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第137話 決戦〜4

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リアモンドは楽しんでいる。
竜という種族にもれず、彼女も戦いを大いに愛していた。そして、自分自身と戦える機会というものは、長い生涯でもそうそうあるものではない。
おどろいたことに魔族の暗殺者ヤランガは、彼女の技までもコピーしていたのである。

基本的には、リアモンドは力押しを好む。
竜鱗という高次の防御力を誇る盾がある以上、防御に気を使う必要はない。
必要に応じてその攻撃方法を、剣にしたりブレスにしたり爪にしたり牙にしたりとヴァリエーションをもたせるだけだ。
だが、その体と技をコピーしたヤランガは、もっと巧妙だ。
竜鱗の一部を分離させ、そこにブレスを放って反射させ、前後左右から自在に攻撃をしかける方法などは、リアモンドは考えたこともなく、敬意すら抱いた。

目的があって戦っている以上、楽しい時間はいつまでも続かない。
突然、「転移」によって、ヤランガの目の前に現れたボルテックが、魔力の乗ったご連撃をヤランガにぶちかました。

一瞬、意識をとばしたヤランガに、近づいたリアモンドがその顎の鱗を丁寧にむしり取り、そこに指を突き入れた。
ビクっとヤランガが痙攣し、ぐったりと倒れた。

その姿が、竜人の美女のそれから痩身の男のものにかわっていくのを見てボルテックが尋ねた。

「殺した・・・のか?」

「いいや。殺してもいいつもりの攻撃ではあったが、な。生き残ったのはこの男の運だろう。」
リアモンドは肩をすくめた。
「あるいはルト坊やの采配のうちか?」


召喚魔法なのか。転移魔法なのか。

ルトは、防戦に負われている。
ガスパールの選んだ戦法は、虚空から突如、腕を出現させ、殴りかかるというものだった。
腕は、鱗に覆われ、人間のものではない。
それが、なにもないところから突然に打ちかかってくるのである。

二発、食らった。

一発はガードしようとした腕の骨を複雑骨折させ、ルトを吹き飛ばした。
もう一発は足元からで、吹き飛んだルトの脇腹を下方からえぐる形で、炸裂し、彼を吐血させた。

「上古の魔族ってこんなに強いのかっ!」

とルトがぼやくと、ガスパールは、まだ口がきけるのか、と呆れたように言った。

「しかし!」
びしっと相手を指し示して、ルトは宣言する。
「その技はすでに見切ったわ!」

勇者ものの劇の登場人物のつもりかいっ!とガスパールは叫んだ。けっこうここらは趣味の合いそうな二人ではある。
ルトの今度は、正面から撃ちかかったこぶしをのけぞってかわす。だが、それはフェイントだった。本命はのけぞった彼の真上から振り下ろす一撃。
頭部を狙った打撃を首をふって、衝撃を逃がす。逃がすと同時に腕を掴んで極める。
さらに脚を絡めて。

バキッ。

異性物もその体のなかには骨格があったのだろう。人間のそれを折ったときと同様の感触で、腕は逆の方向に折れ曲がり、引っ込むときにルトは間違いなく腕の主の悲鳴をきい
た。


「終わりだ。ザザリ。」

腰に手を当て、笑うフィオリナ。
仁王立ちに、たザザリを見下ろすが、実際には満身創痍。比べるのも馬鹿らしい。
だから、フィオリナの言葉は単なる駆け引きにすぎない。
「おまえの望みは潰えた。」


「さあ、聞こうか。魔女よ。おまえが望んで果たせなかった望みはなんだ。」

ふざけるな!
叫んだ声は、ザザリのもののようでもあり、メアのようでもある。
二人の人間が同時に声帯を駆使しようとしたためか、魔女であり王妃でもある女は咳き込んでうずくまった。

「わたしの子を王に。ヒトの国の王に。」
「なるほど。それはエルマートのことなのか? それともバズス=リウのことなのか?」

「わたしの子はひとりだ。@9\))4「\93」#だ。」

メアとザザリは同時に叫んだ。

「邪魔するものは排除する。フィオリナ! たとえ、おまえが     の花嫁の候補だったとしても排除する。」

ザザリは天を仰ぐように手を差し伸べた。

「『世界』に押し潰されろ。」

それは正方形からなる立方体に見えた。
目をこらすと中には、大地があり、海があり、空が広がっている。
ザザリの作り出した「世界」。

「粗雑でできの悪い『世界』だな。否定する。」

川面の泡沫は音もなく潰れて、消え去った。
「世界」を想像する魔法、「世界」を否定して消し去る。どちらがより高度でエネルギーを消費するものなのか。

人知を越える魔道の粋を駆使した二人の魔女は、ともに血を吐き、地に膝をつく。
「おまえは邪魔だ、我が世界の中でのみ存在せよ。」
「言っておくがこの戦いは、わたしが圧倒的に有利だからな!
生み出したばかりの世界はもともと安定までに時間をかけて調整が必要だ。
そんなものいくらでも潰してやる。」
それもフィオリナのハッタリである。

もともと、その存在になにがしかの瑕疵を見出しそれを手がかりに、対象を崩壊させるのが、フィオリナの魔法だ。
『世界』はたしかに瑕疵も多いが、存続し続けようとする力もまた働いている。

フィオリナの周りの景色が歪み、岩肌と見たこともない動く植物のみが存在する「世界」が現れる。
フィオリナはそれを「否定」した。

代償は頭が割れるほどのじ頭痛と視覚の喪失。
もはや顔を上げることもできない。このまま、死ぬか。戦いながら死ぬのは悪くはない。
しかも相手は、伝説の闇森のザザリだ。

「わたしは、わたしは、わたしの、エル、リウ、を救うのだ。邪魔はさせない。神にも悪魔にも、ハルトにも。」

ザザリの声も苦しげだ。
限界が近いのだろう。ふむ。フィオリナは顔を上げ、口元を吊り上げて無理やり笑みの形を作った。

「だから、どっちをどう救うんだ? グランダの王座はひとつだぞ。どっちを王座に座らせる? バズス=リウか、エルマートか。」

「エルマート? 誰だそれは。わたしの子はリウひとり、リウなんて知らないエルマートを、エルマートの体はリウが使うのだ、だめよ、そんな!」

フィオリナの肩におかれた温かい手の主は見えなくてもわかる。
頭痛がほんの少し和らぎ、視界が戻ってきた。

ザザリは、立っている。
両眼から血の涙を流しながらそれでも2本の足で立っていた。
なら、こっちも立ち上がらないとな。

フィオリナは、足に力を込める。一瞬、よろけたがルトの手が支えてくれた。

「あいつはどうなった? あのガスパールとかいう魔導師は。」

「ザザリの支配から解放した。いま、槍の魔族の治療に向かっている。
ギムリウスの脚をまともに食らったんだ。助かるだろうがしばらくは不自由するだろうな。」

「わ、わたしわっ!
わたしのリウを、あそこから解放する。呪われた魔素の体から新しい、健やかな身体に魂を移して、そうしてリウは、ここの王さまになる!」

「健やかな身体ってのがエルマートのことなんだな。」

斧を担いだアウデリアの足取りは、死闘のあとなど微塵も感じさせない。

「面白い方法を考えたものだ。魔素体質をどうこうするわけではなく、身体ごと乗り換える。
だが、その場合、器にされた身体のもともとの持ち主はどうなる?」

「魂は融合されるな。ただし、今回の件に限定すれば、リウとエルマートではレベルに差がありすぎる。弱い方は消える。」

ルトは淡々と言った。

「だから、その案はダメだぞ、母上。」

ザザリの前に忽然と、リウが姿を現した。

転生酔い。
二つの人格が入り混じり、正常な判断が出来なくなるこの病を克服するため、ルトが仕組んだのがこれだった。
あらゆる抵抗を無意味にさせたうえで、守るべき対象を目の前に登場させる。
そのショックでたいていの転生酔いは。

ザザリは、穴の開くほどリウの顔をじっと見つめた。

そして、首を傾げるとこう言った。

「だれ?」


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