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魔道院始末
拳の限界
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「これから、我のすることを伝える。」
古竜エビオネルは、未だ静かに佇んでいた。
「わたしは、この身体を、攻撃にはつかわない。魔法攻撃のみでおまえと戦う。」
竜は、確かに魔力だけでも人間を遥かに上回っている。
儀礼魔法とか集合魔法と呼ばれる魔法陣と、複数の術者が合同で行う魔法を、無詠唱で連発できるのが古竜だ。
だが、それでもなお、その身体能力の凄まじさの方が、恐ろしいかもしれない。
竜の姿に変わらずとも、その力は人の体など、易々と引き裂く。ついでいうならば、その体を防御する竜鱗は、人化したままでも常時展開可能だった。
「俺は、魔力を使うぞ。」
若干すまなそうに、ジウルは言った。
「なにしろ、魔力で身体強化をかけなければ、相手もならないのだからな!」
「古竜・・・・エピオネル!」
「し、知っているの、ヨウィス!」
ヨウィスは、嫌そうにフードの中からドロシーを見上げた。
「・・・西域でも東部に伝承の残こる古竜だ。かつてあの地に存在したアバロンドとドルフレクサスの二つの国を滅ぼしたと言われている。」
「それって伝説の類ですよね、ヨウィス。」
ランゴバルドでは、真面目な学生だったドロシーは、人並みの歴史の知識はある。
アバロンドとドルフレクサスの二つの国は、西域東部の覇権を争って、互いに国力を落とし、共倒れになるような形で、周りの諸国の侵攻を受け併呑されたのだ。
「最後まで、抵抗したアバロンドの王と、少女の姿をとった古竜との悲恋が記されている。」
「それって、どんな。」
「知らない。」
「そ、そこまで知っててなぜ!?」
「イケオジと10代女子は、専門外。」
とヨウィスは、よくわからない答えをして、闘技場に目をやった。
「さて、今の妖怪爺殿は、イケオジというには若すぎるが・・・。」
エピオネルが瞬時に作り出したのは、無数の風の刃。
動きの速い相手には、魔導師がよく使う手段である。欠点としては、一撃必殺の威力がないために、厚い装甲や外皮をまとった生き物には、踏み込まれてしまうこと。
だが、踏み込まれたところで、エピオネルは古竜だ。
また、作り出した風の刃は、人間の魔導師が生み出す「それ」とは桁違いの威力を持っていた。
その風の刃が。
ドンッ!
ジウルの震脚一つで、その向きを変えた。
一斉に術者であるエピオネルに、襲い掛かる風刃。
エピオネルは、みじろひとつせず、左手を顔の横に上げた。風の刃がぴたりと止まり、再びジウルに向かう風の剣をジウルは、拳をずいっと差し出して、動きを止めた。
風の刃たちはジウルとエピオネルの間で、くるくると回転し始めた。
どちらがその制御を奪うのか。
せめぎ合いは、ジウルが、もう一度、足を地面に踏み込んだ瞬間に終わった。
全ての刃が砕け散るその中を、ジウルが距離を詰める。
繰り出される拳を、エピオネルはそのまま、左の掌で受けた。
バンッという鈍い音。
エピオネルは、ジウルの一撃の勢いを逃すように後ろに飛んだ。
「いい判断。」
ジウルの蹴りが、エピオネルの側頭部に伸びる。ガードしたその小柄な体が一回転して、地面に叩きつけられた。
「いけ! ジウル!」
見た目少々、いいおっさんが女の子を痛ぶっているようにも見えるやばい光景であるが、ドロシーは、手を握りしめて、ジウルを応援した。
天蓋付きのベッドに、ジャグジーのついたゆったり広めのバスのために。
「まずいな。」
シホウがボソリ、と言った。
ドロシーは、大男を見上げた。以前、シホウの技をみたドロシーは、技の組み立て流れ呼吸歩法全てが、ジウルよりも上だと思ったことがある。
「やっぱり?」
「わかるか? ドロシーとか言ったな。」
「はい。ジウルの攻撃は、全て流されています。まともに当たっているようでもジウルが練った魔力は届いていません。魔力が届かなければ」
「そうだな。竜鱗の防御に、素手の攻撃はまず、通用せんよ。」
言ってシホウは首を捻った。
「それがわからんジウルでもないと思うが。」
「最初の魔法攻撃のやり取りで、エピオネルはどんな魔法を紡げば、ジウルに効果があるのか計算できたと思います。
これは、エピオネルに、攻撃をさせないための攻撃。」
確かに。
ジウルの技は、切れ目なく続く。それはかつて魔王宮にて、リアモンドを相手に放った連続技をアレンジしたものだったかもしれない。
後ろに逃げても、横に移動しても、倒れようにも。
次々と繰り出される技に、翻弄されるエピオネル・・・ただし、彼女の防御の前に実際のダメージは皆無に等しいのだ。
「もういいぞ。」
エピオネルの細い腕が一振りされた。その一撃で。
ジウルは、地面に打ち込まれるように倒れた。
「意味ない攻撃だ。意味のない時間だ。おまえをこの試合中に殺せとの要望があったのは事実だが、おまえには殺す価値すらない。」
古竜エビオネルは、未だ静かに佇んでいた。
「わたしは、この身体を、攻撃にはつかわない。魔法攻撃のみでおまえと戦う。」
竜は、確かに魔力だけでも人間を遥かに上回っている。
儀礼魔法とか集合魔法と呼ばれる魔法陣と、複数の術者が合同で行う魔法を、無詠唱で連発できるのが古竜だ。
だが、それでもなお、その身体能力の凄まじさの方が、恐ろしいかもしれない。
竜の姿に変わらずとも、その力は人の体など、易々と引き裂く。ついでいうならば、その体を防御する竜鱗は、人化したままでも常時展開可能だった。
「俺は、魔力を使うぞ。」
若干すまなそうに、ジウルは言った。
「なにしろ、魔力で身体強化をかけなければ、相手もならないのだからな!」
「古竜・・・・エピオネル!」
「し、知っているの、ヨウィス!」
ヨウィスは、嫌そうにフードの中からドロシーを見上げた。
「・・・西域でも東部に伝承の残こる古竜だ。かつてあの地に存在したアバロンドとドルフレクサスの二つの国を滅ぼしたと言われている。」
「それって伝説の類ですよね、ヨウィス。」
ランゴバルドでは、真面目な学生だったドロシーは、人並みの歴史の知識はある。
アバロンドとドルフレクサスの二つの国は、西域東部の覇権を争って、互いに国力を落とし、共倒れになるような形で、周りの諸国の侵攻を受け併呑されたのだ。
「最後まで、抵抗したアバロンドの王と、少女の姿をとった古竜との悲恋が記されている。」
「それって、どんな。」
「知らない。」
「そ、そこまで知っててなぜ!?」
「イケオジと10代女子は、専門外。」
とヨウィスは、よくわからない答えをして、闘技場に目をやった。
「さて、今の妖怪爺殿は、イケオジというには若すぎるが・・・。」
エピオネルが瞬時に作り出したのは、無数の風の刃。
動きの速い相手には、魔導師がよく使う手段である。欠点としては、一撃必殺の威力がないために、厚い装甲や外皮をまとった生き物には、踏み込まれてしまうこと。
だが、踏み込まれたところで、エピオネルは古竜だ。
また、作り出した風の刃は、人間の魔導師が生み出す「それ」とは桁違いの威力を持っていた。
その風の刃が。
ドンッ!
ジウルの震脚一つで、その向きを変えた。
一斉に術者であるエピオネルに、襲い掛かる風刃。
エピオネルは、みじろひとつせず、左手を顔の横に上げた。風の刃がぴたりと止まり、再びジウルに向かう風の剣をジウルは、拳をずいっと差し出して、動きを止めた。
風の刃たちはジウルとエピオネルの間で、くるくると回転し始めた。
どちらがその制御を奪うのか。
せめぎ合いは、ジウルが、もう一度、足を地面に踏み込んだ瞬間に終わった。
全ての刃が砕け散るその中を、ジウルが距離を詰める。
繰り出される拳を、エピオネルはそのまま、左の掌で受けた。
バンッという鈍い音。
エピオネルは、ジウルの一撃の勢いを逃すように後ろに飛んだ。
「いい判断。」
ジウルの蹴りが、エピオネルの側頭部に伸びる。ガードしたその小柄な体が一回転して、地面に叩きつけられた。
「いけ! ジウル!」
見た目少々、いいおっさんが女の子を痛ぶっているようにも見えるやばい光景であるが、ドロシーは、手を握りしめて、ジウルを応援した。
天蓋付きのベッドに、ジャグジーのついたゆったり広めのバスのために。
「まずいな。」
シホウがボソリ、と言った。
ドロシーは、大男を見上げた。以前、シホウの技をみたドロシーは、技の組み立て流れ呼吸歩法全てが、ジウルよりも上だと思ったことがある。
「やっぱり?」
「わかるか? ドロシーとか言ったな。」
「はい。ジウルの攻撃は、全て流されています。まともに当たっているようでもジウルが練った魔力は届いていません。魔力が届かなければ」
「そうだな。竜鱗の防御に、素手の攻撃はまず、通用せんよ。」
言ってシホウは首を捻った。
「それがわからんジウルでもないと思うが。」
「最初の魔法攻撃のやり取りで、エピオネルはどんな魔法を紡げば、ジウルに効果があるのか計算できたと思います。
これは、エピオネルに、攻撃をさせないための攻撃。」
確かに。
ジウルの技は、切れ目なく続く。それはかつて魔王宮にて、リアモンドを相手に放った連続技をアレンジしたものだったかもしれない。
後ろに逃げても、横に移動しても、倒れようにも。
次々と繰り出される技に、翻弄されるエピオネル・・・ただし、彼女の防御の前に実際のダメージは皆無に等しいのだ。
「もういいぞ。」
エピオネルの細い腕が一振りされた。その一撃で。
ジウルは、地面に打ち込まれるように倒れた。
「意味ない攻撃だ。意味のない時間だ。おまえをこの試合中に殺せとの要望があったのは事実だが、おまえには殺す価値すらない。」
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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