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第49話 フィオリナを探して1
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翌朝。
ホテルのレストランに、そろった「踊る道化師•魔王」の面々に、リウは述べた。
「決勝戦は、オレひとりで戦う。」
今回、リウが選抜したのは「魔王党」のメンバーだった。 リウの強さと、その言動を理解している。
「『 踊る道化師・剣』は、それほどのやつらですかい、ヘイカ?」
クロウドは、ぶうたれた。リウの力ならば、彼ら程度の手助けは不要。さらに、言うならば、リウにとって、今回の相手は配下のものに目配りしながら戦う、その余裕がない相手だ、と言うことになる。
クロウドは、いわゆる脳筋であるが、そこは正しく理解していた。
「相手は何ものなんですか?」
エミリアが尋ねた。
リウは、ドロシーを見やった。おまえから説明しろ、ということだ。
こんなヤツと、ズブズブの仲になったのか、あっちのフィオリナに問いただしてみたい。
「フィオリナです。」
いきさつ、を多少は知っているエミリアが、強ばった顔をした。
「まさか、姫が追いかけてきたの?」
「わたしも、最悪の事態としてそれを想定しましたが、どうも違うようです。」
ドロシーは言った。
「彼女は、10歳ごろに、アシットに拉致されてこの街に、来たそうです。それ以降、この街で暮らし、今ではアシットの婚約者となっています。」
「顔を見たの?」
「見ました。と言うかあって来ました。」
「で、そいつはなんなの?」
わからない。
あの「フィオリナ」が何者なのかはドロシーにも判断がつかない。
「本人曰くは、わたしたちの知る残念姫さんは、自分が拉致されたことを世間に隠すために、ボルテック卿あたりが創った魔道人形ではないか、と。」
「そんな馬鹿な!」
エミリアの顔は、引き攣っていた。
「リウさま!
あなた、人形と浮気してたんですかっ!?」
ドロシーは、テーブルにギムリウスのボディスーツを置いた。左袈裟懸けに、肩から腰まで両断されていた。
その意味を正確に理解したのは、エミリアだけだった。
「ギムリウスのスーツを!」
残りのものも、これが並々ならぬ防御力を持つものだというのは、なんとなくわかっている。
「じ、じゃあ、やっぱりホンモノのフィオリナが来てるってことっ・・・」
「それも、よくわからないのです。」
ドロシーは、お茶を飲みながら言った。
「あれは・・・フィオリナとよく似ていますが、何日か前まで一緒にいた『残念姫』さまではありません。
顔立ちは、もう少し柔らかで、体もふっくらしています。
まるで」
ドロシーはうまく言えずに言葉を探した。
「まるで、十歳までは一緒で、そのからアシットに連れ去られたフィオリナと、グランダに残ったフィオリナ。二人のフィオリナがいるようです。」
「わかった!
片方は魔道人形なんだっ!」
クロウドが叫んだ。
「アレだって、金と手間をかけて作れば、人間とかわらない見かけと、力を持てますよね、ヘイカ。」
「どちらかが、フィオリナでもう片方がフィオリナを模して作られた魔道人形、ということか。」
リウは、目を閉じて考え込んでいる。あるいは、そのフリをしている。
「それにしても『成長』の問題がある。魔道人形は、歳を取らない。
ドロシー?」
「はい、リウ。」
「おまえは、ジウルから、アシットの名前を聞いたことがあるか?
あるいは、カザリームからの留学生と、フィオリナの恋物語を?」
「いえ、まったく。」
リウは、腰を上げた。
「事情は、こんな所だ。相手はフィオリナにそっくりな『ナニカ』で、ギムリウスのスーツを両断できるほどの腕前を持つ。そして、我々『踊る道化師』と戦いたがっている。」
続いて立ち上がった全員を見回して、リウは命じた。
「まだ試合日まで、二日ある。この件は、オレとドロシーでもう少し調べる。残りのものは、ホテルに待機。
むこうの『フィオリナ』はやたらにこちらと戦いたがっているようだ。
試合までは、外出も禁止する。」
「わかりました!ヘイカ。」
「はい、そうするよ、ヘイカ。」
「はい、わかりました。」
エミリアだけが抗議した。
「調べるんなら、ロゼルの力をお使い下さい、リウ!」
「出来れば、おまえもおとなしくしていろ、エミリア。」
リウは冷たく言った。
「カザリームの治安組織『沈黙』とのコネを使ったら、少なくともこちらが、そう動いていることは、アシットにも筒抜けになる。」
ドロシーは、リウに連れられて、ホテルを出た。
ラザリム・ケルト冒険者事務所は、ホテルからは、ペデストリアンデッキを通っていける。
陽光は、強く、ドロシーは日焼け止めを塗っておけばと後悔した。
前回、リウは、ここの22階で、受け付けを行ったのだが、今回はそのまま、階段をあがって、上のフロアに案内された。
機能重視で食事処もない22階に比べると、ここは分厚い絨毯が敷かれ、調度品ひとつとっても豪奢なものばかりだ。
ドロシーは、ランゴバルドでは、マシューの実家である子爵家に出入りをしていたし、ミトラでは、ガルフィート伯爵、アライアス侯爵といった高位貴族の屋敷にお世話になっていたが、それに勝る豪華さだった。
少女の姿をしたラザリムと、へらへらも正体を掴ませない優男のケルトは、そろってリウとドロシーを迎えた。
肘掛けのついたソファに座らされ、飲み物が提供され、目いっぱいの愛想笑いとお追従のあと、さりげなく、本当にさりげなく、机のうえに契約書が現れた。
とは、いってもそれは、さりげなく存在できるような厚みではなく、少女の姿のラザリムと、飄々としたケルトでは愛想笑いも限りなく不自然にしか映らなかったが。
ホテルのレストランに、そろった「踊る道化師•魔王」の面々に、リウは述べた。
「決勝戦は、オレひとりで戦う。」
今回、リウが選抜したのは「魔王党」のメンバーだった。 リウの強さと、その言動を理解している。
「『 踊る道化師・剣』は、それほどのやつらですかい、ヘイカ?」
クロウドは、ぶうたれた。リウの力ならば、彼ら程度の手助けは不要。さらに、言うならば、リウにとって、今回の相手は配下のものに目配りしながら戦う、その余裕がない相手だ、と言うことになる。
クロウドは、いわゆる脳筋であるが、そこは正しく理解していた。
「相手は何ものなんですか?」
エミリアが尋ねた。
リウは、ドロシーを見やった。おまえから説明しろ、ということだ。
こんなヤツと、ズブズブの仲になったのか、あっちのフィオリナに問いただしてみたい。
「フィオリナです。」
いきさつ、を多少は知っているエミリアが、強ばった顔をした。
「まさか、姫が追いかけてきたの?」
「わたしも、最悪の事態としてそれを想定しましたが、どうも違うようです。」
ドロシーは言った。
「彼女は、10歳ごろに、アシットに拉致されてこの街に、来たそうです。それ以降、この街で暮らし、今ではアシットの婚約者となっています。」
「顔を見たの?」
「見ました。と言うかあって来ました。」
「で、そいつはなんなの?」
わからない。
あの「フィオリナ」が何者なのかはドロシーにも判断がつかない。
「本人曰くは、わたしたちの知る残念姫さんは、自分が拉致されたことを世間に隠すために、ボルテック卿あたりが創った魔道人形ではないか、と。」
「そんな馬鹿な!」
エミリアの顔は、引き攣っていた。
「リウさま!
あなた、人形と浮気してたんですかっ!?」
ドロシーは、テーブルにギムリウスのボディスーツを置いた。左袈裟懸けに、肩から腰まで両断されていた。
その意味を正確に理解したのは、エミリアだけだった。
「ギムリウスのスーツを!」
残りのものも、これが並々ならぬ防御力を持つものだというのは、なんとなくわかっている。
「じ、じゃあ、やっぱりホンモノのフィオリナが来てるってことっ・・・」
「それも、よくわからないのです。」
ドロシーは、お茶を飲みながら言った。
「あれは・・・フィオリナとよく似ていますが、何日か前まで一緒にいた『残念姫』さまではありません。
顔立ちは、もう少し柔らかで、体もふっくらしています。
まるで」
ドロシーはうまく言えずに言葉を探した。
「まるで、十歳までは一緒で、そのからアシットに連れ去られたフィオリナと、グランダに残ったフィオリナ。二人のフィオリナがいるようです。」
「わかった!
片方は魔道人形なんだっ!」
クロウドが叫んだ。
「アレだって、金と手間をかけて作れば、人間とかわらない見かけと、力を持てますよね、ヘイカ。」
「どちらかが、フィオリナでもう片方がフィオリナを模して作られた魔道人形、ということか。」
リウは、目を閉じて考え込んでいる。あるいは、そのフリをしている。
「それにしても『成長』の問題がある。魔道人形は、歳を取らない。
ドロシー?」
「はい、リウ。」
「おまえは、ジウルから、アシットの名前を聞いたことがあるか?
あるいは、カザリームからの留学生と、フィオリナの恋物語を?」
「いえ、まったく。」
リウは、腰を上げた。
「事情は、こんな所だ。相手はフィオリナにそっくりな『ナニカ』で、ギムリウスのスーツを両断できるほどの腕前を持つ。そして、我々『踊る道化師』と戦いたがっている。」
続いて立ち上がった全員を見回して、リウは命じた。
「まだ試合日まで、二日ある。この件は、オレとドロシーでもう少し調べる。残りのものは、ホテルに待機。
むこうの『フィオリナ』はやたらにこちらと戦いたがっているようだ。
試合までは、外出も禁止する。」
「わかりました!ヘイカ。」
「はい、そうするよ、ヘイカ。」
「はい、わかりました。」
エミリアだけが抗議した。
「調べるんなら、ロゼルの力をお使い下さい、リウ!」
「出来れば、おまえもおとなしくしていろ、エミリア。」
リウは冷たく言った。
「カザリームの治安組織『沈黙』とのコネを使ったら、少なくともこちらが、そう動いていることは、アシットにも筒抜けになる。」
ドロシーは、リウに連れられて、ホテルを出た。
ラザリム・ケルト冒険者事務所は、ホテルからは、ペデストリアンデッキを通っていける。
陽光は、強く、ドロシーは日焼け止めを塗っておけばと後悔した。
前回、リウは、ここの22階で、受け付けを行ったのだが、今回はそのまま、階段をあがって、上のフロアに案内された。
機能重視で食事処もない22階に比べると、ここは分厚い絨毯が敷かれ、調度品ひとつとっても豪奢なものばかりだ。
ドロシーは、ランゴバルドでは、マシューの実家である子爵家に出入りをしていたし、ミトラでは、ガルフィート伯爵、アライアス侯爵といった高位貴族の屋敷にお世話になっていたが、それに勝る豪華さだった。
少女の姿をしたラザリムと、へらへらも正体を掴ませない優男のケルトは、そろってリウとドロシーを迎えた。
肘掛けのついたソファに座らされ、飲み物が提供され、目いっぱいの愛想笑いとお追従のあと、さりげなく、本当にさりげなく、机のうえに契約書が現れた。
とは、いってもそれは、さりげなく存在できるような厚みではなく、少女の姿のラザリムと、飄々としたケルトでは愛想笑いも限りなく不自然にしか映らなかったが。
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