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宴の後始末
15、かわいそうなラウレス
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かわいそうなラウレス。
王都の人々は見た。
わずかに藍色を残した夜空に広がる影を。
身の丈は30メトルを超える。長い首。大きく広がった翼。鋭い牙の生えた口は、人間など軽々と食い尽くすだろう。巨大な尻尾は一撃で城壁でも粉砕するに違いない。
「竜だ!」
誰かが叫ぶまでに数瞬の間があったのは、それがなにかわからなかった、というより言ってもしかたのないことだったから。
王都は竜の侵入を許してしまった。何故か?はともかく結果はもう明らかだった。
徐々にパニックが広がる中、念話による大音声が響き渡る。
「我は黒竜ラウレス! これよりグランダの無知と傲慢への処罰を下す。王都は焼き尽くされ、この日をもってグランダは滅ぶ。
それは己が聖帝国への敬意をもたず、卑劣な手段で我同胞を害したことの罪である。
さあ、恐怖に逃げまどえ、グランダの民よ。そして、己の王の無能と高慢を呪って死んでいくがいい!」
何人かが、竜から少しでも逃げようと走り出し、まだ空を見上げたまま突っ立っていた者とぶつかり、怒声が響く。なんの対応も取れないまま、ただただ混乱だけが王都を包んでいった。
“何をやっている!”
ラウレスは、ぼやいた。
かわいそうなラウレス。
彼のために精一杯の弁護を尽くそう。
彼はいくつかの思い違いをしている。
彼の竜人部隊が壊滅的打撃をうけたのは、いくつかの偶然と彼らがマヌケであったためで、グランダはなにもしていない。
だが、彼はそれをグランダの陰謀だと看破した。看破したつもりになった。
歴戦のクローディア将軍が仕掛けた、巧妙な罠に嵌ったのだと勘違いをした。
誰が彼を責めることができよう。
一騎当千の竜人がカフェの順番待ちを巡る殴り合いで、入院するとか。
若年とはいえ、一個分体の竜人が、女の子ひとりに泣かされて帰ってくるとか。
だれが想像できよう。
ラウレスは西域の強国、ギウリーク聖帝国の精兵を率いる将軍であり、これまで負けたことなどは一度もなかった。
そして、念話でいくら物騒なことを言っていてもラウレスは、グランダを滅ぼす気も王都を壊滅させる気はない。
彼は聖帝国を代表してここに交渉にきているのだ。気に入らぬ相手を片端から滅ぼして回るのは外交とは言わない。
だから、彼は待っていた。彼を迎撃するためのパリスタでも出してくればそれを破壊して悠々と立ち去ればいい。しかし、いくら待ってもバリスタはおろか、クロスボウも弓兵も登場しなかった。
いや迎撃どころか避難を指示するものも誰一人現れぬ。
ついにラウレスな決意した。プレスで建物のひとつも吹き飛ばそう。出来るだけ人がいなさそうな建物を。
だが、ここについてからのイライラが、プレスのコントロールをしくじらせた。
吐き出したブレスは全力に近いもの。
しまった!これでは、街区そのものが吹き飛んでしまう!
だが、彼の漆黒の吐息が地上にあたる寸前、横殴りに、白銀のブレスがそれをかき消した。
正面からの、相殺。ではない。ブレスの横からブレスを当ててそれを消滅させる。
つまり、威力も精度も彼のブレスの数十倍...。
呆然としたラウレスは、頭上からの攻撃に気づくのが遅すぎた。
本当の刺客はすでに彼の上空に待ち構えていたのだ。
おそらく飛翔能力のある召喚獣が運んだのだろう。
岩を削り出したようなごつごつした筋肉に覆われた体躯。振りかぶるのは、身長より長い屠龍剣。
古竜の「こいつにだけは会いたくないランキング」に三年連続ベスト8入りの。
“竜殺ゴルバ ”
とっさに首をかばったが、翼を深々と切り裂かれた彼は地上に落下する。
落ちた広場は、グランダ13世公園と呼ばれていたが、これ以降「竜墜広場」と名を変える。
ああ、かわいそうなラウレス。
王都の人々は見た。
わずかに藍色を残した夜空に広がる影を。
身の丈は30メトルを超える。長い首。大きく広がった翼。鋭い牙の生えた口は、人間など軽々と食い尽くすだろう。巨大な尻尾は一撃で城壁でも粉砕するに違いない。
「竜だ!」
誰かが叫ぶまでに数瞬の間があったのは、それがなにかわからなかった、というより言ってもしかたのないことだったから。
王都は竜の侵入を許してしまった。何故か?はともかく結果はもう明らかだった。
徐々にパニックが広がる中、念話による大音声が響き渡る。
「我は黒竜ラウレス! これよりグランダの無知と傲慢への処罰を下す。王都は焼き尽くされ、この日をもってグランダは滅ぶ。
それは己が聖帝国への敬意をもたず、卑劣な手段で我同胞を害したことの罪である。
さあ、恐怖に逃げまどえ、グランダの民よ。そして、己の王の無能と高慢を呪って死んでいくがいい!」
何人かが、竜から少しでも逃げようと走り出し、まだ空を見上げたまま突っ立っていた者とぶつかり、怒声が響く。なんの対応も取れないまま、ただただ混乱だけが王都を包んでいった。
“何をやっている!”
ラウレスは、ぼやいた。
かわいそうなラウレス。
彼のために精一杯の弁護を尽くそう。
彼はいくつかの思い違いをしている。
彼の竜人部隊が壊滅的打撃をうけたのは、いくつかの偶然と彼らがマヌケであったためで、グランダはなにもしていない。
だが、彼はそれをグランダの陰謀だと看破した。看破したつもりになった。
歴戦のクローディア将軍が仕掛けた、巧妙な罠に嵌ったのだと勘違いをした。
誰が彼を責めることができよう。
一騎当千の竜人がカフェの順番待ちを巡る殴り合いで、入院するとか。
若年とはいえ、一個分体の竜人が、女の子ひとりに泣かされて帰ってくるとか。
だれが想像できよう。
ラウレスは西域の強国、ギウリーク聖帝国の精兵を率いる将軍であり、これまで負けたことなどは一度もなかった。
そして、念話でいくら物騒なことを言っていてもラウレスは、グランダを滅ぼす気も王都を壊滅させる気はない。
彼は聖帝国を代表してここに交渉にきているのだ。気に入らぬ相手を片端から滅ぼして回るのは外交とは言わない。
だから、彼は待っていた。彼を迎撃するためのパリスタでも出してくればそれを破壊して悠々と立ち去ればいい。しかし、いくら待ってもバリスタはおろか、クロスボウも弓兵も登場しなかった。
いや迎撃どころか避難を指示するものも誰一人現れぬ。
ついにラウレスな決意した。プレスで建物のひとつも吹き飛ばそう。出来るだけ人がいなさそうな建物を。
だが、ここについてからのイライラが、プレスのコントロールをしくじらせた。
吐き出したブレスは全力に近いもの。
しまった!これでは、街区そのものが吹き飛んでしまう!
だが、彼の漆黒の吐息が地上にあたる寸前、横殴りに、白銀のブレスがそれをかき消した。
正面からの、相殺。ではない。ブレスの横からブレスを当ててそれを消滅させる。
つまり、威力も精度も彼のブレスの数十倍...。
呆然としたラウレスは、頭上からの攻撃に気づくのが遅すぎた。
本当の刺客はすでに彼の上空に待ち構えていたのだ。
おそらく飛翔能力のある召喚獣が運んだのだろう。
岩を削り出したようなごつごつした筋肉に覆われた体躯。振りかぶるのは、身長より長い屠龍剣。
古竜の「こいつにだけは会いたくないランキング」に三年連続ベスト8入りの。
“竜殺ゴルバ ”
とっさに首をかばったが、翼を深々と切り裂かれた彼は地上に落下する。
落ちた広場は、グランダ13世公園と呼ばれていたが、これ以降「竜墜広場」と名を変える。
ああ、かわいそうなラウレス。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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