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第86話 再び舞踏会場で
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一刻も早く、迷宮へ向かいたいクリュークと、そのクリュークに対抗心を燃やすウロボロス。
双方の顔をたてた形だったが、冒険者たちも一応は納得したのか(あるいは今、ここで始められることによる被害を回避できたことにほっとしたのか)それぞれ頷いて、三々五々、散会し始めた。
「閣下・・・・公爵閣下。」
唯一、残った元八極会幹部のワーレフは、気まずそうに、クローディアに話しかける。
「いや、ワーレフ殿にはワーレフ殿のお考えもあったのだろう。
わたしは、別におぬしが、冒険者たちを扇動したのだとは、思わぬ。
クリュークになにかしらの失点をつけて、八極会の返り咲きを狙ったのだ、とは思わぬ。
そのなことのために、ウロボロス鬼兵団を抱き込み、わざとトラブルを起こしたのだとは、まったく思ってもおらぬ。」
「・・・閣下・・・・」
以前、八極会の幹部として対峙したワーレフは、傲岸不遜、貴族を貴族とも思わない(実際、クローディア公爵家は、都ではほとんど権勢のないど田舎貴族には違いなかったのだが)態度であったのだが、いまは、顔色は青を通り越してほとんどドス黒く、いまにも平身低頭しそうな様子であった。
「だから、そのようなことを陛下にご報告しようとは、思っておらぬ。
今回は。」
「閣下。あの男は・・・・クリューク殿は危険です。あまりにも。」
声は小さく、消え入りそうだった。
もちろん、周りのものに(特にクリュークたち『栄光の盾』には)聞かれないためであったが、先に魔王宮への階段を降りかけた「聖者」マヌカが耳聡く振り返って、陽気に声をかけた。
「それは、みんな同意見さ!
そんなことでいちいち粛清なんかしないよ。
粛清をされたければもっと直接に行動を起こすんだね!」
「・・・危険かというならば、ウロボロス鬼兵団だって、充分に危険だ。
わたしも危険だし、娘に至っては足枷がわりにハルト殿下に嫁がせようとしたほど危険だ。
ワーレフ殿。
お主自身も危険な部類に入るのではないか?」
「クローディア閣下・・・・」
ワーレフは泣き出しそうな顔で、クローディアにすがった。
すがろうとしたが、間に、アイベルが割って入った。
「いまは、何より時間が惜しい。
“旧都”でのトラブルは、バルゴール閣下の管轄にある。ワーレフ殿からなにか申し出があるなら、文書にした上で、バルゴール閣下へ申し出るように。
その場合は、写しを一部、クローディア公爵家にも提出するよう求める。」
ワーレフは肩を落として、とぼとぼと去っていった。
「八極会に罪があるとすれば、今回の騒動ではなく、長きに停滞を招いたこれまでの運営そのものにある。」
クローディアは、感情を押し殺した声で言った。
「ギルドマスターとして、また冒険者としては無能なわけではない。
要は使い方だ。」
「ひょっとして私になにか教えようとしてますか?」
「世の中は、我らが『白狼』のように、よい素質を持つ者たちがよく訓練された人材ばかりではない、ということかな。
いずれ、いろいろ学ぶ機会はあろうよ。“今”ではないが。」
魔王宮の最初の部屋。
通称「舞踏会場」は、人払いされ、クローディアとアイベル。
そして、対峙しあうふたつの集団だけがそこにあった。
ウロボロス鬼兵団は、30名。
武具と防具は、灰色に統一され、両手持ちの大剣と槍を構える戦士が20名。巨大な盾持ちが7名。
同じ色のマントを着た魔法使いが2名。
指揮者となるのがザグリーで、彼だけが黒の鎧に片手剣を帯びている。
冒険者、と言うよりも「部隊」で、明らかに個々の戦力がどうこうよりも組織としての戦いに特化した集団だった。
対する栄光の盾は、ひとりひとりが黄金級の冒険者とはいえ、人数は5人。
双方ともに訓練と実戦をつんだ強者同士だとすると、これはいくらなんでも、クリュークたちに分が悪そうに感じられた。
「ウロボロスの人数を確認しなかったのは、手落ちだったが」
クローディアは、言い終わる間もなく、クリュークが
「構いません。承知のうえです。そもそも」
形の良い唇が冷笑の形につり上がった。
「5対5、でははなから勝負にならないでしょう?」
ぞわ
ウロボロスに殺気が膨れ上がる。
「クローディア公爵閣下にお尋ねしたい。」
ザグリーは怖い目をしている。
「なにか?」
「もし、我々が燭乱天使を倒したら」
「さっきも申したとおり、殺してしまったら、殺したほうの負け、だ。」
「・・・・打ち負かしたなら、迷宮内における自由行動を許可願いたい。」
「つまりは、グランドマスターたるクリュークの命令ではなく、自由に迷宮内の攻略を行う権利を得たい、ということか?」
「その通りです。」
ふむふむ。
と言ってクローディア公爵閣下は顎に手をやった。
思慮深く、考えている。
というより、考えているように見せるためのポーズだ。
「あまり、閣下にご無理な注文をするものではないぞ、戦争屋。」
蝕乱天使の“聖者”マヌカが、冷笑を浮かべて言った。
「迷宮攻略の指揮を命ぜられたのは、グランドマスターのクリュークであって、残念ながらクローディア閣下ではない。
お主らがここでいくら言質をとろうが、有効なものなどなにひとつないのさ。」
「クリューク殿のお仲間、たしか“聖者”マヌカ様でしたな。」
話の途中を遮られるなど、高位貴族ならそれだけで、ブチ切れる案件であったが、クローディアは、むしろ一冒険者として敬意持ってマヌカに接している。
穏やかな態度にむしろ、面食らったようにマヌカは押し黙った。
「マヌカ殿の言う通りだ。これについては、私はウロボロス鬼兵団へ確たる約束を与えることはできない。
だが、その戦いぶりを奏上することは可能だし、その際に、ウロボロス鬼兵団の希望を伝えることも約束しよう。
さらに、言えばわたしの受けた王命は、行方不明のハルト王子の捜索だ。
王都を出た様子もなし、かといって王都内でも見つからぬ。
だとすれば、なんらかの方法ですでに迷宮内にはいったと考えられる。」
クリュークとマヌカの顔が苛立ちを見せる。
「例えば、ハルト王子の迷宮内での捜索協力を、私がウロボロス鬼兵団に依頼することは、王命にも則した行為だ。
これは、通常の迷宮攻略とは違い、グランドマスターであるクリューク殿の命にも優先と考える。」
ザグリーは籠手を打ち鳴らして、感謝の意を表した。
「食えぬなあ。」
マヌカが叫んだ。
「そりゃあ、わたしの勇者様だからね!」
元凶のリヨンが笑う。
“竜殺”が剣の柄に手を伸ばしたのを、“神獣使い”が止めた。
「ここは、クリュークに任せよう。」
「・・・・やってくれますね、クローディア閣下。」
「さて? なんのことやら。」
「人数合わせをさせていただきますよ。」
白い手袋の手の人差し指が、空中に文字を描いた。
「あれは?」
「召喚魔法だ。」
アイベルの問いにクローディアが答えた。
召喚陣は、毒々しい赤紫の光に包まれていた。
召喚されたのは。
「彷徨えるフェンリル・・・・・」
そう。
お馴染みのザックを始めとする西域の銀級パーティ。
だが、その実態は邪神ヴァルゴールの契約によって、隷属させられた「燭乱天使」の別動部隊である。
「食事中の人間を召喚するんですかい?」
ザックの右手には、並々と麦酒がつがれたグラスが掲げられていた。
ほかのメンバーも肉の串焼きにかぶりつこうとしているものや、魔術師のローゼに至っては、胸元を広げて豊かな胸の谷間を誰かに見せつけている最中だった。
「彷徨えるフェンリル」
クリュークが冷たく言った。
「『ウロボロス鬼兵団』と戦え。」
「へ、へ、へえ」
ザックは間抜けな声を漏らした。
「なにがどうなったんです?
言われた通り、アウデリアのパーティには迷宮入りを遅らせるように交渉しましたぜ。
ここは・・・・魔王宮の中ですか?
なんでウロボロスとやり合うことになったんです?」
「理由を説明する必要は認めない。
クローディア閣下。
これらは、わたしの配下、わたしたちに替わってウロボロスと戦います。」
「替わって? 増援を求めたのではないのか?」
「正直、わたしは先を急ぎます。
もし、ウロボロスのメンバーをリヨンが傷つけたことが許せぬというのなら、この者たちを相手にうさを晴らしてもらって構わない。
なんなら、一切抵抗しないように命じておきましょうか?」
リヨンの両腕から渦巻く光が放たれる。
それは、空間そのものに絡みつき・・・・削りとった。
広間の中央に立っていたはずの「栄光の盾」は、次の瞬間には、広間の一番奥。
迷宮に通じる通路の入口に移動していた。
「転移魔法・・・・逃げるかっ」
ウロボロスのザクリーが叫んで、炎の矢を放った。
“竜殺”の剣が一閃。
タイルを敷き詰められた床が、爆発したようにふっとび、炎の矢をかき消した。
「彷徨えるフェンリル。
ウロボロスを足止めせよ。
殺してはならん。殺されるのはかまわん。」
クリュークの声が響く。
「どういうことですか?」
「クローディア閣下の決めたルールでな。」
マヌカは懐から黒いガラス瓶を取り出すと、それに口づけしてから投擲する。
瓶が割れた、煙が立ち上りそれは一匹の蜘蛛に形を変える。
「あれは!」
アイベルが叫んだ。
「閣下!
ザクリー殿!
あの文様はたしか魔法を使う変異種のジャイアントスパイダーです。」
それは、クリューク、またはマヌカによって改造を施されていたのだろう。
最も近くにいる「栄光の盾」には見向きもせず、まっすぐにウロボロスめがけて突っ込んできた。
「盾、構え」
槍兵たちが、背中に背負った巨大な盾を並べる。
ガンっ、盾から杭が打ち込まれ、それは強固は一個の壁となった。
そこに、魔法蜘蛛改が、生み出した瀑布がぶつかり、飛び散った。
「空衝斬」
大剣をもった剣士のうち十名が一斉に剣を振りかぶった。
蜘蛛は、生み出した瀑布を隠れ蓑にするようにして、飛び上がり、風魔法と自らの糸を使って、天井付近をすべるように移動していく。
「放てっ」
斬!
振り下ろした剣は、衝撃波を生みだし、剣戟では届かない距離にある蜘蛛を襲う。
ぎいっ
と蜘蛛がないた。
双方の顔をたてた形だったが、冒険者たちも一応は納得したのか(あるいは今、ここで始められることによる被害を回避できたことにほっとしたのか)それぞれ頷いて、三々五々、散会し始めた。
「閣下・・・・公爵閣下。」
唯一、残った元八極会幹部のワーレフは、気まずそうに、クローディアに話しかける。
「いや、ワーレフ殿にはワーレフ殿のお考えもあったのだろう。
わたしは、別におぬしが、冒険者たちを扇動したのだとは、思わぬ。
クリュークになにかしらの失点をつけて、八極会の返り咲きを狙ったのだ、とは思わぬ。
そのなことのために、ウロボロス鬼兵団を抱き込み、わざとトラブルを起こしたのだとは、まったく思ってもおらぬ。」
「・・・閣下・・・・」
以前、八極会の幹部として対峙したワーレフは、傲岸不遜、貴族を貴族とも思わない(実際、クローディア公爵家は、都ではほとんど権勢のないど田舎貴族には違いなかったのだが)態度であったのだが、いまは、顔色は青を通り越してほとんどドス黒く、いまにも平身低頭しそうな様子であった。
「だから、そのようなことを陛下にご報告しようとは、思っておらぬ。
今回は。」
「閣下。あの男は・・・・クリューク殿は危険です。あまりにも。」
声は小さく、消え入りそうだった。
もちろん、周りのものに(特にクリュークたち『栄光の盾』には)聞かれないためであったが、先に魔王宮への階段を降りかけた「聖者」マヌカが耳聡く振り返って、陽気に声をかけた。
「それは、みんな同意見さ!
そんなことでいちいち粛清なんかしないよ。
粛清をされたければもっと直接に行動を起こすんだね!」
「・・・危険かというならば、ウロボロス鬼兵団だって、充分に危険だ。
わたしも危険だし、娘に至っては足枷がわりにハルト殿下に嫁がせようとしたほど危険だ。
ワーレフ殿。
お主自身も危険な部類に入るのではないか?」
「クローディア閣下・・・・」
ワーレフは泣き出しそうな顔で、クローディアにすがった。
すがろうとしたが、間に、アイベルが割って入った。
「いまは、何より時間が惜しい。
“旧都”でのトラブルは、バルゴール閣下の管轄にある。ワーレフ殿からなにか申し出があるなら、文書にした上で、バルゴール閣下へ申し出るように。
その場合は、写しを一部、クローディア公爵家にも提出するよう求める。」
ワーレフは肩を落として、とぼとぼと去っていった。
「八極会に罪があるとすれば、今回の騒動ではなく、長きに停滞を招いたこれまでの運営そのものにある。」
クローディアは、感情を押し殺した声で言った。
「ギルドマスターとして、また冒険者としては無能なわけではない。
要は使い方だ。」
「ひょっとして私になにか教えようとしてますか?」
「世の中は、我らが『白狼』のように、よい素質を持つ者たちがよく訓練された人材ばかりではない、ということかな。
いずれ、いろいろ学ぶ機会はあろうよ。“今”ではないが。」
魔王宮の最初の部屋。
通称「舞踏会場」は、人払いされ、クローディアとアイベル。
そして、対峙しあうふたつの集団だけがそこにあった。
ウロボロス鬼兵団は、30名。
武具と防具は、灰色に統一され、両手持ちの大剣と槍を構える戦士が20名。巨大な盾持ちが7名。
同じ色のマントを着た魔法使いが2名。
指揮者となるのがザグリーで、彼だけが黒の鎧に片手剣を帯びている。
冒険者、と言うよりも「部隊」で、明らかに個々の戦力がどうこうよりも組織としての戦いに特化した集団だった。
対する栄光の盾は、ひとりひとりが黄金級の冒険者とはいえ、人数は5人。
双方ともに訓練と実戦をつんだ強者同士だとすると、これはいくらなんでも、クリュークたちに分が悪そうに感じられた。
「ウロボロスの人数を確認しなかったのは、手落ちだったが」
クローディアは、言い終わる間もなく、クリュークが
「構いません。承知のうえです。そもそも」
形の良い唇が冷笑の形につり上がった。
「5対5、でははなから勝負にならないでしょう?」
ぞわ
ウロボロスに殺気が膨れ上がる。
「クローディア公爵閣下にお尋ねしたい。」
ザグリーは怖い目をしている。
「なにか?」
「もし、我々が燭乱天使を倒したら」
「さっきも申したとおり、殺してしまったら、殺したほうの負け、だ。」
「・・・・打ち負かしたなら、迷宮内における自由行動を許可願いたい。」
「つまりは、グランドマスターたるクリュークの命令ではなく、自由に迷宮内の攻略を行う権利を得たい、ということか?」
「その通りです。」
ふむふむ。
と言ってクローディア公爵閣下は顎に手をやった。
思慮深く、考えている。
というより、考えているように見せるためのポーズだ。
「あまり、閣下にご無理な注文をするものではないぞ、戦争屋。」
蝕乱天使の“聖者”マヌカが、冷笑を浮かべて言った。
「迷宮攻略の指揮を命ぜられたのは、グランドマスターのクリュークであって、残念ながらクローディア閣下ではない。
お主らがここでいくら言質をとろうが、有効なものなどなにひとつないのさ。」
「クリューク殿のお仲間、たしか“聖者”マヌカ様でしたな。」
話の途中を遮られるなど、高位貴族ならそれだけで、ブチ切れる案件であったが、クローディアは、むしろ一冒険者として敬意持ってマヌカに接している。
穏やかな態度にむしろ、面食らったようにマヌカは押し黙った。
「マヌカ殿の言う通りだ。これについては、私はウロボロス鬼兵団へ確たる約束を与えることはできない。
だが、その戦いぶりを奏上することは可能だし、その際に、ウロボロス鬼兵団の希望を伝えることも約束しよう。
さらに、言えばわたしの受けた王命は、行方不明のハルト王子の捜索だ。
王都を出た様子もなし、かといって王都内でも見つからぬ。
だとすれば、なんらかの方法ですでに迷宮内にはいったと考えられる。」
クリュークとマヌカの顔が苛立ちを見せる。
「例えば、ハルト王子の迷宮内での捜索協力を、私がウロボロス鬼兵団に依頼することは、王命にも則した行為だ。
これは、通常の迷宮攻略とは違い、グランドマスターであるクリューク殿の命にも優先と考える。」
ザグリーは籠手を打ち鳴らして、感謝の意を表した。
「食えぬなあ。」
マヌカが叫んだ。
「そりゃあ、わたしの勇者様だからね!」
元凶のリヨンが笑う。
“竜殺”が剣の柄に手を伸ばしたのを、“神獣使い”が止めた。
「ここは、クリュークに任せよう。」
「・・・・やってくれますね、クローディア閣下。」
「さて? なんのことやら。」
「人数合わせをさせていただきますよ。」
白い手袋の手の人差し指が、空中に文字を描いた。
「あれは?」
「召喚魔法だ。」
アイベルの問いにクローディアが答えた。
召喚陣は、毒々しい赤紫の光に包まれていた。
召喚されたのは。
「彷徨えるフェンリル・・・・・」
そう。
お馴染みのザックを始めとする西域の銀級パーティ。
だが、その実態は邪神ヴァルゴールの契約によって、隷属させられた「燭乱天使」の別動部隊である。
「食事中の人間を召喚するんですかい?」
ザックの右手には、並々と麦酒がつがれたグラスが掲げられていた。
ほかのメンバーも肉の串焼きにかぶりつこうとしているものや、魔術師のローゼに至っては、胸元を広げて豊かな胸の谷間を誰かに見せつけている最中だった。
「彷徨えるフェンリル」
クリュークが冷たく言った。
「『ウロボロス鬼兵団』と戦え。」
「へ、へ、へえ」
ザックは間抜けな声を漏らした。
「なにがどうなったんです?
言われた通り、アウデリアのパーティには迷宮入りを遅らせるように交渉しましたぜ。
ここは・・・・魔王宮の中ですか?
なんでウロボロスとやり合うことになったんです?」
「理由を説明する必要は認めない。
クローディア閣下。
これらは、わたしの配下、わたしたちに替わってウロボロスと戦います。」
「替わって? 増援を求めたのではないのか?」
「正直、わたしは先を急ぎます。
もし、ウロボロスのメンバーをリヨンが傷つけたことが許せぬというのなら、この者たちを相手にうさを晴らしてもらって構わない。
なんなら、一切抵抗しないように命じておきましょうか?」
リヨンの両腕から渦巻く光が放たれる。
それは、空間そのものに絡みつき・・・・削りとった。
広間の中央に立っていたはずの「栄光の盾」は、次の瞬間には、広間の一番奥。
迷宮に通じる通路の入口に移動していた。
「転移魔法・・・・逃げるかっ」
ウロボロスのザクリーが叫んで、炎の矢を放った。
“竜殺”の剣が一閃。
タイルを敷き詰められた床が、爆発したようにふっとび、炎の矢をかき消した。
「彷徨えるフェンリル。
ウロボロスを足止めせよ。
殺してはならん。殺されるのはかまわん。」
クリュークの声が響く。
「どういうことですか?」
「クローディア閣下の決めたルールでな。」
マヌカは懐から黒いガラス瓶を取り出すと、それに口づけしてから投擲する。
瓶が割れた、煙が立ち上りそれは一匹の蜘蛛に形を変える。
「あれは!」
アイベルが叫んだ。
「閣下!
ザクリー殿!
あの文様はたしか魔法を使う変異種のジャイアントスパイダーです。」
それは、クリューク、またはマヌカによって改造を施されていたのだろう。
最も近くにいる「栄光の盾」には見向きもせず、まっすぐにウロボロスめがけて突っ込んできた。
「盾、構え」
槍兵たちが、背中に背負った巨大な盾を並べる。
ガンっ、盾から杭が打ち込まれ、それは強固は一個の壁となった。
そこに、魔法蜘蛛改が、生み出した瀑布がぶつかり、飛び散った。
「空衝斬」
大剣をもった剣士のうち十名が一斉に剣を振りかぶった。
蜘蛛は、生み出した瀑布を隠れ蓑にするようにして、飛び上がり、風魔法と自らの糸を使って、天井付近をすべるように移動していく。
「放てっ」
斬!
振り下ろした剣は、衝撃波を生みだし、剣戟では届かない距離にある蜘蛛を襲う。
ぎいっ
と蜘蛛がないた。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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