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第79話 踊る道化師は解決する
しおりを挟むラザリム・ケルト冒険者事務所は、このところ、盛況であった。「踊る道化師」トーナメントは、盛況のうちに終了し、胴元ほどではないにしろ、動いた金の一部は、間違いなく、ここに入った。
さらに、「踊る道化師」のカザリームにおけるマネジメントを、ここで行なってくれることになったのである。
だが、こちらの方は問題だった。
さっそくに請け負った『ガルハド幻影宮』の迷宮主の持つハアルブル球という魔道具の回収クエストにおいて、彼らはその日のうちに、ハアルブル球を回収した。
それも迷宮主のマーベルを連れて来て自ら、ハアルブル球を差し出させるというわけのわからない方法である。
だので、次のクエストに彼らが、失敗して、ラザリムもケルトもイシュトも胸を撫で下ろしたのである。
ああ、こいつらも苦手な分野はあるのか、と。
ところが、そこから一両日も経たぬうちに。
「魔物に通行料を支払う・・・・だって!!」
ケルトは、呆然とリウ、ドロシー、ベータの顔を見つめている。
「現実的にはそれがよいのかと思う。」
ベータは、平然と言った。もともと市長の兄に当たるアシット・クロムウェルの婚約者であったベータは、ケルトとも顔なじみだった。
だからと言って、アシットの婚約者ではなくなったいま、でかい態度をとるのは、間違っているのだが、ベータは全く気にしない。
さすがは、元フィオリナ、だった。
「あの個体は・・・名前を自ら名乗っていたので、ディクックという個体名で呼ばせてもらうが、ディクックは三層の大空洞、通称ガブリアス空隙を完全に支配している。
あれを排除するためには、数千の兵を送り込み、総力戦を挑むしかないが、迷宮のような閉鎖された空間でそれがはたして、現実問題として可能かどうかと言ったら・・・」
「そのために、冒険者がいるのでは!?」
と、ケルトは言った。かぎられた空間、限られたフィールドだからこその絶対強者、それが冒険者だ。
「相手が悪すぎました。」
ドロシーは、肩をすくめた。
「よりにもよって、『巣』と『繭』の開発者本人です。空隙そのものを要塞化してしまっているようなものです。あれを無理に排除するより、彼女の言い分を認め、通行料を支払ったほうがはるかに安上がりです。」
「し、しかし・・・」
「別段、人身御供を捧げよとか、レアアイテムをもってこいとかいうものではありません。通常のダル紙幣で大丈夫です。
もともと、垂直に百メトル以上ある円筒状の大穴です。登ったり降り立りは、大変な手間ではなかったのですか。」
「それはたしかに・・・」
ケルトは、あることに気が付き、口早に言った。
「あの大空洞の中腹には、無数の洞窟がある。大半が探索の手はおよんでいない。もし、その・・・ディクックとやらが空洞そのものを『巣』としているのであれば・・・」
「当然、お好みの洞窟に案内することも可能ですね。ちなみになのですが、ディクックを排除することをいったんおいたとしても、いま彼女が構築しているような『巣』を、迷宮内に構築するための費用となると・・・」
数字に明るいケルトは、その試算ができた。
たしかに、利害だけ見れば、第三層の空洞に、安全な通行手段ができており、決して高い金額ではない使用料金でそれば使えるのは、得しかない。
「しかし・・・その魔物に金を支払う・・・というのは。」
「彼女は、もともと人間だ。カザリーム交通局開発事業部に所属の、ミシェル・ディクックという女性だ。」
リウが、口を開いた。
「事情で・・・その事情がどんなものかは知らないが、一時期、カザリームの行政府を離れていたが、ひそかに迷宮内での画期的な交通手段を開発し、それを手土産にカザリームに戻ってきてくれたのだ。
一時、カザリームを離れるに至った諸事情は、水に流す、と彼女は言ってくれているそうだ。もちろん、当時の関係者たちの責任を追求することもないと。
これ以上なにを求めることがある?」
ケルトは、三人の顔を当分に見比べた。
たしかに・・・繭の開発に多大な貢献があったミシェル・ディクックが『亜人』であるがゆえに、不当に行政府を追われた経過は、耳にしている。
もう十年は昔の話だ。
そのとき、ミシェルは実は、魔物だったとか、うわさはあった。だが、実際それがどうした、と思ったものが特に冒険者仲間では大半であったように思う。
腕のいい戦士を、術にすぐれた魔術師を人間でないからという理由で追い出すことの馬鹿らしさを、彼らは身に染みてわかっていたのだ。
「これが『踊る道化師』流の解決・・・ということですか。」
ため息とともに、ケルトは「報告書」に「任務達成」の印を押した。
ついでに、「ミシェル・ディクック」を冒険者として登録させられたが、そちらは、もうすでに迷宮主の魔導師マーベルに冒険者登録証をだしていたので、なかば勢いもあったのだ。
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