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宴の後始末
6,集う魍魎たち
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翌朝。
と言っても昼近い時間だった。
カテリアがクロノを伴って聖光教会グランダ教会へやってきた。
そんな時間になったのは、アウデリアが二日酔いを理由にいっこうに外出しようとしなかったからだ。
そう。呼ばれもしないのに、アウデリアは着いてきた。
どうやって連絡をつけたのか、フードをかぶって等身大の人形(ただし、頭と胸しかない)を抱いた陰気な女冒険者と、陽気な若い拳法家まで一緒である。
「なぜついてくる!」
と、カテリアは一応は抗議してみたが、「まあ、勇者パーティがお国元のえらいさんに挨拶に行くんだろ? ついていくのが当然だ。」と胸をはられて、押し負けた。
どうにもカテリアはこの女冒険者に弱い。
言い合いで勝ったことは一度もなく、まずいことに実際に剣をとっても勝つことは出来ないだろう。
「よお、竜人部隊の諸君!」
教会の中で響かせるにはふさわしくない大音声でそう叫んだあと、アウデリアは、にこやかに笑って続けた。
「こちらが、勇者クロノのパーティ『愚者の盾』。わたしがパーティリーダーのアウデリア、
(いや、ぼくのパーティだったらぼくがリーダーでしょというクロノの抗議はあっさりと無視された)こっちがグランダの冒険者ヨウィスと拳士ボルテック。
竜人部隊のバラン隊長には。はじめてお目にかかるか?」
「アウデリア殿。」
バランは、アウデリアに負けない体躯をしている。やや背伸びをして上から睨みつけるようにして
「あなたの冒険者としての実績は存じ上げているし、敬意も払う。
だが、これは聖帝国および聖光教会と勇者クロノとの内密の話となる。
部外者の方は退席願いたい。」
「遠慮しなくて良いぞ。
『魔王宮』の攻略についての話ときいている。勇者パーティ『愚者の盾』としては全面的に協力する。」
「いや、それは・・・・カテリア嬢。」
「魔王宮攻略についてのお話と伺いましたので、パーティの皆さんお招きした。」
カテリアは毅然としている。クロノたちと一緒にいると、あの謎の男ラウレスからの圧迫が弱まるようだった。
「きけば、迷宮内のトラップにかかり、それぞれが別の場所に転移するという窮地をくぐりぬけ、合流を果たし帰還したとのこと。
ここは、クロノひとりではなく、各パーティメンバーからも迷宮内の様子をきくべきでしょう。」
「その『愚者の盾』とやらは」
当人たちを前にしてもバランは強気な態度をくずさなかった。
「5人編成のパーティだったはずだが? もうひとりは?」
「もうひとりは、フィオリナという。わたしの娘だ。」
アウデリアは、ニヤニヤと笑いながら言った。
「あれはクローディア公爵家の一人娘でな。わたしが次を産んでやらない限りは、将来はクローディア公国を背負ってたつ身だ。
あら事を辞さぬような面々の前に立たせると、あとあと外交問題にもなりかねん。
今回は、欠席とさせてもらう。」
「我々がその・・・・」
とんでもない情報をぶちこまれ、バランは絶句した。
「クローディア『公国』?」
「これはほぼ、決まりの話だ。言っておくが、わたしは好意でこの情報をいち早くお伝えしているのだ。いずれは公に知れ渡ることではあるが、数日でも早くこれを知ることができたのが、聖帝国にとっていかに重要か判断できるな?
ならば、あらためて伺おうか。
我々はクロノを残して帰ったほうがよいか?」
「そ、それはたしかに」
バランは忙しく頭を働かせた。
これはとんでもなく重要な情報だ。ならば、交渉相手はグランダではなく、クローディアである。
そして、グランダは、軍事的には裸同然に放り出された王都をはじめ、弱点だらけだが、クローディア「公国」はそうではない。
クローディア「公国」が今後、グランダをどうしたいのか、で話はいくらでも向きがかわってくる。
そして、目の前の冒険者は、自分をクローディア公国のフィオリナ姫の母親だ、といったのだ。貴族位を持たぬから正妻ではないにしろ、クローディア公には娘が一人のみで、その母親がアウデリアだとしたら、実質正妻とかわりはあるまい。
つまりは・・・・・。
「ご来訪に感謝いたします、アウデリア殿。」
バランは頭を下げた。
「では、わたしを含め、連れのものもすべてこの会合に参加させていただく、との認識でよいかな。バラン隊長。」
「けっこうです。」
「うむうむ」
満足そうにアウデリアは頷いた。
「それは助かる。実は『愚者の盾』とは直接関係のないものも一名連れてきてしまっているのでいかにしたものか、と危惧していたのだ。」
アウデリアは後ろを振り返り、フードの少女をよんだ。
「これなるは、ギルド『不死鳥の冠』の腕利きの冒険者ヨウィス。そして彼女が抱きかかえているのが、問題の一名なのだ。」
ヨウィスは、包んでいた布を少し剥がして、中身を見せた。
人形だ。
綺麗な顔立ちの少女の人形だ。
等身大ではあるが、頭と肩、胸の一部しかない。目元から頬にかけて複雑な意匠の刺青がある。
“魔道人形”か。
どこか既視感のある顔立ちに困惑したバランがそんなことを考えていると、人形は目をパチリと開いて、バランをみた。
口元にあどけない笑みが浮かぶ。
なにかしゃべりたいのか、口を開くが
「ほう」
という吐息ににた声がもれただけだった。
ああ、生きている。
バランは驚愕して叫んでいた。
「燭乱天使のリヨンかっ!」
と言っても昼近い時間だった。
カテリアがクロノを伴って聖光教会グランダ教会へやってきた。
そんな時間になったのは、アウデリアが二日酔いを理由にいっこうに外出しようとしなかったからだ。
そう。呼ばれもしないのに、アウデリアは着いてきた。
どうやって連絡をつけたのか、フードをかぶって等身大の人形(ただし、頭と胸しかない)を抱いた陰気な女冒険者と、陽気な若い拳法家まで一緒である。
「なぜついてくる!」
と、カテリアは一応は抗議してみたが、「まあ、勇者パーティがお国元のえらいさんに挨拶に行くんだろ? ついていくのが当然だ。」と胸をはられて、押し負けた。
どうにもカテリアはこの女冒険者に弱い。
言い合いで勝ったことは一度もなく、まずいことに実際に剣をとっても勝つことは出来ないだろう。
「よお、竜人部隊の諸君!」
教会の中で響かせるにはふさわしくない大音声でそう叫んだあと、アウデリアは、にこやかに笑って続けた。
「こちらが、勇者クロノのパーティ『愚者の盾』。わたしがパーティリーダーのアウデリア、
(いや、ぼくのパーティだったらぼくがリーダーでしょというクロノの抗議はあっさりと無視された)こっちがグランダの冒険者ヨウィスと拳士ボルテック。
竜人部隊のバラン隊長には。はじめてお目にかかるか?」
「アウデリア殿。」
バランは、アウデリアに負けない体躯をしている。やや背伸びをして上から睨みつけるようにして
「あなたの冒険者としての実績は存じ上げているし、敬意も払う。
だが、これは聖帝国および聖光教会と勇者クロノとの内密の話となる。
部外者の方は退席願いたい。」
「遠慮しなくて良いぞ。
『魔王宮』の攻略についての話ときいている。勇者パーティ『愚者の盾』としては全面的に協力する。」
「いや、それは・・・・カテリア嬢。」
「魔王宮攻略についてのお話と伺いましたので、パーティの皆さんお招きした。」
カテリアは毅然としている。クロノたちと一緒にいると、あの謎の男ラウレスからの圧迫が弱まるようだった。
「きけば、迷宮内のトラップにかかり、それぞれが別の場所に転移するという窮地をくぐりぬけ、合流を果たし帰還したとのこと。
ここは、クロノひとりではなく、各パーティメンバーからも迷宮内の様子をきくべきでしょう。」
「その『愚者の盾』とやらは」
当人たちを前にしてもバランは強気な態度をくずさなかった。
「5人編成のパーティだったはずだが? もうひとりは?」
「もうひとりは、フィオリナという。わたしの娘だ。」
アウデリアは、ニヤニヤと笑いながら言った。
「あれはクローディア公爵家の一人娘でな。わたしが次を産んでやらない限りは、将来はクローディア公国を背負ってたつ身だ。
あら事を辞さぬような面々の前に立たせると、あとあと外交問題にもなりかねん。
今回は、欠席とさせてもらう。」
「我々がその・・・・」
とんでもない情報をぶちこまれ、バランは絶句した。
「クローディア『公国』?」
「これはほぼ、決まりの話だ。言っておくが、わたしは好意でこの情報をいち早くお伝えしているのだ。いずれは公に知れ渡ることではあるが、数日でも早くこれを知ることができたのが、聖帝国にとっていかに重要か判断できるな?
ならば、あらためて伺おうか。
我々はクロノを残して帰ったほうがよいか?」
「そ、それはたしかに」
バランは忙しく頭を働かせた。
これはとんでもなく重要な情報だ。ならば、交渉相手はグランダではなく、クローディアである。
そして、グランダは、軍事的には裸同然に放り出された王都をはじめ、弱点だらけだが、クローディア「公国」はそうではない。
クローディア「公国」が今後、グランダをどうしたいのか、で話はいくらでも向きがかわってくる。
そして、目の前の冒険者は、自分をクローディア公国のフィオリナ姫の母親だ、といったのだ。貴族位を持たぬから正妻ではないにしろ、クローディア公には娘が一人のみで、その母親がアウデリアだとしたら、実質正妻とかわりはあるまい。
つまりは・・・・・。
「ご来訪に感謝いたします、アウデリア殿。」
バランは頭を下げた。
「では、わたしを含め、連れのものもすべてこの会合に参加させていただく、との認識でよいかな。バラン隊長。」
「けっこうです。」
「うむうむ」
満足そうにアウデリアは頷いた。
「それは助かる。実は『愚者の盾』とは直接関係のないものも一名連れてきてしまっているのでいかにしたものか、と危惧していたのだ。」
アウデリアは後ろを振り返り、フードの少女をよんだ。
「これなるは、ギルド『不死鳥の冠』の腕利きの冒険者ヨウィス。そして彼女が抱きかかえているのが、問題の一名なのだ。」
ヨウィスは、包んでいた布を少し剥がして、中身を見せた。
人形だ。
綺麗な顔立ちの少女の人形だ。
等身大ではあるが、頭と肩、胸の一部しかない。目元から頬にかけて複雑な意匠の刺青がある。
“魔道人形”か。
どこか既視感のある顔立ちに困惑したバランがそんなことを考えていると、人形は目をパチリと開いて、バランをみた。
口元にあどけない笑みが浮かぶ。
なにかしゃべりたいのか、口を開くが
「ほう」
という吐息ににた声がもれただけだった。
ああ、生きている。
バランは驚愕して叫んでいた。
「燭乱天使のリヨンかっ!」
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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