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宴の後始末
3,竜人部隊
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成り行きで。
成り行きで、財務卿になってしまったバルゴールはいたく後悔したが、いずれにしてもこれまでの投資、そしてそこから生み出される利益を考えればほかに選択肢はなかった。
少なくとも任期中はは、金貸しをはじめ、後ろ暗い向きへの投資や取り立ても控えざるを得ないだろう。
だが、グランダを富ませればそんなものはすぐに何倍にもなって帰ってくる。
そこ、に気がついた彼はだからこそ、クローディアはバルゴールを財務卿に推挙したのだが、このときのバルゴールにそこまでの理解はない。
ただただ、投資した金、これから生み出される利益を失いたくない一心であった。
「なるほど。閣僚のお一人になられるのなら、少なくともご説明する義務はあるようだ。」
バランの余裕綽々たる態度は崩れない。
「確かに基本的には迷宮の管理権はその国にあります。ですが例外も多々あります。
迷宮そのものがあまりに危険だと判断される場合、または管理すべき国家にそれだけの力がない場合です。
この場合、西域諸国は連合して管理のため、武力を派遣いたします。」
「それは存じております。」
クローディアが静かに言った。
「もっとも身近な例ですと、ラジウス連合国の『戻らず谷』でしょうか。ちょうとふたつの州の狭間に位置し、どこちらも権利を譲らぬうちに内部で魔物が増殖し、スタンピードを引き起こしました。あそこは現在でもなお、西域諸国連合軍の管理下にあるはずです。」
「さすが!」
バランの賛辞は世辞ではない。ここまでよく勉強しているものは、聖帝国の外交官にも少ない。
「しかしながら」とクローディアはもっともらしく首を傾げた。
「西域諸国連合が管理する迷宮はあれど、西域諸国連合(有志)の管理する迷宮は、知りませんな。」
勉強しすぎていた。
「さらに指摘させていただくならば、先程、魔王宮にて多数の死傷者が、とおっしゃいましたが、正しくは『負傷者』です。
死者は1人も出ておりません。
このバルゴール伯が事前に救護院を設置して、有能な治療師を用意してくれたおかげです。」
「つまりは」
バランは腹立たしげに言った。
「魔王宮を西域諸国連合に任せるつもりはない、と。」
「西域諸国連合ならば、考慮の余地はあるでしょう。
しかし、西域諸国連合(有志)では。」
クローディアの笑みをバランは侮辱ととった。
「我らは聖竜師団であり、部下が待機中であることを申し上げれば、考慮いただけますか?」
反応が鈍かったので、さらに重ねた。
「我らはすべて、竜人。人の力を超えた竜の力を身に宿した強者が30名。
さらに、その後方には、西域諸国連合の精兵が揃ってることもお忘れなく。」
「西方諸国連合(有志)ですな。
ときに、バラン将軍。」
「なにか!?」
「お連れいただいた竜人のなかにランゴバルドのギルドに所属のものが数名いらっしゃいますようですが、聖帝国の中央軍だけでは竜人の小隊が組めなくなりましたか?」
「・・・・・・」
絶句したバランであったが、このとき彼が連れてきた部下の男が、そっと袖をひいた。
「ディクト=バラン。どうもクローディア閣下のほうが一枚上手のようだ。」
竜人は、男性も女性も背が高く、大柄なものが多いが、彼はどちらかと言えば小柄で、くるくるとした巻き毛でかわいらしい顔立ちをしている。
「しかし・・・・」
「いや、クローディア閣下。誤解を招くような物言いで申し訳ない。」
青年は、気さくに笑いかけた。
「我々はなにも利権がほしくて、駆けつけたわけではないのだ。
ただ、今更申し上げるのも恐縮だが、魔王宮は珍しく『活きている』迷宮なのだ。
そこを、王位継承ゲームの舞台にしようとする王室があるときいて、ほっておくわけにいかずにね。
確かに、他国に軍隊を送り込むにはせめて西域が一致団結するのはルールだが、今回、それを待っていては、時期を逸してしまう可能性があった。
時期を逸する、とは、利権を失うという意味ではないよ。我々はそこまで欲深くはない。
『魔王宮』の主を変に刺激してしまって、地上への逆侵攻を招く事態を、我々はもっともおそれていた。
そのため」
くすくすと、彼は笑った。
「西域諸国連合(有志)という集まりをでっち上げて、駆けつけたわけだ。
急な召集だったので、竜人がそろわず、ランゴバルドの助けを借りた。それもまたその通り。」
「失礼ですが、あなたは?」
「申し遅れた。ぼくはラウレスという。」
「竜人部隊のかたではありませんな。」
「クローディア公爵!」
バランの声は悲鳴に近い。
「かまわないさ、ディクト=バラン。
なぜ、そう思ったのか、たずねてもよいかね、クローディア。」
あまりの言い草に今度は、グランダ側が色めき立った。
それを軽く制しながら、クローディアは答えた。
「あなたが竜人ではないからです。」
成り行きで、財務卿になってしまったバルゴールはいたく後悔したが、いずれにしてもこれまでの投資、そしてそこから生み出される利益を考えればほかに選択肢はなかった。
少なくとも任期中はは、金貸しをはじめ、後ろ暗い向きへの投資や取り立ても控えざるを得ないだろう。
だが、グランダを富ませればそんなものはすぐに何倍にもなって帰ってくる。
そこ、に気がついた彼はだからこそ、クローディアはバルゴールを財務卿に推挙したのだが、このときのバルゴールにそこまでの理解はない。
ただただ、投資した金、これから生み出される利益を失いたくない一心であった。
「なるほど。閣僚のお一人になられるのなら、少なくともご説明する義務はあるようだ。」
バランの余裕綽々たる態度は崩れない。
「確かに基本的には迷宮の管理権はその国にあります。ですが例外も多々あります。
迷宮そのものがあまりに危険だと判断される場合、または管理すべき国家にそれだけの力がない場合です。
この場合、西域諸国は連合して管理のため、武力を派遣いたします。」
「それは存じております。」
クローディアが静かに言った。
「もっとも身近な例ですと、ラジウス連合国の『戻らず谷』でしょうか。ちょうとふたつの州の狭間に位置し、どこちらも権利を譲らぬうちに内部で魔物が増殖し、スタンピードを引き起こしました。あそこは現在でもなお、西域諸国連合軍の管理下にあるはずです。」
「さすが!」
バランの賛辞は世辞ではない。ここまでよく勉強しているものは、聖帝国の外交官にも少ない。
「しかしながら」とクローディアはもっともらしく首を傾げた。
「西域諸国連合が管理する迷宮はあれど、西域諸国連合(有志)の管理する迷宮は、知りませんな。」
勉強しすぎていた。
「さらに指摘させていただくならば、先程、魔王宮にて多数の死傷者が、とおっしゃいましたが、正しくは『負傷者』です。
死者は1人も出ておりません。
このバルゴール伯が事前に救護院を設置して、有能な治療師を用意してくれたおかげです。」
「つまりは」
バランは腹立たしげに言った。
「魔王宮を西域諸国連合に任せるつもりはない、と。」
「西域諸国連合ならば、考慮の余地はあるでしょう。
しかし、西域諸国連合(有志)では。」
クローディアの笑みをバランは侮辱ととった。
「我らは聖竜師団であり、部下が待機中であることを申し上げれば、考慮いただけますか?」
反応が鈍かったので、さらに重ねた。
「我らはすべて、竜人。人の力を超えた竜の力を身に宿した強者が30名。
さらに、その後方には、西域諸国連合の精兵が揃ってることもお忘れなく。」
「西方諸国連合(有志)ですな。
ときに、バラン将軍。」
「なにか!?」
「お連れいただいた竜人のなかにランゴバルドのギルドに所属のものが数名いらっしゃいますようですが、聖帝国の中央軍だけでは竜人の小隊が組めなくなりましたか?」
「・・・・・・」
絶句したバランであったが、このとき彼が連れてきた部下の男が、そっと袖をひいた。
「ディクト=バラン。どうもクローディア閣下のほうが一枚上手のようだ。」
竜人は、男性も女性も背が高く、大柄なものが多いが、彼はどちらかと言えば小柄で、くるくるとした巻き毛でかわいらしい顔立ちをしている。
「しかし・・・・」
「いや、クローディア閣下。誤解を招くような物言いで申し訳ない。」
青年は、気さくに笑いかけた。
「我々はなにも利権がほしくて、駆けつけたわけではないのだ。
ただ、今更申し上げるのも恐縮だが、魔王宮は珍しく『活きている』迷宮なのだ。
そこを、王位継承ゲームの舞台にしようとする王室があるときいて、ほっておくわけにいかずにね。
確かに、他国に軍隊を送り込むにはせめて西域が一致団結するのはルールだが、今回、それを待っていては、時期を逸してしまう可能性があった。
時期を逸する、とは、利権を失うという意味ではないよ。我々はそこまで欲深くはない。
『魔王宮』の主を変に刺激してしまって、地上への逆侵攻を招く事態を、我々はもっともおそれていた。
そのため」
くすくすと、彼は笑った。
「西域諸国連合(有志)という集まりをでっち上げて、駆けつけたわけだ。
急な召集だったので、竜人がそろわず、ランゴバルドの助けを借りた。それもまたその通り。」
「失礼ですが、あなたは?」
「申し遅れた。ぼくはラウレスという。」
「竜人部隊のかたではありませんな。」
「クローディア公爵!」
バランの声は悲鳴に近い。
「かまわないさ、ディクト=バラン。
なぜ、そう思ったのか、たずねてもよいかね、クローディア。」
あまりの言い草に今度は、グランダ側が色めき立った。
それを軽く制しながら、クローディアは答えた。
「あなたが竜人ではないからです。」
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