婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
91 / 248

第90話 冒険者たち ミア=イアの授業

しおりを挟む
6本の剣の乱舞は、屍人の身体をずたずたに切り裂いていた。
黒っぽい液体が、辺り一面にぶちまけられ、ぴくぴくと動く肉片が床の上を這い回る。

ここから再生する能力はないから、確か「倒した」には違いないのだが。

「ほめてほめて」
と言わんばかりの笑顔でこちらを見つめるヤイバ(と勝手に名付けた)を冷たく一瞥してから、ミア=イアは、剣を構えた。

「斬撃は最小限でいい。この類のアインデッドは」
もとは近衛兵だったのだろう、ボロボロの制服をきた屍人の動きはけっして遅くはない。

腐敗は一定のところで止まるため、ヒトとしての自然な動きは損なわれないのだ。

その動きをミア=イアは楽々と見切る。

鉤爪と化した手を肩で跳ね上げながら、心臓に剣を突き刺す。

「刺すのはここ、そして」

くるりと体内で刃を返し、剣は肋骨と肩甲骨を切断して首に抜けた。

半ばまで断ち切られた頭部がころがり、屍人の体がどうっと倒れる。

「いいか、これは人間のふりをした化け物だ。
だから、人間を殺すように殺す。」

「すばらしい。」
ヤイバは目を輝かした。
「動きに無駄がない。これならば、魔力の通じていない鉄でも無限に揃り続けることができるだろう。」

「確かに動きが格段によくなっている。」

感心したようにドルバーザがつぶやいた。
「やはり、他のパーティメンバーをかばうためにいらぬ動きを行っていたからか。
どう思う、テム?」

「ドルバーザさまのお考えの通りかと思われます。」

魔道人形は、丁寧に一礼した。
第二層もまた、第一層と同じく城の内部を模した作りとなっている。

照明は全体に暗く、また「外」を感じさせるようなそよ風や太陽光といった演出もない。

出てくる魔物たちは、ゾンビやスケルトンといったアンデッド系のものばかり。
ほんとうなら、光属性や聖属性の魔法使いがパーティにほしいところだったが、もともとヴァンパイヤハンターとして名を馳せたドルバーザはまったく気にも止めていない。

ドルバーザの「光輪」は攻防一体となった万能の武器であったし、治癒魔法や食料の補給などは、テムのもつ「収納」でことが足りている。

そして、足手まとい、まさに魔物を誘う疑似餌ていどにしか期待していなかったミア=イアは、一皮むけたようにその技をあげている。
さらに、元が第一層の変異種であったはずのヤイバは、その頑強さといい、剣の冴えといい、おそらく西域なら充分にソロで銀級冒険者として通る腕前をもっていた。

もともと、迷宮内の階層主を除く変異種と互角に戦えるのが、銀級の条件のひとつであったはずだから、これは当たり前すぎるほど当たり前の話でしかなかったが。

屍人の最後の一体が、ミア=イアの横殴りの一閃で、首を飛ばされ倒れた。

「この先が、かなり大きな空洞になっています。」

テムがドルバーザに言った。

一応は主従、魔道人形とその所有者、という「設定」なのか、丁寧語ではあるものの、そんなときに限って、テムは人形のような無表情なのだ。
いや、テムは実際、人形ではあるのだが。

人間のような表情を作る機能は備わっている。

にもかかわらず、淡々とただ丁寧に話すのだ。

少女の姿をした魔道人形にそのような態度をとられるのは、相手によっては侮辱されたようにとられるかもしれない。
本来ならば、王侯貴族、その従者として権勢をふるってもおかしくはない高性能の魔道人形が、優秀とはいえ一介の冒険者に仕えている。その理由のひとつがこれであった。

「かなりの広さです。
入口の『舞踏会場』とよばれた大広間なみの広さがあります。

動くものは・・・・ありません。」

「同類はどうやって見えない場所を感知するんだ。」

興味深そうにヤイバが尋ねた。

「空気のながれや音、熱源。
数値化できる情報は無限にある。

それからなぜ、変異種は、わたしを“同類”と呼ぶのだ?」

「我々が、親の胞からではなく、偉大なるものに造られた存在だから?」

「テムと呼べ。」

ヤイバは大きく頷いた。
「そうか!
同じパーティのメンバーだし、そう呼ばせてもらう。
テムもぼくのことは、蜘蛛とか変異種ではなく、ヤイバと呼んでくれ。」

テムはちょっとイヤそうな顔をしたが、しぶしぶ同意した。

「わかった・・・・ヤイバ。
ヤイバは、視覚によらない相手の探知する方法は、持っているか?
「もってはいるが、テムのほうがはるかに高性能だと思う。
なぜ、そんなことをきく?」

「この階層のいるのはアンデッドタイプのモンスターだ。
熱源やオーラへの反応はないに等しい。
そして、アンデッドどもはじっとしていることにも得意だ。

この迷宮で生まれたヤイバなら、わかるか?
このさきの広間に待つ強者がなにものか?」

「感知できないが待っている者がいる?」

ヤイバは面白そうにテムを眺めた。
テムはその視線も不快そうに、顔をそむけている。

「迷宮の構造上、そろそろ、特異体を配置した大部屋が現れる。」
テムは、ぼそぼそとつぶやくように言った。
「これは、わたしの“性能”ではなく、経験から学んだことだ。
部屋の広さから見てもかなりの大型のモンスター。

おそらく剣との相性は極めて悪い。」

「そんなことはない。」

ミア=イアは淡々と言った。
表情は完全に死んでいる。
「いや、相性はよくはない。が、戦いかたはある。
ドルバーザ殿は?」

「ドルバーザ様の光輪は、万能の武器だ。」
テオは胸を張った。

「ならば行こう。相手がなにものであろうとも恐るるにたらず。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...