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クローディア大公の結婚式
居酒屋奇譚
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「いままでのところは、普通の、レストランだな。」
ジウルは、獰猛に歯をむきだしながら言った。
「おまえが、ここのコック長か?」
「い、いや俺は」
ガルカスが言いかけるのを、トロウジがすがるように止めた。
「だ、ダメっす。」
「なにがダメだ?」
「ここがレストランじゃないと知られたら、あっという間に潰されます。」
「で、でも、俺は料理なんか・・・」
「レストランに関係ない人間は、骨を居られて叩き出されます!」
ミトラなら折れた骨をつないで、修復してくれる治療師はいくらでもいる。
一瞬ためらったガルカスだったが、トロウジの「首の骨です。」という言葉に諦めて、厨房に入った。
と言われても飯などつくったことがない。呆然としていると、手際よくトロウジが、前掛けをつけてくれた。
「幸いにこいつらは、味なんかてんでわかりません。適当に切って焼いて、塩をふって出せば喜んで食います。」
わ、わかった。
1分後には、ガルカスは、懸命にジャガイモの皮を剥いていた。
「珍しいところで出会うものですね。、アウデリアさま。ご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ナザクの師匠か。久しいな。」
アウデリアは鷹揚に笑って、自分の隣の席を叩いた。
「ほれ、座れ。」
言われた通りに、ナザクは、アウデリアの横に座る。ナムも、ジウルの隣に座った。
「ほれ、なんとか喰えるぞ。」
アウデリアは、焼いた肉を盛った皿を差し出した。
ナザクは、たじろいだ。肉は適当な大きさに切れてもいなく、ところどころ、生で、全体としては焦げている。
「肉はこういう焼き方が美味いんだ。」
あらゆる料理人から抗議がきそうなことを、世界の真理を語るがごとき、口調でアウデリアは断言する。
手で肉を掴んで、引き裂く。
炭化した部分を剥がすと、中からほんのり赤みを帯びた肉が現れた。
その下にある完全に生の層を引き剥がすと、そのまま、口に運ぶ。
咀嚼してるのか?
と、ナザクが疑問に思うほどの勢いで、肉片はアウデリアの胃の腑に消えた。
「まあ、理屈は間違いでは無い。」
ジウルが呟いた。
「例えば森に火を放つ。逃げ遅れた無数の獣たちのなかに、たしかに、ちょうど良い焼き加減のものは、存在する。それこそ、どんな名人でも制御出来ない偶然の産物だ。」
そう言いながら、自分も炭となった部分をこそげ落とした肉片を口に運んだ。
「追加を持ってこい!」
アウデリアが怒鳴った。
「このメニューにあるブースハーブスト風の蒸し鶏を貰おう。」
「そ、そ、そのメニューは」
「それから、酒だ。」
アウデリアは、使われなくなって久しいメニューをバラバラと捲った。
「グランダの白酒7年物があるな。いいぞ、樽ごと持ってこい。」
厨房から、一頻り、怒鳴り散らす声がして、さっきのガルカスが泣きながら飛び出して言った。
「てめえ、このまま逃げるんじゃねえぞ!」
包丁を振り回しながら、トロウジが、さけんだ。
「いいか! 白酒だ。何年ものでもいい! どうせこの客には味なんか分からねえ。とくかく白酒だ。それから、蒸し鶏だ。ナントカ風で無くていい。とにかくそのまま喰える調理済みの鶏肉を買ってこい!」
さっきから、けっこうな言われようだったが、アウデリアは帰ってそれを楽しんでいるようだった。
「さっき頼んだ、この“ほくほくジャガイモがたっぷり入ったシェフのオススメスープ”はどうなった?」
「いまんところ、“生ジャガの歯ごたえを楽しむスープ”です。」
トロウジは、緊張のあまり、体を震えさせながら答えた。
「せめて、芋が煮えるまでお待ちください。」
「悪趣味なのか、やつらに情けをかけているのか、わからん。」
ジウルが呟いた。
「まあ、乾杯いたしましょうよ、アウデリアさま。」
とりあえず、で運ばれてきたなみなみと酒がつがれたグラスを持ち上げて、ナザクは微笑んた。
「我らの英雄アウデリアさまに乾杯!」
「おう! 仕掛け屋の元締めナザク師匠にもな!」
ガラガラガッチャーン!
厨房から食器が割れる音が響いた。
「なにをやってる!」
またアウデリアが怒鳴った。
「商売道具は大切に扱え!」
「し、し、し、仕掛け屋!?
なんで、ガルカスの兄貴は、そんな連中を連れてきたんです?」
「それは、こっちが聞きたい。」
ナムがむっつりと答えた。
「道を歩いていたら、絡まれたんだ。」
絞める、殺す、絞める、殺す。
トロウジの呪いの言葉は、延々と続いたが、アウデリアたちは無視した。
「ところで、どこぞの王さまを捕まえたとか?
ご結婚おめでとうございます。」
ナムが言った。凶相とでも言うべき怖い顔だが、アウデリアもジウルもまったく気にしない。
「クローディアのことか?
あれはいい男でな。わたしはどうでも良かったんだが、結婚してやるとあいつがよろこびそうだったからな。」
惚気ともボヤキともつかぬ呟きをもらしたあと、アウデリアはずいと、身を乗り出した。
「聞いているぞ。わたしの披露宴でなにか仕掛けるつもりらしいな。」
ナザクとナムは、互いの顔を見合わせた。
「どこからそんな話が・・・」
「おまえのところのギンが、盛んに仕掛け屋に、勧誘しているドロシーは、わたしの娘と同じパーティにいる。」
ジウルは、獰猛に歯をむきだしながら言った。
「おまえが、ここのコック長か?」
「い、いや俺は」
ガルカスが言いかけるのを、トロウジがすがるように止めた。
「だ、ダメっす。」
「なにがダメだ?」
「ここがレストランじゃないと知られたら、あっという間に潰されます。」
「で、でも、俺は料理なんか・・・」
「レストランに関係ない人間は、骨を居られて叩き出されます!」
ミトラなら折れた骨をつないで、修復してくれる治療師はいくらでもいる。
一瞬ためらったガルカスだったが、トロウジの「首の骨です。」という言葉に諦めて、厨房に入った。
と言われても飯などつくったことがない。呆然としていると、手際よくトロウジが、前掛けをつけてくれた。
「幸いにこいつらは、味なんかてんでわかりません。適当に切って焼いて、塩をふって出せば喜んで食います。」
わ、わかった。
1分後には、ガルカスは、懸命にジャガイモの皮を剥いていた。
「珍しいところで出会うものですね。、アウデリアさま。ご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ナザクの師匠か。久しいな。」
アウデリアは鷹揚に笑って、自分の隣の席を叩いた。
「ほれ、座れ。」
言われた通りに、ナザクは、アウデリアの横に座る。ナムも、ジウルの隣に座った。
「ほれ、なんとか喰えるぞ。」
アウデリアは、焼いた肉を盛った皿を差し出した。
ナザクは、たじろいだ。肉は適当な大きさに切れてもいなく、ところどころ、生で、全体としては焦げている。
「肉はこういう焼き方が美味いんだ。」
あらゆる料理人から抗議がきそうなことを、世界の真理を語るがごとき、口調でアウデリアは断言する。
手で肉を掴んで、引き裂く。
炭化した部分を剥がすと、中からほんのり赤みを帯びた肉が現れた。
その下にある完全に生の層を引き剥がすと、そのまま、口に運ぶ。
咀嚼してるのか?
と、ナザクが疑問に思うほどの勢いで、肉片はアウデリアの胃の腑に消えた。
「まあ、理屈は間違いでは無い。」
ジウルが呟いた。
「例えば森に火を放つ。逃げ遅れた無数の獣たちのなかに、たしかに、ちょうど良い焼き加減のものは、存在する。それこそ、どんな名人でも制御出来ない偶然の産物だ。」
そう言いながら、自分も炭となった部分をこそげ落とした肉片を口に運んだ。
「追加を持ってこい!」
アウデリアが怒鳴った。
「このメニューにあるブースハーブスト風の蒸し鶏を貰おう。」
「そ、そ、そのメニューは」
「それから、酒だ。」
アウデリアは、使われなくなって久しいメニューをバラバラと捲った。
「グランダの白酒7年物があるな。いいぞ、樽ごと持ってこい。」
厨房から、一頻り、怒鳴り散らす声がして、さっきのガルカスが泣きながら飛び出して言った。
「てめえ、このまま逃げるんじゃねえぞ!」
包丁を振り回しながら、トロウジが、さけんだ。
「いいか! 白酒だ。何年ものでもいい! どうせこの客には味なんか分からねえ。とくかく白酒だ。それから、蒸し鶏だ。ナントカ風で無くていい。とにかくそのまま喰える調理済みの鶏肉を買ってこい!」
さっきから、けっこうな言われようだったが、アウデリアは帰ってそれを楽しんでいるようだった。
「さっき頼んだ、この“ほくほくジャガイモがたっぷり入ったシェフのオススメスープ”はどうなった?」
「いまんところ、“生ジャガの歯ごたえを楽しむスープ”です。」
トロウジは、緊張のあまり、体を震えさせながら答えた。
「せめて、芋が煮えるまでお待ちください。」
「悪趣味なのか、やつらに情けをかけているのか、わからん。」
ジウルが呟いた。
「まあ、乾杯いたしましょうよ、アウデリアさま。」
とりあえず、で運ばれてきたなみなみと酒がつがれたグラスを持ち上げて、ナザクは微笑んた。
「我らの英雄アウデリアさまに乾杯!」
「おう! 仕掛け屋の元締めナザク師匠にもな!」
ガラガラガッチャーン!
厨房から食器が割れる音が響いた。
「なにをやってる!」
またアウデリアが怒鳴った。
「商売道具は大切に扱え!」
「し、し、し、仕掛け屋!?
なんで、ガルカスの兄貴は、そんな連中を連れてきたんです?」
「それは、こっちが聞きたい。」
ナムがむっつりと答えた。
「道を歩いていたら、絡まれたんだ。」
絞める、殺す、絞める、殺す。
トロウジの呪いの言葉は、延々と続いたが、アウデリアたちは無視した。
「ところで、どこぞの王さまを捕まえたとか?
ご結婚おめでとうございます。」
ナムが言った。凶相とでも言うべき怖い顔だが、アウデリアもジウルもまったく気にしない。
「クローディアのことか?
あれはいい男でな。わたしはどうでも良かったんだが、結婚してやるとあいつがよろこびそうだったからな。」
惚気ともボヤキともつかぬ呟きをもらしたあと、アウデリアはずいと、身を乗り出した。
「聞いているぞ。わたしの披露宴でなにか仕掛けるつもりらしいな。」
ナザクとナムは、互いの顔を見合わせた。
「どこからそんな話が・・・」
「おまえのところのギンが、盛んに仕掛け屋に、勧誘しているドロシーは、わたしの娘と同じパーティにいる。」
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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