婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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魔道院始末

本気の本気

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「勝負あ・・・」
審判の手が上がりかけた。
別段、ノックダウンで勝敗が決するルールではない。だが。
今しがたエピオネルと名乗るこの冒険者の少女が、何か試合中に相手を殺すとか言っていた。

人を殺すための対抗戦ではない。
審判も、魔道院の職員の一人である。そのくらいの常識は持っていた。
それに、だ。

頭を闘技場の床にめり込ませているこの男は。
ひひ孫とかふざけたことを言ってるこの男は。
魔道院総帥、妖怪ボルテック卿だろう。

殺そうとしたりしたら、ボルテック卿が本気になるだろうが。

その前にとっとと、試合を終了させよう。
だが。
審判の足首を失神したはずの、ジウルがしっかりと掴んでいた。

「なあ。」
土塊を吐き出しながら、ジウルは身をおこした。笑っている。白い歯を見せて笑っている。
「なあ。これは奴の反則負けでいいよな?」

「どういう理屈です?」
審判は、やっぱりか、と思いながら聞き返した。
相変わらずだ。自分勝手でわがまま、そして傲岸不遜。
こればかりは、若返ろうが、魔道院を辞めようが、ひひ孫のいジウルとか名乗って心機一転拳法修行を始めようが、変わらないらしい。

「だってよお」
ヨッコラセ、とこれだけはジジくさい声をかけて、立ち上がったジウル・ボルテックに外傷らしい外傷は見当たらない。
「エピオネルのねーちゃんは、魔法だけで勝負するって約束したんだぜ。今の俺を殴ったのは魔法じゃねえよ、なあ?」

エピオネルは。
顔色ひとつ変えない。
だが、その目の奥に金褐色の輝きがチラついていた。

「いかんな!」
シホウがうめいた。

「うん、エピオネルが本気になった。」
ヨウィスが呟いた。

「なによ、そのくらい。」
ドロシーが胸をそびやかした。
「ジウルだって本気になったわ!」

ジャイロも同じ頃、同じことを考えいた。
だが、彼は実務家であり、野心にあふれた冒険者でもわがままな天才魔導師でも、その若い愛人でもない。

矢継ぎ早に下した命令は。
闘技場と観客席を隔てる障壁の強化。
同時に、闘技場を別空間へ移送し、これを隔離する。
救護班は? これは無駄かもしれないが、一応。

「さあて、仕切り直しだぜ、お嬢ちゃん。」
ジウルが、指を鳴らした。

「わたしはお嬢ちゃんではない、エピオネル。魔道を極めしものエピオネルだ。」

「そりゃ、竜魔法はそっちに分があるんだろうが、それ以外はどうかな?」

「貴様も。」
エピオネルの瞳の中に金褐色の輝きが燃え上がる。
「何か、隠し球があるのなら、早めに使っておけ。素粒子に分解してからでは、どんな拳技も使えんだろう?」





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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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