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クローディア大公の結婚式
それは嫉妬ではなく
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ドロシーは、侯爵閣下のあけすけなうち明け話に、若干ひきながらも尋ねた。
「その‥自分の理想とかけ離れた相手を好きになるものなのでしょうか?」
「おぬしは、年頃で、しかもなかなかの美形ではないか、ドロシー。」
「閣下!!」
「周りにひとがいないときは、ミーアと呼べ。許す。」
許すも何も、平民のドロシーには、気が重いだけなのだが、この手のことを自分が度量がある人間だということを見せつけるためにやる貴族は多い。そして、そういう奴らは言われた通りにしないと、へそを曲げるのだ、やっかいだ!
「ミーアさま、わたくしのことはさておき、ハロルドさまです。」
「ふむ? あのジウルとはいう拳士とは、どうやってしりあった? 歳もずいぶんと違うだろうに。」
「グランダ魔道院との対抗戦のおりに、ンわたしの試合相手になったのが、ジウルです。」
正直に答えているようで、真実は隠す。
「拳士として負け、師事いたしましたところから、引かれ合い、一時はともに旅もいたしましたが、いまは道を違えております。」
「ふむ?
ならば、この先、一緒になる予定は無いということか?」
「わたくしは、まだ冒険者学校の学生です。卒業したら、上級魔法学校に進学するつもりです。結婚は、そのあとです、ね。」
「堅実なような。そうでないような。」
アライアスは、クビを傾げて、ドロシーを見やった。
「ジウルというオトコは、そこまでおぬしを待ってくれるのか?」
「あ、いえ、違いますよ。結婚する相手は、わたしの幼なじみで、主家のお坊ちゃんです。いまは冒険者学校の同級生ですね。」
アライアスはわけがわからん、という顔をした。
「そこいらの、恋愛感情はどう働いているのだ?」
「結婚予定のマシューは、わたしがいないとなんにもできないので、これからもずっと支えてやりたいと思ってます。」
「ジウルは?」
「愛してはくれてるんでしょうが、対話だ足りてませんね。結局よくは分からずじまいでした。」
「なら、ハロルドのこともわかれ。」
アライエスは、笑みを含んでそう言う。
「当たり前に釣り合うだけが、恋愛の対象ではないのだ。」
「閣下。」
「ミーアと呼べ、ドロシー。」
「・・・・わかりました、ミーア様。」
単刀直入に言ったほうがいい。
ドロシーは、アライアスが嫌いではなかった。いろいろなもの。例えば、ルトとか、例えばジウルとか、あるいは組織ならば「踊る道化師」とか、優先すべきものはたくさんあった。その中には、「仕掛け屋」から一方的で、正直ありがた迷惑な友誼もあったかもしれない。
それでも、ドロシーはアライアスに無惨な死が訪れることは望まなかった。
「仕掛け屋は、ミーアさまを疑っております。」
おどろいたように、アライアスは、体をのけぞらせた。
「いったいどういうことだ!?」
「無惨なほどに、だめな演技です。」
ドロシーは、淡々と言った。
「わたしの存じ上げている高貴なる人々の間でも、『びっくり』がそこまで下手な方はいらっしゃいませんでした。」
諦めたように、アライアスは笑った。
「なぜ? と一応はきいておこうか。」
「神子がどんなものか、仕掛け屋はわかっています。」
「ああ・・・・」
アライアスは、恥ずかしそうに耳をかいた。
「わたしの熱演が、かえって仇になったか。」
「神を地上に下ろすための依代。
だが、そんな魔法は、教皇院といえども使えるはずがない。」
「そうだ。これには、よいめんもある。つまり、自我を食い殺され、神の依代にされた神子なんて誰もいなかったのだ。」
「ならば、なぜ、ハロルド様を殺害しようとするのでしょうか?」
ドロシーは、尋ねた。
「ふむ。おまえはどう考える? いや・・・仕掛け屋はどう考えているのだ?」
「政治的な理由、あるいはミーア様ご自身の嫉妬からくるものだと。そしてそれは、彼らにとっては『裏切り』と受け止められます。すなわち。」
ドロシーは、アライアスを睨んだ。女大貴族はドロシーの視線を平然と受け止めた。
「裏切ったあなたに対して、仕掛けが行われる可能性があります。」
「それは困るな。」
平然とアライアスは、答えた。
「わたしは、少なくとも息子が成人するまでは、長生きしたいのだ。できれば、孫の顔も見たい。」
ドロシーは、アライアスの入れてくれたお茶を眺めた。
美味しそうに湯気を立てているが、飲みのは諦めた。なんとなく、毒でも盛られているような気がしたのだ。
「ならば、今一度、仕掛け屋との会談の機会を。渡りは、わたし・・・わたしたち『踊る道化師』がつけましょう。」
「その‥自分の理想とかけ離れた相手を好きになるものなのでしょうか?」
「おぬしは、年頃で、しかもなかなかの美形ではないか、ドロシー。」
「閣下!!」
「周りにひとがいないときは、ミーアと呼べ。許す。」
許すも何も、平民のドロシーには、気が重いだけなのだが、この手のことを自分が度量がある人間だということを見せつけるためにやる貴族は多い。そして、そういう奴らは言われた通りにしないと、へそを曲げるのだ、やっかいだ!
「ミーアさま、わたくしのことはさておき、ハロルドさまです。」
「ふむ? あのジウルとはいう拳士とは、どうやってしりあった? 歳もずいぶんと違うだろうに。」
「グランダ魔道院との対抗戦のおりに、ンわたしの試合相手になったのが、ジウルです。」
正直に答えているようで、真実は隠す。
「拳士として負け、師事いたしましたところから、引かれ合い、一時はともに旅もいたしましたが、いまは道を違えております。」
「ふむ?
ならば、この先、一緒になる予定は無いということか?」
「わたくしは、まだ冒険者学校の学生です。卒業したら、上級魔法学校に進学するつもりです。結婚は、そのあとです、ね。」
「堅実なような。そうでないような。」
アライアスは、クビを傾げて、ドロシーを見やった。
「ジウルというオトコは、そこまでおぬしを待ってくれるのか?」
「あ、いえ、違いますよ。結婚する相手は、わたしの幼なじみで、主家のお坊ちゃんです。いまは冒険者学校の同級生ですね。」
アライアスはわけがわからん、という顔をした。
「そこいらの、恋愛感情はどう働いているのだ?」
「結婚予定のマシューは、わたしがいないとなんにもできないので、これからもずっと支えてやりたいと思ってます。」
「ジウルは?」
「愛してはくれてるんでしょうが、対話だ足りてませんね。結局よくは分からずじまいでした。」
「なら、ハロルドのこともわかれ。」
アライエスは、笑みを含んでそう言う。
「当たり前に釣り合うだけが、恋愛の対象ではないのだ。」
「閣下。」
「ミーアと呼べ、ドロシー。」
「・・・・わかりました、ミーア様。」
単刀直入に言ったほうがいい。
ドロシーは、アライアスが嫌いではなかった。いろいろなもの。例えば、ルトとか、例えばジウルとか、あるいは組織ならば「踊る道化師」とか、優先すべきものはたくさんあった。その中には、「仕掛け屋」から一方的で、正直ありがた迷惑な友誼もあったかもしれない。
それでも、ドロシーはアライアスに無惨な死が訪れることは望まなかった。
「仕掛け屋は、ミーアさまを疑っております。」
おどろいたように、アライアスは、体をのけぞらせた。
「いったいどういうことだ!?」
「無惨なほどに、だめな演技です。」
ドロシーは、淡々と言った。
「わたしの存じ上げている高貴なる人々の間でも、『びっくり』がそこまで下手な方はいらっしゃいませんでした。」
諦めたように、アライアスは笑った。
「なぜ? と一応はきいておこうか。」
「神子がどんなものか、仕掛け屋はわかっています。」
「ああ・・・・」
アライアスは、恥ずかしそうに耳をかいた。
「わたしの熱演が、かえって仇になったか。」
「神を地上に下ろすための依代。
だが、そんな魔法は、教皇院といえども使えるはずがない。」
「そうだ。これには、よいめんもある。つまり、自我を食い殺され、神の依代にされた神子なんて誰もいなかったのだ。」
「ならば、なぜ、ハロルド様を殺害しようとするのでしょうか?」
ドロシーは、尋ねた。
「ふむ。おまえはどう考える? いや・・・仕掛け屋はどう考えているのだ?」
「政治的な理由、あるいはミーア様ご自身の嫉妬からくるものだと。そしてそれは、彼らにとっては『裏切り』と受け止められます。すなわち。」
ドロシーは、アライアスを睨んだ。女大貴族はドロシーの視線を平然と受け止めた。
「裏切ったあなたに対して、仕掛けが行われる可能性があります。」
「それは困るな。」
平然とアライアスは、答えた。
「わたしは、少なくとも息子が成人するまでは、長生きしたいのだ。できれば、孫の顔も見たい。」
ドロシーは、アライアスの入れてくれたお茶を眺めた。
美味しそうに湯気を立てているが、飲みのは諦めた。なんとなく、毒でも盛られているような気がしたのだ。
「ならば、今一度、仕掛け屋との会談の機会を。渡りは、わたし・・・わたしたち『踊る道化師』がつけましょう。」
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