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第78話 そのせつはたいへんおせわに・・・

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「どうやって、このスーツを手に入れたか、答えよ、ドロシー。」
顔をあげたディクックの額に、新たな目が誕生していた。

ドロシーの友人であるギムリウスもまた、本気で本来の能力をつかうときに、隠された目を開くことがある。
「なぜそれを?」
「おまえたち人間の肌は、主上の糸をまとうにはあまりに、柔だからだ。」
ディクックは、素直に答えた。
少なくとも、敵意は、感じられなくなった。神獣や古竜・・・定命の生命をもたぬ存在は、対等に戦えるものに対して、むやみに敵意をふりまいたりはしない。
それが、無限長に生きるものの特徴でもあり、また長所でもあり、欠点でもある。

「おまえが、どこかでこの糸でつくられたスーツを、手に入れたとしても、それを装着することはぜったいにできない。たしかに外からの攻撃、とくに斬撃にたいしては無類の抵抗力のあるのある防護服となる一方で、おまえの肌は剥がれ、肉は削られる。」
「それは、たしかに。」
ドロシーは応じた。
「その者の体、筋肉の動きまで正確に熟知して、作成しなければならない。材料が仮に手に入ったとしても、作り上げることは不可能な逸品です。」

「これをおまえが、着用していた、という事は、主上が御自ら、おまえのために作り上げたもの・・・ということになる。」

「正確には、ギムリウスとリウさまですけどね。」

能力を発揮するための、第三の目までが、大きく見開かれた。

「リンド伯爵をご存知なのか・・・伯爵のしもべなのか?」

「わたしたちは、同じ冒険者パーティに所属する仲間です。それが『踊る道化師』。」

ディクックは、頭を抱えた。ギムリウスのように隠し腕(脚?)でもあるかと思ったが、どうもディクックの体は、限りなく人間に近く作られているらしい。
その体にひとと違う部分は見られず、うめき声も人間のものだった。

「いったい・・・・なにが起こっている!」(✕2)。

「それは、あとで個別に話ましょう、ディクック。ベータは、リウくんからくわしい話をきいてください。彼がはなしてよいと思うところまで話すでしょう。」


ドロシーの体調は、このとき必ずしもよくは、ない。魔力の欠乏は、激しい頭痛や倦怠感をもたらすのだ。そして、魔力を補充してくれるポーションのたぐいは、この世界で知られているものは、単なる気休めである。

「わたしとしては、ディクック。あなたの事情もお聞きしたいのです。あなたは、ギムリウスの眷属。それもヤホウやゴウグレといったギムリウスの眷属には珍しい知性をもってつくられた特異種・・・ギムリウス流にいえば『ユニーク』ですね。
なぜ、ここにいるのか。そして、なぜ、この迷宮の第三階層に巣食ったのか、事情をお聞かせください。
わたしたちなら解決できるかもしれません。」

「リウ・・・陛下がこの地に降臨されているというのか・・・」

「降臨されているどころか。」
ドロシーは、難しい顔で、自分を支えてくれているベータをちらりと見やった。
「まあ、少し場所をかえませんか? 人間は宙吊りになったままよりも話をしやすい場所と言うのはけっこうあるのですよ。」


三人は、正確に言うと、一人と一体と一匹は空洞を出て、第二階層の上がった。
この迷宮は、第一、第二ほとんど「枯れ」ている。
収穫が認められるのは、第三階層より下になるのだが、そのための通路に、ディクックが巣食ってしまったため、冒険者が立ち入ることができず、早急な改善がもとめられていたのだ。

三人は、遺跡を模したと思われる第二階層に、腰をおろせる小部屋を見つけ、しばらく話こんだ。
魔物は皆無ではないにしろ、災害種をまじえた彼女たちに、ちょっかいを出すものがいるはずもなく、話は長くはなったが、邪魔もはいらずにすすんだ。

「では、現在カザリームが使用している『繭』やそれを運行される『巣』の技術はもともと、ディクックさんの提供したものだということですか?」

黒いボディスーツの美女は、頷いた。

「すべて、とは言わない。より少ない魔力での作動や、人という脆弱な生き物を移動させるための安全性など人間の魔導師たちにも多大な貢献をしてもらっていた。
だが、もとになった理論は、わたしのもので、基本となった魔法陣はわたしが描いたものだ。
その功績を・・・いや、わたしという『人以外』が関与したことそのものが許せないとでもいうように、やつらはわたしを放逐し、さらに刺客まで差し向けた。わたしは、地下迷宮のひとつに逃げた。わたしは・・・・戦闘向きのユニークではない。
ひとにまぎれて、必要な情報をギムリウスさまのもとに送るためにつくられた個体だ。」

「いつごろの話ですか?」
「もう二十年にもなる。」

それなら。
ドロシーは、ちらりとベータを見た。
おそらく、彼女をグランダから拉致し、この地で養育したアシットは関与していないだろう。ちょうど、グランダへ留学していた時期だ。

「わかりました。」
と、ドロシーは答えた。

「なにがわかってどうする?」
腹立たしそうに、ディクックは言った。
「わたしとともに、カザリーム、いや人類社会に戦いでも挑んでくれるのか?」

「とんでもない。」
いや、それも可能なのだが。ドロシーは言った。
「もう少し現実的な解決案です。」


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