった。
道をいく人々は、そこそこ裕福そうだ。他の高校に通っていると思われる同世代の若者も多い。
「通学用のコートってのはどんなんだ。」
と、聞いたのはマシューの方である。ランゴバルドでは、本格的な寒さが到来するまでは、コートではなく、マントを羽織る習慣があったので、ドロシーがどんなコートをどこで買おうとしていたのか、想像がつかなかった。
「なんとも言えんなあ。」
以前は、坊ちゃん坊ちゃんとマシューを立てていたクロウドだが、すっかり口調はタメである。
「もともと、こういうコートじゃなきゃならん、というのであれば、学校の方でコートを用意するだろう。特に聞いてもいないし、おっと、スマンな。」
クロウドが、頭を下げたのは、彼に肩をぶつけてきた同世代の若者に対して、である。
「このクソがっ!」
たちまち、周りから似たような制服の若者が5、6人集まってきた。
「てめえら、クラードだな。」
背は低いがイカつい。体格差、格闘術の腕前などは、勢いと慣れ、でどうにもなるのが、街頭でのケンカだ。
「クラードがここらをうろついてんのか?」
「肩をぶつけてきやがったんだ。チクショウ、折れたかも知れねえ。」
「まあまあ。いきなり、熱くなっちゃいけねえよ。」
ずいっと、後ろから歩み出たのは、筋肉に覆われた大男だった。クロウドよりもさらに頭一つ高い。
「このあたりを仕切ってるランレイ高のグリシャードってもんだ。」
「いや、ここは“俺ら”で。グクシャードさんが出張っていただかなくても」
そんなことを言いかけた取り巻きの一人の、頭に手を乗せると。
ぐしゃり。
そのまま地面に押しつぶした。
足がありえないような角度に曲がり、取り巻きは悲鳴を上げた、
「肩の脱臼一名に足の骨折一名か。なあ。」
グリシャードは、ニキビだらけの顔を、クロウドに、ずいと近づけた。
「おりゃあ、熱くなるはでえっきれえなんだ。どういうもんか、おれが熱くなった後には、必ず死骸が転がっててよお。片付けんのが面倒なんだわ。
・・・金で解決してやるよ。おい、まずは財布と学生証を渡せ。」
「学生証・・・は持ってないな。」
マシューは、頭を下げた。
「持ち合わせも・・・あまり、ない。今、人を探していて少し急いでいる。そんなに相手をしてやれないのだが。」
「それじゃあ、なんでもいい。お前らの身分証を渡せ。後で金は請求する。」
「身分証・・・」
マシューは考え込んで、懐からそれを取り出した。
「これなら身分証になるだろう。西域共通だしな。」
「素直でいいぜ・・・・は・・・ぎん、銀級冒険者? 『踊る道化師』・・・・・」
マシューの冒険者カードを受け取ろうと、伸ばした手が硬直した。マシューの手がそこに重なり、パキっという軽い音がした。
ぐえええっ
と、唸りを上げてグリシャードが、手を抑えて後退した。指が折れている。
「やっチマ・・・」
殺しは、しなかった。
そうそう、簡単に頭に血が上るタイプの脳筋ではないのだ、クロウドは。
ランレイ高の不良どもは、全員が右足を抑えて、地面に転げていた。
悲鳴と苦痛のうめき、と。
鮮やかな動きであったが、それでもまだ陽の高い繁華街の雑踏では、派手すぎたのかも知れない。
縫い付けられた唇を刺繍した腕章を身につけた男だちが、走り寄ってきた。
「お、おれたちはランレイ高校の自警団だ!」
まだ口がきけたグリシャードが叫んだ。
「グリード校の奴らがいきなり、襲いかかってきたんだ。全員、重傷だ。こいつらを捕まえて・・・おれたちを病院へ・・・・。」
「ご苦労さん。」
マシューが、駆け寄ってきた男に、頭を下げた。
「わたしは、ラザリム・ケルト冒険者事務所所属の冒険者パーティ『踊る道化師』のマシューだ。こっちはクロウド。」
男たちは、マシューの提示した登録カードを確認し、明らかに態度を変えた。
一番、年上と思われる人物が、二人に敬礼した。
「『沈黙』のマクロメンです。リット通りを担当しております。何かトラブルでしょうか。」
「怪我人の救助、ということになるのだろうな、マクメロン隊長どの。」
クロウドがスラスラと言った。
「どうも彼らは、急に足が痛み出したようなのだ・・・そっちのでかいやつは指らしい。伝染する病かも知れないから、急ぎで隔離した方が良いかも知れない。」
「てめえ・・・・ふざける、な・・・」
マシューは、グリシャードに近づいた。単に近づいただけのようだったが、足の踵で見事に、グリシャードの足の小指を踏みにじっている。
「いや、喋らない方がいいよ、君。」
しゃがみ込んだグリシャードに、マシューは気の毒そうに言った。
「この病気は興奮すればするほど、痛む場所が増えるんだ。二、三日は安静にすることをお勧めするよ。」
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