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第47話 紛い物はどっち!?
しおりを挟む「わたしは、もう何年もここカザリームにいる。」
フードの中の声は、笑いを含んでいた。
「そうか、『踊る道化師』にも、フィオリナがいるのだな。おまえは、」
美しき剣士は、フードを跳ね上げた。
名工が天の御使をモチーフに描いたごとき、美貌。
典雅の中に凛々しさを兼ね備えたその目鼻立ちがは、まさしく、フィオリナのものだった。
「おまえは、そのフィオリナを知っているのか?」
フィオリナがもうひとりいる!?
それはあまりにも、理不尽で、世界にとって迷惑だ。
「そのフィオリナもあのフィオリナも。」
ドロシーは、いつ戦闘になってもいいように、自分の距離を保とうとして。
できなかった。
フィオリナ、あるいはその顔をもつ女は、次の動作がまったく読めない。
「フィオリナは一人です。」
「そうだな。わたしがフィオリナ、だ。」
魔法と体術、双方を駆使して戦うこの時代においては、無意識に下がる動作すら、むしろ己を危険に晒すことになる。
ドロシーは、魔法使いよりの拳士だ。フィオリナは? ただの破壊魔だった。
「確かにあなたは、残念姫よく似ている。」
「ざ、ざんねんひ…」
「『踊る道化師』では、フィオリナさんのことをそう呼んでいるんですよ。」
さすがに、女は嫌そうな顔をした。
「そのフィオリナは、なにをしでかしたのだ?」
「同僚の女と、関係を持ち、さらに間男と結託して、ハルト王子を殺害しようといたしました。」
「なんだ! その『わたし』は?」
今度、フィオリナに会ったら、フィオリナがそう言ってたとフィオリナに伝えてやろう。
「ハルトは・・・フィオリナと婚約したままなのか?」
「あなたの頭の中は、どうなっているんです?」
ドロシーは、ある意味容赦のない質問を浴びせた。
「ルト・・・ハルト王子を知っているということは、あなたはグランダで生まれ育った記憶はある、ということなのでしょうか?」
もう一人のフィオリナは、頷いた。
「正確には、クローディア公爵領で、だがな。ハルトと婚約し・・・11のときに、留学でこの街を訪れたアシットと出会い、恋に落ち・・・北の街を離れた。」
「では、今、クローディア公爵家令嬢・・・いえ、クローディア大公国の姫君となってる女性はどなたなのでしょうか?」」
「わたしと、アシットの逃避行は、極秘に行われた。
王太子の婚約者を失ったグランダ王室と、嫡子を失ったクローディア公爵家はさぞ、慌てただろう。」
「そのような事件は、ハルト殿下からも、フィオリナさんからも聞いておりません。」
「それはそうだろう。双方ともに、自慢になることではないしな。
カザリームも市長の血縁が、留学先の王太子の婚約者を攫ったなどとは公言できない。
だから、わたしは、アシットが留学中に見出して拾い上げた人材のひとり、ということになっている。」
このフィオリナは、まるで本物のフィオリナのように、淡々と言って、そばのベンチに座り、ドロシーとアシットにもかけるよう促した。
木立の下とは言え、霧雨の降り出したベンチは、あまり快適ではなかった。
「わたしは、クローディア公爵が、面差しの似た女でも探し出して、身代わりをたてたのだと思っていた。まだデピュタント前だから、どうにもでもなるし、な。
しかし、ミトラからの噂で、そのフィオリナが常人離れした戦闘力をもっているとなると、少し話は違ってくる…。」
「と、言いますと?」
「魔道人形だ。
これは推測でしかないが、な。グランダ魔道院のボルテック卿は、人間をすっかりそのまま、能力に至るまで模した魔導人形の製作に熱を入れていた。
もし、仮にわたしのコピーを作り、クローディア家に供していたとしたら…。」
そんなことがあるのか?
魔道士を目指したドロシーには、かえって理解できない。
確かに見た目や振る舞いなど、生きた人間と区別のつかない魔導人形を作ることは可能だとされている。
だが、成長の問題はどうするのだろうか。
成人した姿ならば、何年かは問題にならないかもしれない。
しかし、10代に差し掛かった少女は、半年と同じ姿ではいられまい。
「ボルテックが手を加えることができる。」
フィオリナは、ずるそうな笑みを浮かべて、ドロシーの顔を覗き込んだ。
「そう考えるとだ、な。いくつか合点のいくこともあるのだ。
立太子直前になっての、ハルト王子の婚約破棄騒動。細かな経過までは、カザリームにも情報は入ってこない。だが、終わってみれば、グランダはハルトにかわり、弟を王にたて、ハルトは、フィオリナともども追放。」
「追放ではなく、冒険者なるためにパーティを組んだのです!」
「追放、だよ。王族がなんの経済的援助もなく、王室を追放され、生活のために冒険者に身を落とす。たとえ、本人たちいくら腕がたとうが、身を落としたことにはかわりない。
いや、わたしの推測ばかりで、なんの確証もなかったが、この度の騒ぎでかえって確信がもてた。」
一呼吸おいて、彼女は続けた。
「ボルテックのじじいも、責任をとって、魔道院を離れたそうだな。」
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