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宴の後始末
4,勇者の参戦
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「カテリア、我々は、聖光教会にて滞在する。お主は、クローディアの動向をさぐるとともに、クロノを探し出して連れてこい。
『魔王宮』の攻略の実体がどうなっているのか聞きたい。」
「はい」
と、答えてからカテリアは、自分の態度に驚いた。
彼女は、ラウレスを知らない。
そして、剣聖にして、名門伯爵家令嬢。
彼女に命令できるものは少ないはずだ。少なくとも見ず知らずの男に。
この感覚に彼女は覚えがあった。それは種族として根本的に人間より上位の存在から発せられた言葉。
魔力などこめずともそれはそのまま、命令となる。
反抗しようにも剣を抜くこともできず、振りかざした手に拳を作ることすら敵わぬ。
「バラン殿、この御方は・・・」
「伯爵令嬢は、ご存知なくてよろしい。」
バランはそっけなく言った。
「祭りは楽しいのものだが後始末は、いろいろ大変なのだ。」
西域の女冒険者は、楽しく酔っていた。
何度目かの来襲で勝手のわかった店員は、酒樽と山盛りの串焼きを置いて、テーブルを去っている。
「むしろ、これからがお祭りだと考えるだろうね。西域諸国は。」
冷静に答えたのは、勇者クロノである。
「魔王宮を王位継承の試験場にしたのは、明らかにグランダの失策。
実際のところ、魔王の再来くんのおかげで、すべては丸く収まりましたけど。
こじれた理由も、解決した中身も対外的には発表できないのですから、グランダ叩きはこれからが本番でしょ?」
「聖帝国の抑えは、お主が重要となる。」
アウデリアの口調は落ち着いていている。だが、話しかけてるそれは、クロノではなく酒樽だぞ?
「上層部には、ウィルニアとの新しい協約が成立したところまでは、説明せざるを得ない。
一層から五層までは従来どおり、冒険者の狩り場として解放される。
この功績を『愚者の盾』がいただく。」
「確かに。『愚者の盾』は実質、勇者パーティだからね。
しかもメンバーのバランスもいい。
勇者たるぼくに、ミトラの冒険者アウデリア、グランダの冒険者ヨウィス、グランダ魔道院総支配の血縁者である拳法家ジウル・ボルテック、クローディア大公国のフィオリナ姫。」
「とは言っても、聖帝国がこれで面子がたったと引っ込んでくれるとも思えない。」
つぶやいたアウデリアの口元には笑みがうかんでいる。
「こうなると、当代の王が退位したのも実にいいタイミングだと、言わざるをえない。
王が替われば、糾弾の矛先も鈍るだろう。
クローディアはやはり独立の道を歩むか?」
「“魔王の再来”くんが割譲した領地を考慮するに、それ以外にはありえないでしょ。
もちろん、クローディア大公としてはいろいろと悩み大きいでしょうが。
と、いうか、クローディア大公の妻であるあなたが、今さらそんなことを言い出しますか?」
アウデリアは肩をすくめた。
「そういうわずらわしさがあるから、正式に妻にはならいのだがな。」
酒場の扉が開き、血相をかえたカテリアが、飛び込んできたのはこのときだった。
「クロノ! いっしょに来てくれ!
聖竜師団が来た! グランダが消滅するぞっ!」
呆れた話をする。
グランダの王都にはこのとき、まともに軍として機能する組織がない。
どちらかというと、治安部隊に近かった近衛は、先代のグランダ王が後先考えずに解散させてしまった。
あとは、国境近くの砦の駐屯部隊。各貴族はそれぞれの領地に、それぞれの軍を抱えてはいたが、それをもって王都に進行すればそれはそのまま反乱を意味するのだから、王都にいるのは貴族とその家族、護衛程度の供回り。
エルマート王太子とその即位式までの後見となったクローディア「公爵」は、取り急ぎ、クローディア公爵領から白狼騎士団を呼び寄せるよう手配したが、まだ数日はかかるだろう。
これが、本当に師団規模の軍勢の侵攻ならば、なすすべもなく王都は占拠され、その状態で和平交渉が行われることとなったであろう。
だが、やってきたのは師団規模の戦闘力があるとみなされる竜人による小隊規模の部隊である。
これならば、戦いようはある。
個々がいかに強力であったとしても、それ以上の強さをもつ個体をぶつければいい。
そして、運悪く・・・・・
『魔王宮』の攻略の実体がどうなっているのか聞きたい。」
「はい」
と、答えてからカテリアは、自分の態度に驚いた。
彼女は、ラウレスを知らない。
そして、剣聖にして、名門伯爵家令嬢。
彼女に命令できるものは少ないはずだ。少なくとも見ず知らずの男に。
この感覚に彼女は覚えがあった。それは種族として根本的に人間より上位の存在から発せられた言葉。
魔力などこめずともそれはそのまま、命令となる。
反抗しようにも剣を抜くこともできず、振りかざした手に拳を作ることすら敵わぬ。
「バラン殿、この御方は・・・」
「伯爵令嬢は、ご存知なくてよろしい。」
バランはそっけなく言った。
「祭りは楽しいのものだが後始末は、いろいろ大変なのだ。」
西域の女冒険者は、楽しく酔っていた。
何度目かの来襲で勝手のわかった店員は、酒樽と山盛りの串焼きを置いて、テーブルを去っている。
「むしろ、これからがお祭りだと考えるだろうね。西域諸国は。」
冷静に答えたのは、勇者クロノである。
「魔王宮を王位継承の試験場にしたのは、明らかにグランダの失策。
実際のところ、魔王の再来くんのおかげで、すべては丸く収まりましたけど。
こじれた理由も、解決した中身も対外的には発表できないのですから、グランダ叩きはこれからが本番でしょ?」
「聖帝国の抑えは、お主が重要となる。」
アウデリアの口調は落ち着いていている。だが、話しかけてるそれは、クロノではなく酒樽だぞ?
「上層部には、ウィルニアとの新しい協約が成立したところまでは、説明せざるを得ない。
一層から五層までは従来どおり、冒険者の狩り場として解放される。
この功績を『愚者の盾』がいただく。」
「確かに。『愚者の盾』は実質、勇者パーティだからね。
しかもメンバーのバランスもいい。
勇者たるぼくに、ミトラの冒険者アウデリア、グランダの冒険者ヨウィス、グランダ魔道院総支配の血縁者である拳法家ジウル・ボルテック、クローディア大公国のフィオリナ姫。」
「とは言っても、聖帝国がこれで面子がたったと引っ込んでくれるとも思えない。」
つぶやいたアウデリアの口元には笑みがうかんでいる。
「こうなると、当代の王が退位したのも実にいいタイミングだと、言わざるをえない。
王が替われば、糾弾の矛先も鈍るだろう。
クローディアはやはり独立の道を歩むか?」
「“魔王の再来”くんが割譲した領地を考慮するに、それ以外にはありえないでしょ。
もちろん、クローディア大公としてはいろいろと悩み大きいでしょうが。
と、いうか、クローディア大公の妻であるあなたが、今さらそんなことを言い出しますか?」
アウデリアは肩をすくめた。
「そういうわずらわしさがあるから、正式に妻にはならいのだがな。」
酒場の扉が開き、血相をかえたカテリアが、飛び込んできたのはこのときだった。
「クロノ! いっしょに来てくれ!
聖竜師団が来た! グランダが消滅するぞっ!」
呆れた話をする。
グランダの王都にはこのとき、まともに軍として機能する組織がない。
どちらかというと、治安部隊に近かった近衛は、先代のグランダ王が後先考えずに解散させてしまった。
あとは、国境近くの砦の駐屯部隊。各貴族はそれぞれの領地に、それぞれの軍を抱えてはいたが、それをもって王都に進行すればそれはそのまま反乱を意味するのだから、王都にいるのは貴族とその家族、護衛程度の供回り。
エルマート王太子とその即位式までの後見となったクローディア「公爵」は、取り急ぎ、クローディア公爵領から白狼騎士団を呼び寄せるよう手配したが、まだ数日はかかるだろう。
これが、本当に師団規模の軍勢の侵攻ならば、なすすべもなく王都は占拠され、その状態で和平交渉が行われることとなったであろう。
だが、やってきたのは師団規模の戦闘力があるとみなされる竜人による小隊規模の部隊である。
これならば、戦いようはある。
個々がいかに強力であったとしても、それ以上の強さをもつ個体をぶつければいい。
そして、運悪く・・・・・
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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