婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
153 / 248
宴の後始末

7、魍魎たちの会談

しおりを挟む
西域、中原の冒険者としては、「銀級」は、上がりの状態のひとつである。
国境、関所の移動についての優遇、高額な依頼料、受注できるクエストの制限などの特権はひととおり備わる。
ここから上、すなわち黄金級ともなれば、ほとんどの国で貴族とかわらぬ待遇がまっているが、同時に足枷も増える。
「受けなければいけない」依頼がふえ、それを回避するために、どこかの国家や大貴族のお抱えになる。そのこと自体がまたある種の枷となり、行動を縛る。

だから、ワザと黄金級にあがらない冒険者もいる。例えば目の前にいる斧使いの女冒険者アウデリア。
例えば、冒険よりも傭兵として実績がある「ウロボロス鬼兵団」。
あまりにも先の行動が読めずときとして、依頼主をも平然と裏切る「蝕乱天使」。

「おまえたちがグランダへ移動したという情報はすでに届いている。」
バランは凄んでみせた。
声も出せない重体の少女にするには、ふさわしく無い態度だったがここでそれを責めるに者はいない。
「聖光教会は、壁にも耳があり窓にも目があり、短剣を持つ手は限りなく伸びるぞ。」

リヨンはなんどか、「ほう」「ほう」と息を吐いていたが、なんとかコツを掴んだと見えて、かすれた声で笑ってみせた。

「私たちについての情報は別売りだ。これについては別途に料金がかかる。あ」

リヨンは、そうそうと頷いた。

「肺を使わない発声ならただで、教授するよ。同じ姿になる覚悟があるんなら。」
「いったいなんで、そうなった?」
「金貨3枚。前払いで。」

しぶしぶとバランは懐から金貨を取り出した。受け取りは、ヨウィスという冒険者がした。

「“受肉”に使われたのさあ。」

「どこの悪魔に、だ。」

「天使とはきいてくれないわけ?」

「天使の受肉は、1000年前の『魔女殲滅戦』以来、成功した例はない。
誰を受肉した。そしてなぜお前はいきている。」

「前半の質問は金貨5枚。後半はダダで答えてあげる。ニコラの紋章のおかげだよ。」
「凶絵師ニコラか。」
そう言いながら、懐から取り出した金貨を渡した。
「受肉したのは誰だ?」

「軍神マロウド。」

バランは呆れてように手を振った。
「それを、信じろと!」

「『愚者の盾』が証人となる。」
アウデリアが言った。

「マロウドが現世に肉体をもって出現したのなら、なぜおまえたちが生きている!」

バランはからかわれた(上に金貨をむしりとられた)と思って怒っているが、もっともな疑問である。マロウドは戦の神。彼に会った時に命を永らえる方法はすみやかな服従のみ。

「階層主が撃退してくれてね。」

粉をかぶったように猜疑心まみれのバランは、後ろに控えたラウルスを振り返った。

「わかったわかった。」
ラウルスは、バランの肩を叩いて下がらせた。

「クローディアが一筋縄ではいかぬ人物なのはわかっていたが、その細君までがこうだとはね。」
ラウルスは、手を叩いて飲み物をもってくるよう教会の使用人に命じた。
さらに控えさせた5名の竜人たちにも警戒を解くよう命じた。

「さて、マロウドを撤退まで追いやった階層主は誰だね?
きみたちが足を踏み入れた階層はせいぜい、一層か二層まで。記録によれば、一層の階層主はジャイアントスパイダー、第二層の階層主は吸血鬼だ。

どちらにもマロウドを撃退するような力量はない。可能性があるとすれば、第六層の階層主ウィルニアくらいなものだが。」

「やったのは第三階層主だ。具体的には撃退などというほどのものでもない。
尻尾の先でペチッとしただけだ。
神というのはだな。己の存続を第一に考えれる。滅ぼされる可能性があっただけで、逃げ出すには十分な理由なんだ。」

「第三階層は竜をはじめとする大型生物が生息する。」
ラウルスは、つぶやいた。
「竜の一頭が知性を獲得して古竜となったいた可能性はあるな。ただ、なみの古竜では、マロウドには歯が立つまい。
こいつはなんと名乗っていた?」

「さあ?」
アウデリアは意地悪そうな笑みを浮かべた。

「あやつに確認せずにはたしてその名をつげてよいものやら。」

「勇者クロノ!」
ラウルスは矛先を変えた。クロノは、少なくとも聖帝国の臣民であるし、アウデリアほど海千山千でもないと踏んだのだ。
対してクロノは本気で不思議そうに首を傾げただけだった。
「クロノ。あなたはその場にいなかったのですか?」

「いたよ。ただ、ぼくもアウデリアと同じ意見だ。竜の名を他者に告げるにはその竜自身の承諾はあってしかるべきだと思う。」

「聖帝国と聖光教会への忠誠はない、というわけですか?」

「なにをおっしゃる、ラウルス。軍神を退けるほどの古竜から聖帝国が恨みをかわぬように慎重に行動しているだけだ。
それともラウルスは、古竜の名を言えばそれが知己だとわかるくらいに、古竜たちの事情に通じていらっしゃるのかな?」

「わかりました。マロウドの件はいったん保留いたしましょう。」

ラウルスは、怒っている。深く静かに怒っている。
バランにはそれがわかった。
体の奥底から怯えが込み上げてくる。だが、呆れたことに『愚者の盾』の面々はだれひとり怯えた様子がない。

「そうして貰えるとありがたい。」アウデリアが言った。「たった6名の竜人とプラス1で暴力に打って出ようとしたらどうしようかと思っていた。」

ラウルスは、バランを睨んだ。

「交代で休息をとらしております。」
バランは、長剣でも飲み込んだようにまっすぐ背筋を伸ばしてそう言った。

「我らにとって、各個撃破がもっとも注意すべき課題だと話したはずだ!」

「単独行動はさせておりません。最低でも6名ずつ。
班を組んで行動させております。仮に腕利きの冒険者パーティが襲撃をしかけたとしても、全員が黄金級の冒険者に相当するこちらでは、軽々と返り討ちにできるはずです。

グランダに黄金級のパーティが皆無なのは確認済みです。」

「そりゃあ、もともとグランダの冒険者等級に『黄金級』はないからなあ。」
ボルテックが明るく言った。

「まあ、普通に街を歩いて、飯や酒を嗜んでるくらいならばトラブルもないだろう。」

常識的に考えればその通りだ。
だが、このとき王都には常識外のものも少数ながら存在している。

聖帝国の正史にフィオリナの名が記される、これが最初にとなった 。

しおりを挟む
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
感想 3

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...