婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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魔道院始末

対抗戦はじまる!

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「それでは、魔剣研究会と魔法拳法研究会の対抗戦を執り行う。」
ジャイロは、ひそかにアレフザードの辣腕に舌を巻いている。
なんの約束も。文書はもちろん、口頭の約束させなかったにもかかわらず、魔道院中に「確定事項」とて広まった噂がある。

「負けたものは会を解散し、魔道院から出ていく。」

というものだ。
これを生徒同士、あるいは教師の間の「噂話」とし流布し、とうとう試合当日までには規定事実としてしまった。

“只者ではあるまい。あるいはギウリークあたりの息のかかった工作員か。”
今更ながらに気づいたのだが、だからどうする気は、ジャイロにはない。
権謀術策が渦巻く世界。それは個人個人が一騎当千の実力をもつ、魔道院の卒業者ならば当然、当たり前のようにあることであり、早いうちからそれに慣れておくべきなのだ。
と、言うのがかのボルテック卿の口癖でもあり、彼は各国からの留学にかこつけたスパイや、工作員を一向にオミットしようとはしなかった。
むしろ、才能さえあれば、それを喜んで受け入れていたふしもある。

例えば、典型なのが、以前に在籍していた銀灰皇国のオルガ姫である。
彼女は、グランダへの非合法工作も含めた特殊部隊の長として、魔道院に送り込まれた。
だが、年はも行かぬその少女の才能を愛したボルテックは、彼女の在籍を許し、結局は、オルガの信頼と少々歪んではいるが、その愛情をも確保することに成功したのである。
オルガはその後、冤罪のため処刑されかけたところで、家族を逆に惨殺するという事件を引き起こし「闇姫」と呼ばれるようになった。

さらに後日、今度は時の皇帝「壊乱帝」の暗殺未遂の疑いをかけられて、銀灰皇国を出奔した、という。

現在、魔道院の講師でもあり、「魔剣研究会」の顧問も務めるアレフザードは、その中でもかなりマシな部類に、ジャイロには思えたのだ。

いや、全く見事だ。そして、その仕込みが全て、自分に跳ね返っている所など、大いに笑える。

「第一試合、対戦者、前へ!」

実技をぶつける場所として、試合場は魔道院内部に複数箇所、設けられている。
特徴的なのは、周りに設られた観覧席だろう。今はそれほどでもないが、魔法を使ったバトルというのは、なかなかに見応えがあるらしく、サークル同士ではなくともこの手のイベントは、好んで観覧したがるものは後を立たない。

「魔剣研究会先鋒銀級冒険者“青の流星”ローデン。」

小柄だがいかにも敏捷そうな男が、くるりとバク転しながら、闘技場に立った。

「むう、こいつはまさか!」
「知っているのかシライシ!」
「ククルセス連合国に伝わる伝統の暗殺拳七星波濤拳の使い手です。
打撃の威力を、独自の“波”として相手の体内に伝え、相手を内部から破壊します。」

魔剣研究会を目の敵にしているシライシは、なかなか博識なようだった。
現役の冒険者を離れて久しいジャイロには、そこいらの情報はなかった。なるほど、こいつに解説させながら、観戦しよう。

ジャイロは、手元の石板に目を落とした。輝く数値が次々に色を変えている。

この対戦のオッズは、10対1で魔剣研究会の方が上だ。
ジウル・ボルテックが、実はボルテック卿のひ孫では「ない」と知るものは、もっと多いはずだが。
ジャイロは首を傾げた。
あるいは、ジウル・ボルテックが勝ったとしても、残りの四戦が、アレフザートの連れてくる冒険者に負ける、と踏んでいるのだろか。

そんな甘い男かよ。
と、ジャイロは笑う。

「魔法拳法研究会先鋒・・・・・」

全身を隠すコートに、フードをまぶかにかぶった人影は、ほっそりしていた。
あるいは女性かもしれない。

遠目だが、僅かに見える口元が、対戦者の名前を聞いて笑ったように思えた。

「ランゴバルド銀級冒険者ドロシー・ハート!!」

コートが空にまった。おおっというどよめきは、次の瞬間、落胆のため息に変わった。
ため息は、ランゴバルド冒険者学校との対抗戦で、活躍した彼女の体の線を全く隠さない銀のボディスーツに期待した物であって、その後に起こったまばらな拍手は、彼女が着ていた侍女服(それがギウリークのアライアス侯爵家のものだというところまでわかったのは、その道のマニアであるほんの数名だったが)がなかなか似合っていて、それはそれでいい、と思ったものたちのものだった。

「銀雷の魔女・・・・確かに彼女はジウルの弟子だが今回、グランダに戻ったのはジウルだけのはず・・・西域に留まった彼女をどうやってこの短期間に呼び寄せたのだ。」
シライシの疑問は当然だった。

“まあ、ボルテック卿のやることだからな。”
と、ジャイロは心の中でつぶやいた。
“いろいろ非常識な事はやるだろうさ。ミトラへ行くのに転移を使ったり、別れた愛人を対抗戦にひっぱりだしたり、な。”

「はじめ!」

その声と同時に、ドロシーは右手を振り抜いた。
氷の礫は、無詠唱でざっと数えて、十数個。対戦者のローデンめがけて、殺到した。
いずれも、当たりどころが悪ければ、一発で昏倒させられるだけの、重さとスピードを備えている。
後退しながら、動かしたローデンの手は、数十本に分裂して見えた。

ドロシーの打ち出した氷塊を、体に一発も触れずに撃ち落とす。
今度は左手を振り下ろす。生じた氷塊はさらに数を増した。ローデンは。
ふっと、息を吐きながら手のひらに拳を打ちつけた。

ドロシーの氷弾が、全て見えない手によった爆砕されたように消滅していく。

「むう! あの技は!」
「知っているのか、シライシ!」
「七星波濤拳の奥義波紋幽玄壁。見えない震動波が、近づくものを全てうち砕きます。」

くう。
ドロシーの顔が苦痛に歪んだ。

「そして、その震動波で相手を攻撃することも可能です。」


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