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宴の後始末
14,王都最期の日・・・・
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闇が落ちる。
電気による照明のないグランダでは、闇は深い。
大きな商店でも、日暮れがほぼ店じまいの時間である。
「もう諦めてそれにしたら。」
マヌカが、ゴルバの背中越しに呼びかけた。
武器屋を巡って、もう三軒めになる。
期待した掘り出し物の逸品とはついにめぐりあえず、そこそこの鋼を使って、そこそこの重量があり、そこそこ作りのしっかりした剣のなかでも、これまで見た中では一番、ましな剣だ。
「わかった。今晩はこの剣で我慢する。」
「今晩?」
どうせ、この男は金のことなど、考えていない。ここは、マヌカが支払うつもりでいたのだが、『今夜』。
「一撃で折れるからだ。それも首を切断することは無理だ。せいぜい手傷を追わせて追い返すのが精一杯。」
「わたしの付与魔法も相当なもんだけど?」
「それを『コミ』で話している。もともと竜の鱗に並の鋼では歯が立たない。」
納得出来ないまま、店主に代金を払い、店を出た瞬間にマヌカはわかった。
間違えようのない力の放出。
王都の上空に黒ぐろと、浮かぶ影は、身の丈30メルトルにもおよぶ
『竜』
のものだった。
「うにゃあ、いい飲みっぷり、ですねえ。」
人間文化に興味を持ちすぎるのは、竜にとってはあまり褒められたことではない。
(適度に興味を持つのは、知的な好奇心の現れとして、むしろ奨励されている)
リアモンドが好んでいるのは、人間の食文化だ。
酒もいい。料理もいい。
そして、狭いところに肩をつきあわせるようにして、酒を注ぎ注がれ、大勢でわいわいするのが楽しみなのだ。
そうしているうちに仲良くなった若い冒険者は、たぶん、リアモンドの美貌のほうにひかれているのだろう。
残念ながら、リアモンドは人間のオスには異性としての興味はまったくない。
そこまでしてしまうと、竜の中では完全に変質者、異常生愛者としての扱いを受ける。
つまりは少々、このあと困った状況にはあるかもしれない。それも含めて、リアモンドは楽しんでいる。
その顔が、歪んだ。
見上げた天井を通して、金色に染まった目が、夜空を睨んだ。
黒い影が浮かんでいる。
それは巨大な蜥蜴のシルエットをしていた。
「アウデリア! クロノ!」
血相をかえたカテリアが、駆け込んできた。
「不死鳥の冠」のテーブルには、紙とペンが乱雑にひろがっている。
『魔王宮攻略の現状と問題点』
と第された、あとに読みにくい文字で続きが書かれているが、ほんの数行。
午後に、竜神部隊の籠もる教会を退出してから、日の暮れるいまの時間までこのふたりはいったい何をしていたのだろう。
報告書の提出は、明日が刻限だった。
「ああっ!どうするんです、報告書! わたしが怒られるんです。あの・・・ラウレスさまに。」
「そのことなんだが、ラウレスってのは何者か知ってて言ってるのか?」
「え?いえその・・・なんだかバラン伯爵がへりくだってるのを見て、なんか竜人の偉いひとなのか、と。」
アウデリアは笑った。
「あれは、竜人ではないぞ。」
「え?でも?」
「あれはな、竜だ。人化した古竜だ。」
「そんな馬鹿な!」
カテリアは驚くよりむしろ、怒ったように言った。からかわれたと思ったのだろう。
「本当だ。」
アウデリアは、立ち上がった。そのままゆっくりと店の外に出る。
追いかけたカテリアは、空を仰いだまま、固まった。
王都を睥睨するように、巨大な影が頭上にあった。
電気による照明のないグランダでは、闇は深い。
大きな商店でも、日暮れがほぼ店じまいの時間である。
「もう諦めてそれにしたら。」
マヌカが、ゴルバの背中越しに呼びかけた。
武器屋を巡って、もう三軒めになる。
期待した掘り出し物の逸品とはついにめぐりあえず、そこそこの鋼を使って、そこそこの重量があり、そこそこ作りのしっかりした剣のなかでも、これまで見た中では一番、ましな剣だ。
「わかった。今晩はこの剣で我慢する。」
「今晩?」
どうせ、この男は金のことなど、考えていない。ここは、マヌカが支払うつもりでいたのだが、『今夜』。
「一撃で折れるからだ。それも首を切断することは無理だ。せいぜい手傷を追わせて追い返すのが精一杯。」
「わたしの付与魔法も相当なもんだけど?」
「それを『コミ』で話している。もともと竜の鱗に並の鋼では歯が立たない。」
納得出来ないまま、店主に代金を払い、店を出た瞬間にマヌカはわかった。
間違えようのない力の放出。
王都の上空に黒ぐろと、浮かぶ影は、身の丈30メルトルにもおよぶ
『竜』
のものだった。
「うにゃあ、いい飲みっぷり、ですねえ。」
人間文化に興味を持ちすぎるのは、竜にとってはあまり褒められたことではない。
(適度に興味を持つのは、知的な好奇心の現れとして、むしろ奨励されている)
リアモンドが好んでいるのは、人間の食文化だ。
酒もいい。料理もいい。
そして、狭いところに肩をつきあわせるようにして、酒を注ぎ注がれ、大勢でわいわいするのが楽しみなのだ。
そうしているうちに仲良くなった若い冒険者は、たぶん、リアモンドの美貌のほうにひかれているのだろう。
残念ながら、リアモンドは人間のオスには異性としての興味はまったくない。
そこまでしてしまうと、竜の中では完全に変質者、異常生愛者としての扱いを受ける。
つまりは少々、このあと困った状況にはあるかもしれない。それも含めて、リアモンドは楽しんでいる。
その顔が、歪んだ。
見上げた天井を通して、金色に染まった目が、夜空を睨んだ。
黒い影が浮かんでいる。
それは巨大な蜥蜴のシルエットをしていた。
「アウデリア! クロノ!」
血相をかえたカテリアが、駆け込んできた。
「不死鳥の冠」のテーブルには、紙とペンが乱雑にひろがっている。
『魔王宮攻略の現状と問題点』
と第された、あとに読みにくい文字で続きが書かれているが、ほんの数行。
午後に、竜神部隊の籠もる教会を退出してから、日の暮れるいまの時間までこのふたりはいったい何をしていたのだろう。
報告書の提出は、明日が刻限だった。
「ああっ!どうするんです、報告書! わたしが怒られるんです。あの・・・ラウレスさまに。」
「そのことなんだが、ラウレスってのは何者か知ってて言ってるのか?」
「え?いえその・・・なんだかバラン伯爵がへりくだってるのを見て、なんか竜人の偉いひとなのか、と。」
アウデリアは笑った。
「あれは、竜人ではないぞ。」
「え?でも?」
「あれはな、竜だ。人化した古竜だ。」
「そんな馬鹿な!」
カテリアは驚くよりむしろ、怒ったように言った。からかわれたと思ったのだろう。
「本当だ。」
アウデリアは、立ち上がった。そのままゆっくりと店の外に出る。
追いかけたカテリアは、空を仰いだまま、固まった。
王都を睥睨するように、巨大な影が頭上にあった。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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