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第114話 それが彼が望んだもの

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転移。
人類にはかなり「過ぎた」魔法である。

使えるものは、王都でも一握り。

ボルテック自身は、その中でも最高峰の使い手であると自他ともに認めていたが、この夜、一行を、「不死鳥の冠」から宮廷まで転移させたのは、彼ではない。

着きました!

と元気に宣言したのは、パニエの少女である。
名をギムリウスという。

ボルテックから見ても、見事と、いうしかない。
生き物としての格が違う。研鑽にかけた年月も違う。

「自分よりうえの魔法を見るたびにいちいち落ち込まないでよ。」

着いてきたフィオリナが、呆れたように言った。

「不死鳥の冠」で、アウデリアやヨウィスとの合流を待って、とルトは言ったが、きかなかった。
もう、こいつに置いてけぼりにされるのはイヤだ。なにがあっても。


「待っておりました、ボルテックき・・・」
クローディア公爵が出迎えた。
ただ、自分の息子のような年齢の彼を、いままで通り、ボルテック卿と呼んでいいのか、困っている。そもそも、本人は「ボルテック卿の曾孫」と名乗っており、王宮ならびに魔道院での位置は微妙なものがあった。

「『愚者の盾』は揃い次第、かけつけてくれるはずです。」
ハルトか、ルトか、クローディアの認識ではいまだに混乱する少年が、てきぱきと報告した。

彼もまた、迷宮内で再会した際には、フィオリナに羽交い締めにされながら「どうも、お嬢さまと、ド付き合いさせてもらってます。」と自己紹介していたのだ。
せめてお付き合いせい、とクローディアは思ったが、多くは語らなかった。

話し始めてしまえば、婚約破棄のことも含め、話が長くなりすぎる。
まずは、重傷をおった「栄光の盾」を地上に連れ出し、手当させることが優先だと、クローディアは考えたのだ。

「あれらは、どこに?」

「勇者の要望で、市内見物です。ヨウィスも一緒なので今日中には、閣下のお屋敷にもどるはずです。
ただ、今回はとにかく緊急を要する事態と伺いましたので、不死鳥の冠にいた冒険者を連れてきました。」

口元には笑み、弁舌さわやか、なのは、この王子のなにか言ってはいけないことを隠しているときの癖だ。

「あなたが、迷宮の中で知り合ったものたちだと、きいておりますが?」

「はい。
さきほど、ギルド『闇鴉やみがらす』で正式に冒険者登録をすませした。いずれもグランダでの犯罪歴などはありません。

まだ、駆け出しの冒険者ですが、お役に立てると思い、馳せ参じました。」

「なるほど」

クローディアは、一行の方を向き直った。

歳はみな、若い。一番、年長のものでも二十代だろう。

「まあ、見かけの年齢などどうにでもなるからな。」

と、傍らにたったボルテックき・・・が言った。それをお前が言うか。

「改めてご挨拶させていただく。
クローディアと申す。今回の非常事態を鑑みて、信用でき、かつ速やかに招集できる冒険者に集まってもらった。

まずは火急の要請に応えてくれたことを感謝する。」

見たところ、人間ばなれしたところがあるのは、パニエの少女くらいだった。
目の中に瞳がいくつもあり、それがぐるぐると回っている。
年齢的には一番年下に見えた。

このうち何人が・・・いや何体が迷宮の魔物なのだろうか。
知性をもつ魔物は少ない。あるいは階層主と呼ばれる災厄級の魔物さえまじっているのかもしれない。

「迷宮から来た、とお聞きしております。
先日、わたしの娘、フィオリナがお邪魔いたしましたが、なにかご迷惑をおかけしませんでしたかな?」

冗談のつもりだったが、パニエの少女が頷いた。

「体をひとつ、ぐちゃぐちゃに溶かされた上に、床を壊されたけど、もう大丈夫です。
お茶会して仲直りしました。」

ストールで口元を隠した青年が、うふふ、と笑った。

「そういえば、わたしは首を切られた。その場には、公もいらっしゃったかと記憶しているが?」

体にぴったりした衣装の美女がその肩を叩いた。

「まあ、すんだことすんだこと。わたしたちは誰も気にしてませんから!」

、だった。

「クローディア公爵。」
軽くめまいをおこしかけたクローディアに、軽装鎧の少年は、年長者のような余裕のある笑みをうかべて、一礼した。
「わたしも、お嬢さんには一発、殴られた。殴り倒されたのは、ひさしぶりのことでなかなか新鮮な体験だった。
だが、それは、オレの愛用の魔剣を届けてくれたことで帳消しにしたいと思う。

微力ながら、依頼の件はお任せいただきたい。
もし、ザザリのしでかしたことならばいわば、身内の不始末にもなるので。」

王妃メアが闇森のザザリの転生であることは、ボルテックからもきいていた。
ザザリを身内、と呼ぶこの少年は・・・・・



迷宮の主・・・なのか。

クローディアは決して鈍い人間ではない。
だが、次々といろいろなことが起こりすぎ・・・・今になってようやく気がついたのだ。



“最強のパーティを作り上げたものをグランダの王位後継者とする”



そうか・・・そうか、これが。

振り返ってほとんど叫ぶように言った。

「これが、パーティなのですね。」

ルトかハルトかわからぬ少年は、笑顔で頷いた。
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