上 下
112 / 248

第110話 魔王の語る物語~1

しおりを挟む
人間というのはいいもんだな。

三杯めのお茶をお替りしながら、バズズ・リウが思ったのはそんなことである。

もともと、魔族とは言っても人間の亜種に違いはない。さまざまな国で暮らしていた魔族やその末裔を集めて国を立ち上げたのは彼の父親だった。
服装も食べ物も酒も住居もいろいろな国々のごちゃまぜだ。

それでもそこには暮らしがある。

暮らすうちに互いの約束事ができ、風習ができる。
結婚のときはこうする。
子が生まれたならこうする。
学校は。習い事は。
収穫があれば祭りがあり、ときには諍いもある。

そうして人間は生きていくのであり、バズス=リウはそういうところで生まれた。

バズス=リウは、彼の民を愛していた。

老人が若者の愚痴をいい、若者は恋にうつつを抜かし、それでもだれも食べるものにも暮らす場所にも困らない。
そんな民が気に入っていたし、そんな生活を守りたいと思っていた。

北の大地での暮らしは厳しい。
食糧となる植物は、なかなか育たず、食糧の調達は狩りの比重が高い。

鳥を落とすのは至難の業だ。
小動物にしてもその敏捷性は人間をはるかに勝る
そして、人間より巨大な体躯をもつ獣は。それだけで脅威だ。

そしてこの国に集った魔族は必ずしも猟で身を立てていたとは限らない。

だが、バズス=リウが産まれてからというもの不思議と狩りの成功率はあがっていった。
強力な魔力を持つものも増え、この王子は、民に祝福をもたらす幸運の王子ではないかと人々は噂し、王もまた我が子の成長に目を細めていた。
母もまた。

王が若くして不慮の事故で他界することになったときも、バズス=リウがいればこの国は安泰だと。

若き王に冠をかぶせながら、人々はそう噂し、しばらくはなにもかも順調に思えた。


「・・・オレばかりしゃべっているな。」

バズス=リウは苦笑した。

「お聞きします。たぶん、人間の話し相手にはお困りだったでしょうから。

知性のある魔物たちだって、話はできますが、いまの陛下?(リウでいい)リウの話に関心をもってくれそうなのは、いませんから。

かろうじて、オロア老師か、リンド姉妹かな。

それ以外の連中は、例えばリアモンドは、あなたが苦しんでいることを察知し、同情はしてくれるでしょうけど、あなたが何を苦しんでいるのかは、理解できない。」

「一応、六層にウィルニアというやつがいて、あれは人間なのだが。」

「あの人は知識欲のバケモノですから。あなたの話に関心はもってくれますが、それはあくまで魔族の魔素過敏症と、あなたの魔素への学問的な好奇心を満たすことに夢中になって、リアモンドほどにも同情はしてくれないでしょう。

あれは人間だと思ったらダメです。
あれは“大賢者ウィルニア”というこの世界に唯一の生命体です。」

「そうか。」
なにか腑に落ちたように、リウは大きく頷いた。
「そう考えれば、彼が人間でありながら人間ばなれしていることも説明がつく。

リンドはウィルニアとは昔からの知り合いのようだったし、オロアはウィルニアの弟子だ。

そう考えると、オレがいかに孤独だったかわかるだろう?」

「充分、愉快な仲間に囲まれているとは思いますけど。まあ、人間の友人がほしいってのはわかります。人間じゃないと理解できないことってありますから。」

リウは、ラスティに魚を獲ってくるようたのんだ。
長話に少し飽きていたラスティは喜んで、海に向かって飛びったった。

翼をひろげた少女は、ひかりの渦とともに真白の竜に姿になり、波間に姿を消した。

「・・・・あれをどうやって負かしたんだ?」

「・・・・負かしたわけじゃないです。
ぼくがあなたに害意もないし、もし害意があってもあなたの強さならなんの実害もないから通してくれと説得しただけです。」

「ひょっとして、ということか。」

「そうとも言います。」

「なんなんだ、おまえは?」

「駆け出し冒険者のルト、ですね。」

「そのふざけた設定をやめろと言われたことは?」

「2回くらいです。」




予兆はいつからだろう。

少しずつ、少しずつ。
犯罪が増えていったのだ。

それも友人同士が、家族が、互いを殺し合うといった悲惨な犯罪が。

平穏に暮らしているはずのものの中にそういった犯罪が増えていった。

それが、濃すぎる魔素のために、性格そのものが凶暴なものに変質していった結果おこったものだと気がついたときには、もう遅かった。
平和だったはずの彼の国は、異様なまでに戦いを欲する国に変わっていたのである。

また、戦い続けない限り、その暴力はもっとも身近なものに向かう。
子供や伴侶、親、友人。

これは互いにいえることであって、仲の良かった友人が、愛する妻が、かわいい子供が、いつなんどき、牙をむいてくるか、もうわからなかった。

濃い魔素を過剰に摂取し続けるとそうなる、ことはわかっていた。
もともとそういう体質が故に差別をうけていたのが、魔族だったから。

だが、なぜ。
どこから、そんな濃い魔素が。

それが、この国の若き王、バズス=リウから放出されていたものだということがやっとわかったとき。

この北の大地を併呑せんと、偶然にも、まさにこのときに西域のとある国家が軍隊を送り込んできたのである。

魔族の戦いに対する欲求は、彼らに対して爆発した。

百倍の軍に勝利した。

と、記録にはある。

「実際はそうでもない。」
リウは、乾かした流木を組み立てて、火をつけた。

そろそろ、薄暗くなった浜辺に焚き火が灯る。
「魔族は、幼子から年寄りまで、魔素の影響でとんでもない、魔力、体力を発揮できた。だから国民のほぼ全員が兵士みたいなもんだった。
むこうも辺境の蛮族を皆殺しにするつもりで攻めてきたんだから、文句もいえないだろうが、捕虜にとったやつら以外は全滅、だった。」

リウは、笑ったがそれは引きつったなんとも嫌な笑い方だった。

「この戦の間は、魔素過多による犯罪はゼロだった。ようは戦わせてやれば、民は正気に戻るんだ。

で、我々は、捕虜から情報を掴み、あらためて遠征軍を組織すると、彼の国に報復のために乗り込んだわけだ。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

【完結】なんで、あなたが王様になろうとしているのです?そんな方とはこっちから婚約破棄です。

西東友一
恋愛
現国王である私のお父様が病に伏せられました。 「はっはっはっ。いよいよ俺の出番だな。みなさま、心配なさるなっ!! ヴィクトリアと婚約関係にある、俺に任せろっ!!」  わたくしと婚約関係にあった貴族のネロ。 「婚約破棄ですわ」 「なっ!?」 「はぁ・・・っ」  わたくしの言いたいことが全くわからないようですね。  では、順を追ってご説明致しましょうか。 ★★★ 1万字をわずかに切るぐらいの量です。 R3.10.9に完結予定です。 ヴィクトリア女王やエリザベス女王とか好きです。 そして、主夫が大好きです!! 婚約破棄ざまぁの発展系かもしれませんし、後退系かもしれません。 婚約破棄の王道が好きな方は「箸休め」にお読みください。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

婚約破棄を、あなたの有責で

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢メーティリアは王太子ザッカルドの婚約者。 メーティリアはザッカルドに頼られることに慣れていたが、学園最後の一年、手助け無用の指示が国王陛下からなされた。 それに従い、メーティリアはザッカルドから確認されない限り、注意も助言もできないことになった。 しかも、問題のある令嬢エリーゼが隣国から転入し、ザッカルドはエリーゼに心惹かれていく。 そんなザッカルドに見切りをつけたメーティリアはザッカルド有責での婚約破棄を狙うことにした。 自分は初恋の人のそばで役に立ちたい。彼には妻子がいる。でも、もしかしたら……というお話です。

処理中です...