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宴の後始末
7、魍魎たちの会談
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西域、中原の冒険者としては、「銀級」は、上がりの状態のひとつである。
国境、関所の移動についての優遇、高額な依頼料、受注できるクエストの制限などの特権はひととおり備わる。
ここから上、すなわち黄金級ともなれば、ほとんどの国で貴族とかわらぬ待遇がまっているが、同時に足枷も増える。
「受けなければいけない」依頼がふえ、それを回避するために、どこかの国家や大貴族のお抱えになる。そのこと自体がまたある種の枷となり、行動を縛る。
だから、ワザと黄金級にあがらない冒険者もいる。例えば目の前にいる斧使いの女冒険者アウデリア。
例えば、冒険よりも傭兵として実績がある「ウロボロス鬼兵団」。
あまりにも先の行動が読めずときとして、依頼主をも平然と裏切る「蝕乱天使」。
「おまえたちがグランダへ移動したという情報はすでに届いている。」
バランは凄んでみせた。
声も出せない重体の少女にするには、ふさわしく無い態度だったがここでそれを責めるに者はいない。
「聖光教会は、壁にも耳があり窓にも目があり、短剣を持つ手は限りなく伸びるぞ。」
リヨンはなんどか、「ほう」「ほう」と息を吐いていたが、なんとかコツを掴んだと見えて、かすれた声で笑ってみせた。
「私たちについての情報は別売りだ。これについては別途に料金がかかる。あ」
リヨンは、そうそうと頷いた。
「肺を使わない発声ならただで、教授するよ。同じ姿になる覚悟があるんなら。」
「いったいなんで、そうなった?」
「金貨3枚。前払いで。」
しぶしぶとバランは懐から金貨を取り出した。受け取りは、ヨウィスという冒険者がした。
「“受肉”に使われたのさあ。」
「どこの悪魔に、だ。」
「天使とはきいてくれないわけ?」
「天使の受肉は、1000年前の『魔女殲滅戦』以来、成功した例はない。
誰を受肉した。そしてなぜお前はいきている。」
「前半の質問は金貨5枚。後半はダダで答えてあげる。ニコラの紋章のおかげだよ。」
「凶絵師ニコラか。」
そう言いながら、懐から取り出した金貨を渡した。
「受肉したのは誰だ?」
「軍神マロウド。」
バランは呆れてように手を振った。
「それを、信じろと!」
「『愚者の盾』が証人となる。」
アウデリアが言った。
「マロウドが現世に肉体をもって出現したのなら、なぜおまえたちが生きている!」
バランはからかわれた(上に金貨をむしりとられた)と思って怒っているが、もっともな疑問である。マロウドは戦の神。彼に会った時に命を永らえる方法はすみやかな服従のみ。
「階層主が撃退してくれてね。」
粉をかぶったように猜疑心まみれのバランは、後ろに控えたラウルスを振り返った。
「わかったわかった。」
ラウルスは、バランの肩を叩いて下がらせた。
「クローディアが一筋縄ではいかぬ人物なのはわかっていたが、その細君までがこうだとはね。」
ラウルスは、手を叩いて飲み物をもってくるよう教会の使用人に命じた。
さらに控えさせた5名の竜人たちにも警戒を解くよう命じた。
「さて、マロウドを撤退まで追いやった階層主は誰だね?
きみたちが足を踏み入れた階層はせいぜい、一層か二層まで。記録によれば、一層の階層主はジャイアントスパイダー、第二層の階層主は吸血鬼だ。
どちらにもマロウドを撃退するような力量はない。可能性があるとすれば、第六層の階層主ウィルニアくらいなものだが。」
「やったのは第三階層主だ。具体的には撃退などというほどのものでもない。
尻尾の先でペチッとしただけだ。
神というのはだな。己の存続を第一に考えれる。滅ぼされる可能性があっただけで、逃げ出すには十分な理由なんだ。」
「第三階層は竜をはじめとする大型生物が生息する。」
ラウルスは、つぶやいた。
「竜の一頭が知性を獲得して古竜となったいた可能性はあるな。ただ、なみの古竜では、マロウドには歯が立つまい。
こいつはなんと名乗っていた?」
「さあ?」
アウデリアは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「あやつに確認せずにはたしてその名をつげてよいものやら。」
「勇者クロノ!」
ラウルスは矛先を変えた。クロノは、少なくとも聖帝国の臣民であるし、アウデリアほど海千山千でもないと踏んだのだ。
対してクロノは本気で不思議そうに首を傾げただけだった。
「クロノ。あなたはその場にいなかったのですか?」
「いたよ。ただ、ぼくもアウデリアと同じ意見だ。竜の名を他者に告げるにはその竜自身の承諾はあってしかるべきだと思う。」
「聖帝国と聖光教会への忠誠はない、というわけですか?」
「なにをおっしゃる、ラウルス。軍神を退けるほどの古竜から聖帝国が恨みをかわぬように慎重に行動しているだけだ。
それともラウルスは、古竜の名を言えばそれが知己だとわかるくらいに、古竜たちの事情に通じていらっしゃるのかな?」
「わかりました。マロウドの件はいったん保留いたしましょう。」
ラウルスは、怒っている。深く静かに怒っている。
バランにはそれがわかった。
体の奥底から怯えが込み上げてくる。だが、呆れたことに『愚者の盾』の面々はだれひとり怯えた様子がない。
「そうして貰えるとありがたい。」アウデリアが言った。「たった6名の竜人とプラス1で暴力に打って出ようとしたらどうしようかと思っていた。」
ラウルスは、バランを睨んだ。
「交代で休息をとらしております。」
バランは、長剣でも飲み込んだようにまっすぐ背筋を伸ばしてそう言った。
「我らにとって、各個撃破がもっとも注意すべき課題だと話したはずだ!」
「単独行動はさせておりません。最低でも6名ずつ。
班を組んで行動させております。仮に腕利きの冒険者パーティが襲撃をしかけたとしても、全員が黄金級の冒険者に相当するこちらでは、軽々と返り討ちにできるはずです。
グランダに黄金級のパーティが皆無なのは確認済みです。」
「そりゃあ、もともとグランダの冒険者等級に『黄金級』はないからなあ。」
ボルテックが明るく言った。
「まあ、普通に街を歩いて、飯や酒を嗜んでるくらいならばトラブルもないだろう。」
常識的に考えればその通りだ。
だが、このとき王都には常識外のものも少数ながら存在している。
聖帝国の正史にフィオリナの名が記される、これが最初にとなった 。
国境、関所の移動についての優遇、高額な依頼料、受注できるクエストの制限などの特権はひととおり備わる。
ここから上、すなわち黄金級ともなれば、ほとんどの国で貴族とかわらぬ待遇がまっているが、同時に足枷も増える。
「受けなければいけない」依頼がふえ、それを回避するために、どこかの国家や大貴族のお抱えになる。そのこと自体がまたある種の枷となり、行動を縛る。
だから、ワザと黄金級にあがらない冒険者もいる。例えば目の前にいる斧使いの女冒険者アウデリア。
例えば、冒険よりも傭兵として実績がある「ウロボロス鬼兵団」。
あまりにも先の行動が読めずときとして、依頼主をも平然と裏切る「蝕乱天使」。
「おまえたちがグランダへ移動したという情報はすでに届いている。」
バランは凄んでみせた。
声も出せない重体の少女にするには、ふさわしく無い態度だったがここでそれを責めるに者はいない。
「聖光教会は、壁にも耳があり窓にも目があり、短剣を持つ手は限りなく伸びるぞ。」
リヨンはなんどか、「ほう」「ほう」と息を吐いていたが、なんとかコツを掴んだと見えて、かすれた声で笑ってみせた。
「私たちについての情報は別売りだ。これについては別途に料金がかかる。あ」
リヨンは、そうそうと頷いた。
「肺を使わない発声ならただで、教授するよ。同じ姿になる覚悟があるんなら。」
「いったいなんで、そうなった?」
「金貨3枚。前払いで。」
しぶしぶとバランは懐から金貨を取り出した。受け取りは、ヨウィスという冒険者がした。
「“受肉”に使われたのさあ。」
「どこの悪魔に、だ。」
「天使とはきいてくれないわけ?」
「天使の受肉は、1000年前の『魔女殲滅戦』以来、成功した例はない。
誰を受肉した。そしてなぜお前はいきている。」
「前半の質問は金貨5枚。後半はダダで答えてあげる。ニコラの紋章のおかげだよ。」
「凶絵師ニコラか。」
そう言いながら、懐から取り出した金貨を渡した。
「受肉したのは誰だ?」
「軍神マロウド。」
バランは呆れてように手を振った。
「それを、信じろと!」
「『愚者の盾』が証人となる。」
アウデリアが言った。
「マロウドが現世に肉体をもって出現したのなら、なぜおまえたちが生きている!」
バランはからかわれた(上に金貨をむしりとられた)と思って怒っているが、もっともな疑問である。マロウドは戦の神。彼に会った時に命を永らえる方法はすみやかな服従のみ。
「階層主が撃退してくれてね。」
粉をかぶったように猜疑心まみれのバランは、後ろに控えたラウルスを振り返った。
「わかったわかった。」
ラウルスは、バランの肩を叩いて下がらせた。
「クローディアが一筋縄ではいかぬ人物なのはわかっていたが、その細君までがこうだとはね。」
ラウルスは、手を叩いて飲み物をもってくるよう教会の使用人に命じた。
さらに控えさせた5名の竜人たちにも警戒を解くよう命じた。
「さて、マロウドを撤退まで追いやった階層主は誰だね?
きみたちが足を踏み入れた階層はせいぜい、一層か二層まで。記録によれば、一層の階層主はジャイアントスパイダー、第二層の階層主は吸血鬼だ。
どちらにもマロウドを撃退するような力量はない。可能性があるとすれば、第六層の階層主ウィルニアくらいなものだが。」
「やったのは第三階層主だ。具体的には撃退などというほどのものでもない。
尻尾の先でペチッとしただけだ。
神というのはだな。己の存続を第一に考えれる。滅ぼされる可能性があっただけで、逃げ出すには十分な理由なんだ。」
「第三階層は竜をはじめとする大型生物が生息する。」
ラウルスは、つぶやいた。
「竜の一頭が知性を獲得して古竜となったいた可能性はあるな。ただ、なみの古竜では、マロウドには歯が立つまい。
こいつはなんと名乗っていた?」
「さあ?」
アウデリアは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「あやつに確認せずにはたしてその名をつげてよいものやら。」
「勇者クロノ!」
ラウルスは矛先を変えた。クロノは、少なくとも聖帝国の臣民であるし、アウデリアほど海千山千でもないと踏んだのだ。
対してクロノは本気で不思議そうに首を傾げただけだった。
「クロノ。あなたはその場にいなかったのですか?」
「いたよ。ただ、ぼくもアウデリアと同じ意見だ。竜の名を他者に告げるにはその竜自身の承諾はあってしかるべきだと思う。」
「聖帝国と聖光教会への忠誠はない、というわけですか?」
「なにをおっしゃる、ラウルス。軍神を退けるほどの古竜から聖帝国が恨みをかわぬように慎重に行動しているだけだ。
それともラウルスは、古竜の名を言えばそれが知己だとわかるくらいに、古竜たちの事情に通じていらっしゃるのかな?」
「わかりました。マロウドの件はいったん保留いたしましょう。」
ラウルスは、怒っている。深く静かに怒っている。
バランにはそれがわかった。
体の奥底から怯えが込み上げてくる。だが、呆れたことに『愚者の盾』の面々はだれひとり怯えた様子がない。
「そうして貰えるとありがたい。」アウデリアが言った。「たった6名の竜人とプラス1で暴力に打って出ようとしたらどうしようかと思っていた。」
ラウルスは、バランを睨んだ。
「交代で休息をとらしております。」
バランは、長剣でも飲み込んだようにまっすぐ背筋を伸ばしてそう言った。
「我らにとって、各個撃破がもっとも注意すべき課題だと話したはずだ!」
「単独行動はさせておりません。最低でも6名ずつ。
班を組んで行動させております。仮に腕利きの冒険者パーティが襲撃をしかけたとしても、全員が黄金級の冒険者に相当するこちらでは、軽々と返り討ちにできるはずです。
グランダに黄金級のパーティが皆無なのは確認済みです。」
「そりゃあ、もともとグランダの冒険者等級に『黄金級』はないからなあ。」
ボルテックが明るく言った。
「まあ、普通に街を歩いて、飯や酒を嗜んでるくらいならばトラブルもないだろう。」
常識的に考えればその通りだ。
だが、このとき王都には常識外のものも少数ながら存在している。
聖帝国の正史にフィオリナの名が記される、これが最初にとなった 。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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