206 / 248
魔道院始末
覇王と魔道
しおりを挟む
「むうっ!!!
ミシャル・グラントだとっ!」
「知っているのか、シライシ!」
「もと西域で暴れ回っていた傭兵団“双頭蛇”の団長です。傭兵に似合わぬ、多彩な用兵、粘り強い戦いで数多くの戦場で不敗を誇り、ついたあだ名が『小覇王』。
『ウロボロス鬼兵団』が台頭してきた時、交代するようにして団を解散し、冒険者に戻ったと聞きましたが…とんでもない大物をひっぱりだしたものです。」
そのころには、まだ現役の冒険者だったジャイロは、そこいらのいきさつは、シライシより詳しかったが
流石にフルプレートの全身鎧を身につけている訳では無い。
顔にはしわと、傷跡が目立つ。
髪は白髪混じりだったが、充分量があり、それを後ろに撫でつけていた。
腰の剣をさやごと外し、自分まえに突き立て、その束に手をかけ、ヨウィスを見たまま、身動ぎもしない。
このような大剣は、一対一の戦いには不向きなのだが、よほど、手に馴染んだ業物のなのだろう。
闘技場におりたってから、身動ぎすらしないその様子は、さすがに「覇王」を名乗る冒険者だった。
「次鋒戦、はじめ!」
その声をきいてなお、ミシャル・グラントは身動きひとつしなかった。
おそらく、最初に相手に動かせて、後の先を狙っているのだ。
いや、ヨウィスの小柄な体躯にはたして、攻撃してもいいものか戸惑っているのだ。
観客の意見はその二つに分かれた。
まだミシャル・グラントは、動かない。
流石に会場が、別の意味でざわざわし始め、審判は、ミシャルとヨウィスに戦うように促した。
対するヨウィスの答えは
「もう戦っている。」
というもので、ミシャル・グラントの答えは
「う、動けん・・・」
だった。
すでにミシャル・グラントの堂々たる体躯は、ヨウィスの糸で縛り上げられていたのである。
いつの間に!
ヨウィスの神業に観客が、ため息を漏らす中、審判が協議し
「勝者! ミシャル・グラント!」
なにがなんだかわからずにブーイングの嵐となる中、審判が歩み出て、説明した。
「ヨウィスの糸は、完全にミシャル・グラントを拘束し、一人では脱出できない状態、つまり戦闘不能に追い込んでいる。
ただし、その仕掛けが行われたのは、試合開始前のため、ヨウィス選手の反則負けとなります。」
それは確かにそうだ。
しかし、注意の上、再試合とかなんとかないものなのだろうか。
勝ったのは、ミシャル・グラントではあるが、こんな学内対抗戦の星取りなどは実はどうでも良い。
大事なのは、評判である。
相手になにもできないまま、縛られて、勝ち星だけ拾った。それが今後のミシャルの冒険者人生にどう影響するのか。
負けより、まずい勝ちも良くあるのだ。
「まあ、ルールをちゃんと説明しておかなかったオレが悪い。」
むすっとしたまま帰ってきたヨウィスに、慰めるようにジウルが言った。
「あとは、俺たちでなんとかする。応援組で一勝一敗は悪い星勘定じゃない。」
そう言って、立ち上がる。
両袖をちぎった拳法着は、彼の胸から肩にかけての筋肉の盛り上がりを強調しているかのようだった。
「中堅戦! 魔剣研究会カザリーム銀級冒険者“魔道神”エピオネル!」
「なに! 魔道神だと!」
「知っているのか、シライシ!」
「‥い、いや、実はまったく知らんのです。強大な魔法を駆使する冒険者で『魔法王』やら『真なる魔法王』『元祖魔法王』を名乗るものはいましたが、魔道神は知りません。
ジャイロ副学長はいかがです?」
「いや、たしかに」
ジャイロは首を傾げた。
立っているだけで確かに並々ならない魔力を感じる。
だが、エピオネルの名はまったくきいたことがなかった。
ミシャル・グラントだとっ!」
「知っているのか、シライシ!」
「もと西域で暴れ回っていた傭兵団“双頭蛇”の団長です。傭兵に似合わぬ、多彩な用兵、粘り強い戦いで数多くの戦場で不敗を誇り、ついたあだ名が『小覇王』。
『ウロボロス鬼兵団』が台頭してきた時、交代するようにして団を解散し、冒険者に戻ったと聞きましたが…とんでもない大物をひっぱりだしたものです。」
そのころには、まだ現役の冒険者だったジャイロは、そこいらのいきさつは、シライシより詳しかったが
流石にフルプレートの全身鎧を身につけている訳では無い。
顔にはしわと、傷跡が目立つ。
髪は白髪混じりだったが、充分量があり、それを後ろに撫でつけていた。
腰の剣をさやごと外し、自分まえに突き立て、その束に手をかけ、ヨウィスを見たまま、身動ぎもしない。
このような大剣は、一対一の戦いには不向きなのだが、よほど、手に馴染んだ業物のなのだろう。
闘技場におりたってから、身動ぎすらしないその様子は、さすがに「覇王」を名乗る冒険者だった。
「次鋒戦、はじめ!」
その声をきいてなお、ミシャル・グラントは身動きひとつしなかった。
おそらく、最初に相手に動かせて、後の先を狙っているのだ。
いや、ヨウィスの小柄な体躯にはたして、攻撃してもいいものか戸惑っているのだ。
観客の意見はその二つに分かれた。
まだミシャル・グラントは、動かない。
流石に会場が、別の意味でざわざわし始め、審判は、ミシャルとヨウィスに戦うように促した。
対するヨウィスの答えは
「もう戦っている。」
というもので、ミシャル・グラントの答えは
「う、動けん・・・」
だった。
すでにミシャル・グラントの堂々たる体躯は、ヨウィスの糸で縛り上げられていたのである。
いつの間に!
ヨウィスの神業に観客が、ため息を漏らす中、審判が協議し
「勝者! ミシャル・グラント!」
なにがなんだかわからずにブーイングの嵐となる中、審判が歩み出て、説明した。
「ヨウィスの糸は、完全にミシャル・グラントを拘束し、一人では脱出できない状態、つまり戦闘不能に追い込んでいる。
ただし、その仕掛けが行われたのは、試合開始前のため、ヨウィス選手の反則負けとなります。」
それは確かにそうだ。
しかし、注意の上、再試合とかなんとかないものなのだろうか。
勝ったのは、ミシャル・グラントではあるが、こんな学内対抗戦の星取りなどは実はどうでも良い。
大事なのは、評判である。
相手になにもできないまま、縛られて、勝ち星だけ拾った。それが今後のミシャルの冒険者人生にどう影響するのか。
負けより、まずい勝ちも良くあるのだ。
「まあ、ルールをちゃんと説明しておかなかったオレが悪い。」
むすっとしたまま帰ってきたヨウィスに、慰めるようにジウルが言った。
「あとは、俺たちでなんとかする。応援組で一勝一敗は悪い星勘定じゃない。」
そう言って、立ち上がる。
両袖をちぎった拳法着は、彼の胸から肩にかけての筋肉の盛り上がりを強調しているかのようだった。
「中堅戦! 魔剣研究会カザリーム銀級冒険者“魔道神”エピオネル!」
「なに! 魔道神だと!」
「知っているのか、シライシ!」
「‥い、いや、実はまったく知らんのです。強大な魔法を駆使する冒険者で『魔法王』やら『真なる魔法王』『元祖魔法王』を名乗るものはいましたが、魔道神は知りません。
ジャイロ副学長はいかがです?」
「いや、たしかに」
ジャイロは首を傾げた。
立っているだけで確かに並々ならない魔力を感じる。
だが、エピオネルの名はまったくきいたことがなかった。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる