婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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第119話 大丈夫ではないふたり

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「大丈夫かな、あの二人は」

アモン…古の竜、リアモンドはリウの背中に話しかけた。

「どっちが、だ?」

「意地悪な聞き方をするな。どっちも、だ。」

リウは足をとめて振り返った。

「ルトは力の使い方がいまひとつだ。
全力で戦うことに慣れてない。

ロウはロウで、半分の己での戦いに慣れていない。」

「あの子が2つに別れたから随分とたつはずだけど。」

「外に連れ出したのは、数える程しかない。
あいつの戦うときのキメゼリフを、知ってるか?」

「そんなものがあるの?」

「あるんだ。
こう、斜めから相手を見下すように睨みつけてだ、な。
『ならば、見せてやろう。本当の真祖たる吸血鬼の戦い方というものを!』」

「物真似、うまいわね。
まあ、イイんじゃない?
どこかの爵位持ちの吸血鬼みたいよ。」

「そのあと、ボコボコにやられる。」

「そこまでダメな子だったかなあ。」

アモンの首筋に龍鱗が浮かんでいた。
怒ったときの彼女のくせだった。
いくら何でも、天災級と言われる階層主でそれは酷すぎると、思っている。

「ルトにせよ、ロウにせよ、慣れてもらうしかない。」
リウは、端正な顔に年にそぐわない苦味のある笑いを浮かべた。
「オレたちはこれから、一緒に世界を冒険して回る仲間なんだぞ。」


ルトは、相手の攻撃を捌くのに精一杯になっていた。
四体は、かなり熟練した暗殺者だ。
体術も高度だし、まったく疲れを知らない。

だが、もとより暗殺者などは、まともに相手に対峙してしまえば、それで半ば失敗なのだ。
だが・・・どの程度の攻撃で、こいつらは活動を停止するのか。

先ほどの、剣士は全身を雷で焼き、脛骨をへし折っても、首を切断されるまで動きをとめなかった。
四体を同時に相手にしている以上、不必要な攻撃は避けたい。しかし、一撃で倒せるだけの威力を持たせないと。

それは苦手だ。ルトは自分の欠陥とでもいうべき短所に気がついて、呆然としている。
そうなのだ。相手の攻撃を躱し、分析し、適切な反撃を割り出す。
実際の攻撃は、フィオリナがやってくれる・・・ことが多かったのだ。

彼自身に戦う力が無いわけではない。
だが・・・・やりにくかった。

実際、今回も無意識のうちにその役目をロウ=リンドに期待していたのだが。



血を吸うんだったよなあ。
ロウはぼんやりと思った。
彼女と、同じ風貌をした敵。
その首筋を、かんで血をすすり、コイツを従属下におく。

なんでそうするんだっけ?
なんでもいいや。
気持ちいいから。

ロウの白い首筋には、相手の牙がくい込んでいる。ごくりごくりと。
喉を鳴らして、ロウの血を飲んでいる。

ビクリビクリとそのたびにロウの体が仰け反る。

血を吸われることも吸うことも。
吸血鬼であるロウ=リンドには、性愛にもまさる甘美な感覚をもたらした。

もっと。もっと。

もっと。

泣き叫ぶ声は、声にさえならない。
喘がないのはもともと彼女が呼吸をしない生き物だから。
体を突き抜ける快感に、ガクガクと震える足は、立っているのがやっとだった。

はるかな昔。

吸血鬼は、人とは異なる生命として誕生した。
人より肉体的にも魔力も知力も優れ、さらに短命な人間とはことなり、定まった寿命をもたない吸血鬼。

彼らは『原種』の吸血鬼と呼ばれた。

だが、あまりにも長命な種族特有の欠点として、彼らは子孫を増やすことにあまり熱心ではなかった。
さらに、互いの愛を確かめ合うのに、「生気」の交換・・・お互いの血をすする行為を頻繁におこない・・・それに満足してしまったことは、さらに種族の個体を減少させた。

あるいは、亜人程度には人間に近かったのかもしれない。

外見的には、人間にほぼ近かった彼らは人の街にまぎれ、そこで人と子を成した。

世代を重ねるうちに血は薄まり、ほとんど普通の人間とかわらぬものになっていったが・・・・

彼ら『原種』吸血鬼は、歴史の闇に姿を消した。
一人残らず死に絶えた、とも何処かに自らを封印した個体が眠っているとも伝えられている。

人の血の中に潜んだ吸血鬼の因子を、偶然に、あるいはなんらかの儀式をもって発現させたものが「真祖」と呼ばれる吸血鬼である。
かつて、聖光教会が、吸血鬼を滅ぼすために、その因子を宿すものを検査した結果、被験者の実に18%が吸血鬼の因子をもっていた。

さすがに聖光教会とはいえ、総人口の18%を殺戮し尽くすのは無理と判断したのか、この件はそのまま立ち消えになり、今日では、吸血鬼の因子をもっていると判定されることがあってもなんら差別的な扱いを受けることはない。

ロウにしても。

千年を超える期間、自分以外の「真祖」にあったのは一度きりであった。

「いや、もっと」

ロウは、体をこすりつけるようにして懇願した。

「もっと吸って。わたしを。」

ロウに抱きしめられているのは、しわくちゃになった老人。
頭髪はなくなり、口はぽかんと開いたまま。犬歯以外の歯はすべて抜け落ちていた。

「もう・・・終わりなの?
わたしを満足させてはくれないの?」

ロウは愛おしげに、しわだらけの顔を愛撫し、だらだらとよだれを流す唇に口づけした。

「ならいいわ。語りなさい。

あなたはだれ?」

「・・・魔族・・・ゴルニウム伯爵閣下の『牙』のひとり・・・『写身《うつしみ》』ヤランガ・・」

「魔族の伯爵の配下が、なぜザザリの迷宮にいるの?」

「わからない・・・・俺たちは、迷宮入りしようとしたところを、受付の女に叩きのめされて、追い出された。そのあと、ザザリ・・・ザザリさまが俺たちを拾ってくれて・・・
そうだ、それからとびっきり濃い魔素を・・・」

ぎいぎいぎい。

と魔族の男は笑った。正気を失ったものの笑い方だった。

「この迷宮にはいるものを追い返せ。しつこく来るようならコロセ、と。
コロセ、コロセ、コロセ」

男の体が痙攣しはじめた。そのまま光の粒子となって消えていく。
あとにアイテムを残していくのは、いかにも迷宮の魔物らしい。アイテムは「殺戮者の短刀」。

「・・・なんだったんですか?いまの」

四人の暗殺者(それもすべてこのヤランガの影だったのだろう)を倒したルトは、あまり機嫌のよくない顔で、ロウに近づいた。
もともと、ボロに近かったマントに、その下のシャツに、さらに穴が増えている。

それがイコール、暗殺者たちの短刀の傷だとすれば、治癒魔法無しなら4~5回は死ねる傷の数である。

もっともルトの仏頂面は、ロウの痴態を間近で見学させられたことにあるようだった。

「悪いがおまえのフィオリナもこうなる運命なのだ!」

ぼこ

ロウが頭を抑えてしゃがみ込む。

「い、痛い!」

「血を吸われながら生気を吸うってなんでそんな器用なことができるんですかっ!」

「き、きもちいいから・・・・」

涙目の真祖と、眉をしかめた駆け出し冒険者は、互いを見つめ合った。

「なにを考えている?」

「リウに頼んでメンバーチェンジを・・・・」

「そ、それは許して!なんでもするから!そうだ!わたしの血をちょっと吸ってみてもいいよ」

ぼごっ



リウと、アモン、ギムリウスは先について、ロウとルトを待っていた。

「ちょっとわかったことがある。」
ルトはそう言ってから、ちょっとロウを見た。まだ涙目である。

「・・・ロウのおかげで」

パア

ロウの表情が明るくなった。

「この層の魔物は、暗殺者だったんだ。で、わたしがボスの血を吸って、いや吸われて、吸われながら吸って」

「その過程は簡潔に話してくれ。」

「そう、やつにわたしの血を吸わせながら、やつの生気を吸収してやったのさ。
これが、気落ちよくって・・・・」

「殴るなよ。」

アモンがリウを制した。

「これを殴るな、と。」

リウの額に青筋が浮いていた。

「吸血鬼のやっかいな生態については、充分、堪能しました。」
ルトが冷たい声でいった。
「で、そいつを部分的には、支配下に置くことに成功し、いくつか聞き出せたことがあります。

まず、魔族の長はゴルニウム伯爵と名乗っているそうです。
たぶん、ミュラに痛めつけられたところをザザリに回収され、魔素を与えられて、迷宮の魔物として使用されているようです。」

「上出来だ。」
リウは言った。
「残念ながら、今の魔族についてはオレは情報をもっていない。ゴルニウム伯とやらが、何者なのかもわからん。

こうなると。」

リウは、頭痛を我慢するかのように額に手をやった。

「あまり、真面目に引きこもり過ぎたのが悔やまれるな。転移を使ってのごく短時間の外出やら、パペットに意識だけを移しての見物などいくつか方法は考えてはいたんだが。」

「ゴルニウム伯爵とやらが何者かはともかくとして」
ルトは言った。
「目的はなんでしょうか?」

「単純に考えて、オレの魔素だな。
ザザリからは以前、魔族が、昔を単純に自分たちが強大であった時代だとして懐かしんでいる傾向があると聞いたことがある。

オレは、公式には、魔素のおもらしが恥ずかしくって引きこもったのではなく、勇者に封じられたことになっているしな。

魔族がオレを魔王宮から開放しようと考えても不思議はない。」

それまで、密集していた果樹の枝がわかれ、奥に進む道が現れた。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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