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第8話 なし崩しの決着
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顔を硬らせながらも、イシュトは、店員に懸命に抗議した。
「交代・・・・しかし、『ロウ』は、まだ意識がある。死んでも気を失ってもいない。」
「もともとあれは吸血鬼だろう。気絶と死もあり得ない以上、別のルールを適用する。」
店員は、かなり上位のランクなのだろう。きちんとスーツを着込んでいた。
「しかし、それでは『踊る道化師』の一敗になってしまう!」
「もともと、本当の『踊る道化師』を見出すという名目のトーナメントだ。
問題なかろう?」
「ですが・・・」
店員は、サングラスの下から灰色の瞳を覗かせた。
なかなかいい目をしている。
と、リウは思った。
ワルだろうが、小悪党だろうが少なくとも自分の意志で物事を判断できる奴の目だった。
この先のことは、このギルドの女を飛ばして、こいつと交渉した方が良さそうだな。
と、リウは考えた。交渉ならば、自分よりもドロシーが適任だ。
それなら、ドロシーをあの無駄な作業から、解放してやらねば。
本人は、嬉々としてやっているのだろうが、少々見てるのが辛くなり始めていた。
「客はもう、飽きている。」
リウは、店員に向かって言った。
「吸血鬼の再生能力は、無限ではないから、いずれは力尽きるだろうが、一晩これを続ける気か? そろそろ、出し物を変更するべきだ。」
ほう?
と、言って店員は、リウの方を見た。
「わたしは、この店の・・・いや、誤魔化しても仕方ないな。カザリームの『沈黙』。この街区のマネージャーを務めるアシュベル三世という。」
「オレは、当初からこの女にも名乗ったのだが・・・」
リウは、硬直しているイシュトを押し退けて一歩前にでた。
「ランゴバルドの銀級冒険者『踊る道化師』のリウだ。見習いのメンバーの訓練のつもりでこの街を訪れたのだが、意外なトラブルに巻き込まれて、な。」
「『沈黙』のアシュベル三世。」
エミリアがつぶやいた。
「父上・・・・二世殿は息災か?」
「父は、昨年引退したが・・・おまえは何者だ? まさか父の隠し子だとでもいうのではあるまいな。」
まんざら冗談でもないように、アシュベルは、エミリアに言った。
「『ロゼル一族』副頭目エミリア。」
アシュベルの目が、大きく見開かれた。
「ロゼル一族が『踊る道化師』と行動を共にしているという情報は、カザリームには入っていない。」
「ならば、とっておきの新情報だ。ありがたく聞け。
現在、我らロゼル一族の頭領紅玉の瞳の座は、“真祖吸血鬼”ロウ=リンドが引き継いでいる。
もちろん、あそこで、泣き喚いている下級の従属種のことではないぞ。」
「銀級」の証明証よりも、エミリアの顔の方がよく効くのなら、最初からそうすれば良かった。
リウは、円筒になった試合場に、ふわりと降り立った。
なおも、馬乗りになって、「ロウ」の解体作業を続けるドロシーの襟首を掴んで立たせた。
軽く頬を叩くと、ドロシーは、吸血鬼の呪縛から、解かれたようだった。
「終わったぞ。」
そう言ってやると、二三度、目をしばたいてから、恥ずかしそうに、微笑んだ。
「よかった。」
マシューは、周りのみなに、どっちが勝ったのか聞いて、ドロシーだと分かると、とたんに歓喜の声をあげた。
「やったぞ!ドロシー、これで幸先よくまず一勝だ!」
この発言は、仲間内にも観客にも異様なものにうつったらしく、会場内にざわめきがひろがる。
なんなんだ、こいつらは!
いったい何者なんだ!?
リウは、続いて、吸血鬼を引きずり起こすと、試合場の外に投げ捨てた。
思いがけない展開に、明らかに落ち着きをなくしている「踊る道化師」に、笑いかける。
「さあ、せっかく始めた勝負だ。続きをしよう。
ただ、退屈な試合に、お客さんも退屈しているようだ。めんどうなんで全員でかかってこい。」
残った道化師どもは、互いに目配せした。
「あの、三流吸血鬼がボロを出しやがって・・・」
「ヤモン! あいつはそもそもおまえが連れてきたんだろうがっ!」
「ここでそれを言い出しても仕方ない。エルト! ギムリ! ヘオリナ!
全員でかかるぞっ!」
偽物は、本名までもパチものっぽいのだな、とリウは妙に感心した。
「ルト」は魔杖に雷撃魔法を蓄え、「アモン」の筋肉が一段と膨張する。
「フィオリナ」が、剣を抜き、「ギムリウス」の両手に黒い短剣が現れた。
そのまま跳躍し、試合場を、かこむ円柱の壁を飛び越えたところを見ると、体術、技術ともに素人では無かったらしい。
『くらえ! 秘奥義・・・』
技の名前くらい言わせてやるのが、礼儀だろう、とあとでこの話をきいた異世界人は文句を言っていた。
つっこむところはそこが!?
と、同席した全員が言ったので、リウもこのことについては特に反省も後悔もしていない。
「やかましい。」
「ひでふっ!」「あへしっ!」「たわばあぁっ!」「ぱっびっぶっぺっぽぉっ!」
リウの腕の一振が起こした強風が四人を空中で玉突き衝突をさせて、全員が意識を失って、試合場に落下した。
「さて、少し落ち着いて話が出来るな。」
試合場から、戻ったリウが話しかけたのは、偽「踊る道化師」の最後の一人、「リウ」役の少女だった。
イシュトが慌てて、割って入る。
「良い。」
少女は、一言で切り捨てた。
リウを振り返り、にいっと笑った。
「わしが“紅炎”ラザリムじゃ。」
アシュベルは、ふうっと息を吐いた。
「別室を用意いたしましょう。」
「交代・・・・しかし、『ロウ』は、まだ意識がある。死んでも気を失ってもいない。」
「もともとあれは吸血鬼だろう。気絶と死もあり得ない以上、別のルールを適用する。」
店員は、かなり上位のランクなのだろう。きちんとスーツを着込んでいた。
「しかし、それでは『踊る道化師』の一敗になってしまう!」
「もともと、本当の『踊る道化師』を見出すという名目のトーナメントだ。
問題なかろう?」
「ですが・・・」
店員は、サングラスの下から灰色の瞳を覗かせた。
なかなかいい目をしている。
と、リウは思った。
ワルだろうが、小悪党だろうが少なくとも自分の意志で物事を判断できる奴の目だった。
この先のことは、このギルドの女を飛ばして、こいつと交渉した方が良さそうだな。
と、リウは考えた。交渉ならば、自分よりもドロシーが適任だ。
それなら、ドロシーをあの無駄な作業から、解放してやらねば。
本人は、嬉々としてやっているのだろうが、少々見てるのが辛くなり始めていた。
「客はもう、飽きている。」
リウは、店員に向かって言った。
「吸血鬼の再生能力は、無限ではないから、いずれは力尽きるだろうが、一晩これを続ける気か? そろそろ、出し物を変更するべきだ。」
ほう?
と、言って店員は、リウの方を見た。
「わたしは、この店の・・・いや、誤魔化しても仕方ないな。カザリームの『沈黙』。この街区のマネージャーを務めるアシュベル三世という。」
「オレは、当初からこの女にも名乗ったのだが・・・」
リウは、硬直しているイシュトを押し退けて一歩前にでた。
「ランゴバルドの銀級冒険者『踊る道化師』のリウだ。見習いのメンバーの訓練のつもりでこの街を訪れたのだが、意外なトラブルに巻き込まれて、な。」
「『沈黙』のアシュベル三世。」
エミリアがつぶやいた。
「父上・・・・二世殿は息災か?」
「父は、昨年引退したが・・・おまえは何者だ? まさか父の隠し子だとでもいうのではあるまいな。」
まんざら冗談でもないように、アシュベルは、エミリアに言った。
「『ロゼル一族』副頭目エミリア。」
アシュベルの目が、大きく見開かれた。
「ロゼル一族が『踊る道化師』と行動を共にしているという情報は、カザリームには入っていない。」
「ならば、とっておきの新情報だ。ありがたく聞け。
現在、我らロゼル一族の頭領紅玉の瞳の座は、“真祖吸血鬼”ロウ=リンドが引き継いでいる。
もちろん、あそこで、泣き喚いている下級の従属種のことではないぞ。」
「銀級」の証明証よりも、エミリアの顔の方がよく効くのなら、最初からそうすれば良かった。
リウは、円筒になった試合場に、ふわりと降り立った。
なおも、馬乗りになって、「ロウ」の解体作業を続けるドロシーの襟首を掴んで立たせた。
軽く頬を叩くと、ドロシーは、吸血鬼の呪縛から、解かれたようだった。
「終わったぞ。」
そう言ってやると、二三度、目をしばたいてから、恥ずかしそうに、微笑んだ。
「よかった。」
マシューは、周りのみなに、どっちが勝ったのか聞いて、ドロシーだと分かると、とたんに歓喜の声をあげた。
「やったぞ!ドロシー、これで幸先よくまず一勝だ!」
この発言は、仲間内にも観客にも異様なものにうつったらしく、会場内にざわめきがひろがる。
なんなんだ、こいつらは!
いったい何者なんだ!?
リウは、続いて、吸血鬼を引きずり起こすと、試合場の外に投げ捨てた。
思いがけない展開に、明らかに落ち着きをなくしている「踊る道化師」に、笑いかける。
「さあ、せっかく始めた勝負だ。続きをしよう。
ただ、退屈な試合に、お客さんも退屈しているようだ。めんどうなんで全員でかかってこい。」
残った道化師どもは、互いに目配せした。
「あの、三流吸血鬼がボロを出しやがって・・・」
「ヤモン! あいつはそもそもおまえが連れてきたんだろうがっ!」
「ここでそれを言い出しても仕方ない。エルト! ギムリ! ヘオリナ!
全員でかかるぞっ!」
偽物は、本名までもパチものっぽいのだな、とリウは妙に感心した。
「ルト」は魔杖に雷撃魔法を蓄え、「アモン」の筋肉が一段と膨張する。
「フィオリナ」が、剣を抜き、「ギムリウス」の両手に黒い短剣が現れた。
そのまま跳躍し、試合場を、かこむ円柱の壁を飛び越えたところを見ると、体術、技術ともに素人では無かったらしい。
『くらえ! 秘奥義・・・』
技の名前くらい言わせてやるのが、礼儀だろう、とあとでこの話をきいた異世界人は文句を言っていた。
つっこむところはそこが!?
と、同席した全員が言ったので、リウもこのことについては特に反省も後悔もしていない。
「やかましい。」
「ひでふっ!」「あへしっ!」「たわばあぁっ!」「ぱっびっぶっぺっぽぉっ!」
リウの腕の一振が起こした強風が四人を空中で玉突き衝突をさせて、全員が意識を失って、試合場に落下した。
「さて、少し落ち着いて話が出来るな。」
試合場から、戻ったリウが話しかけたのは、偽「踊る道化師」の最後の一人、「リウ」役の少女だった。
イシュトが慌てて、割って入る。
「良い。」
少女は、一言で切り捨てた。
リウを振り返り、にいっと笑った。
「わしが“紅炎”ラザリムじゃ。」
アシュベルは、ふうっと息を吐いた。
「別室を用意いたしましょう。」
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