婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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魔道院始末

古竜対魔拳士

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「ローデンとミシャル・グラントをひっばり出して一勝一敗」
アレフザードはうめいた。
いや、ミシャル・グラントのあれは勝ちと言って良いのか。
「実質二連敗だ。だが」

闘技場に佇む小柄な影を見ながら、アレフザードの顔には余裕が残っている。
「これで、二勝目は間違いない。人間ではエピオネルには絶対に勝てん。絶対に。そして」
ベテランの銀級冒険者の顔に、悪魔の笑みが浮かんだ。
「ボルテック卿の命もまた貰い受ける!」

「魔道神エピオネル。知らん名だな。」
ジウルは、ゆっくりと腕を回した。若い体というのは、欠点もある。例えば、感情が激しやすい、何かと性欲に引っ張られやすいなど、欠点だけあげれば、キリがない。特に自分の若い女に対する執着は、我ながらいやになってくるほどだ。
もし、若返る前の自分が、そんなことをしている魔道士を見かけたら、制裁の一つも行ったかもしれない。

ただ、十分にストレッチなどしなくても、関節がスムースに動いたり、これで終わりかと思ってもまだまだ体力が、体の奥から湧いてくるところなど、いいこともたくさんあった。

「魔導師ボルテック。」
エピオネルは子どものように小柄で、頭からマントをかぶっていた。
それは上半身をすっぽり覆っていて、性別を不明なものにさせていた。下半身は短いスパッツのようなものを履いていて、むき出しの足は、筋肉のない棒っきれのようで、ここでも性別はわからない。
「おまえに恨みがあるわけではない。」
言い訳をするように、気弱な口調で、エピオネルは言った。
「だが、あるところから、この対抗戦に託けて、おまえを殺してくれとの依頼があった。
いくつかの義理ゆえに、それを我は、果たさねばならぬ。」

「心配せんで、いいぞ。」
ジウル・ボルテックは笑った。
「俺は殺されても死なんからな。あと、俺は、魔導師ボルテックではなく、拳法家のジウル・ボルテックだ。
間違えるなよ。」

「戯言。」

エピオネルの体から、ゆらり、と湧き出たものが巨大な竜の顎門となって、ジウルを睥睨した。
「これは、面白い。」
ジウルは笑った。
「同じような効果のある術式は、20通り知っているが、これはどれにも当てはまらん。
ことによると、伝説にのみ存在する竜族の魔法か?」

「ボルテック。」
硬い声で、エピオネルが言った。
「無駄口は、微塵に咀嚼されてからほざけ!」

魔法の素養のない観客にすら、くっきりと見える形で、巨大な顎門は、ジウルの頭上から襲いかかった。
「咀嚼されたら、ほざけんだろうがっ」

腰を下ろしたジウルの頭上で、がちんと牙が噛み鳴らされた。
そのまま、ひねりを加えて、ジウルは拳を突き上げた。生身の体と、魔闘気で構成された顎門。当たっても普通なら、拳が砕けて終わりだった。
普通なら。

ジウルの魔力を流した一撃は、顎門を粉砕し、勢いのままに空に跳ね上がった。

「ジウル! いけ!」
ドロシーが叫んだ。
ジウルは、親指を立てた・・・・いいエガオってやつだった。

エピオネルは、己の魔道が作り出した竜の顎門が粉砕されたことに全く動揺はしていないようだった。

「なぜ、魔法を使わない。」
不満げな様子でそう言った。
「わたしは、人間界では、当代最強の魔導師と言われるボルテック卿と戦うために来たのだが。」

「ざぁんねんだな。」ジウルはニヤニヤとエピオネルを挑発するような笑いを続けている。「元魔道院の総帥ボルテック卿は、行方不明だ。俺はそのひひ孫で、ジウル・
ボルテックという。言っとくがひいひい爺さんよりは、百倍つええぜ?」

エピオネルは、マントを掴むと、それをむしりとった。
マントの下は、まるで普段着のようなピンクのパーカー。そこいらにいるようごくごく普通の10代前半の少女。
ただ、その金褐色の目は、見ているだけで、こちらを萎縮させるものがあった。
その左目のした。頬骨の部分に、キラキラと見え隠れする鱗のようなもの。

「リ、竜人なの!?」
ドロシーが叫んだ。竜の血をひく、と言われる竜人は、知力、魔力、体力共に普通の人間の数倍のポテンシャルを持つ。
さらに、強大な防御力を持つ竜鱗など、竜の持つ超常能力のいくつかを、確率は低いながら継承していることが多い。
勝てない相手ではない。
(ドロシー自身、竜人と戦って買ったことがある。)
だが、決して油断ができる相手ではないのだ。

「違うぞ、ドロシー。」
ヨウィスがボソボソと言った。

「おまえさん・・・・古竜か?」
闘技場内で、ジウルが楽しそうに叫んだ。
「人化した古竜だな!」

「奈落竜エピオネル。」
少女は、そう名乗った。
構えすら取らない。ぶらぶらと細っこい体の力を抜いたまま、そこに立っているだけだ。パーカーはやや袖が長く、少女の両手は袖口に隠れている。
だが、途端に生じた凄まじい竜の波動が、場内の全員を凍らせた。人間よりもはるかに格上の存在。その存在を目の当たりにするだけで、人の四肢は強張り、心は折れる。

「竜殺雷豪拳ジウル・ボルテック。」
ジウルも改めて名乗って、一礼を返した。

いい加減に自分の流派の名前くらい決めろ。
そう思ったのは、ドロシー、ヨウィス、シホウなどほんの数名だった。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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