婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
150 / 248
宴の後始末

4,勇者の参戦

しおりを挟む
「カテリア、我々は、聖光教会にて滞在する。お主は、クローディアの動向をさぐるとともに、クロノを探し出して連れてこい。
『魔王宮』の攻略の実体がどうなっているのか聞きたい。」

「はい」
と、答えてからカテリアは、自分の態度に驚いた。

彼女は、ラウレスを知らない。
そして、剣聖にして、名門伯爵家令嬢。
彼女に命令できるものは少ないはずだ。少なくとも見ず知らずの男に。

この感覚に彼女は覚えがあった。それは種族として根本的に人間より上位の存在から発せられた言葉。
魔力などこめずともそれはそのまま、命令となる。
反抗しようにも剣を抜くこともできず、振りかざした手に拳を作ることすら敵わぬ。

「バラン殿、この御方は・・・」

「伯爵令嬢は、ご存知なくてよろしい。」
バランはそっけなく言った。


「祭りは楽しいのものだが後始末は、いろいろ大変なのだ。」
西域の女冒険者は、楽しく酔っていた。
何度目かの来襲で勝手のわかった店員は、酒樽と山盛りの串焼きを置いて、テーブルを去っている。
「むしろ、これからがお祭りだと考えるだろうね。西域諸国は。」
冷静に答えたのは、勇者クロノである。
「魔王宮を王位継承の試験場にしたのは、明らかにグランダの失策。
実際のところ、魔王の再来くんのおかげで、すべては丸く収まりましたけど。

こじれた理由も、解決した中身も対外的には発表できないのですから、グランダ叩きはこれからが本番でしょ?」

「聖帝国の抑えは、お主が重要となる。」

アウデリアの口調は落ち着いていている。だが、話しかけてるそれは、クロノではなく酒樽だぞ?
「上層部には、ウィルニアとの新しい協約が成立したところまでは、説明せざるを得ない。
一層から五層までは従来どおり、冒険者の狩り場として解放される。
この功績を『愚者の盾』がいただく。」

「確かに。『愚者の盾』は実質、勇者パーティだからね。
しかもメンバーのバランスもいい。
勇者たるぼくに、ミトラの冒険者アウデリア、グランダの冒険者ヨウィス、グランダ魔道院総支配の血縁者である拳法家ジウル・ボルテック、クローディア大公国のフィオリナ姫。」

「とは言っても、聖帝国がこれで面子がたったと引っ込んでくれるとも思えない。」

つぶやいたアウデリアの口元には笑みがうかんでいる。

「こうなると、当代の王が退位したのも実にいいタイミングだと、言わざるをえない。
王が替われば、糾弾の矛先も鈍るだろう。
クローディアはやはり独立の道を歩むか?」

「“魔王の再来”くんが割譲した領地を考慮するに、それ以外にはありえないでしょ。

もちろん、クローディア大公としてはいろいろと悩み大きいでしょうが。
と、いうか、クローディア大公の妻であるあなたが、今さらそんなことを言い出しますか?」

アウデリアは肩をすくめた。

「そういうわずらわしさがあるから、正式に妻にはならいのだがな。」
 
酒場の扉が開き、血相をかえたカテリアが、飛び込んできたのはこのときだった。

「クロノ! いっしょに来てくれ!
聖竜師団が来た! グランダが消滅するぞっ!」



呆れた話をする。
グランダの王都にはこのとき、まともに軍として機能する組織がない。
どちらかというと、治安部隊に近かった近衛は、先代のグランダ王が後先考えずに解散させてしまった。

あとは、国境近くの砦の駐屯部隊。各貴族はそれぞれの領地に、それぞれの軍を抱えてはいたが、それをもって王都に進行すればそれはそのまま反乱を意味するのだから、王都にいるのは貴族とその家族、護衛程度の供回り。

エルマート王太子とその即位式までの後見となったクローディア「公爵」は、取り急ぎ、クローディア公爵領から白狼騎士団を呼び寄せるよう手配したが、まだ数日はかかるだろう。

これが、本当に師団規模の軍勢の侵攻ならば、なすすべもなく王都は占拠され、その状態で和平交渉が行われることとなったであろう。
だが、やってきたのは師団規模の戦闘力があるとみなされる竜人による小隊規模の部隊である。
これならば、戦いようはある。

個々がいかに強力であったとしても、それ以上の強さをもつ個体をぶつければいい。

そして、運悪く・・・・・



しおりを挟む
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

処理中です...