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クエスト 披露宴に出席せよ
四人あるいは四体の雑談
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ギムリウスとって、グランダが過ごしやすい場所かと言われるとそうでもない。
亜人も「人間の一種」としてそれなりに、社会の居場所を見出せるす西域とは異なり、文化の遅れた北方の国々では、亜人はせいぜい森に集落を作って住む魔術に長けた「長命族」くらいしか、知られておらず、それ以外のものはすべて「魔物」と同じ扱いである。
ギムリウスは、もちろん亜人ではないし、それどころか、ひとに見せている姿は本体ですらない。もっと言えば、もともと人とのコミュニケーション用に作った義体に、いまは妙なオプションまで取り付けてしまっている。
もっとも、今のギムリウスは自らの脚をたたんで、人間の足部分に同化させてしまっている。
驚いたり、喜んだり、感情の変化によって分裂しやすい瞳を隠すために、眼鏡をかけている。
お気に入りの入院着は、目立つというのであきらめて、冒険者学校の制服を身につけた。ちなみにスラックス着用であって、これは以前のパニエのスカートよりは動きやすく、また中性的な美貌のギムリウスにはよく似合っていた。
「ご出席ありがとうございます。」
頭を下げた相手は、日に焼けた健康そうな主婦だった。
手にしたお玉は曲がっていて、なんとか治そうと悪戦苦闘しているのだが、お玉は頑強に抵抗し続けている。
「いえいえ、義理の息子の結婚式だから。うちの人とエルマートを二人だけでミトラにやるわけにはいかないでしょう?」
えくぼの浮かぶ笑みは、かつての王妃メアのそれだった。
「ヨウィスには悪いことをしちゃったけど。」
そのヨウィスは、部屋のカウチでぶーだれていた。
マント姿はいつものヨウィスだが、裾が太ももまでまくれるのも無視して、寝転がったまま、瓶から直に飲み物を流し込むのは、おなじみのヨウィスではない。
「リンド伯爵と引き分けたもうひとりさんのほうですね。」
「すまないだらしないカッコで。」
ヨウィスはからからと笑った。
「仏頂面でも、もうひとりのおまえの方がかわいいと思うぜ、ヨウィス。」
そう言ったのは、“フェンリルの咆哮”のザックだった。
剣士の格好だったが剣の腕は、あまり冴えない。だが、かつて彼は、ルトとリアをそのパーティに飼っていたことがあり、その特殊な正体と相まって、今回、二つの任務を同時におおせつかっていた。
すなわち。
“燭乱天使”の依頼による“踊る道化師”に対する調査。
それと、
“踊る道化師”の依頼。魔王宮の古竜たちを、魔道列車を乗り継いでミトラまで連れて行く。
という任務である。
この二つの任務には相重なる部分が、多々あって、いわばザックは一つの行動で、二倍の依頼料をせしめようと考えたのだ。
「ダメダメ。」とヨウィスは、上機嫌だ。「メアがいる限り、『わたし』は出てこないよ。それだけ、あんたに警戒心を持っているんだ。」
「で、そのルトとフィオリナの結婚式には、俺も出席させてもらっていいのか?」
ザックは尋ねた。
ギムリウスは、少し考えた。
古竜の出席がめでたいことなのなら、神獣の出席も、まあ、めでたいだろう。
逆に、神獣の出席がまずいのなら、ギムリウス自身の出席も憚られるので、うん、いいだろうと思う。
ギムリウスは、彼女の「収納」から招待状を取り出して、ザックに渡した。
「ザックのパーティ全員で参加するか?」
とギムリウスが尋ねるとザックはかぶりを振った。
「古竜が10体以上一つの街に集まるんだぜ。危なくって連れていけない。今回は俺だけだ。」
「それについては、心配いらないと思う。」
ギムリウスは、本気で言った。
「古竜は色々と癖の強い生き物だが、アモンもいる。レクスもいる。酔って暴れ始めても取り押さえる準備がは整っている。」
「今、レクスと言ったな? まさかとは思うが神鎧竜のレクスか?」
ギムリウスは頷いた。
「わかった。それでどの神を滅ぼんだ?」
「いや、結婚式をやるだけです。」
四人あるいは四体、あるいは四柱が寛いでいるのは、魔道院の学院長室だった。
王太后メアこと闇森の魔女ザザリと、ヨウィスの腕試しは熾烈を極めたのだ。
ザザリの分身は、七体まで切断されて倒され、さらにヨウィスの糸が、空間を裂いて、迷宮からの脱出を図ったところで、ギムリウスとザックが割って入ったのだ。
もちろん、ギムリウスとザックが神獣だったらそれが出来たのであって、定命の生き物ならばとても敵わぬえ技である。
「リウとアモンは?」
「二人は、ランゴバルトの冒険者学校に行ってます。」
とギムリウスは答えた。ランゴバルト冒険者学校には、二人の子飼いの部下とでもいうべき「魔王党」と「神竜騎士団」がいて、彼らは久しぶりにできた自分たちの部下が、可愛くて仕方ないのだ。
ランゴバルト冒険者学校は、それ自体が一つの迷宮となっていたが、そこに転移することくらいはギムリウスだったら朝飯前だった。あくまでギムリウスだったら、の話ではあるが。
「ランゴバルト冒険者学校の迷宮維持のためのコア調整にも半日、欲しいと言ってましたので、明日迎えに行きます。
竜たちのご機嫌はいかがです?」
「ああ、よくはないが悪くもない。」
ザックは答えた。
「神竜姫に逆らうのはとんでもないが、狼のいうことにもホイホイ従いたくはないようだな。」
亜人も「人間の一種」としてそれなりに、社会の居場所を見出せるす西域とは異なり、文化の遅れた北方の国々では、亜人はせいぜい森に集落を作って住む魔術に長けた「長命族」くらいしか、知られておらず、それ以外のものはすべて「魔物」と同じ扱いである。
ギムリウスは、もちろん亜人ではないし、それどころか、ひとに見せている姿は本体ですらない。もっと言えば、もともと人とのコミュニケーション用に作った義体に、いまは妙なオプションまで取り付けてしまっている。
もっとも、今のギムリウスは自らの脚をたたんで、人間の足部分に同化させてしまっている。
驚いたり、喜んだり、感情の変化によって分裂しやすい瞳を隠すために、眼鏡をかけている。
お気に入りの入院着は、目立つというのであきらめて、冒険者学校の制服を身につけた。ちなみにスラックス着用であって、これは以前のパニエのスカートよりは動きやすく、また中性的な美貌のギムリウスにはよく似合っていた。
「ご出席ありがとうございます。」
頭を下げた相手は、日に焼けた健康そうな主婦だった。
手にしたお玉は曲がっていて、なんとか治そうと悪戦苦闘しているのだが、お玉は頑強に抵抗し続けている。
「いえいえ、義理の息子の結婚式だから。うちの人とエルマートを二人だけでミトラにやるわけにはいかないでしょう?」
えくぼの浮かぶ笑みは、かつての王妃メアのそれだった。
「ヨウィスには悪いことをしちゃったけど。」
そのヨウィスは、部屋のカウチでぶーだれていた。
マント姿はいつものヨウィスだが、裾が太ももまでまくれるのも無視して、寝転がったまま、瓶から直に飲み物を流し込むのは、おなじみのヨウィスではない。
「リンド伯爵と引き分けたもうひとりさんのほうですね。」
「すまないだらしないカッコで。」
ヨウィスはからからと笑った。
「仏頂面でも、もうひとりのおまえの方がかわいいと思うぜ、ヨウィス。」
そう言ったのは、“フェンリルの咆哮”のザックだった。
剣士の格好だったが剣の腕は、あまり冴えない。だが、かつて彼は、ルトとリアをそのパーティに飼っていたことがあり、その特殊な正体と相まって、今回、二つの任務を同時におおせつかっていた。
すなわち。
“燭乱天使”の依頼による“踊る道化師”に対する調査。
それと、
“踊る道化師”の依頼。魔王宮の古竜たちを、魔道列車を乗り継いでミトラまで連れて行く。
という任務である。
この二つの任務には相重なる部分が、多々あって、いわばザックは一つの行動で、二倍の依頼料をせしめようと考えたのだ。
「ダメダメ。」とヨウィスは、上機嫌だ。「メアがいる限り、『わたし』は出てこないよ。それだけ、あんたに警戒心を持っているんだ。」
「で、そのルトとフィオリナの結婚式には、俺も出席させてもらっていいのか?」
ザックは尋ねた。
ギムリウスは、少し考えた。
古竜の出席がめでたいことなのなら、神獣の出席も、まあ、めでたいだろう。
逆に、神獣の出席がまずいのなら、ギムリウス自身の出席も憚られるので、うん、いいだろうと思う。
ギムリウスは、彼女の「収納」から招待状を取り出して、ザックに渡した。
「ザックのパーティ全員で参加するか?」
とギムリウスが尋ねるとザックはかぶりを振った。
「古竜が10体以上一つの街に集まるんだぜ。危なくって連れていけない。今回は俺だけだ。」
「それについては、心配いらないと思う。」
ギムリウスは、本気で言った。
「古竜は色々と癖の強い生き物だが、アモンもいる。レクスもいる。酔って暴れ始めても取り押さえる準備がは整っている。」
「今、レクスと言ったな? まさかとは思うが神鎧竜のレクスか?」
ギムリウスは頷いた。
「わかった。それでどの神を滅ぼんだ?」
「いや、結婚式をやるだけです。」
四人あるいは四体、あるいは四柱が寛いでいるのは、魔道院の学院長室だった。
王太后メアこと闇森の魔女ザザリと、ヨウィスの腕試しは熾烈を極めたのだ。
ザザリの分身は、七体まで切断されて倒され、さらにヨウィスの糸が、空間を裂いて、迷宮からの脱出を図ったところで、ギムリウスとザックが割って入ったのだ。
もちろん、ギムリウスとザックが神獣だったらそれが出来たのであって、定命の生き物ならばとても敵わぬえ技である。
「リウとアモンは?」
「二人は、ランゴバルトの冒険者学校に行ってます。」
とギムリウスは答えた。ランゴバルト冒険者学校には、二人の子飼いの部下とでもいうべき「魔王党」と「神竜騎士団」がいて、彼らは久しぶりにできた自分たちの部下が、可愛くて仕方ないのだ。
ランゴバルト冒険者学校は、それ自体が一つの迷宮となっていたが、そこに転移することくらいはギムリウスだったら朝飯前だった。あくまでギムリウスだったら、の話ではあるが。
「ランゴバルト冒険者学校の迷宮維持のためのコア調整にも半日、欲しいと言ってましたので、明日迎えに行きます。
竜たちのご機嫌はいかがです?」
「ああ、よくはないが悪くもない。」
ザックは答えた。
「神竜姫に逆らうのはとんでもないが、狼のいうことにもホイホイ従いたくはないようだな。」
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