婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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第120話 冒険者たち ミア=イアは深層を目指す

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「何があった?」

手傷をおわせたところで、竜はくるりと背を向けて、洞窟の奥に逃げていく。

迷宮内で、持ち場を守る魔物がそこを放棄することなどありえない。

「この迷宮は妙だな。」
ドルバーザが言った。
「迷宮そのものが知性をもった生き物のようだ。
同様な特徴のある迷宮についてのデータはあるか、テオ。」

「複数の文献に散見されるデータですが、データ云々よりも、当迷宮の魔物のひとりがパーティメンバーにいるのだから、そちらに聞いたらいかがでしょう? ドルバーザさま。」

「もっともだな。
法則が適用されない迷宮は、すなわち迷宮の主が、コアではなく、意思をもった知的生命体であることを意味する。

ヤイバ?」

「なんのことを話しているのか、ぼくはよくわからないよ。」

ヤイバは、剣を鞘に戻しながら、そう言った。

「意思と知性をもった存在だというなら、ぼくを作った第一階層主ギムリウスさまはもちろんそうだよ。
第二階層主のリンド伯爵もそうだし、第三階層のリアモンドさまも、第四階層のミュレスさまもそうだよ。

生き物か、というと第五階層のオロアさまは当てはまらないかもしれないけど。

第六階層のウィルニアさまなんかは、意思と知性『だけ』の存在だからね。」

「迷宮の主はどうだ?」

「もともとここは『魔王宮』だ。」
ミア=イアは、無表情に答えた。
なにかを深く諦めた彼女は、自分の一部を殺している。

諦めた何かは「常識」と呼ばれているものかもしれなかった。
「魔王は封じられただけだ。おおかた、最下層の魔王様が、わたしたちを見逃せてやれと、竜たちに命じたのだろう。」

「・・・・いや、ミア=イア先輩、いっくらなんでも」
今回も聖剣の詠唱が三分の一までしか終わらなかったエルマート『種馬』王子が笑っている。
「そんな馬鹿なことはないでしょ。」

そんなバカなことはあったのだが、さすがに常識を諦めたミア=イアも、へそ曲がりで人嫌いのドルバーザも、偏屈者の魔道人形テオも、もとが変異体の魔物であるヤイバもこの時点ではそのことにまったく気がついていなかった。

竜が去った後には、さらに地下へと降りる穴が口を開けていた。

「三層は?」

その言葉はテオに問うたものかもしれないが、ミア=イアが引き取った。

「ほとんどの魔物がスライムだ。階層主はデモンスライムだったという記録があるが・・」
「ミュレスさまは、でも・・・なんとかではないよ。」

「知性のあるスライムの記録は、おとぎ話のなかだけだ。」
テオは、ヤイバにはいっそう口調が辛辣になる。

「ぼくもあったことはないよ。ぼくの知識は、ギムリウスさまのコピーだからね。」

「ドルバーザさま、この馬鹿者の誤った知識を訂正させるため、第四層の攻略を提案いたします。」
テオは、きらりと目を光らせて、ドルバーザにそう言った。

「補給物資はまだあるか?・・・・具体的に言うと食い物だが。」

「もちろんです!
食事にいたしましょう! ドルバーザさま」
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