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第17話 踊る道化師・魔王

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「ここが『試しの迷宮』の最深部なのか。」
エミリアが呻いた。
最初に転位されられた部屋からは、それほど時間はかかっていない。
泥土を凍らせたため、歩くのも順潮だった。

しかし、これは。
見たこともない怪物の像の前には、鎖で繋がれた首輪が置かれていた。

プレートに書かれた文字は。

「要するに、わたしたち全員が、これを首に嵌めると、そっちの留め金が外れて、この鎖を持ち出せるようになるわけね。で、これをもって地上にかえることが目的だと?」
読み終えた、エミリアが言った。
「地上に戻るまで、首輪は外せないと。
長さ的には、なんとか縦一列で歩けるかな。
何いち日かかるかわからないけど、結構辛い時間になりそうね。」

そだろう。
ドロシーやファイユは若い女性だし、単純に排泄の問題もある。迷宮に慣れたものならいざ知らず、初めて迷宮に挑む彼らには、あまりにも酷い話だった。
それを言うなら、先ほどの小鬼との戦いで、下着まで泥まみれになっている。
戦いが終わったのなら、せめて、体を清潔にして、一休みしたいところなのだが、それが許されないのが、迷宮という場所だ。

首輪を嵌めると同時に、上の階への階段が開くらしい。

「後は、この首輪そのものが、一気に外へ転移ができるアイテムもなっているらしいわね。
ただし、その場合は、迷宮攻略は失敗になる。」
「やれるだけのことは、しましょう。
挑戦もしないで、諦めるのは、魔王党、いえ『踊る道化師』にはふさわしくありません。」

ドロシーの発案で、手持ちの食料、水をチェックする。
水は魔法で生成できるが、迷宮の中で生成される水は、飲料には適さないことが多い。
収納魔法は、エミリア、ドロシー、ファイユが持っていたが、それぞれ水は小さな水筒分。食料は、干し肉やビスケットなどわずかなものだった。

「本来ならば、『試しの迷宮』は1日もかからずに制覇できるはずよ。」
エミリアは、暗い顔で言った。
「必要な日程が複数日に跨るならば、最初から、水や食料、薬草など最小限の装備を、主催者側で持たせるようにする。
リウが、転移できなかったことも含め、何か異常が起こっているとしか、言いようがないわね。」

「小鬼たちが変異していたことも含めると、迷宮自体が強化されていることは、間違いありません。」

ドロシーは、水筒を回して、食料を分割した。
いずれは、来るにせよ、生理的なことは、首輪をつける前に、済ませておこうというつもりであった。

——————

「一対多の戦いを続けて、複数回行わなければならないリウ殿に、現在、参加が決定しているメンバーの情報を少し、お話ししておきましょう。」
アシッド・クロムウェルは、空になったリウのカップに、茶を注ぎながら、楽しそうに言った。

「オレだけ? 不公平になるだろう?」
リウは、そっけなく言いながら、茶とクッキーを口に運んだ。
もちろん、同時刻、迷宮内でドロシーが配っていた保存用に水分をパサパサに飛ばしたものとは、別物である。

「それほど、大した情報ではありません。正直、カザリームもその出自などは、全く情報が入っていません。代表者や得意な戦術など、わかっている情報だけです。
これは、今までカザリームで、いくつか試合を組まれていた彼らも相互にわかっている情報なので、不公平にはならないでしょう。」

「それなら、聞いておこうか?」
リウは、言った。
何がこようが、びくともするものではないが、踊り道化師を名乗るものたちに興味がないわけではなかった。

「まず、美しき竜人アモンに率いられる『踊る道化師』。それだけだと、区別ができないので、『踊る道化師・竜』と仮称いたしましょうか?
竜鱗と竜爪を発現させることができる彼女をリーダーに、魔導師、剣士、仮面の亜人、吸血鬼は用意できなかったと見えて、それっぽいマントを羽織った女を用意しています。」

「オレはなし、か。」
リウは薄くわらった。
「確かに10代半ばの、何が得意なのかわからない女では、どう扱っていいのかわかりにくだろうな。」

「むしろ、人数合わせとしては『魔王宮で育った少女』リウは、調達しやすいメンバーです。
みな苦戦しているのは、吸血鬼の調達です。それとギムリウス。もともと伝承では、家屋ほどもある蜘蛛の神獣です。
解釈の仕方がいろいろあるようで・・・」

「確かにな。」
リウのなかでも最近、ギムリウスと聞いて思い起こすのは、あの可愛らしい顔をした義体の方なのだが、実体は確かに巨大な蜘蛛なのだ。

「次にご紹介するのは仮に『踊る道化師・鬼』と称しておきましょうか。
リーダーを務めるのは、伯爵級の吸血鬼クセル・アヴァロン。相棒は黒魔道士として名高いシャクヤという女です。それ以外の有象無象は、クセル・アヴァロンの従属種です。」
「正体が破れているのか?」

リウは笑った。

「もちろん、本人は『真祖吸血鬼』ロウと名乗ってはおりますよ。
ですが流石に、伯爵級の吸血鬼ともなると、積極的に活動しているものはそれなりに、行動を把握しているものです。おそらく、彼女たちの目的は、自らが『踊る道化師』を名乗ることで、本物の踊る道化師が接触してくるのを待つため、と思われます。」

「それは楽しみだ。」
リウは、うきうきしている。心配性の彼の友人がいたら、迷宮に転送された仲間を心配してやれと怒ったかもしれない。
リウは、別に為政者として、取り立てて、非情な訳ではなかったが、部下が死ぬことにはあまりにも慣れすぎていた。やれる限りのことはする。しかし、弱いものが死ぬのは仕方ない。

「ユニークなのは、『踊る道化師・蜘蛛』ですね。ここのギムリウスは、自分自身に特殊な蜘蛛を寄生させています。そして配下のものたちにも同様な蜘蛛を寄生させ、己の意のままに操っています。」
「それは、ギムリウスよりもゴウグレのやり口だな。」
と、リウは、アシッドには、意味不明なことを呟いた。
「オレの情報も、他のチームに流すのだろう?」

「まあ・・・」
アシッドは口ごもった。
「まあ・・・あなたが、許していただけるのならば。」

「もちろん、構わない。勝負事は公平にしなければな。ならば、オレたちは『踊る道化師・魔王』を名乗るとするか。」
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