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第125話 初陣
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さて、読者のみなさんに問う。
駆け出し冒険者のルトこと、グランダ国第一王子ハルトは、万能の天才なのだろうか?
我らの主人公は、神の力をその身に宿した特別な存在なのだろうか。
答えはNOだ。
大事なことなのでもう一度言う。絶対にNOだ。
交換転移によって、迷宮奥底にいた首魁たちは、屋敷から追い出された。
だが、日常生活からして呆然自失しているグランダ王を除いては、だれひとり、この事態に呆然として動きをとめたりはしなかった。
王妃メアが、魔杖を振りかざす。
霧が立ち込め、霧の中から、3つの頭を持つ黒い狼が次々と召喚された。
鎖の服の男が叱咤すると、その部下の魔族たちが、得物をかまえ、メアとグランダ王を守るように陣形を引く。
その動作は流れるようで、少なくともルトがおこなった強制転移は、奇襲としての効果はまるでなかった。
魔族たちがかまえた槍に、盾に、短刀に。付与魔法がかけられていく。
何もできなかったのは、ルトのパーティのほうだった。
リウは呆れたように、リアモンドになにやら話しかけていたし、ギムリウスは、地面のアリンコを観察していた。
ロウに至っては、いままで噛みついていた暗殺者が急に消えたのだ、自分で自分の口唇をかんでしまい、口元をおさえて苦悶の表情を浮かべている。
当のルトは、氷の竜に叩きつけられたダメージが酷く、まだ立ち上がれないでいた。
治癒魔法の効果である白い光の明滅は、体の至る所を覆っている。
単なる外傷ではすまない一撃だった。
骨も折れている。内蔵も損傷していて、もし、間の前に敵がいなければ自動治癒に身を任せて意識を失いたいほどのダメージだった。
そのルトに黒いオオカミたちが吐き出す暗い色の炎が殺到する。
その前に、転移したリウが、立ちふさがる。
闇色の炎が腕の一振りで消滅した。
「オレが想定した一番とんでもないことは、物質をエネルギーに転換するタイプの魔法を使われることだった。
半径1キロは灼熱に包まれ、さらにその外側、直接焼き殺されなかったものも放射線による内部からの破壊で数日うちに悶え死ぬことになる。
まさか転移魔法を使えたとは思わなかったし、交換転移自体は知られているが、相手の位置を特定できずに使うことはありえない。
本体と投影された『影』を入れ替える。理屈はわかるが」
「さすが!理屈はわかるんだ!」
「逆に理屈さえわかれば、それに対応する魔法を組み上げられるおまえが異常だ。」
どんっ
と地を蹴った盾士が、突っ込んできた。
全身に蒼く輝く力場をまとい、突進するさまは、流星を思わせた。
「あれを食らったら、死ぬぞ。」
リウがぼそりとつぶやいた。
「まあ、リアモンド以外だったら、だが。」
突進の正面にたったリアモンドが、両手をあげる。銀白色の鱗の模様が煌めきとともに明滅した。
最強の矛と最強の盾のぶつかり合いは、すさまじい衝撃波をまきちらした。
果樹が数十本、粉々にふきとび、その外側も同心円上に木々が倒れる。
凄まじい爆風にギムリウスは、両手、両足、パニエの骨組みを使ってかろうじて、踏ん張ったが、ロウは、吹き飛ばされた。ルトが障壁を作ってやらなければ、とんでもないダメージをウケたかもしれない。
ルト自身はというと、リウが張り巡らした障壁の中で、治癒魔法を次から次へと唱えている。
「けっこう、余裕があるのか?まだ。」
リウはうれしそうである。
「最強の矛と最強の盾というテーマにひとつ回答がでたように思いますね。」
「と、言うと?」
「周りが迷惑する、です。」
リアモンドの蹴りと拳は、相手の大楯に受け止められた。
盾はそのまま、攻撃武器ともなり、リアモンドに叩きつけられる。
全身をカバーしてあまりある巨大な盾はかわしにくい。
単純には下がるのがいいのだろうが、うしろには、治癒中のルトと彼を守るリウがいた。
その場で、盾を受け止める。
まるで、ハンマーで打ち据えられた杭みたいだ、とリアモンドは思った。
一撃で地面に膝下まで、地面に打ち込まれた。
その頭上にさらに盾が振りかざされる。
カッと開いたリアモンドの口からブレスが、迸った。
ブレス・・・そう、それは単なる火炎魔法などではない。
身の丈数十メトルを超える古竜が放つ、この世界に生きるあらゆる生き物の攻撃の中で最高位のもののひとつであるブレス。
その破壊の奔流を魔族の男が持つ盾は、ふせいだ。
数メトル押されながらも、盾を地面に打ち込みそれ以上の後退を防ぐ。
そこにギムリウスが、すべるような移動で襲いかかった。腕に握るのは、白骨の剣。
だが、その動きを槍を持った魔族の女が阻んだ。
穂先から柄まで漆黒の槍から、黒い渦が生まれ、白い剣の少女に襲いかかる。
ギムリウスの額に開いた目から発される七色の光の放流がそれを迎え撃つ。
黒の渦と光がぶつかり、そこにまた爆発が生じる。爆発は一箇所ではない。
木立を半ば、なぎ倒された元果樹園のあちこちで、続けざまに起こる爆発は、ギムリウスと槍の魔族が高速で移動しながら、渦と光を打ち合っている証である。
ロウ=リンドが、コートを翼に変えて空をかける。
振り下ろした左手から、三日月状の紅の刃が投じられる。
目標は、王妃ミアであったが、鎖の服の男が立ちふさがる。革の手袋に包まれた両の手を差し伸べると満月を思わせる銀盤が現れて、ロウの刃を弾き飛ばした。
「いい勝負じゃあないか。」
リウが嘲るように言った。
当人は、メアが召喚した狼の放つ火炎球を片手でさばきながら、自ら攻勢に出ようとはしない。
「我らの行き先は世界。ここで躓くな。」
「そうは言ってもですね。」
よっこらせ、とルトは立ち上がった。
「踏み潰してもいい相手とそうでない相手がいてですね。」
「おまえから王位継承権を奪い、婚約者を奪い、命まで奪おうとした相手だがな。」
「そこが気になります。」
ルトは、ポンとリウの肩を叩いた。
「彼女は、闇森のザザリですか? 現グランダ王妃メアですか?」
駆け出し冒険者のルトこと、グランダ国第一王子ハルトは、万能の天才なのだろうか?
我らの主人公は、神の力をその身に宿した特別な存在なのだろうか。
答えはNOだ。
大事なことなのでもう一度言う。絶対にNOだ。
交換転移によって、迷宮奥底にいた首魁たちは、屋敷から追い出された。
だが、日常生活からして呆然自失しているグランダ王を除いては、だれひとり、この事態に呆然として動きをとめたりはしなかった。
王妃メアが、魔杖を振りかざす。
霧が立ち込め、霧の中から、3つの頭を持つ黒い狼が次々と召喚された。
鎖の服の男が叱咤すると、その部下の魔族たちが、得物をかまえ、メアとグランダ王を守るように陣形を引く。
その動作は流れるようで、少なくともルトがおこなった強制転移は、奇襲としての効果はまるでなかった。
魔族たちがかまえた槍に、盾に、短刀に。付与魔法がかけられていく。
何もできなかったのは、ルトのパーティのほうだった。
リウは呆れたように、リアモンドになにやら話しかけていたし、ギムリウスは、地面のアリンコを観察していた。
ロウに至っては、いままで噛みついていた暗殺者が急に消えたのだ、自分で自分の口唇をかんでしまい、口元をおさえて苦悶の表情を浮かべている。
当のルトは、氷の竜に叩きつけられたダメージが酷く、まだ立ち上がれないでいた。
治癒魔法の効果である白い光の明滅は、体の至る所を覆っている。
単なる外傷ではすまない一撃だった。
骨も折れている。内蔵も損傷していて、もし、間の前に敵がいなければ自動治癒に身を任せて意識を失いたいほどのダメージだった。
そのルトに黒いオオカミたちが吐き出す暗い色の炎が殺到する。
その前に、転移したリウが、立ちふさがる。
闇色の炎が腕の一振りで消滅した。
「オレが想定した一番とんでもないことは、物質をエネルギーに転換するタイプの魔法を使われることだった。
半径1キロは灼熱に包まれ、さらにその外側、直接焼き殺されなかったものも放射線による内部からの破壊で数日うちに悶え死ぬことになる。
まさか転移魔法を使えたとは思わなかったし、交換転移自体は知られているが、相手の位置を特定できずに使うことはありえない。
本体と投影された『影』を入れ替える。理屈はわかるが」
「さすが!理屈はわかるんだ!」
「逆に理屈さえわかれば、それに対応する魔法を組み上げられるおまえが異常だ。」
どんっ
と地を蹴った盾士が、突っ込んできた。
全身に蒼く輝く力場をまとい、突進するさまは、流星を思わせた。
「あれを食らったら、死ぬぞ。」
リウがぼそりとつぶやいた。
「まあ、リアモンド以外だったら、だが。」
突進の正面にたったリアモンドが、両手をあげる。銀白色の鱗の模様が煌めきとともに明滅した。
最強の矛と最強の盾のぶつかり合いは、すさまじい衝撃波をまきちらした。
果樹が数十本、粉々にふきとび、その外側も同心円上に木々が倒れる。
凄まじい爆風にギムリウスは、両手、両足、パニエの骨組みを使ってかろうじて、踏ん張ったが、ロウは、吹き飛ばされた。ルトが障壁を作ってやらなければ、とんでもないダメージをウケたかもしれない。
ルト自身はというと、リウが張り巡らした障壁の中で、治癒魔法を次から次へと唱えている。
「けっこう、余裕があるのか?まだ。」
リウはうれしそうである。
「最強の矛と最強の盾というテーマにひとつ回答がでたように思いますね。」
「と、言うと?」
「周りが迷惑する、です。」
リアモンドの蹴りと拳は、相手の大楯に受け止められた。
盾はそのまま、攻撃武器ともなり、リアモンドに叩きつけられる。
全身をカバーしてあまりある巨大な盾はかわしにくい。
単純には下がるのがいいのだろうが、うしろには、治癒中のルトと彼を守るリウがいた。
その場で、盾を受け止める。
まるで、ハンマーで打ち据えられた杭みたいだ、とリアモンドは思った。
一撃で地面に膝下まで、地面に打ち込まれた。
その頭上にさらに盾が振りかざされる。
カッと開いたリアモンドの口からブレスが、迸った。
ブレス・・・そう、それは単なる火炎魔法などではない。
身の丈数十メトルを超える古竜が放つ、この世界に生きるあらゆる生き物の攻撃の中で最高位のもののひとつであるブレス。
その破壊の奔流を魔族の男が持つ盾は、ふせいだ。
数メトル押されながらも、盾を地面に打ち込みそれ以上の後退を防ぐ。
そこにギムリウスが、すべるような移動で襲いかかった。腕に握るのは、白骨の剣。
だが、その動きを槍を持った魔族の女が阻んだ。
穂先から柄まで漆黒の槍から、黒い渦が生まれ、白い剣の少女に襲いかかる。
ギムリウスの額に開いた目から発される七色の光の放流がそれを迎え撃つ。
黒の渦と光がぶつかり、そこにまた爆発が生じる。爆発は一箇所ではない。
木立を半ば、なぎ倒された元果樹園のあちこちで、続けざまに起こる爆発は、ギムリウスと槍の魔族が高速で移動しながら、渦と光を打ち合っている証である。
ロウ=リンドが、コートを翼に変えて空をかける。
振り下ろした左手から、三日月状の紅の刃が投じられる。
目標は、王妃ミアであったが、鎖の服の男が立ちふさがる。革の手袋に包まれた両の手を差し伸べると満月を思わせる銀盤が現れて、ロウの刃を弾き飛ばした。
「いい勝負じゃあないか。」
リウが嘲るように言った。
当人は、メアが召喚した狼の放つ火炎球を片手でさばきながら、自ら攻勢に出ようとはしない。
「我らの行き先は世界。ここで躓くな。」
「そうは言ってもですね。」
よっこらせ、とルトは立ち上がった。
「踏み潰してもいい相手とそうでない相手がいてですね。」
「おまえから王位継承権を奪い、婚約者を奪い、命まで奪おうとした相手だがな。」
「そこが気になります。」
ルトは、ポンとリウの肩を叩いた。
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