210 / 248
魔道院始末
勝利への布石
しおりを挟む
ふうっと息を一つ吐いてから、ジウルは、拳を腰だめに構えた。
「ちょいと見せといてやろうか。あんまり不意打ちで勝ってもあとで文句が出そうだからな。」
ふっ、ふっ、ふっ。
小刻みな呼吸で「気」をためていく。
エピオネルは、もう魔法のみで戦うことはやめたようだった。
キラキラと、見え隠れするのは「竜鱗」。
爪の先には、人間にはあり得ないような尖った歪曲した爪が生えている。すなわち「竜爪」。
ふうっと吐いた息に、朱色の炎が混じった。まさか・・・ブレス!!
ジャイロは、改めて空間隔離を命じた。竜のブレスを有効に防御する障壁はない。
位相を変えても、なおダメージが通るのが、竜のブレス。
その正体は、己の牙を魔法陣に見立てての放出系の魔法である。
ジャイロは、ボルテックに祈った。
傲岸不遜。我儘のかぎりを尽くすボルテックならば、竜のブレスで魔道院が吹き飛ぶなどということは許せないはずだ。
「いやあっあああああっぁああああ」
みょうに間伸びした声で、振りかぶった拳は、「脱力」という点からは、シホウから見ても見事なものだった。
余計な力みのない打撃は、その威力を体組織の奥まで浸透させる。
だが、それは、実際に水袋と言っていい人間の体が相手だった場合だ。
竜の体は?
あるいは人化した状態ならば、同じように打撃は通るのだろうか?
だが、その前に。
チラチラと、エピオネルの胸部に光るものがある。
「竜鱗」。
魔力だけでも力だけでも貫くことは、できない。
ドラゴンスレイヤーの名を冠する武具は、必ずその両方を兼ね備えている。そして、生身の人間は、どこまで鍛え上げたところで武具にはならない。
だから、ジウルのパンチはそれが、威力のあるものであれば、それだけ、己の拳を砕くだけの結果となる。
・・・はずだった。
エピオネルが、咄嗟に回避を選んだのは偶然だったかもしれない。
「おや?」
ジウルが笑った。
「飛翔な人間の拳など、通用するはずもないのに避けるか?」
エピオネルは、再び、風の刃を作り出した。だが、今度は飛ばさない。
斬撃そのものを転移させて、ジウルの体の周りに出現させる。
先のような衝撃で、制御を見出すことも叶わぬ。絶体の攻撃。のはずだった。
誰が考える。
転移させた斬撃をまた転移させるなど。
転移魔法そのものが、人間にとっては使うものも稀な魔法である。魔力量もさることながら、並列して行わなければならないことが多すぎるのだ。
人類の脳は、それに耐えるようにはできていない。
ごく少数の例外を除けば。
エピオネルの周りに再出現した風の刃を無視して、エピオネルは突っ込んだ。
おそらく、エピオネルが避けるか、防ぐか。何らかのアクションを起こす瞬間をスキとして、ついてくるのだろう。その手は食わない。
突っ込んだエピオネルに、待ち構えていたような大ぶりのパンチ。
エピオネルは大きく体勢を崩して、それを避けた。
にゅるん。
としか言いようのないタイミングで、ジウルの次のパンチがくる。
避けるのは簡単だ。
だが、そこからの反撃が難しい。
炎の剣を作ろうと、右手に集中させた魔力が暴走。爆発した剣が、手を炎で焼いた。
「魔力干渉・・・・か。」
飛び下がりながら、エピオネルはうめく。可愛らしい顔は、脂汗に塗れていた。
「炎の剣如きで、そんなに長々と詠唱していては。」
ジウルは、やれやれ、と言わんばかりに首を振った。
「干渉してくれ、と言ってるようなものだぞ。」
ならば、切り裂く!
エピオネルは、肉弾戦でケリをつけようと、爪を伸ばして踊りかかった。そこにまたあの妙なタイミングの大ぶりのパンチ。
ギリギリでかわす・・・・わずかに掠めたそのパンチが、エピオネルの竜鱗を粉々に打ち砕いていた!
「ちょいと見せといてやろうか。あんまり不意打ちで勝ってもあとで文句が出そうだからな。」
ふっ、ふっ、ふっ。
小刻みな呼吸で「気」をためていく。
エピオネルは、もう魔法のみで戦うことはやめたようだった。
キラキラと、見え隠れするのは「竜鱗」。
爪の先には、人間にはあり得ないような尖った歪曲した爪が生えている。すなわち「竜爪」。
ふうっと吐いた息に、朱色の炎が混じった。まさか・・・ブレス!!
ジャイロは、改めて空間隔離を命じた。竜のブレスを有効に防御する障壁はない。
位相を変えても、なおダメージが通るのが、竜のブレス。
その正体は、己の牙を魔法陣に見立てての放出系の魔法である。
ジャイロは、ボルテックに祈った。
傲岸不遜。我儘のかぎりを尽くすボルテックならば、竜のブレスで魔道院が吹き飛ぶなどということは許せないはずだ。
「いやあっあああああっぁああああ」
みょうに間伸びした声で、振りかぶった拳は、「脱力」という点からは、シホウから見ても見事なものだった。
余計な力みのない打撃は、その威力を体組織の奥まで浸透させる。
だが、それは、実際に水袋と言っていい人間の体が相手だった場合だ。
竜の体は?
あるいは人化した状態ならば、同じように打撃は通るのだろうか?
だが、その前に。
チラチラと、エピオネルの胸部に光るものがある。
「竜鱗」。
魔力だけでも力だけでも貫くことは、できない。
ドラゴンスレイヤーの名を冠する武具は、必ずその両方を兼ね備えている。そして、生身の人間は、どこまで鍛え上げたところで武具にはならない。
だから、ジウルのパンチはそれが、威力のあるものであれば、それだけ、己の拳を砕くだけの結果となる。
・・・はずだった。
エピオネルが、咄嗟に回避を選んだのは偶然だったかもしれない。
「おや?」
ジウルが笑った。
「飛翔な人間の拳など、通用するはずもないのに避けるか?」
エピオネルは、再び、風の刃を作り出した。だが、今度は飛ばさない。
斬撃そのものを転移させて、ジウルの体の周りに出現させる。
先のような衝撃で、制御を見出すことも叶わぬ。絶体の攻撃。のはずだった。
誰が考える。
転移させた斬撃をまた転移させるなど。
転移魔法そのものが、人間にとっては使うものも稀な魔法である。魔力量もさることながら、並列して行わなければならないことが多すぎるのだ。
人類の脳は、それに耐えるようにはできていない。
ごく少数の例外を除けば。
エピオネルの周りに再出現した風の刃を無視して、エピオネルは突っ込んだ。
おそらく、エピオネルが避けるか、防ぐか。何らかのアクションを起こす瞬間をスキとして、ついてくるのだろう。その手は食わない。
突っ込んだエピオネルに、待ち構えていたような大ぶりのパンチ。
エピオネルは大きく体勢を崩して、それを避けた。
にゅるん。
としか言いようのないタイミングで、ジウルの次のパンチがくる。
避けるのは簡単だ。
だが、そこからの反撃が難しい。
炎の剣を作ろうと、右手に集中させた魔力が暴走。爆発した剣が、手を炎で焼いた。
「魔力干渉・・・・か。」
飛び下がりながら、エピオネルはうめく。可愛らしい顔は、脂汗に塗れていた。
「炎の剣如きで、そんなに長々と詠唱していては。」
ジウルは、やれやれ、と言わんばかりに首を振った。
「干渉してくれ、と言ってるようなものだぞ。」
ならば、切り裂く!
エピオネルは、肉弾戦でケリをつけようと、爪を伸ばして踊りかかった。そこにまたあの妙なタイミングの大ぶりのパンチ。
ギリギリでかわす・・・・わずかに掠めたそのパンチが、エピオネルの竜鱗を粉々に打ち砕いていた!
0
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる