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第30話 屍人の結婚披露宴

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「結局、騙されたんだわ。」

エミリアと交代して、短い睡眠時間をとったドロシーは、一瞬、自分がまだ悪夢の中にいるのかと錯覚した。
目の前で、首輪を繋いだ鎖を引っ張りながら、独り言を続ける女は、いったい誰なのだろう。

「先生は結局、マルコを選んだの。わたしの方が強いし、わたしの方が、かわいいのに。
マルコの家が裕福で持参金がたくさん、貰えるからって。
マルコを後継者の内弟子にして、わたしを放り出したの。
しんじられる?
帰る場所もないわたしに、先生は冒険者学校を勧めてくれたの。
でも、見送りにさえこなかった。
先生とマルコが、結婚したのは、ランゴバルドに出てきてから知ったの。今さら!」

ファイユはさめざめと泣き始めた。
「愛してるって言ってくれたのに‥」

「先生とやらは幾つだ?」
「よ、よんじゅういち‥」
「おまえは?」
「じゅうよん‥」
「マルコとやらは?」
「16。」

エミリアは、ドロシーに干し肉を差し出しながら言った。

「まあ、田舎ではなかなか釣り合う年頃の男女がいなかったりするんでな。成人年齢もあってないようなものだ。」
「話が盛り上がってて、よかったわ。」

ドロシーだって、そんなセリフは吐けるのだ。

「最後の干し肉だ、よく味わえよ。」
「わたしはいいわ。それよりクロウドにやってよ。彼、ガタイいいからお腹が減ってるでしょ。」

「図体がでかい分、蓄えもあってだな。」
乱暴者は陽気に言った。
「それに俺はあんまり、頭も使わないので効率がいいんだ。あと三日は食わなくて大丈夫だ。」


「足の骨折は?」

「自分で治した。蹴りは打てね~が、歩く分には問題ないぜ。」

よかった。と言いながらドロシーが立ち上がった。エミリアが「収納」から取り出したマントをかけてくれる。

「ドロシー、あんたギムリウスのスーツ一枚じゃない。ほとんど裸みたいなもんよ。
男子もいるんだし、少しは体の線を隠しときなさい。」

ドロシーは目を丸くして、ありがとう、と言った。
「全員、準備がいいなら出発しましょう。」

「あのなあ、ぼくにも誰か話しかけてくれ。」
大人しく干し肉を噛んでいたマシューがいった。

「・・・・師匠・・・わたしを抱きしめて愛していると言ってくださったのも嘘だったのですか・・・」

エミリアは自分の世界に入り込んでいる。
誰にも相手にされぬながらも、ブツブツと呟きながら、くらい瞳で、それでも立ち上がった。

「・・・確かに、立場を利用して、弟子に手を出すなんて、ひどいやつだとは思いますけど・・・」
「やっと気がついたが、ドロシー。」

エミリアが気の毒そうに言った。

「ジウル・ボルテックはそういうやつだ。言いたくはないが、今頃は別の若いのを口説いている最中だ。もう一緒のベッドで睡眠以外の作業に没入しているかもやしれん。」

さすがに、マシューのまえでは、言い返せないドロシーだった。
マシューが心配そうに言った。
「ジウルさんって、もてそうに見えるけどお弟子さんに手を出すようなひとなのか?
気をつけてくれよ、ドロシー。」

鈍いのは最強だ。

一行はまた、だらだらと、迷宮を進んだ。
何ヶ所か分岐があって、二つが正解で三つがハズレだった。
行き止まりが二つと。とてもわたれないような流砂の流れが見渡す限り続く庭と。
いま、すすんでいるのも合っているのかどうかはわからない。
ただ、進める道があるからすすんでいる、それだけだった。

途中、出会ったのはスケルトン。
いずれも、複数で上等な武器と防具を身につけていて、動きもよかった。
だがある程度、距離をとって発見できたので、エミリアの光の矢で削り、それでも寄ってきたやつは、ドロシーの魔力撃で倒した。

一度は、組み付かれて危なかった。
このスケルトンどもは、動きが早く、恐ろしく頑丈だった。
たぶん、一撃の威力ではドロシーを遥かにしのぐ、マシューが蹴った足を痛めている程なのだから。
骨だけの相手に、関節技を仕掛けるのは初めてだったが、上手くいった。
だが、骨は折れない。
そのまま、持ち上げられ、床に叩きつけられる寸前に、身を解いて背後から首を絞めた。
いや、スケルトンに首を絞めるのが悪手なのは分かっている。相手には呼吸器官も動脈もないのだから。
だが、ドロシーは迷宮でアンデットとやり合った経験があまりにも少ないのだ。
そのまま、投げ飛ばされ、のしかかられた。骨だけだから、軽いはずだがそうでもない。
崎に長剣を飛ばされていたスケルトンは、短刀を引き抜いて、ドロシーの胸につき立てようとした。

ギムリウスのスーツは、剣には無類の強さを発揮する。ドロシーは落ち着いて、相手の手首をとった。
人間ならばそのまま、手首を極めて、折る。
だが、こいつの骨は折れない。
わずかな攻防のあと、エミリアの棒の先端が、伸びてきてやつの頭蓋を叩き壊した。

エミリアの首輪が締まり、顔は紫に変わっていた。
ファイユが前に出ようとしないので、その分、鎖に引かれて締まったのだ。
荒い息をつきながら、エミリアはファイユを、睨んた。

「ここが、この階層の終点、だと思う。」
エミリアがそう言った。
なんのなく、ドロシーもそんな気がしていた。

通路の終点にある扉は、装飾を施された立派なもなだった。
宴に興じるもの達の姿が浮き彫りにされている。

「ドロシー、いったん下がれ。」
クロウドが重々しく言った。
足は治したとうそぶいていたが、引きずっている。
「なにがでるか、わからん。
俺が盾になる。」

前回はそう言って、流砂に踏み込んで全員を巻き添えにしてくれたのだが。

ドアは、すうっと開いた。

輝くシャンデリアがいくつも灯されていた。
円形のテーブル席が数十も設けられ、壇上では白いロングドレスと、白いタキシードの、男女がたっていた。

「結婚式、かよ。」
いきなり、攻撃が飛んだ来ないことに面食らったクロウドがぼそりと言った。

新郎新婦が。
列席者が、顔を上げて侵入者を、見やった。

表情を失った顔。身につけてある礼服もボロボロで、よく見れば料理もなにかの汚物か、それとも先程まで生きていたものの肉塊にしか見えない。

「す、ば、ら、し、い。」
壇上で、新郎新婦を祝福しようとしたいた聖職者の服を着た屍人が、叫んだ。
「め、い、ん、でっしゅの、と、うちゃく、です。」

列席者全員が、ナイフとフォークをもって立ち上がった。
ドロシーたちを解体して、披露宴のメインディッシュにするために。

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