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クローディア大公の結婚式

滑稽なる現実

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いまの話のどこに、笑う要素があったのか。
と、ドロシーはガルフィートを睨んだ。

ドロシーの大声に飛んできた召使いたちを下がらせて、カルフィートは、身を乗り出した。
や、やる気かっ!

代々、ガルフィート伯爵家は剣の家系である。
実際に、その技の冴えは、大聖堂で蜘蛛と戦った時に見ていた。

だが、そうではなかった。
ガルフィートは、目上のものだけがだせる鷹揚な笑顔で、まず落ち着くようにドロシーに告げた。
「どうもきみたちは、特殊すぎてね。」
と、彼は言った。
「同じ高位貴族と話しているような気になっていた。きみ自身は、ランゴバルドの生まれのランゴバルド育ち、平民の家庭で敬虔な聖光教徒として育った。」

友だちに邪神がいて敬虔な教徒もないものだが、そこは素直に頷いた。

「しかし、一方で否応なしに気がついている現実もあるわけだ。
ご存知の通り、『勇者』と『神子』は聖光教の正当性を主張するための二枚看板となっている。
勇者クロノとは面識はあったな?」
「はい、挨拶程度は。」
「きみのお仲間は彼をなんと言っていた?」
「それは…まだ成長途中ですが、素晴らしい才能を持っている、と。
さすがは、初代勇者の記憶を受け継いだ本当の生まれ変わり…」

ドロシーは押し黙った。

「ということだ。クロノは実に一千年ぶりの勇者の本当の生まれ変わりなのだよ。
つまり、それ以外の『勇者の生まれ変わり』はなんなのだ、ということになるよね。」

ここらは、わかっていてもあまり大っぴらに話すことでは無いんだが。
と、ガルフィートは小声になった。

「人の体に神を下ろすなんて魔術が、そう簡単に構築できると思うかね。」

ドロシーも魔道士として学んだものだった。ある程度の常識は、ある。
「もちろん、神の同意がなければ、無理ですが。
仮に神をおろしたら、その人間の心も体も瞬時に砕けてなくなります。」

例外はない。
例えば、だが、あのドロシーが大好きな少年魔導師はどうだろう。
彼のキャパシティならば、神の能力をその身に宿すことは、理屈上は可能かもしれない。
だが、神は人ではない。
途方もなく、異形な存在だ。例え、器の容量が十分でも、内容物に器そのものが耐えきれなくなる。

唯一の例外をドロシーは知っていた。

邪神ヴァルゴールとアキルである。
ヴァルゴールは、自分自身の経験値の中に、「人として人生を送ること」取り込むために、自分が降臨するための器を用意した。

用意されたのは、ヴァルゴールが「神」となる前の人間の時の自分そのもの。
異世界から召喚した勇者アキルである。
神の降臨とはそこまでして初めて達成できることなのだ。
だが、他ならぬ、教皇庁様なのだから、なんだか、その門外不出の秘術を持って、それをおこなっているのだと。
一応は、信徒であるドロシーは、漠然とそんなふうに理解していた。

「教皇庁ならではの秘儀でもあると、思っていてくれたのなら、信徒としては正しい在り方なのだろうが、残念ながら、実情はかけ離れている。
歴代の勇者の生まれ変わりと、同じ程度の代物だよ、神子は。」

「そ、それでは・・・・」

「もともとは、約300年ばかり前に、勇者に指名した男が、あまりにも無茶をやりすぎたらしい。歴史書には残っていない人物だから、名前は伏せるよ。
仮にも勇者と、教皇庁で指名してしまった存在なので、ギウリーク聖帝国でも有効な処置が取れずにいた。
そこで、我らの『神』に地上に顕在していただいて、これを正そうとしたのが、『神子』の始まりだ。
つまり、冒頭から完全に政治の代物だったのだよ、神子という制度は。」

「で、ではハロルドさまは・・・」

「ああ、一応まだ神子はやっているよ。」
ガルフィートは軽々とそう言った。
「任期は大体、10年から20年かな。神の健在した姿だから、腰が曲がったり、腰痛、膝痛にやなんだりする姿は見せられないんだ。あまり老け込んでくると交代なんだが、あの様子だとまだまだ大丈夫じゃないかな?
あいも変わらず、若い女性にモテまくっている。なにしろ、見た目もいいし、経済的にもそんじょそこら貴族の比ではないからな、神子は。」

「そ、それは」
狼狽してドロシーは叫んだ。
「みんな知ってることなんですか?」

「知るはずがないだろう? いやなんとなくの胡散臭さは、感じていても実際に口に出したりはしないものさ。
ギウリーク以外だと、なおさら、だろうね。
勇者とは違って、神子は、勇者が暴走して時の安全弁みたいなものだ。あまり、大衆人気もないし、関心も薄いからね。」

訳がわからない。

「でも、行動は制限されているのですよね!?」
「そうでもないぞ。もちろん、『神子』が出席しなければならない式典はあるし、その打ち合わせなどが毎日のようにあるから、暇というほどではないが。
住む場所も、決められているが、教皇庁の上級職員として、自由に外出はできる。
退職した後も、年金はかなりの額が出る。ハロルドは、適当に遊んでいるが、中には在職中に、結婚して子を成した神子もいたはずだ。正式な結婚ではないし、一緒に暮らすことは在職中は難しいが、退職後も生活に困らない程度の年金も出るし、まあ、割のいい仕事ではあるな。」

「しかし・・・アライアス閣下は。」
「ミーアに何か吹き込まれたのだな。」

ガルフィートはため息をついた。

「確かに、用済みの種馬としてアライアス家で、飼い殺しにされるべきであったと思うぞ。
だが、刺客まで使ってハロルドを亡き者にしようとしたのはアライアスの家だ。
それを止められなかったのは、当主であるミーアの責任だ。
それをまた一概に『悪』と断じることができないのが、貴族社会なのだが、な。

アライアス家は見目の良い後取りをもうけ、どこの馬の骨とも知らぬ男を追い出せた。
追い出された男は、アライアス家で肩身の狭い思いをしながら、暗殺の危険に怯える代わりに、裕福で自由な人生を楽しんでいる。
正直、市井に生まれ育ったドロシー嬢には、わかりにくいとは思うのだが。
世の中には、もっと悪いことだってたくさんあるのだよ。
ミーアとハロルドの件は、まあ、綺麗に片付いた方なんだ。」


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