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魔道院始末
ジジイとひまご
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「おじい…さま?」
病室に寝かされていたアフラは、ジウルの顔を見ると、無理やり体を起こした。
「治癒促進はやりすぎんほうがいい。」
ぶっきらぼうにさえ聞こえる声で、それだけ言うと、アフラの額に手を当てる。
アフラはほっとしたように、目を閉じた。
「ああ、痛みが、遠のいていきます。」
「いや、手を当てているだけだ。なんの術式も使っておらん。」
はあ。
安心したように、アフラは息を吐いた。
「手の感触は覚えています。」
目を閉じたまま、アフラは言った。
「確かに、あなたはおじいさま、だ。」
「アフラよ。」
ジウルは、できるだけ落ち着いた声で言った。
「おまえが行こうとしている道は、間違っていない。
アフラは、布団を頭まで持ち上げた。
すすり泣く声が聞こえる。
「なぜ、突然、魔道院を・・・・」
それを言われると、ジウルも困る。
「おじいさまのもとで魔道に研鑽する日を夢見ておりましたのに・・・」
「わしは教育者には向いておらんと、さ。」
「だ、誰がそのような失礼なことを! 僕の呪い蛇で喉首を締め上げてやります!」
アフラが「呪い蛇」と称したのは、影魔法の一種だった。アフラとは相性がよかったのか、無詠唱で使えるようになるのは早かった。
相手を拘束するための魔法だったが、アフラはもっぱら、直接相手の首を絞めるのに使用していた。
「おまえのそう言うところだそうだ。」
「は・・・」
「まず、相手に暴力で訴える。」
「しかし」
「初手から全力でかかることは、決して悪いことではないが、影蛇は容易に相手の命を奪ってしまう。
時と相手をよく見て使うことだな。
手塩にかけたおまえが、そんなふうに育ってしまったので、言われたセリフだ。」
「だれにです・・・まさか」
「ハルト王子だな。」
アフラは、顔色をかえた。
彼が、王立学院、卒業間際の、アフラが入院に追い込まれ、魔道院への進学が遅れたハルト王子との一戦のためだった。
アフラの放った影蛇は、返され、アフラを失神に追い込んだ。
入院が長引いたのは、肉体的なダメージよりも精神的なショックのせいだった。
彼は死にかけたのだ。
公爵家の血を引く神童アフラが!
あやうく殺されかけたのだ。そのショックは、彼の心を蝕み、まともに眠れるようになるまで、まともに食事がとれるまで、ひと月以上、かれは入院生活をおくるはめになったのだった。
もともと、彼がはなった魔法を返されただけであったし、いくら公爵家が高位貴族だと、まくし立てても、相手が王子さまでは、権威をひけらかすこともできない。
まあまあ。
と、暗黒面におちそうになるアフラを、ジウルは誤魔化した。
「もともとが、教育者、というよりも、魔道の追求者として、あるいは魔道院という組織の長としての意識が強かったことは、否定できんな。」
ジウルは、独り言のように言った。
「そんなおり、魔道と拳法の融合という新しい研究材料を見出してな。
しばらく、組織から離れ、1人の、求道者として生きてみたくなってのだ。
おまえとは、入れ違いになるが、魔道院を離れた、という訳だ。」
アフラは、ぐすぐすとすすり泣いた。
「お、おじいさまが、若い女にうつつを抜かして、魔道院を離れたのだ、とそんな噂を耳にしました。」
そう言ってからアフラは慌てて付け加えた。
もちろん、ぼくはそんな噂、まったく信じていませんけどっ!
すまん!
ジウルは心の中でだけ、頭を下げた。
それはまったく、本当のことなのだ。
アフラが大丈夫そうなら、ドロシーのところに戻らねば。
一応、別れた女なのだ。
今回も無理やり、グランダに連れてきている。
おそらくは、ギムリウスが迎えに来るだろう。
一緒にいられる時間は、それほど長く取れない。
病室に寝かされていたアフラは、ジウルの顔を見ると、無理やり体を起こした。
「治癒促進はやりすぎんほうがいい。」
ぶっきらぼうにさえ聞こえる声で、それだけ言うと、アフラの額に手を当てる。
アフラはほっとしたように、目を閉じた。
「ああ、痛みが、遠のいていきます。」
「いや、手を当てているだけだ。なんの術式も使っておらん。」
はあ。
安心したように、アフラは息を吐いた。
「手の感触は覚えています。」
目を閉じたまま、アフラは言った。
「確かに、あなたはおじいさま、だ。」
「アフラよ。」
ジウルは、できるだけ落ち着いた声で言った。
「おまえが行こうとしている道は、間違っていない。
アフラは、布団を頭まで持ち上げた。
すすり泣く声が聞こえる。
「なぜ、突然、魔道院を・・・・」
それを言われると、ジウルも困る。
「おじいさまのもとで魔道に研鑽する日を夢見ておりましたのに・・・」
「わしは教育者には向いておらんと、さ。」
「だ、誰がそのような失礼なことを! 僕の呪い蛇で喉首を締め上げてやります!」
アフラが「呪い蛇」と称したのは、影魔法の一種だった。アフラとは相性がよかったのか、無詠唱で使えるようになるのは早かった。
相手を拘束するための魔法だったが、アフラはもっぱら、直接相手の首を絞めるのに使用していた。
「おまえのそう言うところだそうだ。」
「は・・・」
「まず、相手に暴力で訴える。」
「しかし」
「初手から全力でかかることは、決して悪いことではないが、影蛇は容易に相手の命を奪ってしまう。
時と相手をよく見て使うことだな。
手塩にかけたおまえが、そんなふうに育ってしまったので、言われたセリフだ。」
「だれにです・・・まさか」
「ハルト王子だな。」
アフラは、顔色をかえた。
彼が、王立学院、卒業間際の、アフラが入院に追い込まれ、魔道院への進学が遅れたハルト王子との一戦のためだった。
アフラの放った影蛇は、返され、アフラを失神に追い込んだ。
入院が長引いたのは、肉体的なダメージよりも精神的なショックのせいだった。
彼は死にかけたのだ。
公爵家の血を引く神童アフラが!
あやうく殺されかけたのだ。そのショックは、彼の心を蝕み、まともに眠れるようになるまで、まともに食事がとれるまで、ひと月以上、かれは入院生活をおくるはめになったのだった。
もともと、彼がはなった魔法を返されただけであったし、いくら公爵家が高位貴族だと、まくし立てても、相手が王子さまでは、権威をひけらかすこともできない。
まあまあ。
と、暗黒面におちそうになるアフラを、ジウルは誤魔化した。
「もともとが、教育者、というよりも、魔道の追求者として、あるいは魔道院という組織の長としての意識が強かったことは、否定できんな。」
ジウルは、独り言のように言った。
「そんなおり、魔道と拳法の融合という新しい研究材料を見出してな。
しばらく、組織から離れ、1人の、求道者として生きてみたくなってのだ。
おまえとは、入れ違いになるが、魔道院を離れた、という訳だ。」
アフラは、ぐすぐすとすすり泣いた。
「お、おじいさまが、若い女にうつつを抜かして、魔道院を離れたのだ、とそんな噂を耳にしました。」
そう言ってからアフラは慌てて付け加えた。
もちろん、ぼくはそんな噂、まったく信じていませんけどっ!
すまん!
ジウルは心の中でだけ、頭を下げた。
それはまったく、本当のことなのだ。
アフラが大丈夫そうなら、ドロシーのところに戻らねば。
一応、別れた女なのだ。
今回も無理やり、グランダに連れてきている。
おそらくは、ギムリウスが迎えに来るだろう。
一緒にいられる時間は、それほど長く取れない。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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