婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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第129話 混迷の戦場

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さて。

ハルトは粗暴な性格でもなく、基本的には礼儀正しい。
概ね、大人しく、多くの場合口数も少ない。

それにもかかわらず、彼を嫌うものは一定数いるのだ。
決してその割り合い、数が多いわけではないだのが、進んで味方を作るための根回しもしないので、結果としては、積極的に周りで行動するものは敵だらけ、ということが往々にしてある。

どんなところが嫌われるのかと言うと、いままさにそれが起こっていた。

信じられぬ方法で、とんでもないタイミングで迷宮内の戦場へと姿を表したクリュークを、ルトは完全に無視した。

名乗りに反応もせず、それどころか彼をチラリと視線をやることさえしなかった。

ルトが一目散に目指したのは、切断されたリヨンの、正確に言ってしまえば、リヨンの10分の1の残骸。それを地面に落ちる寸前に抱き止めた。

リヨンは、頭と肩、左胸の半分しか残っていない。
ならば、選択肢はふたつだけだ。
「死」か「即死」か。

もし、賢者たるウィルニアがここにいたとしても、魂だけをすくってそれをヒトガタに定着させる方法を選ぶだろう。
だが、例外がここにいた。



首の後ろ。髪に隠れた部分も紋様がゆっくりと明滅しているのを確認する。


ルトは安堵の息をつく。

そばに降り立ったロウと、ロウに抱き抱えられたフィオリナを見上げた。

「すごいものだよね。」
リウが紡ごうとする魔法を片手でさえぎりながらルトは言った。

「なにをしてる。助けるつもりなら“停滞”をかけないと死ぬぞ。いや」
戸惑ったようにリウは言葉を濁した。
「死んでないのがそもそもおかしいのだが。」

「紋章魔法は、千年前にはなかった魔術大系かもしれません。」
ルトは、リヨンの首筋に光る紋章を指し示した。
「大系付けられて300年と少し。
今の世には、たぶん紋章魔法をブレイクスルーさせる稀代の天才が誕生してる。
“絵師”ニコル、と言う。」

「そのわずかな紋様に生命維持に必要なすべての機能を押し込んでいるのか。」

驚いたようにリルは叫んだ。

「千年、遊び呆けていたつもりはないが、やはり、世は移り変わるものだな。」

「楽しいでしょ? 外も。」

リヨンは意識を失っている。体の大半を持っていかれる、というダメージにはたとえ、肉体が耐えられたとしても心が耐えられない。
みながみな、フェンリルのザックのようなワケにはいかないのだ。
それでも、わずかに呼吸をしているのがわかる。

それに合わせて、無残な体の断面から、骨が筋肉が、内臓組織が再生されていくさまも。

青銅の腕が振り下ろされたが、鉤爪とウロコにつつまれた腕がそれを掴んで押しとどめた。

「クリューク、であったかな?
我らは、人間の起こした奇跡ともいえる技を今少し鑑賞したいのだ。
無粋な割り込みは、遠慮せよ。」

リアモンドは、たからかに笑って、クリュークを投げ飛ばした。
無様に地面に叩きつけられる代わりに体を捻って着地したクリュークは叫んだ。

「軍神マロウドを降ろした我が身に、生身ので立ち向かえるのか?」

「そういえば、そうだな。久しいな、マロウドとでも挨拶してほしいか?
それともマロウドの意識までは降ろせぬか?」
「誰だ! おまえは!?」

「挨拶が遅れてすまなんだ。わたしはリアモンドと言う。竜どものなかでは少しは名が知られているよ。」
「神竜公女リアモンドか。」
クリュークの全身が青銅色に包まれていく。筋肉が盛り上がり、身体そのものが膨れ上がっていく。
腕が虚空から、同じ青銅色の剣を引き抜いた。

「その呼び方はあまり好まないのだよ、西の冒険者。
そもそもあいつらの求愛行動があまりにもめんどくさかったので、迷宮に閉じこもったので。」

軽口を叩きながらも、リアモンドは指の鉤爪を変化させる。爪は、伸び剣の形をとって彼女の手の中に収まった。

「伝説に従えば長爪剣ヴァリオクスという名なのだが」
リアモンドは不満そうにつぶやく。
「この呼び方も実はわたしは好かぬ。まるで、爪切りを嫌がった飼い猫みたいだろ?」

「おーい」
と、ギムリウスが、よんだ。
「こっちはわたし、ひとりで片付けていいですかあ?」

ギムリウスの額の目から発される光線が、魔族の障壁に命中する。障壁はたわみ、ゆがみ、ひびがはいったがそれでも持ちこたえた。

「言い訳がないだろっ!」

クロノが叫び返した。

「そうは言ってももともとがお主は剣士だろう? 剣がなくては。」

ボルテックがもっともな指摘を行った。

「ああ、もうせめて聖剣でもあったら、こんな無様なことにはならないんだけど。」

「聖剣があればよいの?」
ギムリウスが首をかしげた。

「ああ、だが、黙って出奔した手前、あれはミトラに置いたままだ。転移封じの印が施された置く場所も日によってまちまちだ。なにせ、このぼくですら在り処がわからないんだからなっ!」

「・・・・それはなんとかなるかもしれない、です。」

ギムリウスはにっこり笑って『転移』した。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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