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第14話 道化師見習いたち

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「ヘイカがいねえぞっ!」
最初に叫んだのは、クロウドだった。
体はデカイが、強いものには人一弱い。
いきなり、実戦の迷宮攻略とあって最も怯えていたのが、彼だった。

「どうしたんだよお、ヘイカ!
俺たちを見捨てたのかっ!」

もっとも、頼りにならないかは、別問題である。愚痴をこぼし、泣きわめいていても、そのときになれば、準備が整う。
まず、血を見ないと覚悟が定まらない。
クロウドは、そんな男であった。

ドロシーは、エミリアをつついた。
「エミリアさん、ここが、本当に『試しの迷宮』なの?」
対してエミリアも難しい顔で頷いた。
「プレッシャーが半端じゃない。まるでギムリウスたちを目の当たりにしたときみたいね。」

「踊る道化師見習い」の彼らが転移されられたのは、洞窟の一角と思われた。
圧迫を受けるほどの、狭さではないが、床も壁も泥土に覆われ、いやな匂いが鼻をつく。
あまり、長いをしたい場所ではなかったが、どちらに進むべきなのか。

「どうしましょう。」
ファイユは、ドロシーと同じくギムリウスの犠牲者だ。
彼女に訓練をつけたギムリウスは、ファイユの体をいきなり、真っ二つに裂いてしまった。ギムリウスにしてみれば、そんなもろい生き物がいるとも考えて居なかったのだろうし、怪我は治せばそれで終わりである。
もちろん、即死というものもあるにはあるが、その場合は「巻き戻し」てしまえばいい。ギムリウスは万全の体制で訓練にのぞんだつもりだったが、結果として怪我することを異様に嫌がる剣士がひとり誕生してしまった。

刃をつぶした模擬刀における技の冴は、凄まじい。
リウは、剣技の指導において、決して無能ではなかったからだ。
また、当初の道化師たちのもくろみ。
ギムリウスの滑るような歩行をマスターしてほしいという願いにも立派に答えている。
彼女の歩法は、二本足であるく不安定な人間のそれとは思えぬほど、滑らかに大地を滑るように、移動する。
ドロシーの魔法も、クロウドの剛拳も、彼女をとらえることは。難しい。

ただ、これが例え練習でさえ、真剣を使うともうダメだ。フォイユの剣は短く、相手の懐に入り込んでからが真骨頂となる。
それができない。いつまでも彼女は相手の周りをぐるぐる回るだけだ。攻撃に必要な1歩が踏み出せない。
面白いことに、これは相手が真剣を持たずとも、ファイユ自身が真剣を持つだけでもう、ダメなのだ。

「よし、ここはぼくが、パーティリーダーをしよう。」
マシューがしゃしゃり出た。
一応、クロウドとドロシーはもともと、マシューの生家である子爵家の使用人の家系なので、なんとなく、納得した。
ファイユは、とりあえず、意見を言える状態ではなかったし、エミリアは誰がリーダーになろうが言うことなど、聞く気は元よりなかったので、この「リウ抜きマシューリーダー」の最悪パーティは、そのまま、迷宮入り脱出を目指すことになったのである。


「さぞ、ご心配だろうとは思いますが」

試しの迷宮の入には、けっこうな数の者が呼び集められている。
カザリームの治安組織「沈黙」の幹部であろうアシュベルと、冒険者ギルドのマスター、ラザリムもやって来た。
ラザリムは、ついてそうそうに、イシュトに怖い顔で怒鳴っていた。
「キサマ!は。こんなことも満足にできないのか。」

トバッチリである。リウが転移に取り残されてしまったのは、リウ自身の転移阻害の腕輪のせいであって、イシュトという色っぽい受付係の責任ではないのだ。

他にも、ギルド組織の幹部らしきものたちもやって来ている。
それでも、なお、この場を仕切っているのは、先程、転移失敗のときにまっさきに駆けつけてくれた若い魔導師だ。

「心配がまったくない、と言うとそんなことはないのだが」
と、リウは言った。
「もともとあいつらは迷宮攻略の修練をつませる、つもりで、連れてきたのだ。
あまり、簡単な迷宮では訓練にならない。」
「いえ、皆さま、それなりに腕はたつ方たちなのは、わたくしにもわかりますが…」

リウは、面白い、と思った。
かなりの大物たちが、集まっている。
にも関わらず、この少年と自分との会話に入り込もうとする者はいない。
つまり、ここに集まった者たちの中で、彼が最上位の存在なのだ。


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