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魔道院始末
勝利への布石
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ふうっと息を一つ吐いてから、ジウルは、拳を腰だめに構えた。
「ちょいと見せといてやろうか。あんまり不意打ちで勝ってもあとで文句が出そうだからな。」
ふっ、ふっ、ふっ。
小刻みな呼吸で「気」をためていく。
エピオネルは、もう魔法のみで戦うことはやめたようだった。
キラキラと、見え隠れするのは「竜鱗」。
爪の先には、人間にはあり得ないような尖った歪曲した爪が生えている。すなわち「竜爪」。
ふうっと吐いた息に、朱色の炎が混じった。まさか・・・ブレス!!
ジャイロは、改めて空間隔離を命じた。竜のブレスを有効に防御する障壁はない。
位相を変えても、なおダメージが通るのが、竜のブレス。
その正体は、己の牙を魔法陣に見立てての放出系の魔法である。
ジャイロは、ボルテックに祈った。
傲岸不遜。我儘のかぎりを尽くすボルテックならば、竜のブレスで魔道院が吹き飛ぶなどということは許せないはずだ。
「いやあっあああああっぁああああ」
みょうに間伸びした声で、振りかぶった拳は、「脱力」という点からは、シホウから見ても見事なものだった。
余計な力みのない打撃は、その威力を体組織の奥まで浸透させる。
だが、それは、実際に水袋と言っていい人間の体が相手だった場合だ。
竜の体は?
あるいは人化した状態ならば、同じように打撃は通るのだろうか?
だが、その前に。
チラチラと、エピオネルの胸部に光るものがある。
「竜鱗」。
魔力だけでも力だけでも貫くことは、できない。
ドラゴンスレイヤーの名を冠する武具は、必ずその両方を兼ね備えている。そして、生身の人間は、どこまで鍛え上げたところで武具にはならない。
だから、ジウルのパンチはそれが、威力のあるものであれば、それだけ、己の拳を砕くだけの結果となる。
・・・はずだった。
エピオネルが、咄嗟に回避を選んだのは偶然だったかもしれない。
「おや?」
ジウルが笑った。
「飛翔な人間の拳など、通用するはずもないのに避けるか?」
エピオネルは、再び、風の刃を作り出した。だが、今度は飛ばさない。
斬撃そのものを転移させて、ジウルの体の周りに出現させる。
先のような衝撃で、制御を見出すことも叶わぬ。絶体の攻撃。のはずだった。
誰が考える。
転移させた斬撃をまた転移させるなど。
転移魔法そのものが、人間にとっては使うものも稀な魔法である。魔力量もさることながら、並列して行わなければならないことが多すぎるのだ。
人類の脳は、それに耐えるようにはできていない。
ごく少数の例外を除けば。
エピオネルの周りに再出現した風の刃を無視して、エピオネルは突っ込んだ。
おそらく、エピオネルが避けるか、防ぐか。何らかのアクションを起こす瞬間をスキとして、ついてくるのだろう。その手は食わない。
突っ込んだエピオネルに、待ち構えていたような大ぶりのパンチ。
エピオネルは大きく体勢を崩して、それを避けた。
にゅるん。
としか言いようのないタイミングで、ジウルの次のパンチがくる。
避けるのは簡単だ。
だが、そこからの反撃が難しい。
炎の剣を作ろうと、右手に集中させた魔力が暴走。爆発した剣が、手を炎で焼いた。
「魔力干渉・・・・か。」
飛び下がりながら、エピオネルはうめく。可愛らしい顔は、脂汗に塗れていた。
「炎の剣如きで、そんなに長々と詠唱していては。」
ジウルは、やれやれ、と言わんばかりに首を振った。
「干渉してくれ、と言ってるようなものだぞ。」
ならば、切り裂く!
エピオネルは、肉弾戦でケリをつけようと、爪を伸ばして踊りかかった。そこにまたあの妙なタイミングの大ぶりのパンチ。
ギリギリでかわす・・・・わずかに掠めたそのパンチが、エピオネルの竜鱗を粉々に打ち砕いていた!
「ちょいと見せといてやろうか。あんまり不意打ちで勝ってもあとで文句が出そうだからな。」
ふっ、ふっ、ふっ。
小刻みな呼吸で「気」をためていく。
エピオネルは、もう魔法のみで戦うことはやめたようだった。
キラキラと、見え隠れするのは「竜鱗」。
爪の先には、人間にはあり得ないような尖った歪曲した爪が生えている。すなわち「竜爪」。
ふうっと吐いた息に、朱色の炎が混じった。まさか・・・ブレス!!
ジャイロは、改めて空間隔離を命じた。竜のブレスを有効に防御する障壁はない。
位相を変えても、なおダメージが通るのが、竜のブレス。
その正体は、己の牙を魔法陣に見立てての放出系の魔法である。
ジャイロは、ボルテックに祈った。
傲岸不遜。我儘のかぎりを尽くすボルテックならば、竜のブレスで魔道院が吹き飛ぶなどということは許せないはずだ。
「いやあっあああああっぁああああ」
みょうに間伸びした声で、振りかぶった拳は、「脱力」という点からは、シホウから見ても見事なものだった。
余計な力みのない打撃は、その威力を体組織の奥まで浸透させる。
だが、それは、実際に水袋と言っていい人間の体が相手だった場合だ。
竜の体は?
あるいは人化した状態ならば、同じように打撃は通るのだろうか?
だが、その前に。
チラチラと、エピオネルの胸部に光るものがある。
「竜鱗」。
魔力だけでも力だけでも貫くことは、できない。
ドラゴンスレイヤーの名を冠する武具は、必ずその両方を兼ね備えている。そして、生身の人間は、どこまで鍛え上げたところで武具にはならない。
だから、ジウルのパンチはそれが、威力のあるものであれば、それだけ、己の拳を砕くだけの結果となる。
・・・はずだった。
エピオネルが、咄嗟に回避を選んだのは偶然だったかもしれない。
「おや?」
ジウルが笑った。
「飛翔な人間の拳など、通用するはずもないのに避けるか?」
エピオネルは、再び、風の刃を作り出した。だが、今度は飛ばさない。
斬撃そのものを転移させて、ジウルの体の周りに出現させる。
先のような衝撃で、制御を見出すことも叶わぬ。絶体の攻撃。のはずだった。
誰が考える。
転移させた斬撃をまた転移させるなど。
転移魔法そのものが、人間にとっては使うものも稀な魔法である。魔力量もさることながら、並列して行わなければならないことが多すぎるのだ。
人類の脳は、それに耐えるようにはできていない。
ごく少数の例外を除けば。
エピオネルの周りに再出現した風の刃を無視して、エピオネルは突っ込んだ。
おそらく、エピオネルが避けるか、防ぐか。何らかのアクションを起こす瞬間をスキとして、ついてくるのだろう。その手は食わない。
突っ込んだエピオネルに、待ち構えていたような大ぶりのパンチ。
エピオネルは大きく体勢を崩して、それを避けた。
にゅるん。
としか言いようのないタイミングで、ジウルの次のパンチがくる。
避けるのは簡単だ。
だが、そこからの反撃が難しい。
炎の剣を作ろうと、右手に集中させた魔力が暴走。爆発した剣が、手を炎で焼いた。
「魔力干渉・・・・か。」
飛び下がりながら、エピオネルはうめく。可愛らしい顔は、脂汗に塗れていた。
「炎の剣如きで、そんなに長々と詠唱していては。」
ジウルは、やれやれ、と言わんばかりに首を振った。
「干渉してくれ、と言ってるようなものだぞ。」
ならば、切り裂く!
エピオネルは、肉弾戦でケリをつけようと、爪を伸ばして踊りかかった。そこにまたあの妙なタイミングの大ぶりのパンチ。
ギリギリでかわす・・・・わずかに掠めたそのパンチが、エピオネルの竜鱗を粉々に打ち砕いていた!
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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