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第13話 幸運都市カザリーム

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「転移終了…いや、失敗だっ。」

転移陣の操作にあたっていた魔導士らしき者たちが、わらわらと現れた駆け寄ってきた。
リーダらしき、男はなかでもいちばん若い。
リウたちの(見かけの)歳といくつも違わないだろう。

「転移魔法は正常に発動していたことは、まちがいありません。」
そんなことを言いながらも、まず、リウに怪我がないか、確かめてくれたのは、評価する。
リウは、憮然として、自分の腕輪を眺めた。

これは『転移封じ』の腕輪だった。
もともと、盟友ギムリウスほどではないにしろ、リウも転移は使える。
いわゆる、ナシナシアリ、つまりマーカーなし、陣なし、道連れあり、の転移も行える。

(これは人類にはおいては、現代では誰一人到達していないレベルであったが、かれらの仲間、迷宮階層主の間では最低限のレベルだ。)

あってはいけない女に、衝動的に会いにいかないようにする。その戒めのための転移封じの腕輪が。

こんなところで、影響するとは。
リウは内心、苦笑している。
リウにとって「転移封じ」は、あくまで自分が転移を使うことを封じるものだったので、ほかから、強制的に転移させられることなど、想定していなかったのである。

「一緒のみなさんは無事です。転移は正常に作動しましたから。」

次のに仲間の安否を伝える。
慌てふためいているイシュトに比べれば、この魔道士は、はるかに出来る。
「しかし、一体なぜ、あなただけ転移が失敗・・・ああっ!」
優秀すぎる者の常なのか、魔道士は返答も待たずに、リウの腕輪に気づいた。

「こ、これは、転移阻害のゼファンの腕輪の・・・レプリカっ!
しかしこれほどの精度のものは初めてみます。」
彼は、またも返事を待たずに、イシュトの両手を握りしめた。
「間違いない!
彼らこそ、本物の踊る道化師に違いありません。」

ゼファンの腕輪はレプリカではなく、ククルセウ連合国の宝物殿にあるものが、レプリカだったが、話を複雑にしたくなかったリウは、ノーコメントで通した。

そして、リウを振り返り口早に言った。
「問題は、転送されたお仲間のことです。彼らもあなたのような伝説級の武具を備えているのでしょうか?」
「備えているものも、そうでないものもいるな。」
リウは、この男を面白い、と思った。
どこか、あの王子さまに似ている。
「しかし、この迷宮は超初心者用のものなのだろう? 別段、それほどの武装が必要だとは思えないが。」

「転移に対して、抵抗が大きいと、難易度があがる傾向があるのです。」
魔道士は、口早に言った。
「まして、転移そのものを排除してしまう程の、抵抗となると。
迷宮の難易度は、どこまで跳ね上がるか。
いえ!」
魔道士はきっぱりと言った。
「いざとなれば、最深部に設置したアイテムで、外界へ離脱転移できるので、命の危険はまずないはずです。
これは、私たちの説明不足によるものです。だから、その場合でも再試験は無条件で、優先いたします。」

「まて! それはまずいぞ。
『沈黙』も冒険者ギルド連盟が主催の『踊る道化師』トーナメントは、明日の開催なのだ!」
イシュトは、魔道士の手を振り払った。
「コロシアムも押さえた。胴元も決まっていて、ベットが始まっているんだ。試合は変更できない。」

「参加資格のほうは、こちらで『試しの迷宮制覇済み』で出しておきますよ。」
魔道士は、愛想良く言った。
なにかまだ言おうとするイシュトの、口を封じるように続けた。
「はいはい、わかってます。こんなことは、通常はしてはいけないことです。
でも相手は『踊る道化師』なんですよ。絶対にご機嫌を損ねてはいけない相手だ。あなたがたも、彼らがホンモノだとわかったから、開催の二日前に参加パーティの交替をしたんでしょう?
だから、ここで問題にしなければならないのは、迷宮内に転移したカレのお仲間のほうだ。すぐに異常に気がついて諦めてくれればいいんですが、そうでないといくらなんでも、今日明日での脱出は、無理です。」

魔道士は、リウをまっすぐに見つめた。濃い茶色の瞳は、優しげだったが強い知性の光をたたえていた。
「つまり、あなたは、一人きりで、少なくとも3パーティと戦わなくてはいけない。」

そう、言ってから訝しげに、リウの顔を覗き込んだ。
「なんでうれしそうなんですか?」

そうか。
笑っているのか、オレは。
リウは、ついつい内心を表情に出してしまった自分に、困ったものだと思いつつ、舌を出した。

試しの迷宮が当初予想された低度ならば、そもそも挑む意味すらないだろう。
オレたちは、訓練のためにここを訪れたのだ。
少なくとも魔王宮の第一層程度には難易度を上げてもらわねば、奴らの鍛錬にもならない。

まったく。
次から次へと、難題を出してくれるにもかなわらず、なにもかも、予想以上にうまくいく。

これは。
笑いが止まらない。

迷宮都市カザリーム。
中原と西域の狭間に位置するこの都市。
文化と経済が錯綜するこの都市において、夢のごとき成功をおさめ、後世に名を残したものの数は多い。
なので、こんな異名もある。

幸運都市カザリーム。


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