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第63話 魔女と盗賊2
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かろうじて役に立つのが、エミリアだった。
世慣れているという部分では、ドロシーだってとてもかなうものではないのだが、エミリアは外見を幼くしすぎている。
話を聞く分には、問題はないのだが、いざ契約ともなれば大人が必要になるのだ。
彼女たちは、トーナメント戦の参加の間の滞在場所として、ホテルを提供してもらっていた。
だが、トーナメントは終了している。賞金は決勝戦が不成立になったため、報償金でごまかされたが、まとまった金額だ。
つまり、『踊る道化師』は、どこかにある程度の期間、定住できる場所を探させなばならなかったのだ。
それもどうも、リウは、ベータと「一緒に帰る」つもりらしい。
つまり、彼らが下校するまでの間に、ドロシーとエミリアは、新居を探さなければならない、ということになる。
王に仕える、ということはかくも理不尽なものなのだ。
「紹介所は回ってきた。」
エミリアは、花柄の布製バッグから、けっこうな厚みのあるたばを取り出した。
二人は、ペデストリアンデッキの木陰にあるベンチに座って、それを眺めた。
読み進むにつれて、ドロシーの表情が、どんどん暗くなる。
「アシットの紹介状の効果は絶大よ。」
そう言いながらも、エミリアの表情も冴えない。
「それなりに吟味してくれた物件だとは思うよ。」
ドロシーは、一枚を取り上げた。
「パシャール通りに面した築3年パシャブラ第八構造物、最高層部32階。寝室は客用も含めて七つ。トイレは各寝室に完備。ダイニング設備は最新のカートリッジ式。お風呂はジャグジー付きがふたつ。ほかにリビングスペース、クローゼット用に別に二部屋。」
そう。
ここらの常識もドロシーの感覚を大いに狂わせるものがあった。
カザリームの中心は、個人の住宅も、高層建築物の中に設えられていたのだ。
コンドミニアム、というらしい。
うすい壁一枚で、隣同士に他人がいる、という感覚はなんだか、不気味だった。
いや、隣ばかりではない。上にも下にも他人がいるのだ。
それはなんとか我慢するにしても。
エミリアが紹介してもらった物件の値段は、いずれにもドロシーが密かに皮算用していた価格のざっと10倍である。
トーナメントの報奨金をあてに、半年は暮らせると思っていたのだが、物件を借りるのに必要な保証金を加えると、これでは一月がやっとである。
のんびりと学校に通いながら、リウの転移阻害の問題を解決するか、リウ抜きでも迷宮に挑めるだけのノウハウを身につけるか。
そんな時間は、なさそうだ。
「で、どう思う?」
エミリアとは、「試しの迷宮」での冒険を経て、随分と打ち解けたように思えた。
実年齢もわからぬ大怪盗の親玉だと知って、なんとなく敬語で話していたのが、元のクラスメイト口調に戻っていた。
エミリアもドロシーの判断力や統率力を、見直したらしく目下関係は良好である。
「まずは、わたしたちが、一緒に住むのか別々に住むのか、決めましょうよ。」
と、エミリアが言った。
「それは・・・できれば別にしたいよね。」
と、ドロシーは答えた。
もちろん、念頭にはベータのことがある。
リウが王様で、いわゆる後宮を作るのならば、いずれはそういう世話をする役目のものも必要なのだろうか。
それは、ごめん被りたい。
他人の寝屋の様子や、声など聞きたくもないのだ。
アキルが聞いたら絶対「おまゆう」と言われるのだろう。
「わたしも賛成だ。」
エミリアは、パラパラと資料を捲りながら、一枚を差し出した。
今回もらった資料の中では、一番安い。主寝室は一つだけで、あとは雑魚寝するしかない。
「ここに、リウとベータに住んでもらって、我々は、別のコンドミニアムを借りる。」
かえって高くつきそうだった。
「ここは? パントラ広場に面した18階建て。そこの11階と12階を使っている。
中は内階段で行き来できる。バスとトイレは各フロアにあるから、上のフロアをリウくんと、ベータに使ってもらって、わたしたちは、下のフロアを使えば」
「確かにそこはいいと思った。値段も広さの割には、まあそこそこだし。」
エミリアは顔をしかめた。
ロゼル一族は、この地にも下部組織を持っていた。
いざとなれば、いやならなくても、彼ら6名(プラスベータ)の生活費くらいは、ロゼルで補填することは出来た。
だが、それは避けたい。
カザリームに来たのはいわば、リウのわがままである。
もし、リウのために、金を使うならば、ロゼル一族の名目上の頭領であるロウ=リンドに了解をとる必要があるだろうが、おそらくロウは諾とはしないだろう。
リウのしでかした一件は、ほかの「踊る道化師」たちからも、かなり白い目でみられていたのだ。
どうしらものか。
とにかく、午後のこの時間から、これから住む場所を探して、今宵、リウとベータのを迎え入れねばならない。
ふたりは顔を見合わせた。
どちらからともなく言った。
「現地を見にいってみない。」
世慣れているという部分では、ドロシーだってとてもかなうものではないのだが、エミリアは外見を幼くしすぎている。
話を聞く分には、問題はないのだが、いざ契約ともなれば大人が必要になるのだ。
彼女たちは、トーナメント戦の参加の間の滞在場所として、ホテルを提供してもらっていた。
だが、トーナメントは終了している。賞金は決勝戦が不成立になったため、報償金でごまかされたが、まとまった金額だ。
つまり、『踊る道化師』は、どこかにある程度の期間、定住できる場所を探させなばならなかったのだ。
それもどうも、リウは、ベータと「一緒に帰る」つもりらしい。
つまり、彼らが下校するまでの間に、ドロシーとエミリアは、新居を探さなければならない、ということになる。
王に仕える、ということはかくも理不尽なものなのだ。
「紹介所は回ってきた。」
エミリアは、花柄の布製バッグから、けっこうな厚みのあるたばを取り出した。
二人は、ペデストリアンデッキの木陰にあるベンチに座って、それを眺めた。
読み進むにつれて、ドロシーの表情が、どんどん暗くなる。
「アシットの紹介状の効果は絶大よ。」
そう言いながらも、エミリアの表情も冴えない。
「それなりに吟味してくれた物件だとは思うよ。」
ドロシーは、一枚を取り上げた。
「パシャール通りに面した築3年パシャブラ第八構造物、最高層部32階。寝室は客用も含めて七つ。トイレは各寝室に完備。ダイニング設備は最新のカートリッジ式。お風呂はジャグジー付きがふたつ。ほかにリビングスペース、クローゼット用に別に二部屋。」
そう。
ここらの常識もドロシーの感覚を大いに狂わせるものがあった。
カザリームの中心は、個人の住宅も、高層建築物の中に設えられていたのだ。
コンドミニアム、というらしい。
うすい壁一枚で、隣同士に他人がいる、という感覚はなんだか、不気味だった。
いや、隣ばかりではない。上にも下にも他人がいるのだ。
それはなんとか我慢するにしても。
エミリアが紹介してもらった物件の値段は、いずれにもドロシーが密かに皮算用していた価格のざっと10倍である。
トーナメントの報奨金をあてに、半年は暮らせると思っていたのだが、物件を借りるのに必要な保証金を加えると、これでは一月がやっとである。
のんびりと学校に通いながら、リウの転移阻害の問題を解決するか、リウ抜きでも迷宮に挑めるだけのノウハウを身につけるか。
そんな時間は、なさそうだ。
「で、どう思う?」
エミリアとは、「試しの迷宮」での冒険を経て、随分と打ち解けたように思えた。
実年齢もわからぬ大怪盗の親玉だと知って、なんとなく敬語で話していたのが、元のクラスメイト口調に戻っていた。
エミリアもドロシーの判断力や統率力を、見直したらしく目下関係は良好である。
「まずは、わたしたちが、一緒に住むのか別々に住むのか、決めましょうよ。」
と、エミリアが言った。
「それは・・・できれば別にしたいよね。」
と、ドロシーは答えた。
もちろん、念頭にはベータのことがある。
リウが王様で、いわゆる後宮を作るのならば、いずれはそういう世話をする役目のものも必要なのだろうか。
それは、ごめん被りたい。
他人の寝屋の様子や、声など聞きたくもないのだ。
アキルが聞いたら絶対「おまゆう」と言われるのだろう。
「わたしも賛成だ。」
エミリアは、パラパラと資料を捲りながら、一枚を差し出した。
今回もらった資料の中では、一番安い。主寝室は一つだけで、あとは雑魚寝するしかない。
「ここに、リウとベータに住んでもらって、我々は、別のコンドミニアムを借りる。」
かえって高くつきそうだった。
「ここは? パントラ広場に面した18階建て。そこの11階と12階を使っている。
中は内階段で行き来できる。バスとトイレは各フロアにあるから、上のフロアをリウくんと、ベータに使ってもらって、わたしたちは、下のフロアを使えば」
「確かにそこはいいと思った。値段も広さの割には、まあそこそこだし。」
エミリアは顔をしかめた。
ロゼル一族は、この地にも下部組織を持っていた。
いざとなれば、いやならなくても、彼ら6名(プラスベータ)の生活費くらいは、ロゼルで補填することは出来た。
だが、それは避けたい。
カザリームに来たのはいわば、リウのわがままである。
もし、リウのために、金を使うならば、ロゼル一族の名目上の頭領であるロウ=リンドに了解をとる必要があるだろうが、おそらくロウは諾とはしないだろう。
リウのしでかした一件は、ほかの「踊る道化師」たちからも、かなり白い目でみられていたのだ。
どうしらものか。
とにかく、午後のこの時間から、これから住む場所を探して、今宵、リウとベータのを迎え入れねばならない。
ふたりは顔を見合わせた。
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