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第11話 試しの迷宮へ
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夜は、何事もなくすぎた。
正直なところ、ドロシーにはこれは意外だった。踊る道化師と一緒にいて、平穏な眠りが確保できるとは。
もちろん、そんなことはないのだが、ルトたちとあってからというもの、彼女はなにかといえば、裸にされていたような気がする。
ロウ=リンドと、ギムリウスの訓練がそもそも全裸で行うのが、前提だった。
ドロシーの骨格や筋肉の動きに合わせて、ギムリウスの糸のボディスーツを編み上げるため、という名目はあったが、ようはあれだ。ドロシーが恥ずかしがるのを見て、ロウが楽しかったからなのだ。
か。
いずれにしても、いくつかの点でドロシーはロウに感謝している。
ドロシーは、きちんと鏡で自分自身を見れるようになった。
自分の体が変わっていくのがわかった。曲がっていた背筋が伸びた。痩せた体に筋肉がつき、胸筋がつくにつれて、胸が綺麗に上をむくようになった。滑らかなお腹はうっすらと腹筋で割れて、お尻の弛みもなくなった。
気がついたら、彼女はずいぶんときれいになっていたのだ。
もし、そうなっていなかったら、マシューがもともと自分の目付け役の彼女と一緒になることなど、望まなかっただろう。
ジウルとはどうだったろう。ロウが仕込んだ戦闘術がなければ、学校対抗戦で駆り出されることがなかったら、そもそも彼と会うことはなかったはず。
そして、仮に会ったとしたら。
やはり、運命のごとくに愛し合っただろう。
そんな確信がある。
だが、その関係性は単なる愛人のひとりになったのだろう。
師弟であるから、分かれても連絡が取れる。
互いにその技量が必要になれば、またともに戦い、そのあとは愛し合うことも可能だ。
いったい誰とどうしたいのか。窓の夜景は、渦巻く光の放流だ。
渦に巻き込まれるように、ドロシーはマシューと婚約し、ジウルと愛し合い、そしてあの心優しい魔法使いの側にいて、命果てるまで付き添うのだ。
それは、歓喜でしかない。
ファイユは、もうベッドで安らかに寝息を立てていた。
目覚めは爽やかだった。
ほんの少し自分を慰めたドロシーは、シャワーで体を洗い、拳法着を身につける。アンダーウェアとしてギムリウスのボディスーツも着込んでいる。
携行食と水。薬草も袋にいれる。
軽くメイクもしておいく。
ファイユは、緊張の面持ちで、腰の左右に剣を差している。彼女は珍しいふた振りの剣を同時に使う双剣使いだった。
「ファイユは、迷宮探索の経験は?」
「初めてなんです。ドロシーさんは?」
「わたしは自慢じゃないけど、ルトくんに戦いに駆り出されただけ。冒険者らしい業務なんて皆無だよっ!」
朝食会場に降りると、男性たちはすでに丼によそった飯に、魚のスープをかけたものを食べていた。
ドロシーとファイユは、魚のスープだけをもらった。具沢山で生臭さもなく、いい出汁が出ていて美味しかった。
そのうちに、エミリアも部屋から降りてきた。一応、田舎町の神官を思わせる白を基調にし貫頭衣の数カ所をベルトで締めた純朴そうな格好である。よく似合っているのは事実であるが、それはあくまでもエミリアが見かけどうりの年齢だった場合のみの話だ。
「迷宮攻略の経験がある人はいるの?」
冒険者学校のキャリキュラムが進めば当然、そう言った場面もあるのだろうがドロシーたちは、けっこう「野外研修」に駆り出させるケースが多く、初心者向けの迷宮研修などすっ飛ばして、ギウリークの工作機関が雇った殺し屋やら、神竜の鱗を盗もうとした古竜やら、邪神ヴァルゴールの12使徒などとやり合うことが多かったのだ。
それはそれ、これはこれ。
いくら初心者向けとしても、迷宮攻略は、迷宮攻略である。
立ち振る舞いはまた違うのだろう。
「エミリアさんは、迷宮に潜った経験は?」
「ないわ。」
と、あっさりと美少女は答えて、ドロシーをがっかりさせた。
「でも、わたしの情報ではとくに心配するところはないの。迷宮の最深部に自動的に転移してくれるから、そこから自力で地上まで上がってくればいいのよ。迷宮自体は自動的に生成されるけれどそれほど大規模なものになることはあり得ない。
基本的にはひたすら上の階へ登ってくればそれでいいはず。途中に階層主と会う可能性は無きにしも非ずだけど、あなたは私の実力なら充分に倒せる相手のはずよ。」
それでもドロシーが浮かない顔をしているのを見て、エミリアは、付けたした。
「何より私たちには、魔王様が一緒に居るのを忘れたの?
やろうと思えば迷宮のコアそのままに干渉して、迷宮そのものを掌握してしまうぐらいのことは平気でやるやつよ。」
でもなにか、ドロシーには、ひかっかるところがある。
朝食会場まで、イシュトは迎えに来た。
「試しの迷宮」までは、泊まってるホテルから馬車で半時間。
黒い石造りの建物は立派なのだが、上階部分が増設せれていた。
そこの半地下部分。直径10メトルばかりの空間が、試し迷宮への入口位だった。
ここから彼らは、試しの迷宮に転移させられるのだ。
正直なところ、ドロシーにはこれは意外だった。踊る道化師と一緒にいて、平穏な眠りが確保できるとは。
もちろん、そんなことはないのだが、ルトたちとあってからというもの、彼女はなにかといえば、裸にされていたような気がする。
ロウ=リンドと、ギムリウスの訓練がそもそも全裸で行うのが、前提だった。
ドロシーの骨格や筋肉の動きに合わせて、ギムリウスの糸のボディスーツを編み上げるため、という名目はあったが、ようはあれだ。ドロシーが恥ずかしがるのを見て、ロウが楽しかったからなのだ。
か。
いずれにしても、いくつかの点でドロシーはロウに感謝している。
ドロシーは、きちんと鏡で自分自身を見れるようになった。
自分の体が変わっていくのがわかった。曲がっていた背筋が伸びた。痩せた体に筋肉がつき、胸筋がつくにつれて、胸が綺麗に上をむくようになった。滑らかなお腹はうっすらと腹筋で割れて、お尻の弛みもなくなった。
気がついたら、彼女はずいぶんときれいになっていたのだ。
もし、そうなっていなかったら、マシューがもともと自分の目付け役の彼女と一緒になることなど、望まなかっただろう。
ジウルとはどうだったろう。ロウが仕込んだ戦闘術がなければ、学校対抗戦で駆り出されることがなかったら、そもそも彼と会うことはなかったはず。
そして、仮に会ったとしたら。
やはり、運命のごとくに愛し合っただろう。
そんな確信がある。
だが、その関係性は単なる愛人のひとりになったのだろう。
師弟であるから、分かれても連絡が取れる。
互いにその技量が必要になれば、またともに戦い、そのあとは愛し合うことも可能だ。
いったい誰とどうしたいのか。窓の夜景は、渦巻く光の放流だ。
渦に巻き込まれるように、ドロシーはマシューと婚約し、ジウルと愛し合い、そしてあの心優しい魔法使いの側にいて、命果てるまで付き添うのだ。
それは、歓喜でしかない。
ファイユは、もうベッドで安らかに寝息を立てていた。
目覚めは爽やかだった。
ほんの少し自分を慰めたドロシーは、シャワーで体を洗い、拳法着を身につける。アンダーウェアとしてギムリウスのボディスーツも着込んでいる。
携行食と水。薬草も袋にいれる。
軽くメイクもしておいく。
ファイユは、緊張の面持ちで、腰の左右に剣を差している。彼女は珍しいふた振りの剣を同時に使う双剣使いだった。
「ファイユは、迷宮探索の経験は?」
「初めてなんです。ドロシーさんは?」
「わたしは自慢じゃないけど、ルトくんに戦いに駆り出されただけ。冒険者らしい業務なんて皆無だよっ!」
朝食会場に降りると、男性たちはすでに丼によそった飯に、魚のスープをかけたものを食べていた。
ドロシーとファイユは、魚のスープだけをもらった。具沢山で生臭さもなく、いい出汁が出ていて美味しかった。
そのうちに、エミリアも部屋から降りてきた。一応、田舎町の神官を思わせる白を基調にし貫頭衣の数カ所をベルトで締めた純朴そうな格好である。よく似合っているのは事実であるが、それはあくまでもエミリアが見かけどうりの年齢だった場合のみの話だ。
「迷宮攻略の経験がある人はいるの?」
冒険者学校のキャリキュラムが進めば当然、そう言った場面もあるのだろうがドロシーたちは、けっこう「野外研修」に駆り出させるケースが多く、初心者向けの迷宮研修などすっ飛ばして、ギウリークの工作機関が雇った殺し屋やら、神竜の鱗を盗もうとした古竜やら、邪神ヴァルゴールの12使徒などとやり合うことが多かったのだ。
それはそれ、これはこれ。
いくら初心者向けとしても、迷宮攻略は、迷宮攻略である。
立ち振る舞いはまた違うのだろう。
「エミリアさんは、迷宮に潜った経験は?」
「ないわ。」
と、あっさりと美少女は答えて、ドロシーをがっかりさせた。
「でも、わたしの情報ではとくに心配するところはないの。迷宮の最深部に自動的に転移してくれるから、そこから自力で地上まで上がってくればいいのよ。迷宮自体は自動的に生成されるけれどそれほど大規模なものになることはあり得ない。
基本的にはひたすら上の階へ登ってくればそれでいいはず。途中に階層主と会う可能性は無きにしも非ずだけど、あなたは私の実力なら充分に倒せる相手のはずよ。」
それでもドロシーが浮かない顔をしているのを見て、エミリアは、付けたした。
「何より私たちには、魔王様が一緒に居るのを忘れたの?
やろうと思えば迷宮のコアそのままに干渉して、迷宮そのものを掌握してしまうぐらいのことは平気でやるやつよ。」
でもなにか、ドロシーには、ひかっかるところがある。
朝食会場まで、イシュトは迎えに来た。
「試しの迷宮」までは、泊まってるホテルから馬車で半時間。
黒い石造りの建物は立派なのだが、上階部分が増設せれていた。
そこの半地下部分。直径10メトルばかりの空間が、試し迷宮への入口位だった。
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