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クローディア大公の結婚式
神子をめぐるエトセトラ
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「披露宴には、参加させていただく。」
クローディアの手を握ってハロルドは言った。
「ただし、それは神子としてだ。笑みは浮かべず、遠くを見つめながら、夫婦円満についての神の訓示を垂れるのだ。なにとぞ笑わないでくれよ、陛下。笑われたら泣き出しちまうかもしれん。」
「大丈夫だ。外交の席のつもりでしっかりやるさ。」
ガルフィート伯爵は酔いつぶれていた。
あれは、あとで馬車を仕立ててやらねばな、クローディアは思った。
「それはそうと」
クローディアは声を潜めた。
「医師にはみせているのでしょうかな?」
神子と呼ばれる男は、苦笑した。
「いやはや、たいした傑物ですな、大公陛下。狼の慧眼ということでしょうか。」
「そのようなものではない。」
クローディアは、やや憤然として言った。
「治りようのない病、あるいは手遅れにしてしまった病。まったく新しい病で治療がおいつかない。」
彼はゆっくりと言った。
「ひとが病に倒れるにはいろいろなものがあります。しかし、あなたのそれは人為的にうえつけられたものだ。
呪詛と薬物を複合して使用しているが故に治療が難しいことはわかるがしかし」
ハロルドは、指を唇に押し当てて、シィと言った。
クローディアを促して部屋の外にでる。
「わたしの体調に気づかれたのなら、それが教皇庁の、手によるものなのはおわかりでしょう?」
「推測はできます。」
「わたしは近いうちに『神子』を引退することになります。おそらく、陛下の結婚式が最後の仕事になるでしょう。」
「ハロルド、わたしは他国ものだが、教皇庁の事情には、なにも知らぬ赤子のような信者ではない。」
クローディアは、かおをしかめながらいった。
「神をその身に降ろす神子は、儀式を経たあとは、自我も失い神の器としてのみ生きる。
そんなことは、ただの建前で、実際には少々見栄えの良い若者を、仕立てあげて、他国の貴人の接待や行事に参加される。
神子とはそういうものだと、理解しておりましたがまだ、裏があるということでしょうか?」
「神子は通常、それなりの格式のある名家から選ばれます。」
ハロルドは言った。
「教会への忠誠のため、ある処置がほどこされ、それはいずれ対象の命を奪うものです。それを教会は投薬と魔法で遅延させる。遅延の技術事態は確立されたもので、それが神子を引退したあとも、続けられる限りは、対象は天寿を全うした、そう言えるくらいなは、長生きできるです。」
「あなたの場合になにか事情が?」
ハロルドは、また笑った。
「逆にです!
わたしには、なんの事情もないのです。わたしは、どこぞの名家のものではない。ただの風来坊だ。神子を引退させたあと、年金に治療にと、コストをかける必要はないのですよ、大公陛下。」
ハロルドを送り出したあと、クローディアはいささか憤慨している自分に驚いていた。
ギウリークという国そのものが、衰えているのは、明白だったが、教皇庁も、またそうだった。
ハロルドを載せた馬車がかどをまがりきるまで、彼は見送った。
「ドロシー嬢。」
静かに呼びかけたその声は、夜の静寂のなか、低く響いた。
ゆら。
実際に身を隠す気は無かったらしい。
細身の品のいい侍女は、クローディアに丁寧に一礼した。
「ご報告ならびにご相談があって、参上しました。」
「構わぬぞ。入ってもらえ。」
ドロシーは、もう、1度、くらがりに姿を消した。
もどってきたときには、ちょっと困ったような表情をしていた。
「陛下。」
膝を折って彼女は話しかけた。
「連れのもの達は、お屋敷におうかがいできる身分ではないと申しております。なにとぞ、同行願えないか、と。」
「このような深夜にわしが、若い女とふらふらと外出できるものか。」
クローディアは、豪快に笑った。
「ことは、おそらく、たったいま帰った神子に関連してのことだろう?
話は中で聞く。」
くるりと闇を背を向けてから、闇の中にむかって話しかけた。
「仕掛け屋、という連中に、わたしは恩も義理もない。だが恨みも怨もない。
ドロシー嬢を通じて多少の縁ができたと言うならば、話を聞こう。」
クローディアの手を握ってハロルドは言った。
「ただし、それは神子としてだ。笑みは浮かべず、遠くを見つめながら、夫婦円満についての神の訓示を垂れるのだ。なにとぞ笑わないでくれよ、陛下。笑われたら泣き出しちまうかもしれん。」
「大丈夫だ。外交の席のつもりでしっかりやるさ。」
ガルフィート伯爵は酔いつぶれていた。
あれは、あとで馬車を仕立ててやらねばな、クローディアは思った。
「それはそうと」
クローディアは声を潜めた。
「医師にはみせているのでしょうかな?」
神子と呼ばれる男は、苦笑した。
「いやはや、たいした傑物ですな、大公陛下。狼の慧眼ということでしょうか。」
「そのようなものではない。」
クローディアは、やや憤然として言った。
「治りようのない病、あるいは手遅れにしてしまった病。まったく新しい病で治療がおいつかない。」
彼はゆっくりと言った。
「ひとが病に倒れるにはいろいろなものがあります。しかし、あなたのそれは人為的にうえつけられたものだ。
呪詛と薬物を複合して使用しているが故に治療が難しいことはわかるがしかし」
ハロルドは、指を唇に押し当てて、シィと言った。
クローディアを促して部屋の外にでる。
「わたしの体調に気づかれたのなら、それが教皇庁の、手によるものなのはおわかりでしょう?」
「推測はできます。」
「わたしは近いうちに『神子』を引退することになります。おそらく、陛下の結婚式が最後の仕事になるでしょう。」
「ハロルド、わたしは他国ものだが、教皇庁の事情には、なにも知らぬ赤子のような信者ではない。」
クローディアは、かおをしかめながらいった。
「神をその身に降ろす神子は、儀式を経たあとは、自我も失い神の器としてのみ生きる。
そんなことは、ただの建前で、実際には少々見栄えの良い若者を、仕立てあげて、他国の貴人の接待や行事に参加される。
神子とはそういうものだと、理解しておりましたがまだ、裏があるということでしょうか?」
「神子は通常、それなりの格式のある名家から選ばれます。」
ハロルドは言った。
「教会への忠誠のため、ある処置がほどこされ、それはいずれ対象の命を奪うものです。それを教会は投薬と魔法で遅延させる。遅延の技術事態は確立されたもので、それが神子を引退したあとも、続けられる限りは、対象は天寿を全うした、そう言えるくらいなは、長生きできるです。」
「あなたの場合になにか事情が?」
ハロルドは、また笑った。
「逆にです!
わたしには、なんの事情もないのです。わたしは、どこぞの名家のものではない。ただの風来坊だ。神子を引退させたあと、年金に治療にと、コストをかける必要はないのですよ、大公陛下。」
ハロルドを送り出したあと、クローディアはいささか憤慨している自分に驚いていた。
ギウリークという国そのものが、衰えているのは、明白だったが、教皇庁も、またそうだった。
ハロルドを載せた馬車がかどをまがりきるまで、彼は見送った。
「ドロシー嬢。」
静かに呼びかけたその声は、夜の静寂のなか、低く響いた。
ゆら。
実際に身を隠す気は無かったらしい。
細身の品のいい侍女は、クローディアに丁寧に一礼した。
「ご報告ならびにご相談があって、参上しました。」
「構わぬぞ。入ってもらえ。」
ドロシーは、もう、1度、くらがりに姿を消した。
もどってきたときには、ちょっと困ったような表情をしていた。
「陛下。」
膝を折って彼女は話しかけた。
「連れのもの達は、お屋敷におうかがいできる身分ではないと申しております。なにとぞ、同行願えないか、と。」
「このような深夜にわしが、若い女とふらふらと外出できるものか。」
クローディアは、豪快に笑った。
「ことは、おそらく、たったいま帰った神子に関連してのことだろう?
話は中で聞く。」
くるりと闇を背を向けてから、闇の中にむかって話しかけた。
「仕掛け屋、という連中に、わたしは恩も義理もない。だが恨みも怨もない。
ドロシー嬢を通じて多少の縁ができたと言うならば、話を聞こう。」
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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