婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
128 / 248

第126話 酔い醒ましの魔法

しおりを挟む
「あれが、ザザリか、メアか、だって?」

魔族の槍師の放つ渦巻きと、ギムリウスの怪光線がぶつかり、そこここで爆発が起きる。
それ自体は、互角の威力があって、互いに相殺されてはいるものの、それだけで城塞でも吹き飛ぶほどの衝撃波が発するのは止めることができない。

しっかりと「陣」を組み、「攻撃」と「防御」の付与魔法で強化されたザザリたちはともかく、人の姿をとっているリアモンドは自身を守る障壁を展開せざるを得ない。
竜鱗の防御はともかく、無様に吹き飛ばされるのは気が進まないのだ。

例えば、調子にのって飛んでいた吸血鬼が、制御を失って地面に叩きつけられてるように。

リウもまた。
負傷しているルトを守るために障壁を展開させていた。ザザリの召喚した黒狼の火炎は、片手でさばいていたものの、ひっきりなしの衝撃波はかえって始末が悪い。

「そう言うおまえはどう思うんだ?
あれは、かつてザザリと呼ばれた闇森の魔女か。それともグランダ王妃メア、か。」

「ザザリならばこんなことはしないし、メアだったらこんなことはできない。」

ルトは、軽く手を握ってみたり、肩を回したりして痛みがないのを確認している。
障壁の外は、爆風の嵐だ。巻き上げられた土砂にまじって、岩も飛び交う大惨事である。
生身の体なら、死以前に原型を留めないひき肉になること必至。

「つまり、今の彼女はザザリでもメアでもない。」

「千年前におまえのような部下がいたらな。」
リウはため息をついた。
「ギムリウス! 本気でやれ! いつまでもこんなところに突っ立ってはいられん。」

「本気って」

「安心しろ。蜘蛛軍団や本体を召喚したりはしない。その前段階だ。」

ギムリウムの怪光線が、魔族の槍使いを捕らえた。光の奔流に押し流される彼女を大楯の男がキャッチし、そのまま、彼らの「陣」に連れ帰る。
連携は明らかに向こうが上だった。

「いま、転移を使いましたね、ギムリウス。」

「速度で互角なら転移を使われたら避けようもないだろう?」

「しかし、速度で互角、ですか? 魔王宮の階層主ですよ。」

「魔素によって、強化された魔族がいかにやっかいなものかわかるだろう?
千年前も、およそ、神獣、精霊、神々までが人類側にたっていてさえ、魔族の侵攻を止められなかったんだぞ?」


爆風の中、動きを止めていたザザリの召喚獣、双頭の狼たちが再び動き出した。

半数は、黒い炎を吐き出し、半数は牙をむいて殺到する。
その前に、ロウと、ギムリウスが立ちふさがる。

ロウは、鉄の輝きをもつ爪で。
ギムリウスは、白い呪剣で。
次々と、狼を屠っていった。

「ふむ? この程度の魔獣は時間かせぎくらいにしかならんが?」

リウは、つぶやいた。

「時間を稼いでますね。未だにあの魔術師は付与魔法を次々かけ続けています。
それぞれの魔法が、相乗効果をもたらし、集団としてあのチームの力を限りなく底上げしていく。」

「それは、千年前にはなかった技術だ。」

「『城塞魔法』と呼ばれてます。実際に戦場で使われることは少ない。しかるべき対処をされてしまいますからね。使われるのは10人未満のチーム戦。
相手のスキをついて、気がついたときには・・・って使い方が有効です。」

「今回は? スキをつかれたわけか?」

「いやあ。」
ルトは破顔した。
「このくらいのハンデは与えてやるべきか、と。
そのうえで、圧倒させないと。」

「ふむ?」

「“酔い”は覚めないでしょう。」


しおりを挟む
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
感想 3

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...