婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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クローディア大公の結婚式

神竜と銀雷の魔女

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ドロシーは、いろいろと気苦労の多い日々を送っている。
アライアス侯爵とガルフィート伯爵は、自分を過大評価してくれている。

確かに、事務方として、様々な事柄を処理することは、かなり学んできた。

実際に、自分はそうなるはずだった。
ランゴバルドの中の下の貴族家の事務官のひとりとして、さまざま書類を処理したり、手紙を代筆したり、そうして身を立てるはずだった。

冒険者パーティの一員になるつもりはなかった。
いや、なにかで道を踏み外してそうなる可能性も、ロマンチックな妄想とともに考えてみたことはなかった訳では無かったが、それは多分に、パーティ実は正体を隠した王子さまがいて、恋に落ちて、というかなり、ありきたりなハッピーエンドで終わる物語でしかなかったのである。

断じて、魔王と神獣と神竜と友だち付き合いをさなければ行けないようなパーティではなかった。

確かに、貴族家の文官として、身を立てたかった。
優秀な武官、文官として、名をあげれば、高位の貴族家から引き抜きがあることも、ランゴバルドでは珍しくなかった。
だが。
間違っても、ギウリークの重鎮、アライアス侯爵家でも、ガルフィート伯爵家でもなかったのである。

なにを間違って、クローディア大公家の結婚式とその披露宴を、彼女に仕切らせようなどと、考えたのだろう。

おかしいのではないか。
アライアス侯爵も、ガルフィート伯爵も。

おまけに。

ここまで、重圧が大きいと、会の席上で神子ハロルド卿へ“仕掛け”を行おうとしているなど、もう瑣末時に思えてくるのだ。

「レスクさま?」

取次に、ドロシーの執務室を訪れたガルフィート家の秘書に、ドロシーは子首を傾げて見せた。
もちろん、サッと立ち上がり、目上のものに対する礼を行うことは欠かさない。

「予約のない突然の訪問ではありますが、会っておかれたほうがよい。」
秘書官は、主からの評価が妙に高いこの若い女性に、もちろん失礼な態度などはとらなかったが、そらでも、いささか上から目線でなにがしかを教えてなろうという口調になったのは、無理もない。
「レスク殿は、ギウリーク聖竜師団の顧問です。一般のかたにはお分かりにくいと思いますがそれはつまり」

「『神鎧竜』レクスさまが、わたしごときになんの御用でしょうか。」
ドロシーは、不安げに手を合わせた。
「確かに、レクスさまをギウリークに引き合わせたのは、わたしたちのリーダーのルトですが、それはちょうど人間社会の見物をしたかったレクスさまと、古竜の顧問がお辞めになって困っていらしたギウリークの間を取り持っただけで、なんの貸し借りもなかったはずです。」

秘書官は、短刀でも飲み込んだように硬直した。

そうだった。
この聡明な若い女性は、“踊る道化師”のメンバーなのだ。
そのメンバーには、古竜たちを平身低頭させた竜人や、魔王の血をひく症状、真祖の吸血鬼や、太古なの神獣ギムリウスの力の一端を受け継ぐ巫女などが、ふかまれているらしい。

「大変申し訳ありません。応接間をご用意くださいますか?」
「すでに、第一応接にお通ししております。」

ドロシーが、第一応接に急ぐと、ソファに腰かけた青年は、やっと笑って手を挙げた。
左の額から角が飛び出ている。

相変わらず、人化は下手くそらしい。

「やあ、ドロシー。」
「お久しぶりです、レクスさま。」

ドロシー自身は、この竜とはあまり、面識がない。
たしか、ヴァルゴールの12 使徒のひとりと契約していたのだ。
その契約が解除となり、まだしばらくは人間社会に滞在したかったこの竜は、とにかく人化が下手すぎて、目立って仕方がないため、「実は古竜だ」というのとがわかってしまっても問題にならない「
聖竜師団」の顧問という立場は、渡りに船だったのだ。

「枢機卿に話をしたら、まず、きみに相談したらいいんじゃないかと言われてね。」

どの、枢機卿ですか。

と、ドロシーは尋ねた。様々な部分でミトラ教皇庁と対立する立場になってしまったいるドロシーだが、もともとはランゴバルドの中流以上の家庭の育ちだ。
当たり前のように、聖光教の信徒であったし、心情のうえでいまも敬虔な聖光教の名も無き唯一神を信仰しているのだ。
もっとも仲間に魔王その人がいるのでは、神様の方から嫌われてしまうだろう。

その彼女からみれば、枢機卿などという雲の上の存在は、ほとんど人間という神様に近い存在に思えるのだ。

まあ、知り合いにはアキルという普通に会って話ができる神様もいるのだが。

レクスは、アライアス侯爵閣下の兄の名前を出した。

「クローディア大公とアウデリアの結婚式のことだよ。きみが取り仕切っているんだって?」

勘弁して!
ドロシーは、耳を塞いで叫びたかった。
これ以上の厄介事は勘弁して!

それは、心のなかにだけトドメられ、彼女はにっこり笑って、レクスにお茶をすすめた。

「そのお話しは、アライアス閣下が取り仕切っておられますわ。
わたしはそのお手伝いをしてるだけなんです。」
そう言って、にっこりと笑った。

自分の美貌には、相変わらず自信の持てないドロシーだったが、レクスにとっては、人間の美醜など問題にはならないだろう。

そうだ。
ドロシーは気を取り直した。
充分厄介事だらけなのだ。
これ以上の厄介事などは起きっこない。

「わたしから、アライアス閣下にお伝えいたします。どのようなことでしょうか。」
「たいしたことではないよ。
披露宴でひとつ出し物を提供したいのだ。」
「出し物?…レクスさまが? それとも竜人師団として、ですか?」
「我々と、それから聖天師団とで、だよ。」

聞きなれぬ名前に、ドロシーは首を傾げた。
「せい…てんしだん、ですか?」
「そうだよ。」

あくまで快活に、愉しそうにレクスは言った。

「竜人のあまりの惨状に、怒った神様が、竜人にかわって、天使を降臨させたものたちで、新しい特殊部隊の設立を命じられたそうだ。
だが、ぼくらそんな風にしてクビにされるのは、まっぴらだし。
ここは対抗戦をやって力づくで、決着をつけようってことになったんだ。」

人払いはしてあったかな。
と、ドロシーはぼんやり、思った。
誰に相談したらいいだろう。
アライアスとガルフィートはもちろんダメだ。
ルトと。
ああ、アモンはもうランゴバルドに帰ってしまっていただろうか。

「その対抗戦を」
「そう、披露宴の出し物にどうかなって思って。」

ドロシーは、レクスにお茶を入れ直しながら思った。
手は震えていなかったし、お茶の温度も香りも完璧だった。
あまり驚くことが続くと、驚くこともできなくなるのだな。

ドロシーは、ぼんやり思った。

断ることは、出来ない。

無茶苦茶な申し出ではあるが、神竜からの頼み事だ。
断れない。

それに。
ドロシーは確信していた。
アウデリアは、この手のイベンドが大好きなのだ。

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