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クローディア大公の結婚式
仕掛け屋への依頼
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バカな。
と、ギンは思った。
実際に口に出したのは、ドロシーが早かった。
「ハロルドさまは自殺でもされるおつもり、ということですか?
それとも、ギンさんたちに命を狙われてなお、生き残る自信がおありなのでしょうか。」
クローディア陛下は、腕組みをして、顔を顰めた。
わからん。
やや、あってから、そう言ったので、ギンは、食ってかかった。
「あのねえ、陛下。ここまで、話を持ってっておきならがら、分からないってのはないと思うのよ?」
「わからんものはわからん。」
殺気さえ感じるギンの眼差しを、春風のように、受け流しながら、クローディアは言った。
「だが・・・ハロルド殿にあったときに、彼はこんなことを言っていた。
神という存在に晒されながら、自我を保ち、生き続けるために、かなり強力な魔術や薬物の投与が必要であり、その為に健康を損なうこともある、と。」
「どこまで本当なんだか。」
ギンが、噛み付いた。
「在籍中に死んだ神子は、いままで皆無だったし、神子を引退したあとは、みながみな、そこそこには長生きしているはずだよ。」
うむうむ。
と、満足そうにクローディア陛下は、頷いた。
「確かに、憶測をいくらは並べても、憶測の域はでない。ハロルドが実は、妻子と生き別れになったことを、死ぬほど悔やむあまり、死なぬ神子が死んでみせることで、神子などという制度をなくしてしまおうと、思ったなど、第三者には分からぬ事だ。」
「クローディアの親父殿よ。」
リクがゆっくりと言った。
その呼び方は、奇しくもグランダで、彼のギルドのメンバーたちが、彼を呼ぶときに用いていたものだったので、クローディアは、少しうれしくなった。
「あんたは、俺たちになにをさせたい?」
「決まっている。」
これは、この場にいるものの間では、彼にしか分からないことではあったが。
クローディアは、懐から革袋を取り出して、テーブルに置いた。
ギンとリクの目が、革袋に集中した。
「ことの真相を探ってくれ。ハロルド殿の言う『神子の呪い』が本当なのか、本当にやつは死にたがっているのか、アライアス閣下は、本当にハロルド殿を殺したがっているのか。」
ギンは、革袋の中身を改めた。
金貨だった。ダル紙幣としては
最高額の紙幣が100ダルだったので、それを越える支払いの場合には、補助的に硬貨は使われていた。
ギンは、顔を歪めながら、自分の得物(針と鋼糸)を懐にもどし、金貨の1枚をつまみ上げた。
「仕掛け以外の仕事はこれきりに、してもらうよ。」
そう言って、金貨を大事に仕舞う。
「一枚は手つけ、としてもらっておく。
ツナギはドロシーでいいかい?」
「そのひと袋が手つけのつもりだったのだが。」
クローディアが答えると、ギンはしまった、とでも言うように苦笑いした。
「調べるには時間がいる。悪いがそれまで、あんたらの婚礼は延ばしておいておくれ。」
わかった・・・
と、クローディアが答えようとしたとき、部屋の照明が瞬時に消えた。
この部屋の証明は、最新の電燈ではなく、昔ながらの魔法灯だったので、魔力に干渉すればできぬ話では無い。
とは、いえあまりにもその技は鮮やかだった。
灯りが消えたのは、ほんの一瞬。
だが、灯りがついたとき、もう、ギンとリクの姿はなかった。
「なんとも、鮮やかなものだな。」
クローディアは、傍らのドロシーをみやった。
「連絡方法はまかせていいのか?」
「残念ですが、陛下。」
ドロシーは正直にこたえた。
「具体的な方法は指示されておりません。必要があるときは、むこうから連絡があると思います。」
「わかった。連絡はまかせる。」
それから、扉の外にむかって話しかけた。
「こんなところで、いかがかな? ガルフィート閣下。」
ギウリークの重鎮は、頭をかきながら姿を見せた。さっきは酔い潰れたはずだが、そこから演技なのかもしれなかった。
「アライアス侯爵が妙な動きをしているとは思っていましたが、こんなことになっているとは。」
「あの者たちは、わたしが北方で重用していた間者です。」
「はあ・・・・」ガルフィートは妙な顔をして笑った。「仕掛け屋が、どうの、聞こえましたが。」
「お聞き違いでしょう。わたしは彼らに、ハロルド閣下の主に健康問題についての調査を要請いたしました。それだけです。」
たまらずに、ガルフィートは吹き出した。
「いや、わかりました。その通りです。先のことは先の進展を待つことにいたします。」
「ご配慮に感謝したします、伯爵閣下。」
と、ギンは思った。
実際に口に出したのは、ドロシーが早かった。
「ハロルドさまは自殺でもされるおつもり、ということですか?
それとも、ギンさんたちに命を狙われてなお、生き残る自信がおありなのでしょうか。」
クローディア陛下は、腕組みをして、顔を顰めた。
わからん。
やや、あってから、そう言ったので、ギンは、食ってかかった。
「あのねえ、陛下。ここまで、話を持ってっておきならがら、分からないってのはないと思うのよ?」
「わからんものはわからん。」
殺気さえ感じるギンの眼差しを、春風のように、受け流しながら、クローディアは言った。
「だが・・・ハロルド殿にあったときに、彼はこんなことを言っていた。
神という存在に晒されながら、自我を保ち、生き続けるために、かなり強力な魔術や薬物の投与が必要であり、その為に健康を損なうこともある、と。」
「どこまで本当なんだか。」
ギンが、噛み付いた。
「在籍中に死んだ神子は、いままで皆無だったし、神子を引退したあとは、みながみな、そこそこには長生きしているはずだよ。」
うむうむ。
と、満足そうにクローディア陛下は、頷いた。
「確かに、憶測をいくらは並べても、憶測の域はでない。ハロルドが実は、妻子と生き別れになったことを、死ぬほど悔やむあまり、死なぬ神子が死んでみせることで、神子などという制度をなくしてしまおうと、思ったなど、第三者には分からぬ事だ。」
「クローディアの親父殿よ。」
リクがゆっくりと言った。
その呼び方は、奇しくもグランダで、彼のギルドのメンバーたちが、彼を呼ぶときに用いていたものだったので、クローディアは、少しうれしくなった。
「あんたは、俺たちになにをさせたい?」
「決まっている。」
これは、この場にいるものの間では、彼にしか分からないことではあったが。
クローディアは、懐から革袋を取り出して、テーブルに置いた。
ギンとリクの目が、革袋に集中した。
「ことの真相を探ってくれ。ハロルド殿の言う『神子の呪い』が本当なのか、本当にやつは死にたがっているのか、アライアス閣下は、本当にハロルド殿を殺したがっているのか。」
ギンは、革袋の中身を改めた。
金貨だった。ダル紙幣としては
最高額の紙幣が100ダルだったので、それを越える支払いの場合には、補助的に硬貨は使われていた。
ギンは、顔を歪めながら、自分の得物(針と鋼糸)を懐にもどし、金貨の1枚をつまみ上げた。
「仕掛け以外の仕事はこれきりに、してもらうよ。」
そう言って、金貨を大事に仕舞う。
「一枚は手つけ、としてもらっておく。
ツナギはドロシーでいいかい?」
「そのひと袋が手つけのつもりだったのだが。」
クローディアが答えると、ギンはしまった、とでも言うように苦笑いした。
「調べるには時間がいる。悪いがそれまで、あんたらの婚礼は延ばしておいておくれ。」
わかった・・・
と、クローディアが答えようとしたとき、部屋の照明が瞬時に消えた。
この部屋の証明は、最新の電燈ではなく、昔ながらの魔法灯だったので、魔力に干渉すればできぬ話では無い。
とは、いえあまりにもその技は鮮やかだった。
灯りが消えたのは、ほんの一瞬。
だが、灯りがついたとき、もう、ギンとリクの姿はなかった。
「なんとも、鮮やかなものだな。」
クローディアは、傍らのドロシーをみやった。
「連絡方法はまかせていいのか?」
「残念ですが、陛下。」
ドロシーは正直にこたえた。
「具体的な方法は指示されておりません。必要があるときは、むこうから連絡があると思います。」
「わかった。連絡はまかせる。」
それから、扉の外にむかって話しかけた。
「こんなところで、いかがかな? ガルフィート閣下。」
ギウリークの重鎮は、頭をかきながら姿を見せた。さっきは酔い潰れたはずだが、そこから演技なのかもしれなかった。
「アライアス侯爵が妙な動きをしているとは思っていましたが、こんなことになっているとは。」
「あの者たちは、わたしが北方で重用していた間者です。」
「はあ・・・・」ガルフィートは妙な顔をして笑った。「仕掛け屋が、どうの、聞こえましたが。」
「お聞き違いでしょう。わたしは彼らに、ハロルド閣下の主に健康問題についての調査を要請いたしました。それだけです。」
たまらずに、ガルフィートは吹き出した。
「いや、わかりました。その通りです。先のことは先の進展を待つことにいたします。」
「ご配慮に感謝したします、伯爵閣下。」
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