204 / 248
魔道院始末
対抗戦はじまる!
しおりを挟む「それでは、魔剣研究会と魔法拳法研究会の対抗戦を執り行う。」
ジャイロは、ひそかにアレフザードの辣腕に舌を巻いている。
なんの約束も。文書はもちろん、口頭の約束させなかったにもかかわらず、魔道院中に「確定事項」とて広まった噂がある。
「負けたものは会を解散し、魔道院から出ていく。」
というものだ。
これを生徒同士、あるいは教師の間の「噂話」とし流布し、とうとう試合当日までには規定事実としてしまった。
“只者ではあるまい。あるいはギウリークあたりの息のかかった工作員か。”
今更ながらに気づいたのだが、だからどうする気は、ジャイロにはない。
権謀術策が渦巻く世界。それは個人個人が一騎当千の実力をもつ、魔道院の卒業者ならば当然、当たり前のようにあることであり、早いうちからそれに慣れておくべきなのだ。
と、言うのがかのボルテック卿の口癖でもあり、彼は各国からの留学にかこつけたスパイや、工作員を一向にオミットしようとはしなかった。
むしろ、才能さえあれば、それを喜んで受け入れていたふしもある。
例えば、典型なのが、以前に在籍していた銀灰皇国のオルガ姫である。
彼女は、グランダへの非合法工作も含めた特殊部隊の長として、魔道院に送り込まれた。
だが、年はも行かぬその少女の才能を愛したボルテックは、彼女の在籍を許し、結局は、オルガの信頼と少々歪んではいるが、その愛情をも確保することに成功したのである。
オルガはその後、冤罪のため処刑されかけたところで、家族を逆に惨殺するという事件を引き起こし「闇姫」と呼ばれるようになった。
さらに後日、今度は時の皇帝「壊乱帝」の暗殺未遂の疑いをかけられて、銀灰皇国を出奔した、という。
現在、魔道院の講師でもあり、「魔剣研究会」の顧問も務めるアレフザードは、その中でもかなりマシな部類に、ジャイロには思えたのだ。
いや、全く見事だ。そして、その仕込みが全て、自分に跳ね返っている所など、大いに笑える。
「第一試合、対戦者、前へ!」
実技をぶつける場所として、試合場は魔道院内部に複数箇所、設けられている。
特徴的なのは、周りに設られた観覧席だろう。今はそれほどでもないが、魔法を使ったバトルというのは、なかなかに見応えがあるらしく、サークル同士ではなくともこの手のイベントは、好んで観覧したがるものは後を立たない。
「魔剣研究会先鋒銀級冒険者“青の流星”ローデン。」
小柄だがいかにも敏捷そうな男が、くるりとバク転しながら、闘技場に立った。
「むう、こいつはまさか!」
「知っているのかシライシ!」
「ククルセス連合国に伝わる伝統の暗殺拳七星波濤拳の使い手です。
打撃の威力を、独自の“波”として相手の体内に伝え、相手を内部から破壊します。」
魔剣研究会を目の敵にしているシライシは、なかなか博識なようだった。
現役の冒険者を離れて久しいジャイロには、そこいらの情報はなかった。なるほど、こいつに解説させながら、観戦しよう。
ジャイロは、手元の石板に目を落とした。輝く数値が次々に色を変えている。
この対戦のオッズは、10対1で魔剣研究会の方が上だ。
ジウル・ボルテックが、実はボルテック卿のひ孫では「ない」と知るものは、もっと多いはずだが。
ジャイロは首を傾げた。
あるいは、ジウル・ボルテックが勝ったとしても、残りの四戦が、アレフザートの連れてくる冒険者に負ける、と踏んでいるのだろか。
そんな甘い男かよ。
と、ジャイロは笑う。
「魔法拳法研究会先鋒・・・・・」
全身を隠すコートに、フードをまぶかにかぶった人影は、ほっそりしていた。
あるいは女性かもしれない。
遠目だが、僅かに見える口元が、対戦者の名前を聞いて笑ったように思えた。
「ランゴバルド銀級冒険者ドロシー・ハート!!」
コートが空にまった。おおっというどよめきは、次の瞬間、落胆のため息に変わった。
ため息は、ランゴバルド冒険者学校との対抗戦で、活躍した彼女の体の線を全く隠さない銀のボディスーツに期待した物であって、その後に起こったまばらな拍手は、彼女が着ていた侍女服(それがギウリークのアライアス侯爵家のものだというところまでわかったのは、その道のマニアであるほんの数名だったが)がなかなか似合っていて、それはそれでいい、と思ったものたちのものだった。
「銀雷の魔女・・・・確かに彼女はジウルの弟子だが今回、グランダに戻ったのはジウルだけのはず・・・西域に留まった彼女をどうやってこの短期間に呼び寄せたのだ。」
シライシの疑問は当然だった。
“まあ、ボルテック卿のやることだからな。”
と、ジャイロは心の中でつぶやいた。
“いろいろ非常識な事はやるだろうさ。ミトラへ行くのに転移を使ったり、別れた愛人を対抗戦にひっぱりだしたり、な。”
「はじめ!」
その声と同時に、ドロシーは右手を振り抜いた。
氷の礫は、無詠唱でざっと数えて、十数個。対戦者のローデンめがけて、殺到した。
いずれも、当たりどころが悪ければ、一発で昏倒させられるだけの、重さとスピードを備えている。
後退しながら、動かしたローデンの手は、数十本に分裂して見えた。
ドロシーの打ち出した氷塊を、体に一発も触れずに撃ち落とす。
今度は左手を振り下ろす。生じた氷塊はさらに数を増した。ローデンは。
ふっと、息を吐きながら手のひらに拳を打ちつけた。
ドロシーの氷弾が、全て見えない手によった爆砕されたように消滅していく。
「むう! あの技は!」
「知っているのか、シライシ!」
「七星波濤拳の奥義波紋幽玄壁。見えない震動波が、近づくものを全てうち砕きます。」
くう。
ドロシーの顔が苦痛に歪んだ。
「そして、その震動波で相手を攻撃することも可能です。」
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる