婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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クローディア大公の結婚式

アライアス閣下の事情

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ドロシーは、リクにアライアス家の屋敷近くまで、送ってもらった。
実際に、腕に少々覚えが出てきて困っているドロシーも、その方がありがたい。その程度には、このあたりも治安は良くないのだ。

“もし、故意に侯爵閣下が、事実と違うことを話して、仕掛け屋を雇おうとしたら?”
「元締め」という一段上の立場にいるという「仕掛け屋」ナザクにそう問われたドロシーは、即座に「侯爵閣下を仕掛けの対象にするということになるのでしょうね。」と答えてナザクを破顔させた。

“わかってるじゃないか。いい子だよ、ギン。”
“当たり前でしょう。わたしが選んだ子ですから。”

まだ、仕掛け屋になるかどうか、返答はしない、と、はっきりドロシーが言っても、ナザクの上機嫌はそのままだった。
このまま、ずるずると「仕掛け屋」にされてしまうのだろうか。

「殺人」も含むであろう「仕掛け」自体に、ドロシーは強い抵抗感がある。もともと、巻き込まれてランゴバルド冒険者学校に入学させられ、巻き込まれて、神竜騎士団と戦い、「神竜の鱗」の盗難騒ぎにも巻き込まれ、グランダ魔道院との対抗戦に駆り出され、さらにあれやこれやがあって、今ここにいるのである。

そして、この先はランゴバルド冒険者学校に戻るか、リウと一緒に、カザリームに旅に出るかの二択を迫られている。
ランゴバルドに戻れば、たぶん、それなりに平穏な日々が待っている。
(だろうと思う!いくらなんでも!)

リウは、未知数だ。
彼の正体が、千年前に人類を滅ぼしかけた魔王バズス=リウその人だということは、知っていた。多分、とんでもない力を持っているのだろう。そして、性格も悪い。いや、歴史上の王様たちに比べれば、格段に悪いわけではないのかもしれないが、平凡な町娘のドロシーからすれば、そばにいたくはない存在だ。

もし仮に、あのまま、魔法学校に通っていたらどうなっていただろう。

魔道士としては、そこそこ優秀である、とドロシーは自負している。
浮気癖による多少のもつれは、あったにしてもそこそこに自分に釣り合った男を捕まえて、平凡で福々しい人生を歩んだのだろう、と思う。
だが、いくつかの偶然が、彼女を「銀雷の魔女」に仕立て上げた。

屋敷に戻ると、さっそく、アライアス侯爵に呼ばれた。
神子殺しの件かと、思ったが話題は、クローディア大公の結婚式の件だった。もともとその打ち合わせのためにドロシーは、ガルフィート伯爵に呼ばれたのである。

誰の目があるかわからない。屋敷の中では、その話は避けるべきだろう。
アライアス侯爵は、ドロシーが、ガルフィート伯爵から預かった書類を受け取ると、ざっと目を通した。

少なくとも、アライアスもガルフィートも仕えやすい主人ではある。
過度に残酷ではないし、本人自身が有能であり、少なくともこうして、預かった書類を渡すのに要約書をつけたり、長々と説明をする必要がない。
読み終えたアライアスは、顔を上げた。

「会場の候補は、サブリア公園か、ペルトラン大聖堂にしよう。」

ドロシーも頷いた。実際のところ場所はその二つだろうと思われた。
聖人ベルトランを祀ったベルトラン大聖堂は、教皇庁の保有物ではないので、借りるためには多額の費用が必要になる。
サブリア公園は、こういった式典に対応できる作りになっていて、借りることに費用はかからないが、野外のスペースのため、天候の問題がついて回る。

「伯爵閣下もそのように、おっしゃっていました。」
「ドロシー嬢は、どのように考える?」
「天候の問題さえなければ、サブリア公園を、推奨いたします。」
「ふむ、理由は?」
「新しいオールべ伯爵の、披露目のためです。列席者以外の民衆にも、その姿を見て欲しいのです。」

なるほど。
と、アライアス侯爵は、考え込んだ。

「その方向で検討しようと思う。ほかには?」
「申し訳ありません。」

と、ドロシーは、頭を下げた。

「参考にさせていただこうと、ガルフィート伯爵閣下とアライアス閣下のご結婚式のお話をお聞きしたところ‥‥」
「なるほど…」

アライアスは、苦笑した。

「どちらもあまり、参考にならぬかもしれないな。」
「個人的なご事情に、立ち入るつもりはなかったのですが。」

こういったことは、使用人同士から噂話で伝わるものである。正直に言ってしまったほうがよい場合が多い。貴族の使用人の親元で育ったドロシーは、ここいらの機微は心得ていた。

「ところで、クローディア大公陛下も、奥方のアウデリアさまは、超一流の冒険者とはいえ、庶民なのですが。」
「アウデリア殿は、中原で侯爵位をお持ちだ。」

ドロシーは目を見開いた。
「初めて伺いました。」
「実質的には、領地の運営は、代官がやっているはずだ。だが、シルマリル侯爵といえば、歴史ある名家でな。いわゆる家柄ならば、それで十分なのだ。」

アライアスは、周りを見回してから、呪文を唱えた。
風の魔法を展開し、音を遮断する。

「さて、ハロルドのことを少し話しておくかな。」


 
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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