婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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魔道院始末

銀雷の魔女の戦いかた

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ジャイロは、自分で冷製肉に、香草を刻んでちらし、辛味の効いたソースをかけた。

一切れを口に運んだ拳法家の巨漢、シホウは、おおっ、辛いな。
と言いながら、辛さを消すために酒をあおった。
ジャイロは、料理に合うような発泡酒を勧める。うむうむと言いながら、肉片と発泡酒を交互に口に運ぶ。

以前だったら、ボルテックはわずかな酒を飲み、ツマミはナッツくらい。
だが、いまの彼が、健康そのもので、冷製肉を4、5切れまとめて口に放り込み、酒をあおり、歓喜の声をあげている。

「魔道院に戻られるつもりがないのなら、何をしに戻られたのです。」

うむ、そこだ。―
若作りのじじいは、身を乗り出した。

魔道と剣のミックスさせる魔武道とでも呼ぶべき、あたらしい口座を魔道院で開設したいのだ。

「出来るわけがないでしょう。」
側近というべき彼は、聞いている。筋力を利用して魔力を直接相手に叩き込む。
んなにかの魔法を使うのではない、熱でも振動でもない。
ただ、純粋な魔力を叩き込む。それは、もっとも突破不可能な“竜鱗”を突破する。
すなわち、竜をも屠れる。

でもあんた、マスターするのに、何十年かかっってるよなあ。
と、ジャイロは白い目で見ざるを得ない。

必要な魔力制御に、天才ボルテック卿が研鑽の100年を要したのだ。
たまたま、魔力過剰による長命をえた彼で、辛うじて成立した。

「指導するものが、優秀ならそれは大幅に短縮できる。現に我が弟子ドロシーは、すでに魔力撃をモノにしている。」

ちょっと考えて、ジャイロはノーを宣言した。

「ダメですよ。たまたま体質がそれに合ったからでしょう。同じ努力を同じ時間に費やすなら、魔法の研鑽に『だけ』武道の研鑽に『だけ』集中した方が、得るものははるかに大きい。
シホウさんとやら。あなたはわたしが名をきいたことのある、あのシホウさんなら、拳技をもって名を馳せた冒険者だ。
どうですか。この話し。
乗りますか。」

「実現可能かどうかは、いったん置くとして。」
シホウは、重々しく答えた。
「生徒は集まらんな。魔道院を志すものが、拳士の真似事をしたがるとは思えん。」

うむ。そのとおり!
食えぬ若作りじじいは、満足そうに頷いた。
「いや、合格だぞ、ジャイロ。
その判断は正しい。一方でだ。まさにそのドロシーが使ったあの技、あれならどうじゃ?」

昔馴染みのジャイロを相手にしているためか、口調がじじいっぽくなっている。
苦笑いしながらも、ジャイロは言った。

「あなたを苦しめた電撃の自爆技ですか?
ありえないですね。それ以外の技というと」
ジャイロはかんがえこんだ。
「両の手に炎や岩塊を纏って打撃の威力を増す、氷をまとって鎧がわりにする。

これは‥あり、。ですかね。戦術としては面白い。でも拳士を一度志したものが、あらためてそのために魔道を学とはとても」
話していて、ジャイロは気がついた。
「ああ、だから魔道院、ですか。」

ジャイロは、コンコンと机をリズミカルに叩き出した。それがなにかを考えるときの癖だと知っているボルテックは、黙ってそれを見守った。

「ふむ‥対人戦闘、護身術、としてなら優秀、かもしれません。
だが、今度は拳法の素養のない魔導師の卵にそれを教え込むことになります。」

ジャイロはうろんげにボルテックを見た。

「言ってくけど、あんたはダメですよ。まだ、自分の拳法を確立できてもいない。
拳の指導ができる人材が必要だ。」

ふう、とジャイロはため息をついた。

「ああ、それでシホウさんか。わかりました。シホウさんさえ良ければ、そのセミナーを立ち上げますよ。」

「相変わらず話が早くて助かる。」
ボルテックはシホウに笑いかけた。
「隠して、衣食住を確保しつつ、おぬしは、俺に拳法の指導をしてもらえる、というわけだ。
よいかな、シホウ。」

巨漢の顔には、してやられた、とでも言うような苦笑が浮かんでいた。

「公社からの出動要請がなければ、俺たちは比較的自由だ。可能だろう。
それに、このことを通じて、鉄道公社保安部が、魔道院に一定の影響力がもてるようになるのは、保安局長のアイザックなら絶対に機会を逃さないだろうと、そんな気がする。」



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