婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
120 / 248

第118話 愚か者たちは夜道に彷徨う

しおりを挟む
結論から言えば、アウデリアを探しに出かけたミュラの行動は正しかった。

ほっておいたら、今日中に帰ってきたか怪しい。
「不死鳥の冠」の冒険者が、よく行く店のなかでも特に料理が美味いと評判の「食香庵」という店で、ミュラとリヨンが、アウデリアたちを見つけた時、彼女はかなり、出来上がっており、目の前の酒樽になにやら話しかけているところだった。

ヨウィスとクロノは、白酒の果汁割をちびちびやりながら、呆れたようにそれを眺めている。

ミュラがことの次第を話すと、それでもアウデリアはすぐさま立ち上がり、酒樽とともに王宮へ出発しようとしたので、ミュラはとにかく1度彼女を座らせて、酔い覚めの茶を持ってくるように酒場のものに依頼した。

ミュラがさらに呆れ返ったことに、三人は飲み代、食い物代をだれも持っていなかった。
誰かが、持っているのだろうと思っていたらしいが、その、言い訳が通るかどうか。

もっともヨウィスの収納には、希少なアイテムも入っていたので、いざとなればそれを担保にツケにするつもりだった。

とヨウィスは言うのであるが、これはかなりカッコ悪いことだった。

お茶はとびっきり苦く、アウデリアは何かを踏み潰したかのような悲鳴をあげた。

「わたしは苦痛には耐性があるはずなんだがなっ。」

目を白黒させながらアウデリアが言う。

「あくまで、“酔い醒ましの薬”であって、毒ではないからですよ。」
ミュラは冷たく答えた。
アウデリアとは初対面ではない。

だが、フィオリナに影響を受けたのか、アウデリアに対するミュラの態度にもどこか尊大で、よそよそしいものがある。

代金はミュラが立て替えた。
借用書は、いちばん、金回りがよさそうなクロノにサインをさせる。クロノは当然、文句を言ったが無視した。

日は暮れ、このあたりは街灯もろくにない。

“都会”育ちのクロノなどにとっては、ずいぶんと田舎に来てしまったとういのが、感想なのだが、これは間違いではない。
西域の、しかもミトラなどに比べれば、グランダなどは田舎も田舎、文化の程度すら異なる、ド田舎である。

この時間では、乗り合いの馬車なども通っておらず、一行は、王宮までの道のりを歩くことになった。

「ハルトは、やつらを『冒険者』として連れて行ったんだな?」

いい気分で酔っ払っていたところを、引きずり出されたにしては、アウデリアの機嫌は悪くはない。

「危ないところでした。」
ミュラはため息をついた。
「ほっといたら、『不死鳥の冠』で彼らを冒険者認定するところでした。
今度ばかりは、殿下に助けられました。」

「それはなんとかなるだろう?」
アウデリアの無神経さは、こんなところだけ親子で似るな、といいたいほどフィオリナに似ていた。
「ギムリウスは、神獣を崇める亜人ってことにしておけばいい。リアモンドは、そのままずばり『竜人』でいいし、吸血鬼だって西域では、立派に冒険者として登録できる。

バズス=リウにいたっては、あれは人間だぞ。魔族特有の濃い魔素に対する過敏症すらない。
いたって普通の『人間』だ。」

「本気で言ってますか?」

ミュラは、魔法による灯りで、道先を照らしながら、おおざっぱすぎる恋人の母君に抗議した。

「ギムリウスの体を説明できるような“亜人”はいままでに例がなく、リアモンドはそのまま伝説の神竜の名前で、どうせその御本人でしょう?
ロウは、ひとりで国を滅ぼすと言われている『真祖』の吸血鬼です。
そして、リウは、魔王宮の主、伝説の魔王そのひとなんですよ。」

「ばれなきゃ、だいじょーぶ、だいじょーぶ」

「ランゴバルドあたりだとね。」
なぜ、このメンバーと一緒にいるのかわからないリヨンが口をはさんだ。
「亜人っていうのは便利な言葉なのよ。
一応、人間っぽいフォルムで、言葉がしゃべれるやつはみんな亜人扱いで、冒険者登録しちゃうよ。

うちのチームだって、マヌカは亜人だしね!

実際は亜人ではなくて、どこかの魔導師がキメラをつくるのに失敗したやつとかもそういう出自がよくわからないのは全部『亜人』で通る。」

「誰かと思えば、クリュークのところのデタラメ娘か!」

アウデリアは、ぼやくように言ったがほんとうに嫌なわけではなさそうだった。

「少しばかり噂をきいたぞ。我が君、クローディア公をさかんに誘惑してたそうではないか?」

「いやあなヤツに寝屋の誘いを受けてたのを、さっそうと立ちふさがって、そいつをやっつけてくれたのさ。
惚れるよね?」

「なるほど」
アウデリアはため息をついた。
「あの男は、どうも人たらしなところがあって、所構わずそれを発揮するからな。」

「ずいぶん、優しいじゃんか。」

「わたしが敵視してるのはクリュークとヴァルゴールであってな。
それ以外は、はっきり言って眼中にない。

おまえがクリュークの腹心なのか知らんが、気に食わん程度でいちいちぶち殺していたら、まわりは血の海になってしまう。

まして、その体ではあまり、戦う気もおきない・・・」

今度はリヨンが嫌な顔をした。

「もう怪我は治ってるよ!」

「正確には治してる途中だな。
表面的な損傷はともかく、中身が治るには時間がかかる・・・・

まして、治癒魔法まで弾くような改造の仕方をされたあとだからな。

ニコルの天才は充分承知しているし、おまえが何者かも知っているが、いまは安静にしていたほうがいい。」

王宮は静まり返っていた。
時間が時間、なのだから当然であろう。
開門を告げると、正門横の扉が開いて兵士が首を出した。

「『愚者の盾』アウデリアだ。」
「同じく、勇者クロノ。」
「ヨウィス。」
「『栄光の盾』のリヨンだよ!」

顔を見合わせる兵に、アウデリアが一歩、前に出た。
「クローディア公爵より、宮中にて、火急の事態あり、とのことで参集を受けた。」

その逞しい体に(あるいはその酒臭さに)一歩、兵が引いた。

「何用だ!」

甲高いキシリ声はと共に駆けつけたのは、ブラウ公爵だった。
こんな地位の者が、門の近くを夜更けにうろうろしているだけで、なにか異常がおきているとわかってしまう。

「後宮への道が閉ざされて、王と連絡がつかぬようだな。」

「そ、そんなことは、ない!」

ブラウ公は、こやつらをひっ捕らえろと叫んだが、どこの世界に門番に捕まる勇者が、いるものか。

門番兵は一瞬ためらったものの、とっさに素晴らしい回答を出した。
「応援を呼んで来ます!」
ひとりがそう叫んで、かけ出すと
「そ、そうだ。おい、当直兵を叩き起してくる。おまえは、直ちに大隊長殿へ報告に走れ!」
「急げ! 総員、対超越者装備で南門へ集合!」
「おお!」

後には憤懣やる形ないブラウ公爵と、冒険者たちが残された。

「これは………王宮の警備体制の見直しが必要ですな。」

まるで待っていたかのようにクローディアが、現れた。

「近衛を早々と解散してしまったのは、性急に過ぎたかも知れません。バルゴー ル殿とはいえ、この短期間で手配できたのは金で雇える傭兵、冒険者のみ、」

「し、信用ならん!」

「訳ではありません。
要するに勝てない戦にはとびきり敏感だけの事です。」

「我が君。
ハルトたちが、潜ったのな? 」

アウデリアは、にやにやと笑いながら言った。
彼女は、もちろん楽しいときも笑うが、どうしようも無く闘争本能をかきたてられた時も同じ笑いを浮かべる。
付き合いの長いクローディアにもその、違いが分からないことはしばしばあって、今宵はどっちなのだろう。

“ 両方かもしれんな”

と、思いながら一行のなかに燭乱の少女を見つけた。
「リヨン殿か、体はもういいのか?」

これだから。我が君は。
と、アウデリアは呆れたように、クローディアを見やった。

どんなもんだい

と、言わんばかりに腰に手を当てて、にんまりと、笑いながらリヨンはアウデリアを見上げた。
なにがどんなもんだい、なのか分からぬまま、アウデリアも歯をむき出してみせた。

「ルト………ハルトたちが迷宮にはいってから一刻はたっている。」

駆けつけたフィオリナがいらいらと言った。
無理に着いていったのにやっぱり置いてけぼりにされたか。
ミュラはかわいそうなものを見る目で愛しい公爵令嬢を見つめた。

「『愚者の盾』も行くぞ。反対の者は置いていく。」

「異議なし!」

「リヨン、おまえは関係ない!」
しおりを挟む
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
感想 3

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...